92. 布陣
それから、ディフィーとセカンの案の詳細な検討が行われ、元の案との比較考察が続いた。
その結果、ディフィーとセカンの案が最終的に採用されることになった。
でも基本は変わらない、弓矢による数減らしと、包囲殲滅である。
包囲する方が、包囲される方の数の1/3に足りないのだから、包囲と呼べるかどうかギリギリの感じだけど。
ゴブはラミアは当然のこととしても、人間と比べても視覚が弱い。
ラーリア様たちが禁足地を守るためにここに居ると言いながら、夜には自分たちの部屋に戻られるのは、ゴブは夜間には視覚が弱いために行動しないためだ。
その代わり、耳が大きく、聴力が発達している。
サーブが耳を切り取り、ゴブと戦ったことの証明にしたのは、その大きい耳が特徴的だからだ。
目があまり見えないなら、夜襲をかければ良いのにと思うが、その聴力の発達しているのが採用されない理由だ。
あまり見えていないから、夜の攻撃に対しては音だけを頼りに、ただ遮二無二飛び掛かってきて暴れ回る。
自分たちの状況も顧みずに、数を頼みのその戦い方は、逆に脅威となるのだ。
しかし視覚が弱いというのはやはり弱点で、そこを突くことによって、アーレアの少人数でもゴブの集団を誘導してくることが出来る。
また攻撃してきた対象ばかりに攻撃に行ってしまうという習性が出来てもしまう。
違う言い方をすれば音を出している存在にとらわれやすい、と言えるかもしれない。
決戦はゴブの集団が発見された日から4日後と決まった。
なるべく早くしないと、移動してしまう可能性もあるし、ゴブは1日でも早く駆除しないと、数が増えてしまう。
4日後となったのは、矢の本数が整わないからだ。
ミーリア・ミーレア・アーリア・アーレア・アーロアの各隊に一人20本として、それだけで50×20で1000本の矢が必要になる。
これらはみなラミアの普通サイズの矢だ。
ラーリア様たちと、僕たちは一人一人に合わせた矢をそれぞれに普段持つ倍の数を大体の目安に少し多めに用意することとした。
ちなみに僕たちの本数は、
長距離射程のサーブが40本、僕が50本、ディフィーが30本。 数の違いは一本射るのにかかる時間の差を考えてだ。
中距離射程のナーリアも40本。
中距離も短距離速射もできるセカンが、中距離用30本に短距離用も30本。
短距離速射専門のレンスは、短距離用のみを80本だ。
皆それぞれに自分の矢を作ったのだが、ラーリア様に気に入られたサーブとレンスはラーリア様の矢も作ることになった。
特別に長い矢を60本だ。
傷薬と血止め薬の二種類の薬を作り、自分たちの矢を作る。
これだけでも大忙しだったのだが、もう一つ作らされる羽目になった。
藁束に入れた例の食料を、決戦に参加する人数分で2食づつ作れというのだ。
いくらなんでも無茶振りだろうと思う。
上位のラミアだけで60名、それに自分たちとナーリア同世代があと4隊で20名、合わせて85名のラミアの食料を用意しろという訳だ。
あ、自分の分を忘れている。
副食の肉はラミアはあまり食べないとはいえ、85名分である。
手間を考えて、せっせと竃フル稼動で貯めてあった塩漬けの肉を燻製に加工した。
とにかく手が足りないので、友たちにも手伝わせ、藁束やら、竹のスプーンやら、葉っぱの採取やらを慌ただしく行う。
それでも全部を一度にというのは無理なので、一食分は前日の夕に作り、決戦参加ラミアに配り、材料だけ広場に運んで置いて、2食目の仕上げは友たちに頼み、ナーリアと同世代のヤーレアに出発をちょっと送らせてもらい、持ってきてもらうことにした。
決戦の朝、まだ夜が明けるには時間があるから、深夜と言うべきか、月明かりの中、まず一番にアーレアの半分5人が集落を出て行く。
半分の5人は昨晩からゴブの集団を見張っているのだ。
ディフィーとセカンが選んだ草原は、真ん中が窪み、ゴブの集団がいる方から見て、奥に行けば行くほど、高くなっている。
その窪みにゴブを誘い込むのがアーレアの使命である。
次にラーリド、ラリファ、ラーリベの三人のラーリアと、ミーレアの10人、そのサポート役のナーリア同世代のターリア5人が出発する。
この隊がゴブの集団を袋に閉じ込めて口を結ぶ役となる。
つまり、設定した戦場の一番ゴブの集落に近い位置に隠れて布陣するのだ。
次にラーリク、ラーリナの二人と、アーロアの10人そしてワーリア5人が出発する。
この隊は奥からゴブの集落を見て左側の、草原の高くなっている位置に潜む。
ラミアの集落からは少し遠い位置になる。
その次はラリト、ラーリンの二人とアーリアの10人そしてエーレア5人。
右側の高くなっている位置に潜む。
最後にラーリア、ラリオ、ラーリルの三人と、ミーリアの10人そして僕たち6人が出発する。
この隊が本陣なのだが、草原の奥の高い位置に布陣し、隠れはしない。
この隊のラリオ様、ラーリル様は強い弓が引けるので選ばれた。
他の割り振りは適当である。
月明かりの中を、ラミアたちは全く苦にせず進んでいく。
僕だけは暗さに足元が危ういのだが、左右からナーリアとセカンがサポートしてくれているので、なんとか遅れずについて行くことが出来た。
僕たちは戦とはいえ、普段の狩の時と変わらない装備なのだが、ラーリアの人たちはしっかりとした鉄鎧を着ている。
ミーリアの人たちもラーリアの人たちまではいかないが、かなりしっかりした革で鉄の補強がされている鎧を着ている。
それ以上に違うのは、僕たちは弓と剣だけだが、ラーリア、ミーリア、ミーレアの人たちは、それぞれに得意らしい武器を持っている。
ラーリア様はハルバート、ミーリア様は長槍という具合だ。
僕たちは夜明け前に予定通りの位置に全員が配置についた。
配置についたところで、食事をした。
これは決められた行動で、この後配られる二つ目の食事は各自の自由に任されている。
僕だけは最初から二つ持っているけど、二つ目を食べれる自信ははっきり言ってない。
想定としては、逃げたゴブを追う途中とか、戦闘に加わらなかったゴブの殲滅の前とか、そんな感じなのだろうが、胃が受け付ける自信がない。
まあ、1食目は普通に食べれたけどね。
普通に食べれていないのはディフィーだ、普段は赤みがかかった肌の色をしているのに、青い顔をしている。
セカンが励ましている。
「私たちは提案しただけ、決めたのラーリア様たち。
そんなに気にする必要はない」
「でも、私たちの考えた作戦で動いているんだよ。
もし、この作戦が上手くいかなかったら、私たちのせいだよ」
「気にすることない。
その時は私もディフィーも戦闘で死んでいる。
だから、考えるだけ無駄」
「それは、そうなんだけど」
セカンは肝が座っているなあ。
言う通りなのだけど、僕もどっちかというとディフィーみたいに気にしちゃうな。
そういう意味では僕は気楽。
サーブが急いで食事を終えた。
「ラーリア様に矢を届けてくるよ」
ラーリア様の矢を請け負ったサーブとレンスだが、ラーリア様が忙しくて作った矢を手渡す時がなく、ここまでサーブが持ってきたのだ。
そりゃ、戦いが始まる前に渡さないとマズイよね。
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「もうすぐ夜が明けるな。」
ラーリアは独り言のように言ったが、側にいたミーリアは反応した。
「そうですね。 そろそろアーレアが動き出す時間です」
「アーレアは上手くやるさ」
「やってくれなくては困ります」
ラーリアはちょっとからかうようにミーリアに言った。
「指揮官は予定通りにいかなかった時こそが、力を試される時だぞ。
途中からはミーリアが指揮官だ。
慌てずに指揮することだ。
まあ、慌てる事態にならないことを祈っているがな」
「私にその能力があるでしょうか?」
「そんなことは誰もわからない。
同じ者でも時によって違うかもしれない。
そうだな、困ったらナーリアでも頼れ。
あれはアーレアの報告によると、指揮に関しては傑物だそうだからな」
「そんな、ナーリアに頼っては沽券にかかわります。
まだ上位にも入っていないのですから、彼女らは」
「そんなことは関係ないだろう。
この作戦も、序盤の主力もナーリアたちだ。
まさか、こんなことになるとは思いもしなかったがな」
「全くです。 困った問題児たちだと、私は思っていたのですけどね」
二人は顔を見合わせて笑った。
「おっと、ほら、困った問題児の一人がやって来たぞ」
サーブが矢を持ってやって来たのだった。




