第13話
もしかしてスライムコレクションのコンプが進化条件だったの?
「……それならそうとさっさと言えやゴルァ」
「ひゃいっ⁉」
これまでの苦労を思い出して思わずガチの親方モードで呟いてしまい、ノーラがびくっとして私を見た。
「違うの。ノーラに言ったんじゃないよ、ごめん。コアに言ったの。
あ、ちょっと待って。そのノーラの目の前に出てるお知らせ、とりあえず『いいえ』で」
「……え?……『はい』押しちゃった。さっさとやれって言ったから……」
「あ……」
一瞬フリーズした。
それはコアに対する文句であって、承認ボタンを押せという意味じゃないんだけど、押しちゃったんだね……。
「う、うん、大丈夫。だと思う。気にしなくていいからね」
慌ててノーラの頭を撫でて安心させる。
いや、待てよ? もし本当に「全色コンプ」が進化条件だったのだとしたら、ノーラが魔力を湯水のように溶かしてガチャを回し続けたのは、結果的に大手柄だったんじゃない?
とにかく、現状を早急に確認しなければならない。そんでみんなで相談だ!
「デレックさん! 緊急事態なので、みんなを大至急コア部屋に呼んでください!私は先に行ってる!」
叫びながら私はダンジョンの通路に飛び出し、ノーラと一緒にコア部屋に走った。
部屋の中央に鎮座するダンジョンコアは、明らかに一回り大きくなっていた。
うっすらとした頼りない光も、照明が必要ないほどに明るさを増している。
……うん、レベルが上がったっぽいな。
ただ、周囲の壁が崩れるような物理的な異変はない。よかった。
ひとまず落ち着く。
なんだよ。得意そうに光っちゃって。
育ての親として、小言のひとつくらいは言ってかねばならない。対話とかできなさそうだけど。
「あのさあ、レベルが上がるのはいいんだけどさ、それならそうってちゃんと言いなさいよ。マニュアルとかないわけ?」
愚痴りながら、大きくなったコアに右手を触れると、突然、目の前の空間に半透明のメッセージが浮かび上がった。
『サブマスターへの登録が可能です。登録しますか?はい/いいえ』
「何なのよ、次から次に! それだけじゃわかんないでしょ!」
叫んでみても、コアはうんともすんとも言わない。
同じ画面を見ているノーラが、私をつついた。
「お姉ちゃん、ここなんかあるよ?」
ノーラが指差した先を凝視する。
……あった。
背景の淡い光と同系色の、信じられないくらい小さなクエスチョンマーク。
マークが小さすぎるだろ!せめて文字色を変えろ!
わざと?わざとなの?
……ああ、確かにここは『選べよ』の世界だわ。ダンジョンのUIまで駄作。
ぶつぶつと前世のwebデザイナーみたいな文句を言いながら、私はその微小なマークをタップしてみた。
パッと画面が切り替わる。
「出た……」
ただ説明画面出すだけなのに、なぜこんなに苦労しなきゃならないんだろう。
画面には、びっしりと文字が並ぶ。
とりあえず読んでみる。
『ダンジョンは1名のサブマスターを登録することができます。コアと魔力の親和性がある生物はサブマスターになることができます。サブマスターはマスターの一部権限を行使することができます。サブマスターはダンジョンマスターの補助のためダンジョン外で活動することができます。ただし不死特典はありません。生死はその生物の生命活動どおりです。 なおコアが破壊されるとサブマスターも死亡します』
改行しろ! 句点打て!
あとフォント!
最初から気になっていたんだけど、ファンシーな丸文字フォントを使った意図は何?
心の中で一通り突っ込んでから何度か読み返す。そうしないと読みにくくて頭に入らない。
「……なんか、シスアドの代行設定っぽいね」
要するに、ダンマスは自動的に引きこもりになるから、外を動き回れる人が実務的な管理権限を一部代行できる、ということらしい。
でも、サブマスターになるかどうかは、みんなと相談してから決めるべきだよね。
画面にはこれ以上の説明はないし、ここは一旦『いいえ』としておこう。
と思ったら「戻る」ボタンがない。どこにも行けない。
「おい……」
イライラしながらもう一度コアに触れてみると、メッセージはすっと消えた。クソすぎる。
「大丈夫か?」
そこへ、息を切らせた3人が部屋に飛び込んできた。
「……うん。大丈夫っちゃ大丈夫。
とりあえず、無事レベルは上がったよ」
「そうなの? やったわね!」
マーガレットさんがパチパチと拍手する。
「うん。それでね……」
私は「サブマスター」という新しい機能が解放されたことを、さっきの説明画面の内容も含めて伝える。
「サブマスター、ですか……」
ソフィーが丸眼鏡を指で押し上げながら、興味深そうにコアを見つめる。
「あ、ソフィーも触ってみれば?私だけじゃないかもだし」
「なるほど。やってみるね」
ソフィーが触れると、登録画面が現れたっぽい。
私には見えない。見えるのは候補者とダンマスだけみたいだ。
一旦『いいえ』を選んでもらい、残りふたりにも触ってもらう。
無反応。
つまり、過去にコアに魔力を直接注いだことがある者だけが、資格を得られるってことかな。
ホプキンス夫妻は魔法が使えないため、最初から対象外だったというわけだ。
「条件から見れば、やっぱりエリーだよね」
結果をメモしていた手帳を閉じながら、ソフィーが冷静に言った。
「私は学園もあるし、商会の書類仕事もある。
何より、ダンジョンコアは元々エリーが見つけたものだから、エリーが直接操作するのがいいと思う。コアを守ることを考えても、ノーラちゃんひとりより絶対エリーがいた方がいいもの」
「そうだねえ。エリー、頼めるかい?」
マーガレットさんも同意する。
詳細な仕様がわからない以上リスクはあるが、もし不都合があれば、最高権限を持つノーラに頼んで後から解任してもらえばいい。
まあ、多少のリスクがあっても気にしないけどね。
「了解! 実はやりたかったんだよね!」
私はもう一度コアに触れ、先ほどのメッセージを引っ張り出し、迷わず『はい』の文字をタップした。
その瞬間画面が切り替わり、赤い丸文字でメッセージが表示された。
『ダンジョンマスターの承認が必要です』
「だから、そういうのは先に前に書いてってば!」
エラーを吐いたまま、画面はまた進むことも戻ることもできなくなった。
結局、またコアに触れて、最初からやり直す羽目になった。ほんとイライラする。
やり直して、ダンマス側の画面でノーラが『はい』をタップする。
2画面操作が必須なわけね。そういうのは先に(略。
画面が切り替わり、『サブマスターの登録が完了しました』の完了メッセージが現れた。
ふう、と大きなため息をつく。
地下街の仕事の何倍も疲れた。
サブマスとして何ができるのか色々見てみたい気持ちはあるけど、今日はもうあの画面を見たくない。
「もう一回お風呂入って寝よ」
私は、女子チームと連れだって銭湯へと引き返した。




