99. 手術
「ちょっと先に行って準備する」
僕は1人必死で走って、先行して家に着いた。
食事作りや、何やかやといつも使っているテーブルの上の物を、乱暴にどかし、洗ってしまってある綺麗な布をその上に敷いた。
それだけしか出来ずに、みんながもう家に着いた。
「サーブをこの上に寝かして、ナーリア竃に火を、ディフィー、レンス、サーブが落ちない様に見てて、セカン、一緒に来い」
僕は灰に脂を注いだ桶と木鉢を持って、セカンを連れて水浴び場に走った。
桶の中身を少し木鉢に入れ、水を加えて掻き混ぜて泡を作る。
裸になり、その泡で大急ぎ体を洗う。
セカンも僕のやっていることを真似する。
そのまま家に戻った。
鍋に水を入れ竃の火にかけてから、僕は大急ぎで自分の荷物の中を探る。
金属の箱を取り出し、その中のものを次々と鍋の中に放り込む。
それから適当な大きさの布も鍋の中に数枚放り込む。
あと小さなナイフも鍋の中に放り込む。
木の板に煮立った鍋のお湯を何度か掛ける。
その板の上にお湯の中から取り出した布を被せて、その上に棒で取り出して、さっき突っ込んだ数々のものを並べていく。
これらの作業をセカンを助手にしつつ、ナーリアとディフィーにも体を大急ぎで洗ってきてもらう。
お湯を桶に汲み、少し冷まして、そこに入れた布を絞って、サーブの体を出来る限り拭いて綺麗にしてもらう。
「レンス、すまないが自分で拭いてくれ」
「私は大丈夫」
レンスが答えたが、レンスの傷もかなり酷い。
僕はナイフを二本、近くにあった石で刃を潰し、もう一度お湯に入れる。
大山蛾の糸で、残していた一巻きを取ってきて、ちょっと細すぎるので二本を 撚って少しだけ太い糸を作り、それも木に巻きつけてお湯に入れた。
刃を潰したナイフを取り出し、セカンに渡す。
「セカン、そのナイフでサーブの傷口を開き、中が見える様にしてくれ。
ナーリアはサーブを見張り、意識が戻りそうになったら、また毒注入。
ディフィーは僕が合図したら、締め付けている木を少し緩めたり、また締めたりしてくれ」
僕は鉗子を持って、サーブの傷口に顔をつける様にして観察する。
「よし、ディフィー、ほんの少しだけ緩めて、もういい、締めて」
僕は太い血管の場所を確認し、鉗子でその血管を挟んだ。
血管をちょっと引っ張り、その先を糸で結んで、血が出ない様にする。
結んだ糸は少し長く垂らしておく。
「ディフィー、反対側」
同じ様に範囲側も血管を糸で縛った。
次に違うナイフの先を炎で炙り、ディフィーに少し緩めさせては、血が出るところを、炙ったナイフの先で、そこの血管を焼いて止血する。
辺りにサーブの肉が焼ける匂いが漂う。
傷口に血が溜まったりして、傷口が見えにくくなる度に、セカンかディフィーに水を吐かせて洗浄する。
「よし、これで血が完全に止まった。 少なくとも失血死は免れたぞ」
サーブは全く意識を取り戻さないが、ナーリアが何も言わないから、たぶん今のところ大丈夫なのだろう。
ちょっとだけ安心して顔を上げると、セカンとディフィーの喜んだ顔が見えたが、二人とも真っ青だった。
「次にまた細かい作業だけど、これはセカンの手伝いだけで出来るから、ディフィーとナーリアはレンスの治療をしてあげて。
体は自分で拭けているかな。
もう一度、尻尾の先に水を吹きかけて洗浄してあげて、そしたら鍋の中の布を取り出して、それに傷薬を塗って、それで尻尾を包んであげれば良いと思う」
僕はお湯の中からピンセットを取り出した。
「セカン、開いていて。 僕は傷の中の剣の錆なんかを全部取り出すから」
ゴブが使った剣は綺麗なものではない、錆やら何やら、セカンとディフィーに水を吐いてもらって洗浄したが、取れないものが傷の中にある。
僕はそういったものを丁寧に取っていく。
「レンスの治療は終わったよ」
ナーリアが報告してきた。
「レンス、どう?」 僕は尋ねた。
「痛みがずっと楽になった。 私はこれで大丈夫」
「それなら良かった。 ナーリア、今度はこっち来て」
僕は細かい作業に流石に疲れてきて、目が霞んできた。
「セカンとナーリアは交代して、セカンは僕と交代してくれるかな。
ちょっと疲れて、目が霞む」
「分かった。 ちょっと待って」
セカンとナーリアに交代してもらって、僕は次の準備を始める。
金属の箱の中にまだ残っていた、小さな丸く曲がっている針に、大山蛾の糸を通していく。
全部で針が10本あり、それ全部に糸を通しておこうと思うのだが、目が疲れていて、なかなか上手くいかない。
「アレク、それ貸して、そのくらいなら私が出来る」
レンスが代わって、糸を通してくれるという。
「アレクは少し目を瞑って、目を休めて。
細かい作業を一人で続け過ぎ、それじゃあ持たない」
「ありがとう、すまない、任せるよ」
僕は目を瞑った。
「アレク、この糸を通した針はどうするの?」
今度はディフィーが聞いてきた。
レンスが尻尾の先が痛くて、動き辛いからだろう。
「それも全部一度、お湯に入れて煮てくれ」
僕は目を瞑ったまま、ディフィーに指示をした。
しばらく目を瞑ったまま休んでいると、セカンが声をかけてきた。
「アレク、終わった。 全部取ったと思う」
「わかった、今行く」
見てみると、傷口の中は綺麗になっていた。
「よし、上と下で繋がっていたとわかるモノは、全部糸で縫って繋げるぞ。
まずは僕がやる。
セカンは目を瞑って、目を休めていてくれ」
僕は傷口の奥から、つながるとわかるところは皆、糸で縫って繋いでいく。
だんだん暗くなってきて、見えにくくなってきた。
「ディフィー、前に作った蝋燭取って来て灯を点けて、それでここを照らしてくれ」
僕は心の中で蝋燭を作っておいて本当に良かった、と思っていた。
セカンと交代で、とりあえず繋げられるだけ繋げ、やっと表面の皮膚を縫い閉じた。
その時太い血管を縛った糸の、垂らしておいた先端は傷口から外に出しておく。
傷口全体に傷薬を塗った布を貼り付けて、その上から布を巻いて固定した。
良かった、蝋燭が燃え尽きる前に手術を終えることが出来た。
僕たちはサーブとレンスを寝床の方に移動してあげた。
レンスは自分で動けると言ったが、何となく痛々しいんだよね。
僕はセカンに尋ねた
「口に出すのと、下に出すのだと、下に出した方がエネルギーをより一層吸収出来るんだよな?」
「私は確実にそうだと思うけど・・・」
僕はナーリアとディフィーとレンスにも目で問う。
「私もそう思う。」「「私も。」」
「わかった。
セカンとディフィーでサーブの身体を動かして、僕を受け入れられるようにして。
ナーリア、少し手伝ってくれないかな、緊張しちゃってて、臨戦態勢にならないんだ、サーブに出したいと思うのだけど」
「回復のためのエネルギーを与えようというのね」
ナーリアが僕の意図を理解したようだ。
3人とも僕の言う通りに動いてくれた。
出る寸前までナーリアに刺激してもらい、サーブに挿入しようとするが、意識が無いので、そう易々とはいかない。 やっと挿入できたその時、家のドアが開いた。
「サーブちゃんは、大丈夫?
どうなったかしら、何か困ってない?」
イクス様が中に入って来た。
一瞬、全員の動きが止まった。
「あら、ああ、なるほど、そういうこと。
よく気がついたわねぇ」
「イクス様、意識がなくてもエネルギーの吸収って出来ますよね?」
僕は、そう訊ねながら何とか放出したのだが、その拍子に何故か意識が暗転してしまった。
意識を取り戻した時、僕はナーリアに膝枕されていた。
「あっ、アレクが意識を取り戻したわ。
まったくもう、エネルギーを与えている人が、エネルギー切れで気絶しちゃ駄目じゃない。
みんな驚いたんだから」
「でも仕方ない。
今日、アレクはずっと凄い集中力でサーブを助けてくれた。
あれだけ連続して集中していたらエネルギーが枯渇してもおかしくない」
セカンが庇ってくれた。
「ま、でも良くエネルギーが必要って気がついたわね。
レンスちゃんも、サーブちゃんが少し良くなったら、アレクくんに出してもらいなさい。
そうして脱皮すれば、尻尾はすぐに治るから」
「あの、イクス様、脱皮すると体型とか変わってしまいませんか?」
ディフィーが尋ねた。
「何、そんなこと心配しているの。
そんなことないわよ。
年齢相応にしか体型なんて変わりようがないもの。
もちろん体型に個人差はあるけど」
え、そうなの。




