60. 鍋もう一度
次の日の朝から、森に入る目的は鹿を探すことになった。
鹿のいるフンなどの痕跡はすぐに見つかったので、そんなにしないで鹿を狩ることはできるんじゃないかと思った。
ウサギが掛かっていた罠は、流石にずっと同じ場所では獲れなくなったのだが、今は鳥があるし、ウサギはレンスに頼んだ方が早い気もする。
僕は薬草や、食べれる草、滋養のある草を探す方がメインだ。
そんな感じでモソモソ森の中を歩いていたら、ある木の枝にたくさんの繭があるのに気がついた。
大山蛾の繭だ。 僕は喜んで、その繭を集め始めた。
もう繭を破いて羽化してしまったものも多いが、それも含めて、僕はナーリアたちにも言って、取れるだけ取っていった。
家に戻った僕は友たちの食事の準備をしつつ、もう一つ大鍋いっぱいにお湯を沸かした。
何か大きいザルのようなものがないかと考えて、サーブに編んでもらった竹の大チリトリを思い出した。
それに繭を鍋の上で均等に湯気が当たるだろう量入れ、沸騰している鍋の上で蒸した。
セカンとディフィーが何をしているのかと興味津々に見ているから、
「こうやって湯気で繭を完全に熱くして、中のサナギを殺しているんだ。
中のサナギが生きてたら、羽化して繭を破いて出てきちゃうだろ。」
と理由を教えたのだが、よくその意味が分かっていない。
でもまあ、見ていたのを都合よく使ってしまう。
十分に熱しられたところで、作業場の方に藁を敷いて、熱した繭をその上に撒いてもらい、次の繭を熱してもらう作業を二人にしてもらった。
その一方で、他の三人にも声をかける。
「鳥の羽根を毟っておきたいのだけど、頼めるかな」
「いいわよ。 尾羽と翼の羽根よね」
「いや、全部。 矢羽根に使う尾羽や、羽ばたく羽の部分だけでなく、胴の羽毛も」
「何で、全部毟るの。 必要なのは矢羽根にする羽根でしょ」
「いや、食べるためには毟る必要あるし、それ以外にも使うから」
「毟るのって、すごく面倒なのよ」
「それなんだけど、このお湯を桶に入れて持っていって、お湯をかけながら毟ってみて。
普通よりは簡単に毟れるはずだから。
ちゃんと胸の羽毛なんかも取って置いてよ、忘れずに」
一応、友の食事準備が主な僕の仕事だから、そっちの手を離さず、みんなに手伝ってもらって、しておく必要があることができた。
昼食後、僕はイクス様の所に寄った。
「イクス様、鍋ってもっと色々大きいのや、小さいのがありませんか。
火にかけられるなら、普通の鍋の形でなくても構わないんですけど」
「んー、そうねぇ。 大きいのはともかく、小さいのはまだ色々あったと思うわよ。
探せばあるんじゃないかなぁ」
「ぜひ、もっと欲しいです。
ちょっと色々やりたいことが出てきて、今の大鍋二つと、僕の持っていた小さな鍋二つでは足りなくなっちゃって」
「それじゃあ、探しておくから、夕方近くなったら、荷車持って二人くらいで取りに来てね」
「はい、よろしくお願いします」
その日の午後は、僕たちはみんなで木枠作りをした。
といっても、ナーリアたちはなんでそんなことをするのか、さっぱり理解していないのだが。
僕は棒を十文字に組み、その先をつなぐ形で直方体を作り、十文字の交わっているところ同士も他より長い棒でつないだモノを作ってもらう。
これはみんな3つづつ作り、全部で18個。
同じ形でそれぞれの棒の長さを倍にした大きいのも一つづつ作った。
計24個の木枠が作業部屋に並んだ。
そうこうしているうちに良い時間になったので、イクス様のところに行くことにする。
「荷物を運ぶなら、私が行こう」
と言って、サーブが付き合ってくれた。
イクス様は大小さまざま、形も丸だけでなく四角いモノまで、色々な鍋を10個あまり出しておいてくれた。
「小さい普通のは、もっとすぐに出せるけど、もっと要る?」
「いえ、とりあえず十分です。 今のところ、これで使い切れないくらいです」
「そうお、使わない分は家の倉庫の方に入れておけばいいわ」
「はい。 って、イクス様、家に倉庫があるとか知っているんですか?」
「ん、知ってるわよ」
僕とサーブはそれらの鍋を荷車に積み込んだ。
「積み込み終わった?」
「はい、終わりました」
「今日は食べ物は持っていかないの?」
「はい、まだ足りています」
サーブが答えている。
「そう、じゃ、行きましょうか」
ん、なんかイクス様、聞き捨てならないことを言ったぞ。
「あの、イクス様、どこに行くのですか?」
サーブが驚いて、ちょっと大きな声でイクス様に聞いている。
うん、そうだよね。
「あら、あなたたちの家に決まっているじゃない。
それからサーブちゃん、声、もっと小さい声でね」
「すみません。 ちょっと驚いて」
「あのイクス様、なんで家に来られるんですか」
僕も驚いてイクス様に訊ねてみた。
「やーねー、アレクくん。 前にも言っといたじゃない、私もあなたたちの家に行くって。
私だって、色々食べたりしてみたいもの」
「みたいものって、昼にだってちゃんと味見の分、届けているじゃないですか」
「あれは人間向け、それも身体の弱っている人向けの食事でしょ。
ラミアが本当に喜ぶのとか、アレクくんが本当に美味しいと思うモノとは別でしょ」
「それはそうですけど」
ほら、サーブ、そんな「確かに」っていうような顔をしていない。
イクス様が見ているぞ。
「ほら、サーブちゃんだって、もっと美味しいものがあるって顔してるじゃない」
「いえ、私はそんな」
んー、ダメだ、こりゃ。
「それにこれからのことで、ちょっと話しておきたいこともあるのよ」
こう言われてしまうと、逃れようは全くない。
「あの、この場を離れていいんですか?」
「ああ、それは大丈夫。
ちゃんと若い娘が来て、私の代わりをしてくれることになっているから。
まあ、こんな風に鍋出したりとかは私しかできないけど。
他だと、ラーリア たちでもなければ、宝物庫の中に勝手に入れないから」
ん、なんか凄いことを言われた気がするぞ。
「あの、イクス様、なんか今、宝物庫とか言ってた気がするんですけど」
「うん、そうだよ。
ほら、ラミアって火を使わなかったでしょ。
だから基本火に関係するモノって実用性ないから、逆に宝物扱いになっていたって訳」
「あのイクス様。
もしかして、私たちが使っている鍋とかって、みんな宝物庫から出して来たんですか?
これらも全部」
サーブが青い顔してイクス様に質問している。
「うん、そうよー。
最初に大鍋探してきた時は、さすがに一人では無理だと思ったけど、誰でも宝物庫に入れる訳にはいかないから、丁度良かったからミーリアを連れて行ったのよ。
ちょっとそういうところが面倒よね」
サーブはもう何も言えない、という顔をしている。
僕は鍋が宝物って何なんだ、と思っていた。
「あ、来た来た。 代わりが丁度来たから、さあ、行きましょう」




