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死亡フラグを回避して、元悪役令嬢は今日も穴掘り  作者: 膝関節の痛み
第1章 死んだら自由になれるので死んだ後のことは死ぬ前からちゃんと準備してた

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第2話

 また夜が来た。

 私は作業着に着替え、床の仮修復部分に手をかざした。


「ムーブ」


 石が静かに動き、昨日掘り進めた穴への入り口が現れる。

 降りて、また掘る。

 土は圧縮して横に押し込み、なるべく外には出さないようにする。

 掘りながら補強する。私の土魔法の基本技術だ。


 掘り進む方角は王都の防護壁の外。壁の向こうにある林が目的地だ。

 地図は頭に入っている。コンパスで確認しても掘り始めたベクトルにズレはない。あとはこのまま真っ直ぐ掘るだけだ。


 5回連続して魔法を使い、魔力の減りを感じたところで休憩を取る。

 ここで休めば、1時間弱で魔力はほぼ戻る。

 魔法行使が約1時間、休憩も約1時間。

 これを1クールとするのが一番効率がいいことは、これまでの現場で証明済みである。


 それを3クール半。時間にして約7時間、掘削を20回行い牢に戻る。

 床を仮修復し、魔法阻害の腕輪も忘れずに嵌め直す。

 魔力は抜いてあるので実際には何も阻害されていないが、見た目は大事だ。


 空間収納から取り出すのは買い溜めしておいたお気に入りの屋台の串焼きとスープ。

 私の空間収納は時間経過しないのでどちらもしっかり温かい。


 ポケットの空間収納化は付与術師に変な顔をされたけど、やっておいてよかった。

 1年分のギルドの報酬を全部突っ込んだだけのことはある。


 包み紙はゴミ袋に入れて空間収納に戻す。

 あとは寝るだけだ。


 ドレスにくるまって仮修復の床の上に横になる。

 掃除は脱獄後のことを考えて自重。土砂崩れの現場を思えば横になれるだけマシだ。

 しっかり働いたのですぐに眠くなる。


 途中で看守が食事を持ってきて声をかけたので、のっそりと起き上がってもう食事は要らないと告げる。


「食事など食べる気になりません」


 と弱々しい声で言うと、看守は水だけ置いて立ち去った。

 その水を飲み干し、寝直す。

 

 目が覚めると夕方の水の配給を待つ。

 看守が去ると、また穴掘りの時間が始まる。

 

 翌日も同じ。その翌日も同じ。

 一回の魔法で進むのは約5メートルほど。1日20回の魔法でトンネルは100メートル延びる。

 牢獄は街はずれにあるので、地上の防護壁はとっくに越えている。


 4日目の掘削をはじめてすぐに、木の根がトンネルのゆく手を阻んだ。

 無事到着。したはず。


 木の根を避けながら林の中央部に向けて慎重に掘り進む。

 このあたりでいいだろう。

 私は天井に向けて手をかざす。


「ディグ」


 どさりと土が落ち、地上と繋がった穴からひんやりとした夜気が流れ込んできた。

 落ちた土で足場を作り、穴から顔を出す。


 よし。林の中だ。

 見上げれば枝の隙間から星空が覗いている。

 しばらく地下にいたせいか、やけに明るく感じる。


 さて脱獄ルートはできた。

 あとは独房に戻って仕上げだ。


 まず地下牢の入り口を「ストーンウォール」で封鎖する。

 残った魔力の大部分を使ってできる限り厚く硬く作った。

 我ながらいい仕事だ。

 自分で壊そうとしても1ヶ月はかかるだろう。


 次に空間収納から取り出したのは布にくるんだ骸骨一体。

 3年前、王都郊外の土木工事で古い墓の撤去をやったとき、良さげなのを選んでこっそり回収しておいたものだ。

 少し変色しているが、丁寧に洗っておいたので、地下牢の暗がりの中ではほとんど違和感を感じない。

 身長も私に近く、ドレスを着せて、ボロ毛布を巻いて、独房の隅に横たえれば、カタリナ・リンドブールの白骨死体(仮)が完成する。

 魔法阻害の腕輪も嵌めてあげた。

 後はよろしくお願いします。と軽く祈りをささげる。


 貴重なマジックポーションで魔力を回復し、トンネルに降りる。

 まず、下から地下牢の床を修復する。もう戻る必要はないので丁寧に原状回復する。

 念のため床下の竪穴も埋め戻しておく。こっちは圧縮を緩めるだけで土が崩れてくれるので楽だ。


 横穴を抜けて林の中に出る。もうすぐ夜明けだ。

 最後にこちらの縦穴も完全に埋め、落ち葉を適当にかぶせて痕跡を消す。


 林は目指した場所で間違いなく、そこから歩いて1時間ほどで予定通り北の職人街に到着した。

 王都の防壁の外側、壁の内側に住めるほど裕福ではないが、自立できる程度には稼ぎのある職人や冒険者たちが暮らす街だ。

 壁の内側にも職人街はあるが、文字通り住む世界が違うのでめったに交流はない。


 防壁の内側。王城のある中央部、その周りの貴族街、さらにその周りの平民街までが王城の住人が認める『王都』だ。厳密にいえば、水堀に囲まれた部分だけが真の王都であり、平民街以下は壁の内側であってもその付属物となる。

 真の王都に住むマンガの主要キャラにとって、壁の外の住宅街や新職人街は外壁に寄生する虫程度の認識しかないだろう。いや、描かれていないんだから認識もしてないか。


 おおよそ台形をしている王都外壁の短辺の外側。

 2年前、私はそこに別名で小さな家を建てた。


 泥だらけの作業着姿で職人街を歩く。

 お腹が空いたので夜明けと同時に動き出す職人たちに混じって、屋台で朝食を買う。

 モツの煮込みを挟んだパンと、濃くて渋いお茶。

 この界隈の定番だ。汁を垂らさずに完食できれば一人前とされる。


 椅子替わりの木箱に座って食べていると、後から声がかかった。


「お? 小モグラ親方じゃねえか。久しぶりだな。どっか行ってたのか?」


 振り返ると、左官のガウスが悪人っぽい顔に悪人っぽい笑みを浮かべて見下ろしていた。

 今日はニッカボッカスタイルだ。高所作業らしい。


 「小モグラ親方」とは私のふたつ名である。

 モグラ並みに穴掘りが得意な子供、ゆえに「小モグラ」。

 その小モグラが土建ギルドでBランクになり、現場を任されるようになったから「小モグラ親方」。

 何人かいる弟子は「小モグ姐さん」とも呼ぶ。


 私は小モグラ親方の顔で答える。


「おーよ。ちょっと外の仕事でな。やっと終わって帰ってきた」

「そうか。つか臭えなお前」

「うるせえ。仕事上がりなんだからしょうがねえだろ。言っとくけど、てめえはこんなもんじゃねえからな」

「知るか! 今はお前の方が臭えんだよ! とっとと帰って風呂入れ!」

「わーったよ。いいから仕事行け。足場から落ちんじゃねえぞ」

「けっ! 落ちるわきゃねーだろうが!

 早く(けえ)れ!」


 ガウスに背中を叩かれ、私は苦笑して歩き出す。

 その後も何人かから声がかかり、だいたい似たような会話を交わす。

 7年かけて積み上げてきた日常だ。てか、そんなに臭い?

 まあもうすぐお風呂だからどうでもいいや。


「ただいまー」


 扉を開けて家の中に入る。久しぶりの我が家の匂いを吸い込む。伯爵家の離れとは違う自分の家の匂いだ。


 地下牢ではそろそろ水を持って看守が来る頃だろうか。

 扉を開けたら石壁。驚くだろうな。

 反応を見られないのがちょっと残念ではある。


 私の扱いはどうなるだろう。

 大人数の前で捕えたのだから何らかの発表はしなければならないはずだ。

 白骨が私じゃないとわかったとしても逃げられたとは言えないから、刑を執行したことにするしかないと思うのだが、発表があるまでは一応警戒はしておこうと思う。

 とはいえ、小モグラ親方こと土建ギルドBランクのエリー・スミスがこの街で仕事をはじめたのはは7年前だ。

 カタリナ・リンドブールと結びつけるには、相当の手間と運が必要だろう。


 ちなみに私の前世名は鈴木絵梨という。

 だからエリー。これなら急に呼ばれても反応できるよねって。

 「スミス」はこの国における鈴木ポジ。ありふれているから選んだ。


 ベッドに腰を下ろしたら、気が緩んだのか一気に疲れが襲ってきた。

 あかん。気絶しそう。

 もう、着替えもお風呂も後でいいや。

 そのまま倒れ込む。

 臭いって?

 ほっとけ、ここは私の家だ。

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