95. 二番太鼓
戦はもう長距離組の矢だけではとっくに済まなくなり、中距離組のナーリア、セカンにラーリオ様、ラーリル様も次々と矢を休みなく射っている。
その距離を突破してくるゴブもいて、それは今の所レンスの速射が対応しているが、レンスも射ちぱなしで息つぐ暇もない。
「長距離組は多少射るのに時間がかかっても良い、ゴブの中で仲間に指示をしているようなモノを狙え」
ラーリア様から指示が出た。
速射もできるセカンは射るのが早いので、中距離用の矢を射ち終え、レンスを手伝い始めた。
「どうだ? ミーリア上手くいっているか?」
「予定以上です。 ゴブの半数近くを討ったか戦闘不能にしています」
「よし、二番太鼓」
ラーリア様の言葉に、ミーリア様が後ろに叫ぶ。
「二番太鼓を打て。 ミーリアは前進」
そして僕たちに叫んだ。
「ナーリアは下がれ」
この状況でなんで下がれるか。 僕たちは誰も下がらず、矢を射ち続けている。
太鼓の音は、今までの「ドーン」という音ではなく、「ドン、ドン」という二回連続打ちに変わっている。
「ナーリア、下がれ。 もうお前たちは十分に戦った。 下がれ」
それでも僕たちは下がらずに射ち続ける。
たとえ一本でもゴブに当たれば役に立つ、それ以外に僕たちはここでは役に立たないだろう。
「分かった。 矢が尽きたら、必ず下がれ。 命令だ」
ミーリア様はそう言い捨てて、僕たちから目を離した。
ミーリア様が僕たちに叫んでいた言葉が聞こえていたミーリオ様が大声を出した。
「ナーリアの奮戦に、我らは如何に答えるべき」
方々から声が上がる。
「我らミーリアはラミアの盾」
「ミーリアの後ろは味方のみ」
「疲れし勇者は我らの後ろで休むが良い」
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きた、ついに2番太鼓の音が響いてきた。
ラーリド様と、ラリファ様と、ラリベ様は即座に矢を次々と放ち始めた。
なるべく素早く矢を射ち終わり、ゴブたちへと突入するつもりなのだろう。
近くにターリアを置いているのは、射ち終わった弓をすぐに預けるためだろう。
緊張しているターリアがちょと可哀想だ。
私はミーレア全体に声を掛ける。
「ミーレアよ、もはや隠れる必要もなし。
我らミーレアはラミアの壁。 ゴブ供を一匹たりとも逃さず殲滅する」
後ろからの攻撃を予期していなかったゴブたちが、混乱しているのが見える。
それに向かってラーリド様、ラリファ様、ラリベ様が射かけている。
残念だが私たちの弓ではそこまでは届かない。
ゴブたちはこちらに石を投げながら向かってきた。
位置がこちらの方が低いので、石でも届くのが忌々しいが、それは覚悟の上である。 近づいたゴブに矢を射っていく。
まだ余裕がある、私はターリアたちにも声を掛けてやる。
「ターリアたちよ、我らの後ろに隠れていろ。
でも、いつでも使えるように弓矢や剣を用意しておけよ」
ターリアたちが青い顔をして肯いている。
当たり前だ、私だって怖い。
ふと、ターリアが弓を抱えて、走って仲間の元に戻っていった。
早い、ラーリド様、ラリファ様、ラリベ様は矢を射ち切り、ゴブに突入するところだ。
ここからがミーレアの本番の戦いかもしれない。
逃げ戻ろうとするゴブを、まずは矢で、それを抜けて来るものは各自の得物でもって、確実に討ちとるのだ。
もう一度、私は叫ぶ。
「ミーレアよ、我らは壁」
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「おっと、2番太鼓だ。 私も前に出なくっちゃ」
アーロア様は気楽そうにそう言った。
「あなたたちも一応、いつでも弓矢を使えるように準備しててね。
そんなことはないように気をつけるけど、万一、いや千一の時はあるからね」
真剣なのか、冗談なのか、今一つ分からないことを言い残して、アーロア様はアーロアの一番前へと向かって行った。
すでにラーリク様とラーリナ様は矢をゴブに射かけ始めている。
それでも急ぐ様子もなく向かうと
「アーロアのみんな、分かっているわね。
私たちの役目はゴブを逃さないことが第一であって、ゴブを殺すことじゃない。
焦って前に出る必要はないから、絶対に逃さない様に気をつけよう」
微妙に闘志を高めているのか、抑えようとしているのかわからない言葉に、他のアーロアの人たちが、もう弓を射ちながら、苦笑している。
ラーリク様が振り返ったので、叱るのかなと思ったら。
「アーロア、それで良いのよ。
気楽にやろうね」
なんだかこっちもよく分からない。
しばらくしたらアーロア様に呼ばれた。
「ワーリア、そろそろラーリク様とラーリナ様の矢が尽きる。
弓を受け取って来て」
私が弓を二人から受け取りに行くと、
「ご苦労様。 後ろに下がって、怪我をしない様にね」
とラーリナ様に声を掛けてもらえた。
直後、二人は、さっきの気楽そうな言葉とは違った厳しい顔で、ゴブの集団に突入して行った。
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「2番太鼓だ。 我らは出るぞ。 アーリア、大丈夫か」
「はい、やっと我々の出番です」
「アーリア、お前たちの役目は第一にゴブを逃さないことだ、それを忘れるな」
「はい、ラリト様、我らアーリア、戦いには自信があります」
どうも受け答えが危なっかしい、自分たちの役割をきちんと分かっているのだろうか。
今更念押ししたり、確かめている暇もない。
私は自分の役割を果たすために、前に出てラーリンと共にゴブに向けて次々と矢を射かけた。
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「ねぇ、エレオ、どう思う?」
「どう思うって何が?」
「アーリア様のことよ」
「うーん、私たちが一番のハズレくじかな」
「やっぱりそう思う」
「ということは、エーレア、あんたもそう思っているってこと。」
「うん」
私たちのいる位置から、本陣はより高いところにあるからよく見えないが、反対斜面のアーロア様の隊、そして袋の口を閉めているミーレア様の隊は良く見える。
合図の太鼓の音、ゴブたちの動きに対して、その二つの隊はとても機敏に動いていく。
配置も隙がなく、あれではゴブが逃げ出すことは不可能だろうと思った。
それに比べ、自分が所属しているこの隊は、上から見ていると動きもぎこちなく、配置も隙がある。
ラリト様とラーリン様が心配して目配せを交わしているのが、私にも分かるのだが、アーリア様は気付かない。
「私たちも覚悟しておいた方が良いかもね」
「うん、崩れるとしたら、私もここだと思う」
私たちは、ナーリアだけは同世代だが戦闘に組み込まれていたが、他はサポートが役目で、余程のことがない限り戦には出ないことになっている。
でも、その余程のことが起きるとしたら、自分たちのいるここだと何故か確信してた。




