グラッド。
遠い星からきたひとは、正義の味方、僕らの仲間。
強くやさしい謎のひと、遊星王子は、今日も飛ぶ。
そんな歌が流行っていたが──、実際には。
本人にとっては、ただ耐え難かった。
だが、ヒーローでなくてはならなかった。
「宇宙の平和は俺に任せろ! 遊星王子は必ずやってくる!」
「「「遊星王子~~!!」」」
子供たちの人気番組だったが。
じつは、大人たちにも受け入れられていた。
いわゆる娯楽のひとつで、テレビ番組だった。
「はーい、オッケーです」
その撮影場所は、惑星『グラッド』。
そこは、いわゆるメディアに特化した星だった。
視聴率を稼ぐために、各局は競いあっていた。
そのうちのひとつ──『遊星王子』。
その番組は、いまやうなぎ登りだった。
「お疲れ様です」 「いや、どうもです」
「で、次はですね~」 「いや、この脚本はちょっと……」
ようやく遊星王子役に、抜擢されたが。
正直、荷が重かった。
デビューするまでに、さんざん苦労はしてきたが。
その脚本を読むうちに、ただガクガクと膝が震えていた。
青年デュアンは、駆け出しの役者だった。
鍛え上げた肉体と、演技力を磨き続けていた。
宇宙人のなかでも、人気者になりつつあった。
「きみ、いいねえ」 「ありがとうございます!」
ずっと苦労し続けていた。
これでようやく──、親孝行できるだろうか。
辺境の星で、地味に、何人もの兄弟と、両親との。
染みったれた暮らしには、オサラバできると。
そう──、思っていた矢先に。
「あのスターとやり合うとか。冗談じゃあないですよ!」
「そこはまあ──、脚本だからね?」
「本当に──? それだったらいいけどさあ」
「スターさん。入りま~す」 「どうもっす」
デュアンはその瞬間に感じた。
それがあの、本人だということに。
監督ならびに、スタッフは、ただへらへらしていた。
「はい、それじゃあシーンワンから」
それは惑星王子が、スターに一撃を与えるシーン。
あのスターに、盛大に殴り付けるシーンだった。
そして、決めゼリフを吐かないといけなかった。
「まだ──、一発だけでは足りないっ!」
これは誰かの分。
これは誰かの分。
これは宇宙の分。
これは悲しみの分。
これは愛しみの分。
これは憎しみの分。
クライマックスのシーンだった。
最初にそれを撮影しようなんて、どうかしてるぜ。
ただ、デュアンは、必死だった。
「いいから、おもいっきりやってよ」
それは突然──、デュアンにだけ聞こえていた。
惑星王子にだけ。
「おれはスター。宇宙の悪役なんだから」
遠慮なんてするなと、告げられていた。
さあ、殴り付けろと、頬さえ向けていた。
「すみません……っ」
「だから……謝らなくてもいいのに」
そして、デュアンは。
遊星王子として、盛大に握りこぶしをあげた。
いまこそ、決めゼリフを。
「宇宙に蔓延る、悪役スターは、いま倒したぞ!!」
「「「さすが遊星王子!!!」」」
ただ、その撮影のあとで。デュアンは床に突っ伏していた。
いくら、脚本どうりであっても、本物を殴り付けていたから。
「どうか……お許しください……!!」
その精一杯の命乞いにたいして、スターの返答は軽かった。
床に額を擦り付けていた、デュアンにたいして。
「だって、バイトだからね?」
スターは、なりふりかまわない。
さんざん、殺し屋に狙われていたって。
エキストラでも出番があれば。
ただ、練り歩くだけでもかまわない。
「次は、なに役かなあ?」
そんな余裕さえあった。
惑星『グラッド』では、スターとして出てもよかったが。
意外と、いい日当がもらえた。




