56. 話せた
目が覚めた。 出た。
完全に目が覚めたのだけど、視界は塞がれていて、そして息苦しい。
「アレク、おはよう。 寝坊ね。 もう出ちゃったわよ」
「ナーリア、ちょちょ、ちょっと待って。 顔に擦り付けないで。 しゃべれないだろ」
ナーリアは、寝る時に僕を膝枕してくれていたからか、それともまだ両脇にはセカンとレンスがくっついて寝ているからか、僕の頭の上から覆い被さるようにして、僕の下半身を刺激して朝の搾精をしていた。 ま、単純にその態勢が好きなのかもしれないけど。
しかし、僕は腕はセカンとレンスによってうごかせなくされてしまっているので、上に乗られているナーリアをどうすることも出来ない。 顔も塞がれて、息が苦しいのだ。
「え、だって、私の匂いだけ付けてないなんて、なんか不公平じゃない。
ま、今日はみんなで朝一で水浴びしなきゃだけど」
他のみんなも起き始めた。
「あ、ナーリア、おはよう。 早いね、もうしたの」
セカンが目を覚まし声をかけた。
「もちろん。 起きた瞬間にアレクは出したわ」
だから何故ガッツポーズでやったって顔してるの。
「さすがナーリア」
レンスも起きたのね。
「あの、何が起きたか知らないけど、分かる様な気がする状況なのだけど、このもの凄い匂いを発しているモノを起こしてくださらない」
微妙にトゲがある言葉で参戦してきたのはディフィーか。
一番最初に伸びちゃったから、後のことが分からないものなぁ。
ああ、サーブの尻尾がディフィーに、乗っているのか、それでか。
って、サーブってまだまさか白目向いてないよな、大丈夫か。
ナーリアが僕の上から退いて起こしに向かった。
「あら、現在進行形の匂いが近づいて来るんですけど」
ディフィー、相当機嫌が悪い?
「もう、そんなこと言ってると、サーブ起こしてあげないよ」
ナーリアは機嫌良く返している。
でもサーブの起こし方は荒っぽい。 情け容赦なく顔をペチペチ叩いている。
「ほら、サーブ、もう起きて」
「アレク、もう無理だ。 私はもう完全にダウンだ」
「サーブ、いつまで良い夢見てるの。 もう起きて」
「ん、ナーリア。 ああ、おはよう」
やっとサーブも起きたようだ。
セカンとレンスはそれを見て、肩を抱き合ってゲラゲラと笑っている。
僕も釣られて声をあげて笑ってしまった。
「とにかく、まずは大急ぎで窓や扉を開けて換気して、全員水浴びよ。
急いで。 今日は誰か来ちゃったら目も当てられないわ。」
ナーリアの号令のもと、僕らは大急ぎで窓や扉を開けて、外の水場へと向かった。
まだ水浴びをしている最中に、ミーリア様がやって来た。 んわっ、危なかった。
ナーリアが急いで迎えに行った。
「またあなたたちは・・・」
「ミーリア様、おはようございます。 本当に早いですね」
ミーリア様は、ふうって息を吐くと、
「一言だけ伝言よ。 今日は天気が良さそうだから、昼に外に全員連れて出るからその時に、って言う伝言よ。
ナーリア、意味は分かるわね」
「はい、ミーリア様」
「私は戻って、自室で昼まで寝直すわ。 じゃあ頑張ってね」
ミーリア様は気怠げな様子で戻っていった。
僕とセカンとレンスの三人だけ、軽く果物を食べた。 後の3人はエネルギーは足りているらしい。 それから僕たちは森へと入って行った。
雨で見回らなかった罠を確かめる為である。
ずっと雨だったので期待していなかったのだが、二匹もウサギがかかっていた。 それもどうやらかかったばかりのようだった。
目的を果たした、というより十分以上の成果だったので、僕たちはそれで家に戻った。
途中でまた香草と刺激のある実もついでに採った。
前と同じ様に、川でウサギを身取ったのだが、セカンが内臓の分け方を教えて欲しいというので、一匹を一緒に教えながら身取り、もう一匹はセカンに任せた。
それで後はセカンとサーブがすると言うのでそこは任して、僕は他の三人と先に家に戻った。
ナーリアが言うには、ラーリア様の注文は僕が考えるのと同じ、味が薄くて、飲み易くて、身体に良いものとのことだ。
僕はちょっと考えてから、ナーリアとレンスに竃に火をつけて、鍋にお湯を沸かすことを頼む。
そしてディフィーに手伝ってもらって、適当な木を割り、板を作って、その片面にナイフで刻みを入れていった。
お湯が沸いたところで、ナーリアに燻製肉を細かく切ってもらい、お湯に投入し、出てくるアクを丁寧にスプーンで取ってもらう。
その間に僕とディフィーは、山芋の周りを少し剥いてから作った板を使い、それを木鉢に摩り下ろした。
レンスは火の番をしているし、なんだかみんながしっかりとそれぞれに動いて気持ちがいい。
そうこうしてるうちにサーブとセカンも戻って来たので、もう一つの木鉢も持って来てもらって、ディフィーとの三人で摩り下ろした山芋を棒を使って、木鉢の中でもっと滑らかになる様に潰してもらう。
僕はナーリアの元に行き、肉を入れたお湯に香草を少し入れ、塩で薄く味をつけた。
僕は深皿に少しだけ摩り下ろした山芋を取り、そこにできたスープを加えて混ぜて試してみた。 味見してみると、まあまあなのだが、トロミがあり過ぎの気がした。
ナーリアにも味見させるが、「そうかも」と言う返答であまり頼りにならない。
もっとスープを加えてみると、山芋の味が薄くてあまりしなくなってしまい、味的には落ちた気がするのだが、今回は仕方ないかなと、こちらのパターンでいくことにする。
木鉢にスープを足していき、三人に棒でしっかりと混ぜてもらう。
濃度を見ながら加減しつつも、木鉢に三つ山芋の摩り下ろし入りスープが出来た。
鍋に残っている肉とスープをセカンがつまみ食いした。
「スープは美味しいけど、肉は味もないね」
「ああ、ダシにしただけだからな、味はお湯に出ちゃったのさ。
ま、勿体ないから僕が後で食べるよ」
「スープは私たちも味見して良いんだよな」
とサーブが口を挟み、ただのスープはみんなで味見となった。
「今日は早めに広場に向かうよ」
ナーリアの一言で僕たちは台車に木鉢を載せて、ゆっくり広場に向かった。
今日は広場に敷物とテーブルしか出ていない。
ナーリアはイクス様のカウンターに行き、カップを10個もらって来た。
用意して待っていると、両脇を抱えられる様にしてみんなが出て来た。
本当になんとか生きているという感じで、また涙が出そうだった。
テーブルまでやっと来てヘタリ込む友たちに、僕はナーリアたちに手伝ってもらって、作って来た山芋入りのスープを出してやる。
みんなカップを支えてもらって、少しづつ飲んでいるみたいだ。
不意に小さな声をかけられた。
「アレク、お前は元気なのか?」
ボブだった。
「ああ、俺は元気だ」
「俺はどうなったんだ。 ラミアに捕まって運ばれたような気がするんだが、その後が霞がかかった様に良く分からねぇ」
僕はなんて答えようか、少し考えた。 そして焦ってこう言った。
「俺以外、みんな急に病気で倒れたんだ」
「そうか。 これはお前が作ってくれたのか。」
「ああ、少しでも身体に良い様にと思って、山芋のスープだ」
「うまいぜ。 でも悪りぃな。 まだ腹があまり受けつけねぇ」
「無理しないでくれ。 飲める時に飲んでくれ。 足りなきゃ、また芋掘ってきて、いくらでも作ってやるよ」
「ありがとよ。 で、俺たちラミアに世話になっているみたいだけど、大丈夫なのか?」
「大丈夫だ。 ラミアは優しいから、とりあえずしっかり世話になっとけ。 後で恩返し考えようぜ。 ま、捕まったのに、変だけどな」
「ハハッ、確かに変だな」
ボブはこれだけしゃべるだけで体力を使い果たした様で、また意識を失ってしまった。
僕はまた涙がこぼれそうだった。




