第16話
翌日はソフィーが学園なので、ひとりで検証を続ける。
考えなきゃならないのは、大きく分けて3つ。食糧問題、住居問題、労働力問題だ。
ひとりで進められそうなのは、やっぱし住居関連になる。
昨日手を付けた効率的な家の建て方を、もうちょっと進めてみることにした。
調べたところ、作れる小屋の種類は大中小の3種類あった。
でも必要な魔力にそこまで差はなく、一番魔力を食う大でも小の1.2倍くらいで収まる。
まあ独り者から大家族まで色々あるだろうけど、単純に収容人数だけを考えれば、大きな小屋が一番効率がいい。同じ種類なら一度に5つまで出せることもわかった。
家具類はなるべくパーツを共用化して、システム家具みたいにすればやりやすそうだ。
ダンジョンの魔力を使わず、私みたいな魔法士が直接部品を作って組み立てる方式にすれば、コストもだいぶ抑えられる。
方向性は見えてきた。
でも問題はやっぱり人手だよなあ……。
「お姉ちゃん!」
考えていたら、突然頭の上から声が降ってきてびっくりした。
見上げてさらに叫び声を上げた。
オークがいた。
ノーラがオークの肩に乗っていた。もう一方の肩にはチビコボ。
「あははは! びっくりした?」
「うん。心臓が止まるかと思った。
……また召喚したのね」
「うん! オー君!」
「オー君っていうんだ……。名前付けたんだね」
「うん!」
スカイブルースライムの「スカ」、モスグリーンスライムの「モス」に続き、ノーラの安直名付けが炸裂している。名付けても何も覚醒しないタイプ。
コボルト幼体は「チビ」。私が最初に「チビコボ」って言ってなかったら絶対「コボ」になってたと思う。
わかりやすくていいけど。
で、目の前に突っ立っているオー君。種族、オーク(未覚醒確定)。
身長2mくらい。灰色の肌に、横に広い体格、目は細めの一重。
オークの一般的なイメージは、凶暴で粗野。特に女子は近づきたくない系の魔物だ。
でも目の前のオー君は、なんか怖い感じがしない。
敵意がないのはわかってるけど、それだけじゃなくて、なんか圧が薄い。
全体的になんか人のいい力士っぽい雰囲気がある。力はあるんだけど気が弱くて、肝心な時に負けちゃうタイプ。
ノーラはダンマスだからいいとしてもチビも全然怖がってなくて、なんなら伸び上がってとんがった耳かじってるし。オー君、ボーっとしてるけど気付いてる?
「じゃあご挨拶しとくね。
サブマスターのエリーだよ。よろしく、オー君」
オー君はじっとこちらを見ていた。
10秒くらい経ってから、ゆっくりと右手を上げた。
……君、反応が遅いね。
言ってることは理解してるみたいだけど。
「じゃあ探検に行ってくる! オー君しゅっぱーつ!」
「……………」
20秒くらいしてから、オー君がゆっくりと歩き出した。
とろい子決定。
歩くスピード自体はそこまで遅くないけど、動き出しがとにかく遅い。
これだと冒険者にとどめを刺す役は大変そうだ。
ソフィーの冒険者対策は早くも破綻した。
まあ、うちのダンジョンは当分地下街とシェルターだしね。
オー君はのんびりしてていいよ。
ダンマス様ご一行が草原を進んでいくのをしばらく眺めてから、私は管理画面に戻った。
この2日でレベル2でできることはざっくりわかった。
細かいところまでは押さえきれていないけど、レベル1よりできることが増えたのは確かだ。
そうだ。今日はまだコアの魔力に余裕があるし、せっかくなので地下街にも手を入れておこうかな。
地下街に移動して、プチ改装に取りかかった。
まず受付まわりから。
カウンターの天板を広げて、ちょっとクッション性をつけてみた。
冒険者が武器を乱暴に置くことがあるので、その対策だ。
ついでに、カウンター下に穴を開けて、斧とか大剣とかのは重い武器を下から渡せるようにした。
それから武器預かりの収納スペースを見やすくする。
気になってたんだよね。
現状は壁に立てかけているだけなので、倒れてスタッフがケガしそうで怖かったのだ。
この間は、足元に斧の刃がむき出しになってたし。
番号札を渡す方法だけど、混んでいるときは帰る時に探すのに時間がかかるのも問題だった。
ということで、石でくし形の仕切り棚を作り、種類と番号で管理できるようにした。
イメージは市民会館とかにある傘立て。その武器版。ひとつずつ収納するタイプね。
これで受付のお兄さんもスムーズに武器返却ができるようになるはずだ。
お風呂場は、脱衣所に姿見を設置した。
石を薄く磨いても鏡にはならないので、魔法で反射面を作るので少し手間のかかる工程だ。
でも風呂上がりに自分の顔を確認できる場所が一か所もないのは、確かに不便だった。
仕上げの時に、ダンジョンの改装では出ないはずの石くずが出たのを見て気付いた。
コアの魔力使ってないや。全部私の魔法でやってた。
だってそっちの方が早いし。
石くずはいつの間にか現れたグレースライムが取り込んでいた。
いや、ディムグレースライムかもしれない。わからん。
気を取り直して、コアの魔力でできることをしよう、と壁に細かいデザインを施してみた。
一体成形なので、こちらはダンジョンの力じゃないとうまく修正できないのだ。
ノーラにはまだ細かい作業は無理なので、私にしかできない部分だ。
3時間くらいかけて壁の要所に細い装飾の縁取りを入れた。
最初は店舗付近だけ修正したんだけど、バランスが取れなくなって、結局銭湯までの廊下まで全部に縁取りを掘る羽目になった。
変なスイッチが入って、休憩室の柱にも古代っぽい縦の彫り込みを入れてしまい、かっこよかったので浴槽中央に同じデザインの柱をデーンと建てた。
前世で最後に行った温泉に「ローマ風呂」っていうのがあって、なんか昭和レトロで話題になってたの。
そのパクり。
あれ? でも縦線の柱ってギリシャじゃなかったっけ?
ま、どっちでもいいけど。
とにかく、やり切った!
色合いは変わらないけど、さらに高級感が増した気がする。
最後に修正箇所を一通り確認。
「あ、男湯女湯の表示がない」
中央の受付を挟んで右が男湯、左が女湯。
受付の私が言えばいいんだけど、左右の壁に表示があった方が楽だ。
あと、その方がなんか銭湯っぽいし。
石板をサクッと自分の魔法で作って壁に埋め込む。
埋め込む穴だけコアの魔力を使って開けた。
これでほんとに終了。明日から地下街再開なのに、遅くまで何やってんだ私。
プチ改装のつもりだったのに、全然プチじゃないじゃん。
明日お客さんが来たら驚くかもしれない。
でも、前に一日で浴槽を丸ごと拡張した前科もあるしね。
うん、何の問題もない。
この程度の改装で今さらビビってんじゃねえや!
って脳内親方も言ってます。




