98. 終幕
戦さの場に、また静寂が戻った。
少し前の、妙にのんびりと弛緩した静寂とは今度は違う、張り詰めた緊張が漂う静寂だ。
ラミアの各隊の居る位置は、一番最初の配置位置よりは互いが少し近いが、それでもかなりの広範囲に散らばっている。
でも、その静けさ故か、妙に透きとおった声が全体に響いて通っていく。
「ラミアよ聞け、これからもう一度、戦場を押し潰す。
今度は油断しない。
押し潰していく時、見つけたゴブは生きていようが、死んでいようが、全て首を切りおとせ。
これは命令である、この戦域全てのゴブの首を切りおとせ。
各隊、前進始め!」
冷たい、青く透明な、ナイフの様な声がラミアに命令した。
誰の声かは分かる、ミーリア様の声だ。
その命令の内容の凄惨さもだが、その声のあまりな冷たさ、冷静な口調、その裏に見え隠れする激情に、背中の汗が凍った。
各隊は前進を始めた。
重たい沈黙が支配する空間を、ごくたまに叫び声が走る。
まだ生きていたゴブが居たのだろう。
黙々と進む、時折作業をする。
周りを見回すと、みんな顔面蒼白だ。
私たちだけじゃない。
ラーリア様たちまで、感情を消し去った白い顔で、それでも油断なく辺りを警戒しながら歩いている。
私たちは戦場の真ん中に集合した。
重い、空気が重い、臭い、血の臭いがあまりに濃い。
ミーリア様の横にはラーリア様が居るのみで、他のミーリア様たちもミーリア様に近づけない雰囲気が漂っている。
なんていうか、みんなミーリア様が怖いのだ。
ラーリア様が一歩前に出て、全体に宣言した。
「この戦さ、我らの勝利だ」
歓声とか、鬨の声が上がるのかと思ったが、そのままの静かさだった。
私だって、とても声なんてあげられない。
「今後の動きを命令します」
また、氷の声が降ってきた、もう顔を上げることも出来ない。
「ラーリア様は、この戦さは勝利したとおっしゃいましたが、まだこの戦さは終わっていません。
戦闘に参加しなかったゴブが残っています。
これからその殲滅に向かいます。
ラーリア様たちは、お戻りください。
いくら何でも闘い過ぎです。
この後は、手を煩わせるまでもないでしょう。
戻ってお休みください。
ミーリアは戦えますね。
ミーレアは、・・・・。
ミーレナは怪我をしてますね、外れて戻りなさい。
他は戦えますか。
アーリアは・・・・」
ミーリア様の声がより一層冷たくなった感じがした。
「アーリアは戦えませんね。
仕方ありません、あなたたちは戻りなさい」
ミーリア様は次にアーレアに。
声に温かみが少し戻った。
「アーレア、まだ動けますか?」
「大丈夫です。 まだやれます」
「アーレアたち、案内だけ頼みます。
あなたたちは戦闘には加わらないで構いません。
アーロア、あなたたちは大丈夫 ?」
「はい、十分戦えます」
「ミーレナ以外にも怪我人はいますね。
各隊で戦える者と、戦いが怪我で厳しいと思われる者とを分けなさい。
無理をする必要はありません。
各隊のリーダーの判断で分けてしまいなさい」
ミーリアで二人、ミーレアでミーレナも含めて三人、アーレアで四人、アーロアで二人が外れた。
「エーレア、ターリア、ワーリア、ヤーレアは、次の戦闘に向かう者に食料を渡したら、周りの手伝いをしながら、あなた達も戻りなさい。
以上です、各自行動を始めなさい。
戦闘に向かう者は私について来なさい。
アーレア、案内を頼みます」
ミーリア様がその場を離れていくと、やっと少し辺りの空気が暖かくなってきた気がした。
良かった、私は戻れると思い、周りをやっと見回すと、同世代のグループはみんな無事だった。
誰も怪我をした様子もない。
ワーリアは少し心が軽くなった。
「とにかく、早くここから一度離れたい」
声に出したら
「私も」という声がそこら中から帰ってきた。
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イクス様の掛け声の下に、集落前の広場には何箇所も毛皮が敷かれた。
何箇所かは、その毛皮の上に清潔な布も掛けてある。
人間たちの指示で、ラミアの若い子たちは桶に綺麗な水を入れて、そこかしこに用意した。
もちろん、血止め薬、傷薬、傷口を縛るための布も用意している。
サーブが担がれていった状況を見ているので、皆真剣そのものだ。
ラーリア様たちを先頭に、戦いに出ていったラミアが戻ってきた。
数が少ない、上位ラミアの半数も戻ってきていない。
集落にザワザワと動揺が広がりかけた。
「大丈夫だ。 戦いには勝った。
後の者たちは、まだ後始末の戦いをしているだけで、すぐに戻る。
今は傷ついた者の治療を急いでしてやってくれ」
ラーリア様が大きな声で、集落全体を鎮めた。
「戦いに出なかった、俺たちが頑張る番だ。
アレクは戦いに出た。
俺たちも出来ることをしないとな」
ボブが号令を掛けた。
人間たちが治療に取り掛かろうとした時、3名の遺体が広場に到着した。
広場が凍った。 凄惨な遺体だった。
アリオ様、アーリド様の遺体は他のアーリアが担いで来た。
アーロク様は二人のアーロアをワーリアたちが手伝って担いできた。
誰かが指示したのだろう、下に藁束を整えて、その上に毛皮を敷いた床が作られていた。
そこに3人が安置された。
とにかく、先に怪我の治療をと、人間が勧めたのだが、アーリア様たちもアーロア様二人も拒否して、遺体の武装を解き、若い子の用意した水を使い、布で血糊や汚れを落としていく。
誰も声を掛けることもできなかった。
綺麗な姿にして安置し終わって、やっと自分たちの治療に同意した。
アーロア二人の怪我は後遺症の残る様なものではなかったが、アーリアたちの中でアリファは、右腕の筋を斬られていて、右手が全く動かない重症だった。
他の者の治療もどんどんと進んでいる。
軽傷の者は水浴びをして傷を洗い、傷薬を塗る程度で大丈夫だ。
それより酷い怪我は、汲んだ水で傷を洗い、まだ血が出る様なら血止め薬で止め、傷薬を布に塗って傷に貼り、その上から布で縛った。
もう一人の重症者がミーレナ様で、こちらも左腕を斬られ、左手が動かない状態だった。
しばらくして、他の上位ラミアもミーリア様を先頭にして戻ってきた。
こちらは疲労困憊ではあったが、皆かすり傷程度で、酷い怪我をしている者はいなかった。
ただし、アーレア様たちをはじめとして、疲労は酷かった。
ラミアの独り言ep4「姉妹だけど」がこの時です。 良かったら、そちらも読んでください。




