第15話
3分くらいで『構築完了』のメッセージが出た。 早っ。
階層丸ごと新築だから、一旦家に帰ろうかと考えてたところだった。
でも、ほんとにできてる?
特に音も揺れも感じなかったんだけど。
あ、コアの光が弱くなってる。魔力をかなり消費したって感じ。
確認してみよう。
コアに触れて、例によってドン詰まった画面を消し、みんなで動き出す。
設定した階段の位置は王都側である。
私の家の地下からトンネルを500mほど進んだあたりだ。
農場側の転移陣から自宅に転移して、掘った時のままの洞窟を進む。
階段はちゃんとあった。
降りると、目の前に緑の草原が広がった。
ちょっと感動。
「わあ……。牧草地だ……」
農場の娘ノーラが呟いた。
壁で囲まれているけど完全に屋外の空間に見える。
上空は青空で、天井は見えない。
草原の真ん中を、左から右へ小川がゆったりと横切っている。
完璧。イメージどおりの草原階層が出来上がっていた。
すごいじゃん。
ダンジョンコア、仕事はちゃんとできる子だったのね。資料作成は超下手だけど。
広さは一辺500mの正方形。25万㎡。前世的に言えば東京ドーム5個分くらいだと思う。
例えておいてなんだけど、「東京ドーム〇個分」って逆にわかりにくくない?ってずっと思ってた。 今自分で作った草原を見ても、全然ピンとこない。
異世界にドームはないから「すごく広いけど奥の壁は見え渡せるくらい」とかかな。いや、前世でもそういうのがよかった。
拡張は難しくないので、ひとまずこのサイズで色々と実験してみることにした。
草原に踏み出す。
草を踏む感触。
気温は地下街と同じ春の暖かさで、設定どおりのそよ風が吹いている。
気持ちいい。
小川の水は透明で、「飲用可」の設定だったので飲んでみた。
うん。普通に飲める。変な味はしない。
魔物は放っていないので、間違いなく地上より安全。
これ、無理して家を建てなくても、このまま草の上で寝ればいいのでは?
あ、でも人が増えればプライバシーの問題が出てくるか。
ま、やってみてからだね。どっちみち実験はするんだから。
ひとしきり歩き回ってから休憩室に戻り、それぞれ感想を言い合う。
地下街でダンジョンの不思議に触れているみんなは、そこまで驚いてもおらず、割と冷静に今後の運用についての話になった。
いいことだ。
それも踏まえて、みんなでお昼を食べた後、私とソフィーで午後も引き続き検証を進めることにした。
ホプキンス夫妻は農場仕事に戻り、ノーラとチビコボは草原で自由時間となる。
午後は小屋を建ててみることからスタートした。
操作画面を開きっぱにして草原に行き、建物を作る。
洞窟の壁を変形させる1層とは違って、いきなり木造の小屋が現れる。
家具も何もない粗末な小屋だ。
草原の地面を変形させれば家具も作れないことはないけど、思ったより魔力を使うし、細かい形を作るのがすごく面倒だ。
これを何軒分もやるのは無理がある。
「試しに私が土魔法でやってみてもいい?」
「OK。やってみて」
ソフィーにゴーサインをもらって、魔法で石のテーブルを生成する。
うん。こちらの方がずっと楽だね。
「パーツだけ魔法で作って、組み立ては人力にすればもっと効率よくなりそう」
「それだと人出が必要じゃない?」
「どっちみちひとりじゃ無理」
「農場の人に頼む?」
「いや、これ以上は本業に支障が出るでしょ」
農場は新しい人を何人か確保できたけど、他に回す余裕はない。
これ以上は頼れない。
それに、草原のスタッフには、確実にここがダンジョンだとバレる。
「選ぶなら口が固い人だよねえ。うーん、会いたくないけどギルド長を巻き込むかな……」
「ギルド長? 土建ギルドの?
できるならいい考えだとは思うけど」
「ちょっと考えてみる。知り合いに口が固い職人は何人かいるし」
要検討事項が増えてくなあ。まあしょうがないけど。
地道にひとつずつ潰していくしかない。
ダンマスと眷属たちが草原をころげ回るのを見て癒される。
特にチビコボが大はしゃぎだ。
芝生の上を四足でダッシュし、ころんと転んでまた走る。それをノーラが追いかける。
かわいい。私たちはそれを見て癒される。
うむ。ダンマスはいい仕事をしている。上司査定があるなら4.5は固いね。
あ、またくだらないことを思い出した。
同期の大牟田が「5段階評価なのに単位が0.5なのはおかしい。それなら10段階にするべきだ」って怒ってたなあ。
上司に文句を言いに行って、却下されたら彼の査定点を3.4って書いて提出した。「5段階じゃなくていいなら0.6減点したっていいですよね」って。
さすが大牟田。ひねくれ具合が違う。炎上のずっと前に『選べよ』を勧めてきただけのことはある。
こうやって対策を取れているのは彼女のおかげ。前世最大の恩人だ。
大牟田、私『選べよ』の世界に転生したんだよ?
会えるんだったら、お礼を言って、自慢して、煽りたい。
――元気でね。
その後も、管理画面を切り替えつつ、色々と実験してみた。
草の丈は5段階で調整できることがわかった。
生活するには一番短い芝生くらいの長さがいいけど、寝転がるなら下から2番目がベスト。
「いつか冒険者を入れることになったら、草丈を長くして隠れられた方がいいよね」
「隠れるだけじゃなくて、コボルトもゴブリンも、草むらから飛び出してきたら普通に怖いよ?」
「あ、確かに」
「奇襲して行動不能にしたところでオークがとどめ刺すって形なら、初級パーティーくらいなら全滅させられると思う」
「え? とどめ刺すの?」
「え? 刺さないの?」
ソフィーが物騒だけど、将来のことをわいわい話す。
今考えているのはシェルターまでだけど、いずれはちゃんとしたダンジョンとしても機能させたい。
その方が人も集まるし、ダンジョンの成長にもつながるはず。うちのダンジョンだから違うかもだけど。
夕方、仕事を終えたホプキンス夫妻がスープの鍋とバスケットを抱えて戻ってきて、草原の小屋で会議兼晩ごはんとなった。
地上の時間に同期させる設定にしていたるめ、食事をしているうちに日が暮れる。
小屋の中は明るいけど、外はすっかり暗くなり、空には星が出ていた。
壁が見えないのでほんとの夜みたい。
「地面の下で星空が見えるなんてねえ……」
マーガレットさんがしみじみと言う。
ダンジョンが見せる幻だけど、きれいと思う気持ちはほんとのことだ。
気がつくとノーラとチビコボが並んで眠っていた。
デレックさんが眠ったノーラをおんぶする。
私はコボを抱っこしようとしたらソフィーに先を越された。
階段を上がると、洞窟の途中でスカとモスのスライムコンビとすれ違った。
一日かかってここまでやってきたのか。てかどうやって入った?
まいいや。ダンジョンの子だもんね。
これから夜の草原を探検するんだね。
いってら。よい夜を。




