53. 雨の日
夕方近くになり、ミーリア様ではなく、ラーリア様が私たちの家にやって来た。
「ほう、確かにアレクはいつも通りなのだな」
「はい、まあその、アレクの仲間が騒ぎを起こした話を聞いてからは、ちょっと落ち込んでしまっているのですけど。 そんなに普段と変わりません」
「そのくらいは普通のうちさ」
軽くラーリア様は答えてくれた。
「さて、ミーリアは何も話していない、とのことだったから、簡単に事実を説明しておこう」
ラーリア様は、昨日の昼食の後からの事実経過を淡々と教えてくれた。
「それで彼らは今、どうなっているのですか?」
アレクはラーリア様の話の腰を折るように、今、仲間がどうなっているのかを知ろうとした。
暴れたのなら、最悪殺されていても仕方ない、と思い詰めていた様だ。
「アレク、安心しろ。 別に何もしていない。
暴れてどうしようもなくて、拘束したり、猿轡をしたりしたが、もう解いてある。
もう暴れる体力も残っていないのか、ぐったりして寝ているよ。
せめて水でも飲ませてやろうとしたのだが、飲めば吐いたり、喉に詰まらせたりで、今のところ水も受けつけん。
今はとりあえず静かに寝かせておいて、落ち着くのを待つことしかできない。
噛み付いて軽く毒を注入して、無理矢理にでも静かにさせようという案も出たのだが、この事態を何が引き起こしたかもはっきりしないから、それもやめさせた、事態を悪化させる可能性があるからな。
出来ることが今はない」
ラーリア様は苦しげな顔をしてそう言われた。
「ラーリア様は原因が何だとお考えなのですか? やっぱり・・・」
「ああ、私とイクス様は口移しの水だと思っているよ。
アレクがこうして普通でいることを考えると、お前たちと外で動いているとはいえ、それだけの違いでこの違いが出る訳が無い。
だとすれば違いは、口移しの水しかないからな」
セカンの問いにラーリア様は、ほぼ確信しているという感じで答えた。
「だからお前たちも、アレクに精を出させるために、口移しの水を与えてみようかなんて考えるなよ」
ラーリア様はそんな心配までした。
「とにかく今はこんなところだ。
アレクも他の人間たちのことが気にかかるだろうから、何か変化があれば、出来るだけ知らせてやろう。
お前たちは、ここでの生活と、これから人間に出してやる食べ物の準備でも考えていれば良い。
今できることをするのだ」
ラーリア様はそう言い捨てて、小雨が降り出した中、戻っていかれた。
夕食を軽く摂って、私たちはすぐに眠りについた。
順番はディフィーだったけど、流石に何かしようとはしなかった。
というか、採取組の三人は疲れ切っていて、すぐに眠ってしまった。
私とセカンがアレクのすぐ横にくっついて寝ていたのだが、アレクはなかなか眠れないらしく、いつまでもモゾモゾと動いていた。
そして眠りに入っても、ピクッと目を覚ますとため息をついていた。
私もそんなアレクの様子が気になって、アレクが目を覚ますごとに気がついてしまった。
何となくセカンも私と同じ調子なのが分かる。
朝になった、ディフィーが朝の分の精を得ようと、アレクを触りに来ているかと思ったが、そんなことはなかった。
アレクは下半身も元気がないし、本体もやはりまだ元気がない感じだ。
外は久しぶりに本格的に雨が降っている音がする。
雨の中を外に出て水浴びするのも嫌なので、布を浸し身体を拭くことにする。
昨晩は何もしてないし、この雨で外に出ることはないと思うので、別に身体の匂いを気にする必要はないのだが、何となく習慣化してきてしまった。
セカンが身体を拭き、せっせと服を身につけている。
雨で外に出ないと思って、みんなは普段通り裸のままだ。
何をするのかと思ったら、竃に火を点けた。
アレクの持ってきた小さな鍋で、まだ水に浸ったまま残っていた命の実を、アレクがしていた様に煮始めた。
私はなるほどと感心した。
アレクに元気がないから、人間の食べ物を用意して元気づけてあげようというのだろう。
水に浸された命の実がそのままでどれだけ保つかわからないから、私たちは朝の食事は残っているそれを食べることにした。
少しエネルギーが落ちている気がしたが十分食べれた。
でも、アレクの作ってくれた人間の食べ物と一緒に食べた方が美味しかったな、と思ってしまう。
アレクは物思いにふけっていて、セカンのしていたことに気が付いてなかったみたいだ。
煮た命の実をセカンに出されて、びっくりして「ありがとう」と言っていた。
セカンの顔はちょっとほころんでいた。
この日は一日、作業場で採取に行った三人も含めて、昨日始めた作業を続けることにした。
今のところまだ竹をナイフで形を整えているだけだ。
夕刻近くなって、サーブが忘れていたと言って、「どうせ濡れるから」と、作業や火を使う事で怪我をしないように着た服を脱いで、裸になって外に出て行った。
何かと思ったら、昨日取れて解体したウサギの肉を川から持って来た。
サーブの身体と尻尾をみんなで拭いてやったりし終わったところで、ミーリア様がちらっとやって来て、
「まだ全員意識を失ったままよ。 でもちゃんと生きてはいるから大丈夫」
とだけ告げて、すぐに戻って行った。
夕食をどうしようかという時になったら、サーブが私も火を点けたいと言い出した。
サーブは服を脱いだり着たり、なかなか忙しい。
セカンが指導しながら3回目で成功した。
サーブは回収して来たウサギの肉を出すと、塩を振って、串に刺して、ここで焼いていたのだっけと教わっていた。
サーブもアレクに人間の食事を用意してあげようと考えたみたいだ。
レンスが一つ気がついた。
「ねえ、サーブ。 アレクはウサギの内臓も炒めて食べていたけど、内臓は持ってこなかったの?」
「うっ、あれはな、アレクは食べれる所とそうでない所を丁寧に分けていたんだけど、私も教わってやろうとしたのだけど、結局ぐちゃぐちゃになってしまってな。仕方ないから、穴を掘って捨ててしまってないんだ」
ああそういうこと、と納得した。
「そういえば、煮た肉はあのままで良いのかしら」
ディフィーが思い出した様に言った。
「それはアレクに聞かないと分からないよ」
セカンが答える。 私はアレクに聞いてみる。
「アレク、あの鍋の中の肉、あのままにしといていいの?」
アレクはボンヤリした目の焦点をちゃん合わすと答えてくれた。
「そうだね、すぐ使おうとしてたのだけど、今は使えないから燻製にでもしておかないとダメになっちゃうかな」
「どうすれば、いいの?」
「鍋から出して、竃の一番火から遠い所の煙が上に行く所の窓を開けると網になっていたから、そこに乗せとけば大丈夫だと思う」
ディフィーが言われた様にしていた。
夕食はいつもの果物に焼いた肉がついた。
アレクはまた喜んでサーブにお礼を言っていたが、サーブは私たちの分も一口づつある様に焼いてくれたのだが、焼きすぎて固くなっていて、アレクが焼いてくれた時の様に美味しくはなかった。
まあ、エネルギーにもならないし、食べなくても良いのだけど、サーブがせっかく焼いてくれたのだから、食べる。
この夜はみんなアレクにくっついていつもの様に寝たのだが、やはり何もなかった。 雰囲気的に何もできないよね、ディフィーだって。




