100. 後始末
2日目
戦いの後、その晩から翌日は、怪我をした者の治療や、看護、そして疲れ切って倒れた者を運んだり、食事をさせたりと、戦士たちのケアに集落は追われた。
やっと落ち着きを少し取り戻したその翌朝、私アーリルはミーリア様の部屋に居る。
アーリアが呼び出された訳だが、二人で訪ねる決まりになっている。
今のアーリアは、アリオ、アーリドが死に、アリファが重傷で、結局私にお鉢が回ってきたのだった。
正直に言ってミーリア様が怖い。
戦いから戻って、冷静になった時、私は自分たちが犯した間違いが、良くわかった。
命令無視、自分勝手な行動をしたため、すんでのところで戦線崩壊を引き起こすところだった。
エーレアたちの奮戦と、ミーレナ様の片手を犠牲にしてまでの奮闘、そしてアーレアたちの全速力での救援がなければ、それは起こったことなのだ。
冷静になって自分たちのしてしまったことを理解したし、周りの者が自分たちをどういう目で見ているかもヒシヒシと意識した。
一昨日まで同格と思っていた、いや違う同格と言われるが自分たちがその中で一番上だと思っていた、アーレア、アーロアからは明らかに避けられている。
上の人たちからは、どうしようも無い馬鹿者どもと思われているのが分かる。
エーレアたち下の者は、もう私たちの命令を進んで聞こうとはしないだろう。
聞くとしても、序列だから仕方ないという気分でだ、それも拒否されるかもしれない。
それより何より一番悲しいのは、その様な扱いを受けることを、冷静に振り返った今の私は当然だと思うことだ。
私以上に、アーリアは青褪めている。
当然だろう、自分が命令して起こしたことで、途中からは指揮も放棄してしまったのだ。
だが私はアーリアを憎めない。
指揮官としては不適格で駄目だが、友の死に茫然自失となってしまい何も出来なかった友を私は嫌いにはなれない。
たとえそれが、もう一人の友を死なす結果となったにしてもだ。
「戦場のゴブの死体を片付けなければなりません。
放置しておく事は他の災厄を招き兼ねませんし、武器や防具の金属の回収も考えねばなりません。
すぐにでも取り掛からねばならない事案ですが、今日出せる部隊はあなたたちしかありません。
命令です。
可能な限り戦場のゴブの死体を一箇所に集めなさい。
行ってよし」
良いも悪いもない。
この命令に逆らえるはずもない。
客観的に考えても、私たちは戦いの途中から後方に下げられて働いていない。
最後まで奮闘して戦った隊ではなく、私たちの隊が後片付けをするのは当然だ。
それがどんなにおぞましく嫌な作業でも。
3日目
午前中、今回の戦いで亡くなった3人の葬儀が行われた。
ラーリア様は3人を平等に扱って弔ってくれたが、集落のみんなの悲しむ気持ち悼む気持ちは、アリオとアーリドによりも、アーロクにより多く向けられている様に感じてしまうのは、私たち自身に負い目の感情があるからだろうか。
午後からはラーリア様たちと、怪我で出れない者を除いた、戦いに出た者総出で後片付けをすることになった。
ミーリア様たちと私たち、そしてエーレア・ターリア・ヤーレアは前日私たちが片付けた草原の続きを行う。
ミーレア様たち、アーレア、アーロアそしてワーリアは後から殲滅した場所を片付けることとなった。
ナーリアは免除されていた。
二人重傷者がいて、その看護で手が空かないのだ。
中でも一人は今回まだ生きている中で一番の重傷で、実は死んだアリオより傷が深かった、という噂だ。
葬儀にも人間を含めて3人だけの出席だった。
最低一人は側に置いておかねばいけない状態なのだろう、即座に戻りもしていたし。
私たちより上位の担当がミーリア様たちなのは、それでもきっと配慮だろう。
ミーレナ様の件があるから、ミーレア様たちと一緒はより一層視線が痛いことだったろうから。
下の娘たちは私たちを無視して、ミーリア様たちに直接指示を仰いでいた。
特にエーレアたちにしてみれば、私たちは自分たちを命令無視で死地に追いやった存在だ、嫌われても仕方ない。
4日目
私たちに休日の許しが出た。
もう部屋から出る気力もない。
私だけではないだろう、同室のアーリベも全く動こうとしない。
何かの命令があれば、この体を嫌でも動かさねばならないが、そうでないなら、動かさずにこのままにしていたい。
この様な日々があとどれくらい続くのだろうか。
何かしらの変化が起こることがまだあるだろうか。
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戦いが終わって3日目の昼食後、俺たちが集まっているところにラーリア様が話をしに来た。
「お前たち、すまないな、果物などの食べ物しか用意してやれなくて。
今、アレクたちは、食事を用意する余裕がないのだ。
許してくれ」
「いえ、僕たちもサーブが大急ぎで運ばれていくのを見ましたから、解っています」
「一昨日、昨日と一日中、怪我人の治療や看護をしていてくれたそうだな。
それにも感謝するぞ」
上位ラミアは流石に体力と気力が尽きたのか、アーリアを除いて、みんな自室で休んでいた。
ラーリア様は今日になってから、誰かに僕たちのことを聞いたのだろう。
「僕たちは戦いに出ませんでしたから、それくらいしか出来ることがないですから」
エレクがみんなの気持ちを代弁して言った。
「いや、そんな事はない。
お前たちは戦いの前から様々なことをしてくれた。
お前たちの協力がなければ、今回の勝利はなかった。
お前たちも今回の勝利の立役者の一人だ」
ラーリア様は俺たちに対して、そう言ってくれた。
「それで頼みがあるのだが・・・」
「それでは始めてくれ」
俺は合図をし、松明でゴブの死体の山に四方から火を付けさせた。
もちろんゴブ自体が簡単に燃える訳はなく、その上や周りに大量に積み上げた薪にだ。
3日目、ここにはラーリア様たち、アーレア・アーロア様たち、それからナーリア同世代の4隊と共にやってきた。
途中の森で、俺たちの指示の下、大量の薪を集めた。
戦場となった草原の真ん中に集められたゴブの死体の量を見て、正直足が震えた。
もちろん死体を見るおぞましさはあるのだが、それよりもこれだけの数のゴブが攻めて来る光景を思い描いてしまったのだ。
それを完勝したラミアの強さに、改めて恐ろしさも感じたのだ。
集めた薪だけではとても焼き切れないと思い、もう一度全員に森に入ってもらい、薪を拾ってもらって、より高く積み上げた。
今回これだけの人数でやってきたのは、この薪を拾う問題が一因でもあるのだが、ラーリア様によるともう一つ狙いがあるということだ。
ラミアは火を使わないので、逆に火の怖さも知らない。
だから、これは火の怖さを知る良い機会になるとのことだ。
火を使ってゴブを焼くのは、現実的な問題として、数が多すぎて穴を掘って埋めるのでは作業が大変で時間がかかり過ぎるからである。
時間がかかれば、腐敗したり、獣が寄ってきたりの問題が出て来る。
それは病の発生を意味する訳だ。
俺たち人間が火を点けるのは、一応建前として、ラミアは火を使わないことになっているので、ラーリア様たちが下の者たちの前で堂々と火を使う訳にはいかないかららしい。
四方から放たれた火は、中心に向かってその炎を進めていく。
火が大きく燃え始めると、ゴブの死体も燃え始める。
どういう訳かわからないが、ゴブは一度燃え出すと、人間よりよほど良く燃えるらしいのだ。
大きくなった炎をラミアたちはラーリア様たちを除き、呆然と眺めている。
俺たち人間は周囲に延焼しない様に気をつけている。
草原の中央の低くなっている場所で、雨が降ると水が溜まってしまうからだろう、
ここは草も少ない、ほとんど荒地だ。
燃え移るものが辺りにほとんどないから、大丈夫だと思う。
それでもいくつもの桶に水も用意しておいた。
炎が消えた時、ゴブはほとんど骨も残らなかった。
ゴブの骨は脆いので、焼くとほとんど崩れてしまうのだ。
俺たちは水をかけて、火の後始末をしていく。
ラミアはこういう事は苦手にしている様だ。
さあ、もう一箇所に行くらしい。
今度は小規模だというから、こんなに時間はかからないだろう。




