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気がついたらラミアに(なろう改訂版)  作者: 並矢 美樹
ラミアの捕虜

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83. 脂

 昼食後、家に戻った僕たちは、早速イノシシの解体に向かう。

 それにしてもいそいそと昼食後の片付けを手伝うデイヴが面白かった。

 「これからイノシシの解体だろ。 早く行って頑張ってくれ。

  明日の飯、期待しているぜ」

と言いながら、鍋を荷車に載せたり、食器を片付けたりを率先してやっている。

 ナーリアたちがすることがない手際の良さだった。


 イノシシの解体だからといって、基本は鹿の解体と変わらない。

 ただイノシシは鹿と比べると脂身がしっかりと肉の中で分離している。

 今回脂を取ることが大きな目的なので、肉を脂身と赤身の部分で分けておきたい、その手間が大変だ。

 僕は小さな桶に灰を入れて持ってきていた。

 脂身の部分と赤身の部分を分けようとして切っていると、ナイフに脂が付きすぐに切れ味が悪くなる。

 そこで時々、灰を付けて刃を洗ったり、適当な石で研いだりしながら解体をした。


 それを見ていたナーリアが言う。

 「それ、なんか分かる。 灰を使うと脂が取れやすいんだよね」


 「ナーリア、さすがだな」


 「何、どういうこと?」

 セカンが興味を示した。


 「ほら、私、皮の毛を取っているじゃん。

  その時に、水に灰を入れて、皮を煮ると毛が抜けやすくなるだけじゃなく、脂汚れがすぐに取れちゃうのよ。

  だからそうかなって」


 「そうなのか、それでナーリアの作った革は脂っぽくないのか。

  普通はあそこまで脂を落とすのは大変なんだが」

 鞣しを担当しているサーブは気がついていたようだ。


 「ああ、灰にはそういう効果があるんだ。

  でも、もっと脂汚れが取りやすくなる方法もあるんだ。

  それからナーリア、こいつの毛を取ったら、今度は捨てないで取っておいてくれないか」

 僕はもう皮の毛を毟るのはナーリアがやるものだと決めつけて、ナーリアにそう言った。


 ナーリアもそれが当然という感じで言葉を受けた。

 「分かったわ。 でも灰のせいかしら、毛を取ると自分の手もガサガサになっちゃうのよね」

 ナーリアがちょっとぼやいた。


 僕はちょっと慌てた、そんなこと考えてなかった。

 「ごめん、そういうの全然考えてなかった。

  やっぱりナーリアだけに任せちゃったのがいけないよね」


 ナーリアは慌てて言った。

 「ん、大丈夫。 そんなに大したことないから。

  これは私の役目だから」


 僕たちは解体を終え、荷車に肉を入れた桶などを載せて家に戻る。

 今回は脚は骨付きのままの肉にした。

 最近、竃の煙突を見ていたら、今まで燻製にしていた場所のもっと上にも煙突に窓が取り付けられていることに気がついた。

 開いてみたら棒で吊るせるようになっていたので、今回はそれを使ってみたいと思ったのだ。

 脚の肉に塩と辛い実を擦り付けて、そこに吊るしておいた。

 どうなるか楽しみだ。


 赤身の肉は半分はそのままに残し、半分は塩漬けにしてもらった。

 セカンに竃に火を点けてもらい、大鍋に少し湯を沸かす。

 沸騰したら、その中に脂身を入れる。

 脂身が溶けていったら、どんどんと脂身を足していく。

 こうすると最初の水は蒸発してしまい、脂だけになる。

 どうしても溶け残った部分は取り出しながら作業を続け、溶けた脂を柄杓で掬い桶に移す。

 この時一応布で漉して、他の物は入らないようにする。


 取った脂身の2/3程をこうやって、桶に移した。

 その後今度は

 「サーブ悪いけど、今度は桶に灰を2/3くらいまで入れて持ってきて、それとそれをかき混ぜる棒も欲しいな」


 サーブが用意した桶に、僕はまた柄杓でできた脂を注ぐ。

 「棒で脂と灰を混ぜていてくれるかな」


 残りの1/3の脂身の分の脂はこうして灰と混ぜられてドロドロの状態になっている。


 次にディフィーに、

 「大きい実のなる木、あの中の種も大きいけどすごく硬いやつ、あの木の葉っぱを少し取ってきてくれないかな」


 僕は小さな鍋を用意しながら、頼む。

 その小さな鍋にディフィーの採ってきた葉っぱを入れて煮込むと、黄色味がかかった赤い液体になった。

 葉を取り出して、その液体を煮詰めて、赤さを濃くしていく。

 その間にレンスに、木鉢に少し水を入れ、冷めて固くなってきた灰と脂を混ぜたものを少し加え、手でかき混ぜてもらう。

 濃い赤になってきたところで、もう固まってきている先程作った脂を加えて溶かす。

 溶けたところで火から下ろし、レンスにかき混ぜて出来た泡を少し入れてもらう。

 僕はその小鍋を数本の棒を一度に持って、それで掻き混ぜている。

 掻き混ぜ続けていると、薄い赤い色をしたねっとりというかふんわりというか、どろっとしたモノができた。


 「ナーリア、これを指先でほんの少しだけ取って、手に塗ってみて」


 ナーリアは恐る恐るという感じで、言われた通りにする。

 「あら、手のガサガサしたのが、治ったみたい」


 「うん、さっきナーリアが手がガサガサになったって言ってたから、そういう塗り薬を作ってみたんだけど、どうかな」


 「良いみたい。 アレク、ありがとう」


 「みんなも手なんかがガサガサしたら、この入れ物に入れておくから、塗ってね」

 僕は小さな蓋つきの小鉢に出来たものを詰め込んでおいた。


 「そしたら次に、こっちの灰に混ぜたのの方の使い方を教えるよ。

  今使っていて、脂がついちゃった色々な道具をみんなで持って水場に行くよ。

  レンスはその泡だてた鉢をそのまま持ってきてくれるかな」


 みんなで脂で汚れた道具を持って水場に移動した。


 「レンスが持っているのは、見ていた通りさっきの灰と脂を混ぜたものを水に入れて掻き混ぜたものだけど、脂で汚れたものにその泡を付けて擦ってみて」


 「すごいわ。 脂が簡単に落ちる」

 ディフィーが感嘆の声をあげる。


 みんなもびっくりしている。


 「灰を付けても落ちるけど、こっちの方がもっと落ちるんだ。

  やってみると違うだろ」


 「これで体洗ったら、すごく綺麗になりそうだな」


 「いや、サーブそれはダメだ。

  これで洗ったら、脂が落ちすぎて、肌がガサガサになっちゃうよ。

  こういう脂汚れとかを落とすには良いけど、肌はダメ」


 「それじゃ、これ使って洗っていると、どうしても手とかガサガサになるという話?」

 セカンが言う。


 「あ、それでさっきの塗り薬なのね」

 ナーリアが理解したという顔で言った。


 「まあ、それもあるけど、一番の目的はナーリアの手だよ」

 ナーリアはちょっと嬉しそうな顔をした。


 「そういえば、これを毛を毟る時に灰じゃなくて入れたら、もっと楽になるんじゃないかしら」


 「うーん、脂が取れるということではそうかもしれないけど、毛を毟るのって結構時間かかるじゃん、その間ずっとこれ使ってたら、手がすごいことになっちゃいそうだから、今まで通りで」


 ナーリアは笑って了承した。


 「それでもアレク、これを使うと毛皮の汚れも簡単に落ちるんじゃないか」

 サーブが話を続ける。


 「ああ、僕はそういうことに詳しくないけど、きっと使わないよりは楽に落ちると思うぞ」


 「私は皮を洗ったり鞣したりして敷皮にしたりしている係りと親しいのだが、彼女らにこれを少し持って行って、試してみさせても良いだろうか?」


 「油汚れを落としたり、洗濯には使いたいと思うから全部だとダメだけど、少し持って行って試してみるくらいなら構わないよ」


 これは失敗だったかもしれない。

 この後、皮鞣し係りや、洗濯係りからもっと欲しいという催促の声が大変なことになってしまったのだ。

 誰が漏らしたのか、手に塗る塗り薬も一緒に催促された。


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