80. 弓で鹿再び
「それでアレク、その剣の形が面白い訳を朝になったら教えてくれるんでしょ」
ディフィーが森に入る前にもう聞いてきた。
「私も知りたいぞ。剣としては短いし、刃に厚みがあり過ぎて武器として使いにくいんじゃないか」
サーブも関心がある様だ。
「重すぎると思う」
レンスの意見はシンプルだ。
「刃もだけど、柄の部分の形が面白い訳は?」
セカンも興味を示している。
「アレクのことだもの。 これには理由があるのよね」
ナーリアの言葉は信頼なのかな。
「これは昨日も言ったけど、剣鉈っていうんだ。
名前の通り剣の役目と鉈の役目を兼ねているんだ。
僕は戦士でも騎士でも冒険者でもなくて、狩人だからね、武器というよりは道具なんだよ」
そう言いながら、僕は近くの枝を剣鉈で切って見せた。
「こんな風に鉈の様に枝を切ることもできるし、ナイフより長く丈夫だから、罠にかけた獣に止めを刺すこともできる。
獣との戦いになっても分厚いから折れることがない。
実用性が高いんだ」
それから僕は適当な、硬くて曲がりにくい木を、その剣鉈で切り倒し枝を払い、手頃な長さの棒を作ると、その先に革紐で剣鉈を固定した。
「ほら、こうすれば、槍というか、薙刀というか長柄の武器になる。
持ち手の部分の形はこうしたときに棒にガッチリ固定するためだよ」
「なるほどね。良く考えられた武器というか道具なのね」
「確かに、戦争をする訳じゃないからな、獣を相手にすることで考えれば、とても良い道具の気がするな」
「獣相手なら。 戦争だと重過ぎて隙ができて役に立たない」
「形の理由が理解できた。
獣なら棒の先にそれがついていて攻撃したら、まずやられることはないと思う」
ナーリアがちょっと考える様な顔をして聞いた。
「ねぇ、アレク。
もし、その剣をアレクが振るって、私がこの剣で受けたらどうなると思う」
「たぶん、ナーリアの剣が折れて、そのまま斬れちゃうかな。
この剣は分厚いから、普通に受けるとそうなると思う」
「そうだな、きっとそうなるな。
ナーリアに折られない様に受け流すだけの技術はないだろうからな」
サーブも僕の意見に同意した。
「あのさ、ということは、私たちがアレクを捕まえた時、もしアレクが本気で闘うつもりになっていたら、少なくともあの時、私は死んでいたよね」
「そういうことになるな。
良かったな、アレクが戦おうとしないでくれて」
「もう、他人事みたいに言って。 私ってやっぱりあの時ものすごく危なかったんじゃん」
「いや、もしそうなっていたら、次の瞬間に私たちも攻撃していたから、アレクも完全に死んでるぞ。
ただ、もう一人くらいは斬られるかもしれないが。
いや、残りの全員が尻尾で刺しにいけば他は死なないか」
「うわぁ、それやだ。 尻尾がボロボロになっちゃう」
サーブのシミュレーションにレンスが意見を言う。
「どっちにしても、私死んでるじゃん」
ナーリアがプンプン怒っている。
「僕も死んでるんだけど」
「だから、そうならなくて今があって良かったっていう話でしょ」
ディフィーが上手くまとめてくれたけど、ナーリアの気持ちも、まあ分からなくもない、僕も死んでるし。
「尻尾で刺すっていうのと、尻尾がボロボロになるっていうのはどういうこと」
僕はちょっとだけ話題を変えようと、今の話で気になったことを尋ねた。
「尻尾で刺すのはラミアにとって最強最大の攻撃」
セカンが答えた。
だよねー。 尻尾は力が強いし、土を掘るのを見ていて分かったけど、先は固く鋭く、サーブの革鞣しを見ていて、器用さにも驚いた。
あれで突き刺しに四方から来られたら、絶対に避けることもどうすることもできない。
「でも、最後の、緊急の時の攻撃手段。 普段は絶対に使わない」と、レンス。
なんで、と疑問の顔をしたら、ナーリアが答えてくれた。
おっ、気が逸れたみたい。
「ラミアの尻尾の硬いだけの部分て、本当に先っちょだけで、あとは鱗で覆われているでしょ。
突き刺すと、その鱗が生え方と逆方向の強い力を受けるから、突き刺さっただけゴッソリ剥がれちゃうのよ」
「え、そうなの」
確かに、それは相当痛そうだ。
「と、言われているから、誰もやらない。
実際にやったことがあるラミアは上位の人に何人か居るという話だけど、私は見たことはない。
大っぴらに見せびらかすことでもないしな」
サーブが続けて教えてくれた。
「そろそろおしゃべりを止めて。 鹿のいるかもしれない場所近くまで来たよ」
今回はディフィーの新しい弓を使った狩の初めての実戦だ。
狩の作戦も前回とは違う。
僕も弓も持っても良いということになったのだけど、自分の分の弓はまだある訳が無い。
ナーリアは僕の弓が出来てから狩に行こうと言ってくれたのだが、ディフィーが明らかに行きたそうなので、前回は役に立ってなかったという負い目からかな、僕が弓を作るのを待たず、すぐに狩に出た訳だ。
という訳で、僕は今回もやることは囮と見学。
だけど今回は剣鉈があるから、もし自分の方に鹿が逃げてきたら、僕も仕留めるつもりである。
その技は学校で習ったし、さんざ練習もした。
ナーリアたちに捕まる前に、実際に剣鉈で鹿を仕留めてもいる。
自信もあるし、うん、大丈夫だ。
斥候として先行したレンスが戻ってきた。
「前と同じ場所にいる。」
僕たちは風下側から、そっと群れの様子を伺う。
今回の群れは僕が弓を作ることも考慮して、雄の群れだ。
朝の行動を終えて鹿はゆったりとくつろいでいる様な感じだ。
「アレク、どの鹿がいい?」サーブが聞いた。
「あの、少し角の立派なのが良いかな。」
僕たちはディフィーが中心になって考えた作戦の役割をそれぞれに果たしていく。
僕はワザと鹿に警戒されない距離で姿を晒し、鹿の注意を引きつける。
サーブとディフィーは距離は離れるが正面側に回る。
今回はサーブとディフィーが正面側から頭と首を狙う。
ナーリアとセカンが前脚を狙い、セカンは必要なら2射めで胸を狙う。
レンスは一人で後脚を受け持ち、速射で両脚を射る。
脚を狙う三人は風下から近づいている。
今回はディフィーにみんなが合わせて射ることになっている。
僕は棒に剣鉈を結わえて、準備してその時を待つ。
ディフィーが弓を構え、サーブもそれに倣ったのが見えた。
次の瞬間、ディフィーが射った。
鹿が一斉に逃げたが、今回は僕の方に来なかった。
狙った鹿は、一歩も動けずに仕留められていた。
頭にサーブの矢が刺さり、首をディフィーの矢が貫いている。
前脚それぞれも矢が貫き、後脚も流石にレンスだ両方とも刺さっている。
セカンは2射目はいらないと判断したらしい、胸には矢はなかった。
「なんかさ、僕も弓を持っていたとしたら、と思うのだけど、サーブかディフィーが射ったら、それだけで他いらなくない?」
「私もなんだかすごくそんな気がする。 私も射る意味ある?」
ナーリアも僕と同じことを感じた様だ。
「油断は良くない。
鹿は外したとしても大したことないけど、今回はあくまでイノシシ狩りのシミュレーション。
イノシシは革が鹿よりずっと硬いから、矢が逸れたり、刺さらなかったり、刺さっても致命傷や深手を与えない可能性もある」
確かにセカンの言う通りだな。 安全な狩を心がけるべきだ。
ディフィーは自分の矢の威力に満足した様だ。
良かった、今回の狩の一番の目的はそこだったのだから。
僕は血抜きをみんなに任せて、剣鉈を棒から外し、鹿を運ぶための棒をもう一本剣鉈で切って作った。




