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気がついたらラミアに(なろう改訂版)  作者: 並矢 美樹
ラミアの捕虜

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84. ブラシ騒動

 次の日、まずはアイツらの食い意地を満たしてやらねばならないと考えた、特にデイヴだ。

 塩漬けにしないで残しておいた肉を焼けばそれだけで十分満足するのはわかっているが、少し驚かせたい。

 そこで僕はまず第一に、奴らにやらせて作った粉を取り出し、少しだけ塩を入れて、木鉢の中で捏ねた。

 適当な深さの持ち手も金属の鍋の内側に、作った脂を塗り、その中に捏ねたモノを丸く玉にして、置いていった。

 残念ながら種がないので、フワフワ柔らかいものは焼けないが、これでパンが焼けるはずだ。

 竃の中の火から少し離れた場所に鍋をおき、熱だけで焼けるようにする。

 肉は薄めに切って、ほんの少しだけ塩をふりかけ、浅い鍋に脂をひき、どんどん焼いていく。

 もう大丈夫だろう。 楽しみにしているんだと思い、かなりの量を焼いた。

 パンも出来たものを一人分づつに切った。

 あまり冷めないうちにと思い急いで持っていった。


 大喜びだった。

 あまりに喜んで食べているので、周りのラミアがちょっと引いていた。

 デイヴなんて泣きながら肉を頬張っている。

 その姿を見て、大丈夫だ、元気になった、良かった、と思ったら、なんだか安心して涙が出てきた。


 「アレク、何泣いてるんだよ」とエレクが言う。


 「俺たち、お前にそんなに心配をかけたんだな」とボブが言う。


 二人とも泣いていた。

 って、みんな何泣きながら食ってんの。


 ちょっと恥ずかしい気がして、気分を落ち着けようと、彼らから離れて、ナーリアたちの元に行った。


 もう、何ナーリアたちまで泣いてるの。


 「アレク、元気になったな」

 「もうきっと大丈夫ね」

 「あれだけ食べれれば、もう大丈夫よ」

 「アレク、良かったね」

 「良かった」


 なんかもう、涙が止まらなくなっちゃったよ。

 あ、今日の担当のミーリア様たちまで泣いてるよ。

 こういうのを集団心理っていうんだな、きっと。


 何か妙に恥ずかしい昼を終え、僕たちは家へ戻った。

 僕はナーリアたちに、ちょっと作るモノがあるからと断り、一人で工作に勤しんだ。

 手に持つのにちょうど良い程度の板を用意し、片側を持ちやすいように形を作る。

 反対側には小さい穴をナイフの先で幾つも開ける。

 ナーリアに取っておいてもらったイノシシの毛を揃え、真ん中で糸で縛り半分に折り、縛った糸を引いて板の穴にイノシシの毛を入れ込む。

 全ての穴に入れ込み、糸同士を結び合って穴から毛が外れないようにする。

 それから糸同士結んで固定した上に、筋や軟骨を煮て作った糊をしっかり塗りつけて固め、半分の長さの板をその上に貼った。

 最後に乾いた後、出ている毛を切り揃え、板も少し形を整えた。

 同じものを5つ、ちゃんと作った。


 「これをみんなに。 今までのお礼だよ。

  上手く出来たかわからないけど、髪を梳かすブラシなんだ」


 「これ、私たち一人一人にくれるの?」

 「髪の短い私にもか」

 「大事にする」

 「毛のブラシなんて初めてだわ」

 「嬉しい」


 良かった。 喜んでもらえた。


 ナーリアたちはみんな、それまでよりずっと髪を梳かすようになった。

 すると僕の目からも、彼女たちの髪がとても美しくなっていった。


 一番最初に目敏くその違いに気がついたのは、やはりイクス様だった。

 文字を教えに来ていた時に、何か秘密があるのではと注意深く観察していたらしい。

 そして、ブラシを見つけたようだ。


 「全く、何で一番髪が短いサーブが一番数多く何度も髪を梳かすのよ。

  それでちゃんと仕舞っておかないから」

 ディフィーがサーブを叱っている。


 「アレクくん、お姉さんもあれ欲しいな」

 「だから、お姉さんていうトシじゃない」


 小声だけど聞こえるように言ったレンスの言葉を完全に無視してイクス様は続ける。

 「アレクくんは私には作らないなんて意地悪はしないわよね」


 「はい、作って持っていきますから、ちょっと待ってください」

 拒否できる訳が無い。


 ブラシの騒動はこれで終わらなかった。

 ラーリア様とミーリア様の二人も僕に作ってくれと言ってきたのだ。

 僕はこれは絶対に危険水域だと確信して、逃げることにした。


 「えーと、お二人に作るのは良いのですが、そうすると他のラーリア様やミーリア様も欲しがりますよね。

  僕一人でそんなには作れません。

  それにこれは僕がナーリアたちへのお礼の気持ちで作ったので、ラーリア様、ミーリア様へは同じ気持ちで作れますけど、他の方たちに同じ気持ちでというのは無理です。

  ですから、ここはみなさんが世話した人間に作らせるというのが良いと思うのですが、どうでしょうか?」


 ラーリア様がちょっと考えてから、ミーリア様に話した。

 「私はアレクに作ってもらうのが本当は良いのだが、確かにアレクに作らせると他の奴らがうるさそうだな。

  私は弓を作らせたこともあるからな」


 「私は弓を作ってもらってはいませんけど、他のミーリアたちが色々言うのは確かに確実ですね」


 ミーリア様、さりげなく言葉に棘があったぞ。

 ミーリア様も弓が欲しかったのね。


 「ところでアレク、彼らはお前と同様にそのブラシを作れるのか?」


 「はい、ラーリア様、大丈夫です。 同じように作れます」


 「その材料はどうするんだ。 私らが用意するのか」


 「木と糸は普通に用意できるでしょうが、イノシシの毛は火が使えないとなかなか抜けないので、ここでないと無理ですね。

  それと糊も火を使わないと使えません」


 「それはつまりこういうことかな」

 ミーリア様が話を引き取った。

 「彼らをここに連れてきて、働かせれば良いと」


 「はい、一日そうすれば一気に片がつきます」


 「ちょっと考えさせてくれ」

 ラーリア様は保留とした。


 僕らはせっせとイノシシを狩っている。

 灰と脂を混ぜた物の注文が多いからだ、そしてどういう結果に転んでも、きっとブラシを作ることになるというのが、ナーリアたちの意見だったからだ。

 だからラーリア様が保留とした次の日も、朝はイノシシを狩って、大急ぎで川に浸けておいた。

 午後には解体と、塩漬け、燻製、脂作りの作業である。


 そんなことをしていたら、翌日なのにラーリア様が来た。


 「アレクの言った方法を許可することになった。

  昨日戻ったらな、上位区画のラミア全員からブラシが欲しいとの嘆願になってな、全部で60必要になった。

  流石にお前たちにそれだけ作れというのは酷だろうから、誰の反対もなく、彼らをここに連れてきて、作ってもらうことになった」


 つまり、ラーリア、ミーリア、ミーレア、アーリア、アーレア、アーロアの全員分てことですか、はぁ。


 「それで、明日、人間たちにはアレクから伝えてくれ。

  明後日にラーリアが彼らをここに連れてくる。

  昼もここで食べることになるな。

  よろしく頼むぞ」


 「えーと、確認ですけど、昼は人間たちとラーリア様たちがここで食べるということですよね」

 ナーリアが珍しくラーリア様に確認している。


 「そういうことになるな」


 「すみません。 机、敷皮、食器など諸々足りません。

  明後日ということですと、作業の準備、食事の準備などを考えると、食事道具の準備まで到底手が回りません」


 言われてみればその通りだ。

 ナーリア、すごいなぁ。 こういう時はリーダーらしく、言わねばならないことはラーリア様に対してでもきちんと主張するのだな。


 「分かった。 そういった物は、私の方で手配して持ってこよう。

  他に足りないものはないか?

  材料は足りているか?」


 「材料は、ここでイノシシを3頭獲りましたから、なんとか足りるかと思います」


 その日から当日まで準備が大変だったが、上手くいった。

 何よりも友たちが目先が変わったのを喜んで、精力的に働いたのが大きい。

 ラーリア様たちも作業が珍しいらしくて、見たり手伝ったりして楽しんでいた。


 ちなみにこれだけで済まず、後で同じことを二回した。


 イクス様曰く

 「ラミアはみんな女よ。

  あなたたちの髪がそれだけ綺麗になったら、全員欲しがるに決まっているじゃない」


ラミアの独り言ep3「みそっかす」が、この時期の裏話です。 良かったら、そちらもお読みください。

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