82. イノシシ
オリーブオイルで騒いでいる間、その一方で僕はセカンとディフィーに手伝ってもらいながら弓を作っていた。
今度は自分の弓だ。 大きさはサーブの弓と変わらないけど、サーブより僕の方が弦を引く力は強いから、もう少し強力に作った。
矢をどうしようか考えていたのだが、サーブとレンスが二人で作ってくれることになった。
長さはサーブのとラーリア様の間にしてもらった。
矢作りに関しては、僕はもう完全にこのペアの技には敵わない。
そしてあいかわらず、取ってきた鹿の皮の処理はナーリアに任せてしまう。
なんだか完全に分業体制が出来てしまった。
そうして出来上がった弓をサーブとレンスに調整してもらい仕上げた。
ナーリアが処理し、サーブが鞣した革で、セカンに手袋も作ってもらった。
一人での自活を目指していたのに、良いのかこれでと思わなくもないけど、僕自身がやるより上手なのだから、ま、いいか。
弓と矢に慣れるため、試し射ちを繰り返す。
どちらもすごく良い出来なのだが、矢の威力や届く距離はサーブより上なのだが、命中率が悪い。
サーブとレンスが弓の調整の失敗を疑ったが、そんなことはない。
僕の腕が悪いのだ。
とはいっても、ナーリアたちが弓の練習を始めた時よりは、命中率はこれでも良いのである。
今まで時間が空いたらレクリエーションのように弓の練習をしていたので、ナーリアたち全員の弓の技量がすごく上がっていたのだ。
僕も頑張らないと。 狩人を名乗っているのにちょっとショックだ。
僕の武器も揃ったことで、イノシシ狩りを行うことにした。
狙うのは、可能な限りたくさん脂が欲しいので、最初から大物狙いだ。
季節的にも段々とイノシシが脂を蓄える時期になりかけている。
今はチャンスなのだ。
イノシシを狙う作戦は、サーブとディフィーは前と同じで、今回はセカンとレンスに前足を狙ってもらう。
もちろん、2射目・3射目は首や心臓の急所狙いをお願いする。
僕とナーリアは後ろ足を狙う。
イノシシの居る場所はもう分かっていた。 最近偵察を続けていたので、完全に行動を把握している。
サーブとディフィーは遠回りして頭側にまわる。
僕とナーリアは遠回りして後脚側にまわる。
セカンとレンスは完全に気配を消して、風下側から近寄っていく。
ディフィーが弓を構えた瞬間、イノシシが気づいた様でさっと身構えた。
ディフィーが矢を放つと共に、僕たちも矢を放った。
イノシシはほぼその場で倒れた。
近づいて検証すると、サーブの矢は頭を貫き、セカン、レンスも前足を貫いているが、2射目を射ってない。
僕とナーリアも正確に後脚を貫いている。
ディフィーの矢は、構えた時に気付かれて焦ってしまったのか、首に刺さりはしているが急所は外してしまっていた。 ちょっと残念。
大きいイノシシを獲ったはいいが、その後のことを考えていなかった。
血抜きのために都合の良い木の場所まで運ぶのも一苦労だった。
後脚に蔦を結びつけ吊るしたのだが、それも一苦労。
首を落とすのも、鹿と違って太短く、皮も硬いから大変。 剣鉈の威力をナーリアたちは再認識した様だ。
僕は血抜きしている間に、まず適当な二股に分かれている大きめの枝を切ってきて、不要な枝を落とし、上側に他で作った棒を結わえて、ソリを作った。
ここでも剣鉈大活躍だ。
作ったソリの上にイノシシを載せて、僕たちは6人でそれを引いて行った。
イノシシを狩るより、運ぶ方が余程苦労した。
川までやっと運び、サーブと二人で皮を剥ぎ、内臓を取り出したところでタイムオーバー、とりあえず川の底に全部沈めておく。
大急ぎで家に戻る、まずは水浴びだ。
もう習慣になっている朝一の水浴びもしたのだが、大きなイノシシを運んだり解体しようとしたりで、全員汗と血の臭いでドロドロだ。
体を洗わねば、何も出来ない。
普段は森から出て、僕は足を、みんなは尻尾についた汚れを軽く落とし、採ってきたモノを洗う程度なのだが、今日はぬか袋も使い真剣に体を洗う。
一番早く洗い終わった僕は、声だけ掛けて、裸で先に家に向かう。
「間に合わなくなるから、先に家に行って、命の実を煮ているよ」
ナーリアが手を上げて、了解の意味で振った。
着替えの服を着て、竃に火を点けているとナーリアとセカンが戻ってきた。
彼女たちもテキパキと服を着て、僕の手伝いをしてくれる。
後の三人はと聞くと、洗濯しているとのことだ。
確かに今日着ていた物は、洗わないとダメだよなぁ。
僕なんて焦ってて、水浴び場に脱ぎ散らかしてそのままにして来ちゃったし。
ちなみにラミアの洗濯は豪快である。
水に浸けた洗濯物を尻尾で叩く、水でゆすぐ、叩くの繰り返しだ。
おっと、こんなことを考えてる時ではない。
大急ぎに急いだのだが、今回の昼食は完全な手抜きになってしまった。
命の実を煮ただけと、燻製にしてあった鹿の肉を切っただけだ。
流石に文句が出た、予想してたが、デイヴだ。
「アレクよぉ。 いくら何でも今日は手抜きじゃね」
その通りだから仕方ないが
「うるさい。 黙って食え」と強がる。
「いや、今日は俺もデイヴの味方だぜ」
ボブも敵になった。
「アレク、いくら何でも今日のこれは酷いと僕も思うよ」
エレク、お前もか。
はい、全面降伏です。
「いや、悪いとは思っているんだけど、今日は時間がなかったんだ。
イノシシ狩りをしていたんだ」
デイヴの目の色が変わった。
「で、どうだったんだ。 獲れたのか?」
「おいおい、そんなにアレクに迫るな。
俺たちはまだ新米の狩人だぞ、そんなに簡単にイノシシが獲れるか」
「アレク、大きな罠でも作っていたの?
それとも落とし穴でも掘っていたのかな」
僕はボブとエレクの言葉をニマニマしながら聞いていた。
「聞いて驚け、しっかり獲ったぜ」
デイヴが喜びを爆発させて叫んだ。
「みんな! アレクがイノシシを獲ったぞ」
話を聞いていなかった仲間からも歓声が上がった。
「で、どの位の大きさのを獲ったの。 子供?」
エレクがちょっと心配した感じで聞いてきた。
「安心しろ、特別にデカイ、雄のイノシシだぞ。
肉は硬めだろうけど、量は十分あるぞ」
また、歓声が上がった。
「お前、どうやってそんなの獲ったんだ?」
ボブが疑問をぶつけてきた。
そうだよな、俺たちに簡単に大きなイノシシはまだ獲れない、普通。
「弓で獲ったんだよ」
あ、仲間全員から疑惑の目を向けられた気がする。
「いや、俺一人でじゃなくて、俺の仲間のラミア全員で射ったんだよ」
「うん、まあ、それなら話は分かるかな。
で、お前の矢はどこに当たったんだ、まぐれで急所に当たったなんてことはないよな」
「ん、流石にそれはない。 俺の矢は後脚」
あれ、そう言われてみると、僕は大したことしていない気がしてきた、ちょっと声が小さくなった。
「それじゃあ、ラミアたちは?」
「一人は頭を貫き、一人は首、これは急所を外しちゃたけど、後の三人と僕で脚を射って、動きを止めた。
前脚を射った二人は、頭と首が外れていたら、胸を射つように2射目の準備もしていた、必要なかったけど」
「つまり、要するに、イノシシを獲ったじゃなくて、ラミアに獲ってもらったってことだな」
ボブの辛辣な批評に、仲間たちは大爆笑になった。
「でも、俺が弓矢を作ってやったり、作り方を教えたりしたんだぜ」
僕はちょっと態勢を立て直そうと考えた。
「それはすげぇな、使った道具はみんなアレクが作ったのか?」
「いや、教えたらほとんどラミアが作ったけど」
「何だそれ」
また、大爆笑の渦が広がった。




