62. 不意に来て その2
僕たちは水浴び場を出て、いつもの様に服を着ていると、イクス様が、
「あら、水浴びした後にまた服を着ているの。
他に誰もいないから、アレクくんを隠さなくても大丈夫なんじゃない」
「いえ、そうではなくて、これから火を使うので、着てないとやっぱりちょっと怖いですから」
「そうだったわね。 アレクくんの発見で、そっちを忘れちゃってたわ」
ナーリアが火を使うには着てないと、と言うと笑い顔でいじられてしまった。
僕はちょっとどういう顔をしていいか分からずに黙っていた。
「そういうのももちろんなんですけど、この頃火を使うことがよくある様になったら、服を着ていることが普通になって、癖になったよね」
「ああ、そうだな。 家の中に竃があるから、家の中で服を着ているのに違和感を感じなくなったしな」
「部屋で服着てても変に思わなくなった。」
少し離れたところで、そんな話をしている。
イクス様も服を着て家に入り中を眺めると、何かを見つけたという感じで、一段上がった毛皮が敷いてある部屋に向かって行った。
敷いてある毛皮を手で押してみると、不思議そうな顔をして、毛皮を捲り上げて見ていた。
「命の実の茎にこんな使い方があるのね。 何これ、すごく快適だわ」
イクス様は部屋に上がり込み、毛皮の床の感触を楽しんでいる。
僕たちはびっくりした。
何でイクス様は一目で毛皮の下に何かあると気が付いたのか。
「イクス様、何で、毛皮の下に何かあるってすぐに気がついたのですか?」
「何故って、床と縁のところに段差が見えなかったから、不思議に思ったのよ」
「イクス様、縁と段差があるって知ってらしたのですか?」
「知ってるわよぉ。 私もここを使っていたことあるから」
そうだった、イクス様は元ラーリア。
ラーリア様が鮮やかにここの竃に火をつけてみせてくれたのだから、イクス様がここを知っていても何もおかしくなかった。
「それじゃあ、私も出来るってところを見せちゃうわ」
イクス様はあっさりと簡単に竃に火をつけた。
「はい、それじゃあ、アレクくん、調理は任せるわ。
何が出てくるのか、ワクワクしちゃうわ。
手伝いが必要なら手伝うわよ」
はい、誰も手出しも口出しもできません。
「それじゃあ、竃のところはアレクくんに任せて、みんなは部屋でちょっとお話ししましょ」
僕は何を作ろうか考えたが、やはり鳥で二種類作ることにした。
ウサギでした様に、鳥の身をそれぞれに焼く部分と炒める部分に分けた。
違うのは、ウサギは内臓を炒めたのだが、鳥は肝と心臓を他の場所の肉と一緒に、串に刺して焼き、炒めるのは皮だけ。
そうやって僕は調理をしていたが、部屋の話は聞いていた。
「どーお、みんなここでの生活に慣れてきた?」
「はい、最初は火のことも含めてどうなるかと思いましたが、だいぶ慣れました」
「イクス様のおかげで、命の実をたくさん得ることができたので、人間の食事の用意も何とかなるかと」
「それと、アレクに教わって道具をいくつか作ったので、作業が早く終わる様になりました」
「まだ人間が肉をあまり食べることができないから、狩に困ることもまだないです」
「この家はとても良くできているから、快適」
みんな自慢げに報告している。
「うん、慣れるの早かったみたいだね。 予想以上だよ。
で、時間的にも少し余裕がある様になったよね」
ん、みんなちょっと警戒心が働き出した。
「そうですね、最初よりは多少」
ナーリアがおそるおそるという感じで返事した。
「ということで、予定通り、次のことをこれからしてもらいます。
一つは、みんなには、字をしっかり覚えてもらいます。
これは3日に1度、私がここに教えにくるから。
あ、アレクくんはこれは免除、アレクくんは読み書きはしっかり出来るからね」
「ほんとですか、イクス様。 私、嬉しいです」
ディフィーが声を上げた。
「私も嬉しいです」
セカンも歓迎した。
ナーリア、レンスはそれほどでもなく、サーブは明らかに嫌な顔をした。
「しっかり読み書きできる様になったら、資料室・図書室の中を見る許可を出すから、頑張ってね」
「「ありがとうございます。 頑張ります」」
セカンとディフィーが意気込んで答えた。
僕はラミアの集落にそういった施設があることを、新たな知識として覚えた。
イクス様が文字が読めることは分かっていたが、ラミアの世界でも文字は普通に使われているのかもしれない。
資料室・図書室を見れるようにするという言葉を、セカンとディフィーは喜んでいたけど、それ自体は知っていたみたいだし。
考えてみれば、人間も村で普通に生活してたら文字なんてほとんど縁がない。
僕らは学校に通い、知識を得る為に必要だったからにすぎないのかもしれない。
「それともう一つは〜」
イクス様の言葉は続いて
「前に言われている事だけど、とりあえずミーリア5人に火の扱いを教えてもらいます。
これはアレクくんが主に担当するようかな」
いや、もう僕よりもラミア同士の方が、
「イクス様、僕が教えられることは、もうみんな出来ますから、霧吹いたりのラミアだけの技術もありますし、ラミア同士の方が良いと思うのですけど」
「そうなの、ミーリアがアレクくんにしごかれたって言ってたから、アレクくんが良いかと思ったのだけど」
「僕はしごいたりなんてしてません」
イクス様はちょっと問いかけるような視線をナーリアたちに送った。
「はい、しごいたということはないかと」
「あれでしごきとは言えない」
「サーブより覚えが悪かったから」
「何も困難なことをしてはないかと、私でもできましたから」
「要するに、ミーリア様が特別出来が悪かっただけ」
おい、良いのかレンス、そこまであけすけに言って。
「なんだか、よーく状況が分かったわ。
あの娘、とんでもなく不器用だから」
僕はイクス様の言葉をわざと無視して言った。
「火種草の見分け方はディフィーが教えて、火をつける実技はセカンが手本を見せるのが良いと思います。
それで一対一でつけば最も良いんじゃないかと」
「じゃ、それでやってみて。
上手くいかなかったらまた考えましょ。
でもそれだとアレクくんのすることがないね」
「大丈夫です。 僕しなければならないこと抱えこんでますから」
「そうおぉ、ま、詳しくは聞かないわ。 面白そうだから」
ここで食事にした。
串に刺して塩を振って焼いた鳥と、鳥皮と香草と刺激的な味のする草の実を炒めたモノ、そして水に浸して戻した命の実だ。
「これね。 本当に美味しいわ。
でもそれ以上に、この命の実ね。
これはもっとみんなに食べさせてみましょう。
まずはミーリアたちね」
え、ミーリア様たちにも食事を出すのですか。
「そうすると、食器が足りなくなるわね。
用意しとくから、明日にでもこっちに戻る前に取りにきてね。
あと、そうそう。
命の実を採るの手伝ってもらった子たちのお礼、もう考えた?
まだだったら、この命の実を食べさせてあげるイベント考えてくれたら、嬉しいわ。
若い子たちがどんな反応示すかも見てみたいわ」
え、何の話、全くの初耳なんですけど。
サーブ、ディフィー、レンスが、しまった忘れてたという顔をしている。
「それにしても、この床は快適ね。
私も一緒に住ませてもらおうかしら」
勘弁してください。 イクス様にこの調子で色々言われたら、絶対に死んじゃいます。




