↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
The、スター。  作者: caem
PR
2/6

イブロン。


 その星は『イブロン』と呼ばれていた。

 

「オーライ、オーライ。もっと寄せていいぞ」


「ったく──、なんでこうも、集っているかね」


「つべこべ言ってないで、さっさと手を動かせ」


「へいへい」 「へいは一回だ」


 惑星『イブロン』は、もっとも有名な漁港だった。

 ところ狭しと宇宙船が──、漁船が並んでいた。

 ただ、見た目からして魚とは言い難いモノもあった。


「ぎにゃあ、ぎにゃあ」 「ぎにゃあは一回だ」


 宇宙猫──、ギニャアは待っていた。

 見た目はいわゆる猫に近いが。

 そこにいたギニャアには翼が備わっていた。

 

「ほれ。さっさとどこかに行きやがれ」

 

 商品にはならないエサを、ポイっと投げた。

 すかさず、そいつを咥えて、ばさばさと羽ばたいていった。


「お恵みくださらんか……」


「うん? また、あんたか」


 そこには老人の姿があった。

 汚ないマントを拠り所にしている。

 身体中はしわしわで、瞼さえ皺に占拠されていた。

 ただ、たくましく生きる、老人の姿があった。


「たしか──、ラウヴァさんだっけか」


 それが、その老人の名前だった。

 ラウヴァは、いつも漁港に立ち寄っていた。

 ときにはギニャアと争って、おこぼれを頂戴して。

 安酒にありつき、あとは眠りにつくだけだった。


「しゃあねえなあ。ほらよっ」


「親方──、いいんですかい?」


 宇宙猫、ギニャアでも味をしめたら、また訪れる。

 だが、いま目の前にいたのは、明日もしれない。

 しわしわの老人だったから。


「後味悪いのは、どうもな」


「お優しいことで……」


「なんか、言ったか?」 「いえ。なにも」


「ずべこべ言わず、働きやがれ!」


 それからしばらくして、老人ラウヴァは立ち去っていった。




「う~ん、最高じゃあ♪」


 このひとことにつきる。

 五臓六腑にしみわたる。


 見た目は老人だが、中身(スター)だった。

 しわしわに包まれて、正体を隠していた。

 漁港で騙しとった魚を、さばいてもらっていた。

 居酒屋マーメイドという店で。

 

「へい、お待ち」


 新鮮な魚のお造りと、そこに。

 冷たくなった酒が、後押ししていく。

 こうなったら、もう、お箸は止まらない。


「おっちゃん、もういっぱい」


「ラウヴァさん。ほどほどにしときなよ」


「分かってますよ~」


 その姿は、いわゆる酔っぱらいだった。

 

「う~い、ヒック」


 じつにいい。

 あとは、柔らかい布団に突っ伏すだけだった。

 それは、まさか。

 酔いを覚ますほどの衝撃的な台詞だった。


「あんた、スターさんでしょ?」


「あの、伝説の、スターさんでしょ?」


 ドキッ。いや、そんなバカな。

 今はラウヴァという老人なのに。

 完璧に、別人になっていたのに。

 どうしてバレてしまったのか。


「ワシは、しがない老人。ラウヴァですじゃが?」


「ふ~ん。でも、わたしには分かるんだ」


 どこからともなく現れたタコ型の宇宙人。

 それ自体は、決して珍しいことではなかったが。


「わたし、ジュークって言います」


「話だけでも聞いてくれませんか?」


「とりあえず、そとに出ようか。おやっさん、勘定を」


「あ、ここはわたしが立て替えますから」


 ジュークという彼女は、かなり話が分かりやすかった。




「じつは……」


 スターは路地裏で、彼女の経緯を黙って聞いていた。

 タコ型の宇宙人。

 ジュークはどうやらゴロツキに狙われていたらしい。

 その名前は、スターにも聞き覚えがあった。


「ああ、カオテン(・・・・)か。あいつら、しつこいよねー」


「さすが、スターさん。ご存知でしたか!」


 略して、カオテン。

 フルネームは、カオステンペラー。

 宇宙の残飯ですら残さずいただく。

 それがモットーの、輩だった。

 スターでさえ、まともにやり合いたくない相手だった。


「で……ずばり、どうしてほしいんだよ」


 スターはジュークに告げた。


「スターさんのレビューさえ頂けたら!」


 彼女は真剣な眼差しだった。

 ジュークは銀河系でも珍しい。

 たこ焼き屋さんを営んでいた。

 とくにこの『イブロン』で仕入れた。

 魚介類で調理した、たこ焼きは絶品だったから。


「いつもいつも……あいつらは……」


「あ~。そういうことね」

 

 なんとなく、察してしまった。

 あのじつに美味しい、たこ焼きはなくなってほしくない。

 スターにとっても、それは好機だった。


「あ~、わかったよ!」


「ありがとうございます!」


 ただ、ジュークに正体がバレてしまったのは別として。

 あとは簡単だった。

 見た目は老人だし、そもそも奴らには消えて欲しかったし。


「なんだ、じいさん?」 


「お恵みくださらんか……」


 カオステンペスト。

 その構成員は、ただの老人によって。

 血だまりになっていた。


「あ~、サッパリした」




「ありがとうございました!」


 ジュークに感謝されたとて、スターはしれっとしていた。

 そもそもスターは、『イブロン』で美味しいお酒を飲みたかっただけなのに。


「ええんやで」


 たまには、こんなのも。

 たまには、いいヤツに扮するのも。

 ただ──、誰にも分からないだろう。

 もう、ジュークにも会うことはないだろう。



 見た目は、よぼよぼの老人スターは。

 ラウヴァという名前を、『イブロン』で捨てた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。