90. 探索
翌日ラーリア様たちと一緒に友たちが来た時、引いてきた荷車には木鉢に入れた蜂の巣がたくさんあった。
ラーリア様が、集落の周りの警備巡回に当たっているミーリア・ミーレア・アーリア・アーロアに、巡回中に蜂の巣を見かけたらなるべく採集してくるように命じられたからだ。
警備巡回に忙しいから、蜂の巣は蜜を分離するなどの処理もなされていない状態だ。
ディフィーとレンスは流石に嬉しい気持ちを表す時ではないと思ったのか、態度に出さないようにしているつもりらしいが、顔はニマニマして、喜んで蜂蜜を落とす作業をしている。
昨日からの作業を今日も進める。
エレクとハキだけでなくラーリド様、ラリベ様も僕の担当している薬作りを手伝ってくれているので、3人でやっていた時よりずっと作業が捗る。
エレクに指摘されて、傷薬だけでなく、血止め薬も量産していく。
そうそう、今朝はその薬を詰めるための容器も大量に持ってきてくれた。
こういう容器を作るラミアたちもフルに頑張ってくれているとのことだ。
そういう話を聞くと、緊張感が高まる。
ラーリア様の機嫌が悪いのが分かる。
ラミア全体の運命を握る立場にあるのだから、当然のことだろう。
とてもピリピリしていて、誰も近づけない雰囲気がある。
一緒に作業をしているボブがとても可哀想な状況になっている。
耐えろ!!、誰も助けられない。
昼前にミーリア様がやって来た。
その姿を見つけた瞬間ラーリア様は大声で呼んだ。
「ミーリア、見つかったか?」
ミーリア様は大急ぎでこちらに近付くと、素早くラーリア様の近くに集まって来ていたラーリアの一同に、
「残念ながら、まだ見つかっていません。
状況説明のために地図を持って来ました」
そうかミーリア様が腕に抱えて来たのは地図だったのか、と僕は思った。
どうやら鹿の皮の毛を抜いて鞣したものに、何かの動物の血か何かで描いたものらしい。
「この位置がナーリアたちが2匹発見し、退治した場所です。
当初この位置からそう離れない場所でゴブの集団が発見できるのではと考えました。
アーレアもそれを想定し、そこを扇の要として探索の網を広げて行きました。
ところがその2匹が移動した痕跡はあったのですが、それ以上のものがなく、その痕跡を追うことも不可能でした」
「雨が降ったからな」ラーリク様が呟いた。
「とにかく、かなりの広範囲に渡って探索したのですが、集団の発見も、痕跡の発見もできませんでした」
「ということは単純にその方向を探るのはリスキーだな」
ラーリオ様が考えるように言った。
「はい、そこでとりあえず、探索範囲をこのように区切り、それぞれをアーレアを二人組みで担当させて、調べました」
「それはかなりアーレアが危険ではないか」
ラーリル様が苦い顔をして言った。
「はい、ですから痕跡を発見したら即座に戻れという命令にしました。
リスキーですが仕方ないかと」
ミーリア様はラーリア全員を目で追った。
「それで」 ラーリア様が続きを促した。
「はい、そして今の現状なのですが、この地図で区切った区画にも、痕跡さえ発見できませんでした」
「それでは2匹のゴブは、たまたまこの森に来ただけということも考えられるんじゃない」
ラーリナ様が楽観的なことを言った。
ミーリア様が沈痛な感じで反論した。
「その可能性も考えられなくはないですが、それにしてはその2匹の持っていた装備が良すぎます。
私は逆の可能性を考えます」
「その2匹を今までの探索範囲より遠くから斥候に送るだけの力のあるゴブの集団があるということだな」
ラーリア様がミーリア様の発言を横から取るように言った。
「はい、私はその可能性が高いと考えます」
沈黙が支配した。
「ミーリア、お前のことだ、何か案を考えたのだろう、言ってみろ」
「はい、どう考えても、アーレアだけでの探索は、範囲の広大さを考えると無理があります。
今現在警備巡回を4隊でやっておりますが、とりあえず近場の探索が終わったので、巡回範囲を縮小し、3隊で回ることを提案します。
そうすれば余った1隊を探索に増援することができます」
「それは駄目だ。 探知できることが先になれば良いが、逆に探索範囲外からでも急襲されたら、防御陣を敷く暇がなく集落にまで入り込まれてしまう」
ラーリオ様が即座に反対した。
他のラーリア様たちも頷いている。
「それでしたら、次の案はいかがでしょうか。
ちょうど今の話を人間たちも聞いていたはずです。
この場での作業をナーリアたちと人間たちに任せて、ラーリア様たちは集落付近に居ることにするのです。
これなら、今の巡回範囲で、もう一隊を探索に出せます」
僕にもこの案は妙案の気がした。
友たちも「そうだな。」という顔をしている。
ラーリア様があっさりと告げた。
「それも駄目だな」
「何故ですか、ラーリア様。」
ボブが横から大きな声で口を出した。 おいおい。
「俺たち人間のことが信じられないということですか。
俺たちはこんな時に逃げたりなんてしません。
必要なら宣誓でもなんでもします。
ラーリア様たちが集落に戻れば、ゴブを発見できる可能性が上がるのです。
なんで躊躇うのですか?」
ラーリア様は目を見開いてちょっと驚いた顔をしたかと思ったら、ボブの頭をクシャクシャと手荒に撫でて、優しい声で言った。
「私は人間たちのことを信じている。
そんな心配は全くしていない。
そうではないのだ、この案は根本的に絶対に駄目なんだ」
他のラーリア様たちも優しい顔をして、そのやりとりを見ていた。
ラーリア様はミーリア様の方に向き直って言った。
「私たちがここを離れれば、矢の生産量が半分に落ちる。
最初にこの案を言わなかったのは、ミーリアはこの点をきっと考慮したのだろう。
だが違うのだ、我々ラーリアがこの地を動かないのは、そうではなく、我々ラーリアはこの地を守っているのだ。
この地は禁足地、そして父祖の地なのだ。
集落ももちろん絶対に守らなければならないが、この地も絶対に守らねばならない。
それが我らラーリアがこの地にいる理由なのだ」
結局、区切った区画外をアーレアを二つに分けて探させることにした。
二人組でというのは、流石にリスクがあり過ぎるとの判断だ。
それから特例として、アーレアにこの場所に来ることが許された。
探索状況を直接報告させる為だ。
ラミアの現状の人材的にこれ以上のことは無理だった。
「やれることをするのだ。 それ以外にはない」
ラーリア様の言葉が全てを表している。
でも一番ピリピリしているのもラーリア様なのだけど。




