86. 遭遇
「どうしてラーリア様はあのタイミングで現れるのかしら?」
「今回も本当にドンピシャっていうタイミングだったな」
「アレクが何か新しいものを作り、それを私たちが試していると現れるのよね」
「あれは、野生の勘?」
いや、レンス、お前に野生の勘と言われるのは、さすがに引くと思うぞ。
どちらかというと、お前の方が野生の勘の塊みたいなものだろ。
「でも、今回は話があって来たんだから、狙って来た訳じゃないと思うの」
ナーリア、狙って来たとしたら怖いわ、どこで監視しているんだ。
「それにしたって、ちゃっかり自分の分のクリームとリップクリームもせしめて、その上傷薬の出来る限りの増産を命じて行くんだから」
「なんかアレク共々良いように、こき使われてないか、私たち」
「それは言えてる」
「それに本来の用事は、他のラミアの要求を抑えられないから、またブラシ作りをするっていう話だった」
「そうよ、それも結局私たちが忙しくなるじゃない」
ナーリアはテンションが上がっていく4人を宥めるのを諦めたようだ。
僕としては、僕が作ったものが原因だから、何となく肩身が狭くて口のはさみようがない。
そっと別のことを言ってみる。
「でもまあ、今日はぶどう探しだから」
セカンが僕に気を使ってか、話にのってくれた。
「ぶどうを探してどうするの?
アレクのことだから、単純にぶどうが食べたいという訳ではないのでしょ」
「うん、ぶどうをまず干しぶどうにしたいんだ」
「ぶどうを乾かすの? あの肉みたいに」
ナーリアが驚いたような声をあげた。
「ラミアは干しぶどうって作らないか。
人間は色々なものを干して、長く貯蔵できるようにして食べるんだ」
「ふーん、色々考えるのね」
「え、だって、そうやって蓄えておかないと、冬に困るだろ」
「知らない。 冬は寝る」
おいおい、レンス、寝るって何よ。
「ああ、アレクは分からないか。
ラミアは冬は冬眠ていう程ではないけど、集落の一番奥にみんなで籠って、半分寝たような状態で過ごすんだ。
別に活動しようと思えばできるが、体温が低下しているから効率が悪いからな」
なるほどそう言うことか、サーブが解説してくれた。
「ま、それはともかく、今回干しぶどうを作るのは食べるためじゃない。
干しぶどうを水に入れて何日かそのままにしておくと、水が白く濁って来て泡が立ってくるんだ。
欲しいのはその水さ。
パンを作る時にその水を混ぜてこなを捏ねて、しばらく時間をおいてから焼くと、ふんわりとした柔らかいパンが焼けるんだ」
「そのためにぶどうを採るの。
なんてゆうか随分と気の長い話なのね」
「でもそうやって作ったパンて美味しいの?」
やっぱりここで一番の食いしん坊キャラはナーリアかな。
「うん、美味いよ、絶対に」
あれ、何だか急にディフィーとレンスが静かになった。
ディフィーが小さいけど鋭い声でナーリアに言った。
「ナーリア、前方に何かいるかもしれない」
「みんな、止まって。 静かにして」
しばらくの沈黙の後、ディフィーが
「やっぱり、何かいるわ。 もしかするとゴブの可能性がある」
緊張が走った。
「レンスとセカン、見つからないように偵察に行って来て」
ちょっと待っただけで二人が戻って来た。
「やっぱりゴブ。 二匹だけ」
セカンがそう報告した。
「どうする?」
厳しい声でナーリアがみんなに問う。
「ゴブ、即、殺」
レンスがそう一言小さい声だが強く呟く。
そうこの世界ではゴブは見つけたら即殺さねばならない。
ゴブの問題は旺盛な食欲と繁殖力にある。
ちょっとでも放っておくと大繁殖し、数の力で大災害を引き起こすのだ。
だからこの世界ではゴブは見たら即座に殺す、例外はない。
「前なら、即座に報告のために引き返そう、と提案したのだが、今なら2匹なら私たちで対処できるんじゃないか。
逃げられるのはまずいから」
サーブが戦うことを選択した。
みんな同じ気持ちのようだ。
「二匹だけとまだ断定できない。
近くに仲間がいる可能性がある。 まずそれを調べる」
ナーリアがそう方針を述べ、命令していく。
「セカンとレンスはこの辺りに他にゴブがいないか探って来て、範囲はここをかなめにして前方500mくらい、セカンが右側、レンスが左側。
私はもうちょっとゴブに近寄って見張っているわ。
あとは待機。
ゴブに何かあった時は、私が口笛を1回吹いたら、即座に攻撃態勢、2回吹いた時は、集落に向かって各自全力で逃げて。
行動開始!!」
三人は即座にこの場を離れて行った。
残りの三人は、僕は当然のことだが、動くと見つかる可能性が高いので、この場で待機することを命じられた訳だ。
僕たち三人は声を出すこともなく、身を伏せて、三人の帰りを待った。
さっき程ではないが、そんなにしないで三人とも戻って来た。
「どうだった?」
ナーリアが二人に聞く。
「辺りに他のゴブの気配はない。 そっちは。」 セカン
「こっちもない。 二匹は斥候?」 レンス
「そういった可能性もあるかも知れない。
2匹のゴブは武装していた。
剣を持つだけでなく、皮の胴を着て皮の帽子を被っていた」
おいおい、ナーリア、そんな観察ができるまで近づいてきたのかよ。
僕は急に心臓がドキドキした。
「でも周りにいないなら、やるべきね」
ナーリアの問いにみんなうなづく、当然僕もうなづく。
「出来る限り接近戦はしない、弓で仕留める。
サーブと私とレンスが左側のゴブ、右側がアレクとセカンとディフィー。
サーブと私とアレクとディフィーは顔か首を狙う。
多分胴も貫けると思うけど、胴は私とアレクの2射目で狙う。
サーブとディフィーは一撃必殺の気持ちで1射のみ。
レンスとセカンはゴブの足を速射して動けないようにして。
これでもし倒せなかったら、セカンとレンスを殿にして逃げる。
セカンとレンスは速射で牽制しながら逃げて。
ゴブが倒れた場合は注意しながら近づいて、ゴブがまだ生きていようが死んでいようが、サーブとアレクの二人は一気にゴブの首を落として。
その時に飛びかかられても大丈夫なように、レンスとセカンは護衛して。
以上だけど質問はある?
あ、矢を放つタイミングはいつも通りディフィーに合わせること。
私の2射目で弓矢の攻撃はお終いよ」
僕は驚嘆していた。
これがポヨヨーンとしていたナーリアか。
癒し系どころではない、完全なリーダーというか指揮官じゃないか。
リーダーを押し付けられたなんて嘘じゃんか。
「アレク、分かった?」
「うん、了解した」
ナーリアはもう一度全員に念押しした。
「これは狩じゃない。 私たちの初の実戦。
絶対に無理はしない。 駄目な時は即座に逃げる。
これだけは守って」




