ミファルドという青年
あっという間にその日はやってきた。
ラシエルは、10時にファソナとの約束の場所へ向かった。
荷物は全て事前に送ってあるから、手荷物だけの身軽な格好だ。
厳重に戸締りをして、庭の草花に「少しの間、留守にするよ」と挨拶をして森を出た。
初めてこの国を出る不安よりも楽しみの方が大きいラシエルの足取りは軽かった。
テンポよく229段ある階段を下ると、目の前にダイヤモンド色の髪をした青年がうつ伏せで横たわっている。
ラシエルが慌てて近寄ると、青年は「ううう」と唸っていた。
「だ、大丈夫ですか……?」
「ううう、なにか……食べ物を……」
ーーぐううううううう。
どうやらダイヤモンド色の髪の少年は、お腹が空いていたらしい。
(朝ごはんの残りをカバンに入れたかも……)
ラシエルは、サンドイッチを取り出して、青年に渡した。
青年はムクっと起き上がって、ガバッとサンドイッチを奪い、「うまうまうまうま」と頬張る。
(重い病気じゃないようだし、よかった……同じ年くらいかな……)
キリッとした整った顔に思わず見惚れてしまって「わわわっ」と顔を赤らめるラシエル。
視線を顔から胸元へ移動すると、青年が首にかけていた時計に目がいって、待ち合わせのことを思い出した。
「わ、私は、こ、これで。お、お大事に……」
ラシエルがお辞儀をして駅の方向へ走り出そうとすると、青年はギュッとラシエルの腕を掴んだ。
「むわ、って!(待って!)」
青年は、サンドウィッチをむしゃむしゃ食べながら話すので、ラシエルは何と言ってるかさっぱりだった。
(もしかして、サンドウィッチがまずかったとか……?)
ラシエルは、何度もペコペコお辞儀をして、視線を下げる。
ーーごくん。
飲み込む音が聞こえて、ラシエルはあまりの音の大きさに驚き顔を上げた。
「悪い! お腹空いて死にそうだったんだ。助かったよ! どうしてもお礼を言いたくって。ありがとう!」
「い、いえ。よ、よかったです」
「オレ、ミファルド! 君は?」
「え……」
(名前を聞かれているのかな……)
キラキラ目を輝かせて、ラシエルの顔を見つめるミファルドという青年。
ラシエルはもじもじしながら、その視線に耐えられず、恐る恐る口を開く。
「……ら、ラシエル……で、です」
「ラシエル! ほんとうにありがとう! 命の恩人だ!」
ミファルドは、ニコニコしながら、ラシエルの手を握った。
若い男性に免疫がないラシエルは、自分の顔がリンゴのような真っ赤になるのを感じて、バッ!とミファルドから離れた。
(いきなり手を握られて……驚いちゃった……。感じが悪かったかな……)
ミファルドの顔を見ると、きょとんとした表情。
気にしていないことがわかり、ラシエルは少しホッとする。
「わ、私、い、急いでいるので……」
ラシエルはその場から逃げ、とにかく前へ前へ夢中になって走った。




