341. 赤揃え?
戦闘訓練が厳しいモノになってから、ちょっと経った頃だった。
ミーレナさんと激しい訓練をしていたセカンは、ある日ちょっとした空いた時間を使って、自分の主武器である刀を改造していた。
改造といっても、ラミアであるセカンが鍛冶が出来る訳ではないから、刀そのものを改造している訳ではなく、その他の部分となる。
ところで、セカンとミーレナさんが刀を使うようになって、ラミアの里では全員が使う剣の形が一部変わった。
それは剣の柄の部分の形だ。
それまでは剣の柄つかは刃の部分から連なる鉄を、ただ持ちやすい様に整形したり、木の丸い持ち手を付けたりしたモノだった。
それだから、いやそれよりもそういうものだという先入観が勝っていたんじゃないかとも思うけど、ラミアの剣を持つ手を敵の攻撃から防ぐ部分は棒状で、それも含めて敵を斬るために刃をしっかりと立てるには、刃に人差し指を添えなければならなかった。
剣を振る練習の一番重要なところはそこで、どの角度で剣を振るっても、きちんと刃が垂直に相手に当たることを練習することが第一歩で、難しくもあるところだった。
ところがセカンとミーレナさんが使っている刀は、手を守る部分、つまり鍔が円形をしていて、刃に指を添わすことは出来ない。
それではどうやって刃をきちんと立てるかというと、持ち手つまり柄の部分の断面が長方形の角を丸めた形になっているのだ。
そのため手に持った感触で、刃を立てる方向が分かるのだ。
セカンとミーレナさんが取り組んでいる居合とか抜刀術という技は、一瞬で刀を鞘から抜いて、相手に斬りつける技なので、その一瞬で刀の刃に人差し指をそわしてなんてことが出来る訳がないし、そんなことをしていたら時間を食ってしまうだろう。
納得できる工夫だと思う。
しかしその工夫された柄は刃を立てるのに有利であるだけでなく、剣を握った手を単なる棒状のモノより円形のモノの方が守れることは明らかなので、全ての剣を持つラミアが剣の柄の部分を、セカンとミーレナさんが使う刀流に改造することとなった。
今、セカンが改造している部分はまずはその柄の部分だった。
「これは鉄の茎の部分に木の板をはめ込んで止めただけなんだけど、表面をきれいに磨かないと木がササクレ立って来て、手を痛めてしまう。
だけどそうすると、一瞬で持って鞘から抜く時に、滑りそうになることがある。
それを今は松脂を手につけて防いでいたのだけど、もう少しどうにかしたいと思って」
セカンは、柄の部分の木の表面を少し削って、その上に大鳥の革を貼り、そして赤い糸で巻いていった。
巻き方は工夫していて、その糸によって柄の部分に凹凸が出来て滑らない様にしている。
「大鳥の革も、羽根を抜いた毛穴が一番そのまま残っている部分を使っている。
その凹凸も利用できると思って」
セカンが解説してくれた。
それからセカンは鞘にも工夫を加えていった。
「抜刀術は刀を鞘から入れたり出したりが激しいから、鞘も強化しておこうと思って」
セカンはボブに頼んで作ってもらった鉄の細い棒を、鞘の上下に少し溝を彫って添わして、その棒をしっかり固定するためか、大鳥の革を細く切った紐で隙間なく鞘を巻いていった。
その大鳥の革紐も綺麗に真っ赤に染めてあった。
きっちりと巻き終わると、その上に樹脂を塗って、綺麗な真っ赤な鞘が出来上がった。
「セカンは赤い刀か。
ナーリアが黄色い槍だから、なかなか良いんじゃないか」
「うん、私は髪も目も青いから、本当は青にしようと思ったのだけど、青色に染めるというのはなかなか難しくて、赤にすることにした」
その話を聞いていて反応したのがディフィーだ。
「なんだか、セカンとナーリアだけずるいわ。
ナーリアの槍の黄色は、指揮官として目立つためのモノだから、流石にそれは真似できないから、私も赤くしても良いかしら。 私は髪はピンクだし、目は赤いから、ちょうど良いし。
薙刀の柄、全体に革紐を巻いたんでは使いにくくなってしまうだろうから、先端と石突き近くだけ革紐を巻いて、残りの部分は色を着けるだけにするわ」
「ん、良いと思う。
私とディフィーは、作戦担当及び護衛としてナーリアの脇に立つことが多いから、2人で色を合わせたら格好が良いと思う」
「待て待て待て、2人だけなんて狡いぞ」
「そう、それは良くない。
それならばナーリアは全員主武器の色を統一するべき。
私とサーブも同じ色に変える」
結局、ナーリアは指揮官としての黄色い槍のナーリアをは別として、全員赤色で統一することになった。
それぞれの主武器の色だけが統一されただけだから、そんなに目立つ訳ではないのだけど、なんていうかちょっと一体感がある。
「それじゃあ僕もナーリアの一員だから、槍の色を赤くしようかな」
「アレク、それはダメなんじゃない。
人間の男の槍はみんな黒にもう統一されているじゃない」
そうだった、僕たちの槍は、柄の部分はアスファルトを薄く塗って、真っ黒に統一されている。 単に水分で傷むのを防止するためだけに塗られたモノだけど。
「そうか、ダメか。
なんか黒はあまり目立たないから、赤の方が良いかなと思ったんだけどなぁ」
僕はちょっとだけ仲間外れな気がして、残念に思った。
ちょっと色を変えただけのことだけど、変えてすぐの戦闘訓練で、すぐにみんなそれに気がついた。
「私たちナーリアは主武器の色を統一して赤にすることにしたのだ」
サーブがなんだか自慢気にそんなことを言ったので、なんだか全員が余計にそこに注目することになった気がする。
「私たちエーレアは、ミーリア様にナーリアの下に付けと言われてそのままだ。
つまり私たちも正式にはナーリアの一員ということになる。
ナーリアが主武器を赤に統一したのだとしたら、私たちもちゃんと赤くしなくてはな」
こういうところは本当にエーレアはサーブの姉妹だと思う。
エーレアはウキウキとそう宣言すると、エーレア全員の槍を赤くすることを決めてしまい、すぐに色を塗ってしまった。
それを見て、過剰反応したというか、抑えていた気持ちが噴出したというか、大体こんな時に先頭に立って何か言い始めるのはワーリアだ。
「エーレアたちまで、主武器の色を同じにしたんだから、私たちもそれなら槍の色をみんなで一緒にしようよ」
「一緒にするといっても何色にするの?
ナーリアはもちろんだけど、エーレアも一応上位なんだから、同じ赤という訳には行かないんじゃない」
ワーリアが色を塗るのはもう当然という感じで、色の相談を始めた。
「待って待って、ワーリアの言う私たちって、もちろんワーリアだけでなく、私たちターリアとヤーレアも含まれているんだよね」
ターリオがワーリアに確認した。
「もちろんだよ。
同じこの長い槍を使うんだから、長槍持ちは全員一緒にした方が、なんだか格好良いじゃん」
ワーリアがそう答えると、ターリルが
「赤はダメだし、黄色はナーリアが特別に使っている。
あと簡単に塗れる色は、黒か白だけど、黒は男たちが使っているし、白はミーリア様の槍の色だからなぁ。
何か別の新しい色にしなくちゃダメかな」
と真剣に色を考え始めた。
「白がいい。
ミーリア様の槍は白といっても、飾り金具が多くて、実際は白銀の槍。
単純に白いだけなら、別物だと思う」
ヤーレルのこの意見で、ターリア・ワーリア・ヤーレアの槍は全員一致で柄の部分が白く塗られることになった。
こうしてナーリアの姉妹たちの主武器はみんな綺麗な色が施されたのだが、それを見てそのままではいられなかったのがロー様だ。
上位のラミア、というかアーリア・アーレア・アーロアも主武器が槍と決まったのはつい最近のことだったので、それぞれが持つ槍自体はまだ新しく特徴があるモノではない。
それでもやはり、実用に関係のない部分で騒ぐのは、と考える部分と、もうその時点で半数以上が卵を作って、戦闘訓練には参加していなかったから、あまりナーリア世代が主武器の色を揃えたことに目がいかなかったからか、全体的にはあまり色を揃えようなどという話は出なかった。
ところが、ロー様がこだわった。
「私たちだけ、なんの色も塗っていない、作ったままの武器なんて、なんだか悔しいじゃない。
ねぇ、私たちも色を揃えましょうよ」
ロー様の熱心な布教活動によって、アーリア・アーレア・アーロアの槍も色が揃えられることになった。
ただし、ロー様はそれまでとは違った色にしたかったらしいが、新たな色を作ったりしている余裕はないと、そこはみんなに却下され、一番面倒がない黒く塗られることとなり、かなりガッカリしていた。
「私たちはナーリアたちと一緒に行動することが多いから、やっぱり赤かな?」
ロア様はアレア様にそう水を向けたのだが、
「ミーレアは別に色を揃えようとはしてないわ。
色をつけようがつけまいが武器の性能が変わる訳じゃないし、私たちは単独で別行動する方が多いから、色を合わせる意味はないわ。
ま、確かにナーリアたちと一緒することが中では一番多いことは多いけど」
と、アレア様にほとんど関心がないと返されて、薙刀に色を着けるのは断念したようだ。
そんなこんなの騒ぎもあるが、ラミアたちの戦闘訓練は続いている。
若い子たちも冬に入ってからは正式にクロスボウの練習もしている。
クロスボウ自体は誰が射ても同じように飛んでいくように作られているのだが、素早く次の矢を装填したり、移動して即座に射るためにはやはり練習がいる。
ターリア・ワーリア・ヤーレアたちも、もしもの時は自分たちが率いていかねばならない可能性が高いので、気合を入れて若い子たちに訓練している。




