ゼロワン。
「こちらCチーム。予定の星に着陸しました」
「了解。油断するなよ」
白い煙が辺りに立ち込める。
円盤状の乗り物──UFOのなかから、数人が降りてきた。
「今のところ、反応はナシか……」
たとえ一人きりで宇宙に放り出されても。
なんなく生き延びられる。
なんなら、あの煮えたぎる太陽に突っ込んでさえ。
五体無事でいられるような、頑丈なスーツを着こんでいた。
そのうちの。
片手に嵌めていた、腕時計のようなものには。
様々な機能が備わっていた。
通信機能はもとより。
いわゆる、センサーなどは当然らしい。
「やはりな」
各々の武器は様々だったが。
その何れもが、一級品だった。
ただ──、すべてが真っ黒だったのは正直ダサい。
誰もが同じような、装備をしていた。
「必ずヤツはここにいる」
「リーダー。こんなド田舎に本当にヤツがいるのですか?」
「ゼロワンなんて、最果ての星ですよね?」
「荒れ地のほうが、まだマシじゃあないですか?」
部下たちが、そう告げるのも当然だった。
その星は銀河系でも、辺境に位置していた。
宇宙は広い。限りなく広い。
そして、そこには未知の世界も必ずあった。
誰かが『異世界』と呼んだ場所でさえ、例外ではない。
ただ境界が曖昧であったり、ただ住み分けされていた。
「それにしたって……」
「私情を挟むな。絶対に気をを抜くなよ」
草木もわずかしかなく、むき出しの岩ばかりで。
なにもないから『ゼロワン』と呼ばれていた星だった。
「いけば分かるさ」
ただ──、そんな『ゼロワン』でも、平穏な暮らしがあった。
「うん、今日はたくさん取れたなァ」
見た目はヒューマノイドだった。
額に滲んだ汗をこすり、食料をかごに詰め込んで、ようやく一息ついていた。
「これだけあれば、ひと月はもつかなァ」
小さな苔だったが、かごいっぱいになっていた。
『ゼロワン』では、その苔が生きる術だった。
「父さんも、母さんも喜んでくれたらいいなあ」
澄みきった青色の瞳、褐色の肌。
働き者の証の、そばかすと、最低限の着衣。
懸命に働く、少女の姿があった。
「よっこいしょっと」
重い籠を担いで、彼女は。
それでも、笑顔で家路につこうと張りきっていた。
「ちょっといいですか」
「は~い。え~っと、どちら様ですか?」
「珍しいなァ、母さん。来客かい?」
ずどん。
その瞬間、顔を出した父親は笑顔のまま吹き飛んだ。
普通なら、ノックをしたりチャイムを押すだろう。
ただ、そんな常識なんてなかった。
「あ……あなた!?」
すでに息はなかった。
続けざまに、ずどんと。
敢えて、致命傷にはならないように。
「どう、して……」
「奥さん、そんなことはどうでもいいんですよ」
胸ぐらを掴んだリーダーは、冷たい視線のまま。
ただ、淡々と質問をした。
「ここにスターがいるだろう」
その意味が分からなかった。
激痛に堪えながら、母親は答えた。
「ス……スター?」
「ほう、なおもシラを切るか。やれ」
ずどん。
今度は部下からの射撃だった。
もういっぽうの、片足に深く傷跡が残った。
「うぎいぃぃぃっ!!」
その容赦ない射撃は、意識を失うほどだった。
だが、まだ母親は必死に生きていた。
「もう一度、聞くが──、スターはどこにいる」
「そんな……ひとはしりません……から」
ならば、続けるしかない。
指先をパチンと鳴らして、もういっぱつ、ずどん。
部下は、リーダーに従うしかない。
「うぐうっ!!」
いくら隠そうとしても、いつかは真実を語るハズだ。
尋問は、まだまだ、たっぷり余裕がある。
さあ、次はどこに、照準を定めようか。
まさに──その時だった。
「父さん、母さん、ただいま帰りました」
勢いよく、開かれたドアからいい香りがした。
かごいっぱいになった苔は、甘酸っぱい香りがした。
「ミディ……逃げ……て……」
「なんだ? このガキは」
ミディといわれた少女は、思わず籠を手放した。
部屋の片隅で鎮座する父親と、真っ赤に染まる床。
いままで一度も見たことも、会ったこともない輩。
そして──、我が母親が瀕死になっている状況に。
「うわああああああああああっ!!」
それは壮絶な現場だった。
いままで、のほほんと、そして懸命に暮らしていた。
その日常が、真っ暗やみに染まっていった。
「ミディ……はやく……逃げて……」
どんどん、床を染めていく。
父親の体液と、母親の体液がまざりあっていく。
そして、冷たい視線だけがミディを見続けていた。
「しょうがない。やれ」
冷静に、命令に従った。
部下は、ただ呆然としていた少女の額に定めた。
じつに、簡単な仕事であった。ずどん。
だが──、予想外な出来事が待ち受けていた。
「また、あんたたちか」
たしかに放ったハズの弾丸は、ものの見事に外れた。
そして、確実に当たっていた。
「ぐはっ!」
部下は、脳天を貫かれて、やがてゴロンと寝転がる。
それは一瞬の出来事で、誰にも理解などは出来なかった。
「な……なんだあ!?」
一方的に発射された弾丸は、一方的に反射されていた。
その現象は、リーダーでも理解できなかった。
「せっかく、のんびりできたと思ってたのになァ」
そこにはミディと呼ばれた、可愛らしい姿はなかった。
いや、少女の姿はそのままだが、辺り一面に殺意が放たれた。
「ミディ……?」
「ごめんね、母さん」
それが最後に交わしたことばだった。
ぐしゃっ。 容赦ない一撃だった。
ミディは、ただ眺めていた。
「な──、なんだっ!?」
「はあ……また、あんたたちか」
その姿は少女のままだが、明らかに異質だった。
異様な空気が立ち込める。
襲撃者に、冷たい視線が注がれていた。
「探していたんでしょ?」
「そいつから反応が出てるぞ!」
ミディと言われた少女は、本性を現した。
スターと呼ばれた存在に、なっていた。
「構わん! 撃て、撃て!!」
「今さら、そんなの。ボクに効くと思ってるの?」
まるで、赤子を扱うかのように。
まるで、羽虫を払うかのように。
まるで、ウジ虫を潰すかのように。
「そんなバカな……」
わずか、数瞬で。
リーダーひとりを、わざと残す余裕さえあった。
「相変わらず、どこまでもしつこい奴らだなァ」
まるで遊んでいたようだった。
そこには、ミディと呼ばれた少女の姿はなかった。
ただ──、悪魔がいた。
「許してくださいっ!」
「さんざんヤっといて、それはないよねぇ」
「じゃあね、バイバイ」
Cチームのリーダーは、プチュンと弾けた。
ピピピ、ピピピ。
あれからどうなったのか。
報告がこないのが気になって。
アラームを鳴らした。
「Cチーム? どうした!?」
「そんなの、もう、いないですよ」
「まさか……そんなバカな……」
「いまからそちらに向かいますね」
判断を誤った。
決して、手を出してはいけない存在だった。
そして、すぐさま彼は──
「全チームに告ぐ! 総員撤退せよ!!」
スターを狙っていた組織は、引き際も優秀だった。
次々と、その区域から亜空間飛行していった。
「ああ、ようやく平和に暮らせると思ったのに……」
しばらく、スターは、満天の夜空を。
どこか寂しげな表情で、眺めていたが。
やがて、吹っ切れた。
「次は、どうしようかなァ」
見た目は可愛らしい少女、スターは。
ミディという名前を、『ゼロワン』で捨てた。




