342. 招待状
肌寒い季節を迎えておりますが、皆さまご健勝でお過ごしでしょうか。
私と息子は、領主様方の身に余るご厚情をいただき、仲良く元気に過ごしております。
それまでの日常とは全く違う生活に、当初は戸惑いもありましたが、季節が巡り辺りの景色が変わるのを見ているうちに、私自身も落ち着きを取り戻し、今では心穏やかな日々を過ごさせていただいています。
申し訳ありません、自分の事ばかりを先に書いてしまいました。
最初に、娘が今までと変わりなく、領主様の館で、夫であるバンダイン様と過ごさせていただいていることに、母として、安堵と多大な感謝をお伝えしなければなりませんでした。
娘からの文で、どれほど大事に扱ってもらえているかを知り、その様な待遇を得て良い身ではない自覚があるのに、嬉しく、本当にとても嬉しく思ってしまう私です。
さて、我が夫の死より、一年が経とうとしています。
当初は恨みに思う気持ちがなかったと言えば、それは嘘となりますが、月日が経ち、夫とその側近がしてきたことを私も詳しく知ることとなり、私としてもその死は致し方なかったことだったのだと思うようになりました。
ただ、夫の犯した罪の一部には、私の父や祖父から受け継いだ嘘もあったということが、私にとっては大きな衝撃でありました。
父の娘、祖父の孫娘である私は、自分も同じ罪人であるのだという気持ちでおります。
大きな罪を犯し、最後は罪人として死んでいった夫、そしてもう1人、夫以上に悲しく思う長男。
2人とも大きな罪を犯した罪人ではありますが、それでも私にとっては他に替われる者のいない、大事な存在であったことは、皆様にも理解していただけると思います。
もし罪を犯して裁かれたのではなかったら、単なるフロードの当主、次期当主として死んだのだとしたら、亡くなって一年という時には、盛大な偲ぶ会が催されていたことでしょう。
悲しいことに、罪人のために盛大な会を催すなどということは出来ませんし、してはならないことだと承知しております。
それでも何もしないのは、妻であった、母であったこの身には切な過ぎるのです。
どうか本当に小さな偲ぶ会を催す許可をいただきたくお願いいたします。
そしてもし許可がいただけるのでしたら、その会に領主様とバンダイン様の臨席も、本当に厚かましいのですが、お願いできないかと考えます。
何故こんな厚かましいお願いをしているのかというと、私は当然だと思うのですが、私とまだ幼い息子は周りの者に領主様方の敵と認識されています。
私たち2人に直接の危険はないのですが、周りの人の視線の厳しさに、私は当然だと思えるので耐えねばならないと思っているのですが、母として息子にもその視線が刺さるのは見ていられない気持ちになってしまいます。
もし、お二人に来ていただければ、その視線も、少なくとも幼くまだ何もわかっていなかった息子に注がれる視線は、幾らかでも柔らかくなるのではないかと期待してしまうのです。
愚かな母とお笑いください。
そしてもう一つ、愚かなことを考えてしまう女であることを告白ついでに、もう一つ告白いたします。
視線については母としての気持ちなのですが、私にはもう一つ、フロード男爵家の者としての気持ちがあります。
フロード男爵家に生まれた者として、このままフロード男爵家が無くなってしまうのは、とても悲しいことで、夫と長男のしでかしたことの大きさから仕方のないことだと納得しつつも、どうにかならないかと考えてしまう自分がいます。
そのための小さな第一歩として、まだ幼き下の息子を領主様に見ていただきたいのです。
下の息子は幸いにも、と言って良いのか分かりませんが、まだ幼い故に、フロードの代々続いた嘘にも毒されず、今、成長しています。
この子の代では無理でしょうが、領主様に許していただいて、お仕えし、何代か後には返り咲く道を残したいと、わずかな希望をどうしても私は捨て切れないのです。
愚かなことだと自分でも思っているのですが、まずは曇りなき領主様の目で、まだ幼いこの息子を見てもらうことが先決であると考えてしまうのです。
誠に勝手なことばかりを書き並べてしまいましたが、是非とも、もう一度温かい手を差し伸べていただきたいと、地に伏してお願いいたします。
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「バンダイン、この文をどう思う」
「そうですね、父上。
まあ、義母上の気持ちは分からなくはないかな、と思いました」
「でも、あれだけのことをしでかした訳ですから、下の息子がいかに幼くて、その件には全く無関係であったとしても、フロード家を男爵に戻してやる手助けはできないでしょう」
「まあそうだな。
それはフロードの妻も理解しているのだろう、何代か後にと文にもあるではないか、ストーム」
「はい、確かにそうではあるのですけど、たった一年でこうも厚かましく、堂々と文に記してくると、私としては、ちょっと勘繰ってしまいます」
「ストームの心配はともかくとして、私は行かねばならないかな、と考えます。
私が行かないと、バーバラも行くことが出来ませんから」
「そうなるな。
あんなことをしでかした大罪人ではあるが、バーバラの実の父と兄だからな。
それにバーバラは、あの時以前より母親にも弟にも会っていないであろう。
顔を見せてやる、良い機会かもしれぬ」
「私からも良いでしょうか?」
「ん、カーライル、何だ?」
「私が考えますに、領主様自身も顔を出してやる方が良いかも知れません。
知ってのとおり、領内の村や集落のまとめ役や有力者の中には、怪しくはあっても決定的な証拠がないから見逃した者、代わりの人材が確保できないためその地位に残した者など、元フロードの力の下にいたと思われる者がかなりの数残っています。
ここで我々がフロードの未亡人と後継予定者に冷たく接すれば、その者たちに対する領主様の求心力が低下してしまう可能性があります。
これからのことを考えると・・・」
「確かにカーライルの申すことは一理あるな」
「どちらにしろ、もう少し調べてみてから判断するべきでしょう。
フロードの未亡人がどれだけの人数に、偲ぶ会への参加を促したのか、どれだけの人数、誰が参加するのか。
そういったことが知れてから、最後に態度を表明するのでも十分でしょう」
「ああ、俺もその意見に賛成だ。
その結果によって、バンダイン様とバーバラ様のお二人だけが行くか、領主様も行くか、または行かないという選択肢もある。
今、即座に決めることはない。
まずは調べる方向で人を動かすことでよろしいですか」
「わかった、そこはストームに任せる」
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戦闘訓練は続いている。
基本的には上位ラミアの戦闘訓練は1日おきなのだが、ナーリア以下の姉妹グループはその間に若い子たち、子供たちとの訓練が入るから、実質は6日間休みなしに訓練して、1日休みというサイクルになってしまっている。
僕以外の友たちは、上位扱いなので、1日おきとなる訳だが、僕だけはナーリアの一員なので、ナーリアたちと一緒で休めない。
まあ、友たちは卵を妻のラミアたちが抱えてしまっていて、今までのように動く訳にいかない者が多くなって、その分の仕事も抱えることになって、結局僕より楽という訳ではないから、羨ましがることは出来ないのだけど。
若い子たちの訓練は、基礎訓練は別として、戦闘訓練は今現在は即戦力になれるクロスボウの訓練を優先している。
近接戦闘訓練では、まだ体が小さいので、実戦での戦力にはならないが、クロスボウでの攻撃は、十分戦力として計算出来るからだ。
クロスボウの訓練のほとんどはターリア・ワーリア・ヤーレアに任せていて、今現在はそちらで空いた時間を、子供たちの基礎訓練に僕たちナーリアは使っている。
子供たちの訓練には、もうボブの子供の卵を体内に抱えたミーリア様は、訓練自体には卵の安全を考えて参加しないのだが、顔は必ず見せる。
それならば自分で体を動かさなくても、子供たちに号令をかけて動かして、子供たちの訓練をミーリア様が担当してくれれば、僕たちはその時間に違うことが出来るのにと思うのだが、ミーリア様にそんな気はさらさらないようだ。
上位ラミアとナーリアの姉妹グループによる真剣な訓練は、今では基本的には僕と友たち、ラミアの里の男と、エーレアが連れて来た砦の男が、ナーリアを含む姉妹グループの相手をして、ラーリアがまだ卵を抱えていない上位を基本的には相手にしている。
アーリア・アーレア・アーロアは基本武器を槍と決めて間がないので、剣の技量はともかく、槍の腕はミーリア・ミーレアと比べるとかなり見劣りする。
それを一気にどうにかしようと特訓されている訳だ。
ナーリアの姉妹グループも、エーレアは特殊な槍、その他は長槍が主武器となったのだが、エーレアたちは良しとして、その他は個々の近接戦闘となると弱点を曝け出すことになった。
槍の穂先を撓らせて打撃してくる攻撃方法は強力だし、色々と試してみると槍を手首を捻ることで回転させながら突けば、ある程度狙いとおりの場所を長槍でも突くことが出来ることも判った。
しかし個々の戦いをしてみると、最初の一撃を受け流すことができれば、その長槍の間合いの内部に飛び込むことが出来て、そうなると長槍は逃げて間合いを取らねば反撃できないのだ。
実際的には間合いの中に入られたら、即座に槍を捨てて、剣で応戦する以外の選択肢がなくて、どうにもならない。
この長槍は、ゴブに対して柵を作ってクロスボウで攻撃し、その攻撃を掻い潜って近づいた敵に対して、柵の内側から攻撃することを想定して最初考えた武器だから、この結果は仕方ないかも知れない。
しかし最初は撓らせた打撃の攻撃がとても強力なので、それを受けようとした剣や槍を叩き落とすなどして、優位に戦闘を進めることが出来て、ターリアたちは気を良くしていた。
でもそれは長くは続かず、受け方を工夫されて叩き落とされなくなったら、あっさりとその後は手も足も出なくなってしまったのだ。
僕はゴブとの戦いでは、ゴブは長槍と戦うのは初見だろうから、そのままで最初は圧勝したのだから、構わないのではないかと思った。
僕はそんな風に気楽に考えたのだけど、セカンとディフィーは全く違っていた。
というか、最初からその弱点には気付いていて、その上で長槍という武器を選択したのかも知れない。
「ターリア・ワーリア・ヤーレア、ちょっと集まって。
重要な話がある」
セカンの言葉で集まった彼女らに対して、ディフィーがさらっと言った。
「もう解ったと思うけど、長槍という武器には大きな弱点があるわ」
「うん、長槍は中に入り込まれると戦いようがない。
入り込まれたら、長槍を捨てて、剣に切り替えるとしても、実際には槍を捨てて剣を抜いている余裕があるのかどうか。
セカンみたいに全員が居合が出来れば別なのかも知れないけど、そんなの無理。
正直、この長槍という武器は遠くからの攻撃力は高いけど、実戦向きではないと思う。
何か別の武器に私は替えたいと思う」
ターリドがそう言うと、彼女たちはとても残念そうな顔をしながらも、みんなその意見に賛成のようだ。
これまでに使う練習も随分したし、柄の色を白に揃えたりしたから、彼女たちも自分たちの長槍には愛着を持っていたようで、すごく暗い雰囲気になってしまった。
「うん、普通に考えればそういう結論になると思う」
セカンが実にあっけらかんとした調子でそう言って、言葉を続けた。
「だからあなたたちは、個人での戦いを基本は考えないで」
セカンの言葉が理解出来なくて、ターリア・ワーリア・ヤーレアは不思議そうな顔をして沈黙した。
それに構わず、ディフィーが言った。
「とにかく全員一列に並んで」
彼女たちをディフィーはまず一列に並べて、列の横方向に向けて槍を構えさせた。
そして次に1人おきに、列を少し下げて言って、凸凹の列にした。
「ダイク、ハキ、ヤーレン、適当にそっち側から攻めてみて」
槍の穂先側にいた3人はディフィーの言葉に姉妹たちに槍を構えて近づいてきたが、何もせずにあっさりと諦めた。
「いや、ディフィー、これ、無理だろ。
近い方の槍を避けて中に入り込もうとしたら、後ろに下がっている方の槍に確実にやられるじゃんか。
手の出しようがないよ」
ハキが降参して、そう言った。
「長槍はこういう集団戦をする」
セカンが宣言した。




