第十四話 思い
「よし、これで全員に『闇』の事は伝わったな?」
昼近くなった頃、男は言った。
「はい」
部屋に残っているのは二人。
まとめ役の男とそのソウルハーフの女。
「検索に出たものは?」
「未だ戻っていません」
しかし、今の二人は完全に『隊』の人間としての立場を守っている。
「無理をしていないといいのだが…」
「そこらへんの加減は大丈夫でしょう」
「そうだな」
「帰った来たようです」
外に気配がした。
「そのようだ」
「ただいま戻りました」
「遅くなり、すいません」
ドアを開け入ってきたのは探索に出ていた二人だ。
「いいのです」
「今、何か飲み物を…」
「いいえ」
「まずは、報告させてください」
二人は気が急く様に言った。
「そうですか。では、こちらへ」
女は落ちついた動作で二人を、テーブルに移動させた。
「はい」
「それでは」
「無事に戻ってきたこと、まずは僥倖じゃ」
「ありがとうございます」
「それで?」
「はい」
二人は少々気落ちした様子で話しはじめた。
「気配が微弱だったので確かなことが言えないのですが…」
「『闇』の『場』らしき場所がありました」
「『らしき場所』か…」
「すいません。しかし、私達二人の感知能力でそこしかなかったのです」
「そうか…」
「しばらく見張っていたのですが『闇』の帰った気配も無く…」
「時間も時間になったので…」
「戻ってきたと」
「はい」
「申し訳ございません」
「いや。いい」
二人は頭を下げつつ謝罪した。
「それで…」
「はい」
「どこですか?『場』と思われる場所は?」
「はい…えっと」
そう言うと二人は、テーブルの上に広げてある地図を覗き込んだ。
「ここです」
「この崖に隙間があってそこからよくない『気』が」
「そうですか。わかりました」
女は、二人が指を指した所に地図に印を書き込んだ。
「…あなた達、昨日からろくに休んでなかったでしょう。今日中に他の者が罠を仕掛けます」
「罠?」
「ええ。『魔物』用ではなく『闇』用のものを」
「無論実戦で使うのははじめてじゃが、理屈は学んでおる」
「その罠にかかったらすぐにでも行動しなくてはなりません。今も数人が奥で休んでいます。あなた方も休みなさい」
「しかし…」
「まだ、大丈夫です」
「いいえ。今はしっかり休んでおいて。いざと言うとき動けなかったら元も子も無いですからね」
「…はい」
「…わかりました」
そう言うと二人は奥のほうへ下がっていった。
「無理でしたか…」
二人が奥に入っていったと、少し残念そうに女が言った。
「そう気落ちするな。あの二人はよくやった」
「ええ」
「『闇』が去って行った方向と大体合致しておる」
「はい」
「罠の場所は予定どおりに行おう」
「はい。既に半数は設置を終えています」
「そうか」
「残りも予定通りにするように伝えてきます」
「頼む」
そう言うと、女は指示を出すために小屋を出て行った。
「イツ・キ様…」
男が呟いた。
男はイツ・キを知っている。
男はイツ・キがなぜここに居ないのか分かっている。
男は自分が、自分達が何をなすべきかを分かっている。
男はイツ・キを信じている。
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(ここ…いいえ、違う…でも…)
未だ夜が明けきらない時刻、イツ・キはある崖の前にたどり着いた。
イツ・キは崖の裂け目から微かに感じる気配を探っていった。
『闇』の気配はある。
しかし、違う。
しかし、気配がある以上確認せずに素どうりも出来ない。
イツ・キは一度大きく深呼吸をすると、裂け目の中に入って行った。
(繋がっているわけではない…かつての『場』?…ここで、うまれたのか)
イツ・キは光の届かないほどに奥へ入ると、意識を集中して気配を探った。
そして、悟った。
イツ・キはさらに気配を深く探っていった。
(いた…)
『闇』の気配を感じた。
近くだが、ここではない。
イツ・キは裂け目から出て行った。
イツ・キが裂け目から出て行った後、探索に出ていた二人がそこに到着した。
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「経過はどうですか?」
女は罠を仕掛けている人に聞いて周っていった。
そして、次に罠を仕掛けるところに指示を出していった。
「このまま行けば、日が暮れる前に終わりそうですね」
「はい。しかし、大丈夫でしょうか」
罠を仕掛けている人が不安げに言った。
「実戦で使ったことが無いので、ハッキリとは言えません。でも、これに賭けるしかないのです」
女の声には祈りに似た感情が込められていた。
「…そうですね。賭けですね」
「ええ。しかも、必ず勝たねばなりません」
「全力を尽くします」
「はい。私も、私が持てる全てをだします」
二人は同時に大きく息を吸い込むと、落ちついた声で言った。
「では、作業の方お願いします」
「はい」
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イツ・キは先ほどの裂け目のある崖の反対側に来ていた。
(見つけた。ここ〉
ここまでたどり着くまで、時間がかかってしまった。
既に昼は過ぎ、日暮れまで数刻を数えるまでになっていた。
イツ・キは太陽を見、まだ時間が有ることを確認した。
『闇』は中に居る。
しかし、今ここで退しようとはしない。
イツ・キは、外からほかに出入りできる所が無いか確認すると、唯一出入りできそうな裂け目に仕掛けを施した。
後は待つだけ。
日が暮れ、『闇』が行動を起こすのを。
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日が暮れた。
『闇』が動き出す。
それを待つもの。
それを迎え撃つもの。
長い夜が始まる。




