第14話
翌日の閉店後、ノーラとふたりでコアルームにこもった。
昨夜は疲れ果てて確認できなかったので、今日こそちゃんと調べる。
コアに触れると管理画面が開く。
予想通りというか、前世のPCに似た作りだ。
アイコンが並んでいて、タップすると機能が開く。
使い勝手は悪い。昨日のサブマスター承認よりはマシだけど。
「ノーラ、これ普段どうやって操作してたの?」
「えっと……、お姉ちゃんの話を聞きながら、このへんをぺちぺちやってた」
「ぺちぺちって……」
案の定、ノーラは機能の半分以上を把握していなかった。
まあ、ノーラがちゃんと使いこなせていたらそれはそれで怖いけど。
ダンジョンの拡張や部屋の作成などのメインの機能はさすがにそこそこわかりやすく、初心者でもなんとかなるレベルだった。
問題はそれ以外の管理系機能で、どこに何があるのか使いにくいことこの上ない。
ホログラムタッチパネルみたいな技術があるのに、システムはポンコツ。
色々直したいけど、前世は普通の会社員だった私には、どこをどういじればいいのかわからない。
PCはお友達だったけど、アプリひとつ作ったことがないんだから。
我慢するしかなさそうだ。
もっとレベルが上がって、まともなUIになってくれることを期待しよう。
しばらく探し回って、なんとか管理権限のページを発見した。
「ノーラ、ここで役割分担できるみたいだよ。何を担当する?」
ノーラは即答した。
「魔物を創るやつ!」
「うん。それは知ってる。それ以外は?」
きょとん。
「え? それ以外はお姉ちゃんがやるんじゃないの?」
「……全部?」
「うん!」
出たなニート。ゲーム以外はやりませんってか?
ニートなのに澄んだ目で見上げてくる。
「くっ……」
私がやりましょう!
言っておくがこれは敗北ではない。
でもまあ、ダンジョンを自分で直接操作できるようになったわけだから、これが望んだ形だ。
管理画面を順に確認していると、ノーラがストップをかけた。
魔物一覧のページだ。
「お姉ちゃん見て! スライム以外も増えてる!」
「そうみたいだね。あ、触るのはちょっと待って」
「え?」
間に合わなかった。熟練の指さばきで個別ページを開き、ゴブリンを召喚した。
緑色の小柄な生き物が出現し、ノーラを見つめる。
「……かわいくない」
ノーラは即座に返却した。
ゴブリンは悲しそうな顔で消えていった。
かわいそうでしょ!
私はかわいくないこともないと思うんだけどなあ。
戻った魔力は4割。スライムよりだいぶマシだけど、無駄が多いことに変わりはない。
「ノーラ、魔物を創るのは計画的にね」
「わかった!じゃあ次はこれ!」
返事と操作が同時だった。わかってないじゃん!
タップしたのは「コボルト(幼体)」。
現れたのは2足歩行のほぼ芝犬だ。
「かわいいいいい!!」
ノーラがキャーキャー言いながらコボルト幼体を抱き上げ、ほっぺたをすりすりしている。
しっぽが高速回転してる。
かわいいけど、ますますゴブがかわいそうになってきた。
ダンマスがチビコボに気を取られているうちに、私は次の画面に進む。
しばらくひとりで作業しているうちに、いつの間にか静かになっていた。
あれ?と思って後ろを見たら、ノーラとチビはスライムにまみれて眠っていた。
神展開! 絶景!
そうだよね、昼間は地下街でお仕事してるんだもん。寝ちゃうよね。
ニートとか言ってごめんね。
お茶を飲みながら眺めて、すっごい癒された。
わかった。ダンマスのメイン業務は癒し。それでいいじゃん。
その後集中して調べて、レベル2で解放された機能はだいたいわかった。
一番重要なのは、もちろん新階層構築だ。でも作れるのはひとつだけ。
多分、レベルが上がるたびに増えていくんだろう。
それから階層の環境を変更できるようになった。選択肢は洞窟、草原、砂漠の3つだ。
ジャングルとか火山とか、そういう派手なのはなかった。
魔力関しては、コアの魔力容量がアップした。
人が増えるほど補充スピードが上がるのも想像どおりで、地下街が無駄じゃなかったことがわかってホッとした。
ただ、現状は補充スピード以上に人が来ていて、吸収できるはずの魔力を無駄にしていたようだ。
これは知らなかった。もったいない!
そんなことならもっと改装とか拡張とかできたんじゃないだろうか。
これからは気をつけよう。
魔物コーナーも改めてチェックした。
なんとスライムは148種あった。しっかりコンプされている。
システムカラー一覧を埋めてくの、何が楽しいんだろう。
刀剣コンプでさえ早々に断念した私がダンマスだったら、永遠にレベルアップできないところだったよ。
ノーラ偉い!
新しく創れる魔物は、角兎、ゴブリン、コボルト、オーク。全て下位種。他にはマンドラゴラとサンドワーム。6種しかない。
ということは、次の進化条件は魔物関連ではなさそうだ。油断できないけど。
なお、その後ノーラは角兎も召喚したが、「角が刺さって痛い」との理由で返却された。
残りの2種については全く興味がないそうである。
操作系では、いちいちコアに触れなくても操作画面を出せるようになった。これはマジ嬉しい。
「『widow』と唱えることでダンジョン内のどこでも操作画面を表示できます」と表示された時には、思わずグッと拳を握りしめた。
後で「widow」に気付いたけど、「window」で成功した後だったので問題なかった。ただの誤植。「未亡人」って言って操作窓が開いたら逆にビビるわ。
調べた情報を会議でみんなに共有する。
「ということで、まず新階層の環境なんだけど。どうする?」
「草原しかないと思う。川とか小屋も作れるんでしょ?避難場所としては最適だと思う」
ソフィーが即答する。
「でも、砂漠っていうのもかっこいいよ?」
「あのねノーラ、砂漠は水がないからは人間は2日くらいで死んじゃうんだよ?」
「え? そうなの?」
「うん、死んじゃうね。
だから、あたしも草原がいいと思う。洞窟はもうあるから違うのを見てみたいさね」
ノーラに教えながら、マーガレットさんも草原を支持。
「ただ、食料はどうするの?草原で作れるの?」
ソフィーさんいい質問です。
「うん、そこなんだよねえ。
調べたんだけど、草原は畑にならないんだよ。家畜はやってみないとわからない」
「うちは農場だから、多少はなんとかできると思うけどなあ」
デレックさんが心強い。
でもホプキンス家におんぶにだっこというわけにはいかない。
備蓄は必須だ。
現実的に考えて課題はいっぱいある。
でも草原階層を作らなければ、解決策を考えても検証すらできない。
「じゃあ草原で決定ということで」
相談して段取りを決める。
何が起こるかわからないので、当日は地下街はお休みにしなきゃならない。
予備日も含めて2日を見ておく。
お客さんへの周知期間は1週間とした。乗合馬車とギルドでも告知する。
そして拡張日の朝。
全員がコアルームに集まった。
安息日に合わせたのでソフィーもいる。
私はコアに触れ、管理画面を開く。
広さとか川の配置とか、そういう設定もみんなの意見を聞いて済ませてある。
あとはの構築ボタンを押すだけ。
「じゃあ、いきます」
全員が頷く。
押……そうとして思いとどまる。
いやな予感がする。このUIはアレなのだ。
「ノーラ、『はい』を押してくれる?」
「はい!」
ノーラは躊躇なくボタンをタップした。
無事、『構築中』の丸文字が表示される。
進捗状況を示すゲージなどは、当然現れない。




