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気がついたらラミアに(なろう改訂版)  作者: 並矢 美樹
波乱

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339. サーブの決意

 一度町に戻って行ったキースの母親は、すぐにもう1人連れてラミアの里にまたやって来た。

 さすがに今度は普通の馬車というか荷馬車で、着替えなどの簡単な身の回りの必需品を2人とも積んできたのに加えて、お産の時に必要となるかもしれない道具なんかも持って来たようだ。


 キースの母親とやって来たもう1人の女性を見て、デイヴが叫んだ。

 「もう1人誰が来るのかとは思っていたが、まさか『ばあや』か」

 「デイヴィッド坊ちゃん、その『ばあや』という呼び方はお辞めくださるように何度も言っているではありませんか。

  名前の『ニーナ』でお呼びくださいと。

  確かに私はデイヴィッド様を含めたご兄弟をも取り上げましたが、奥方様と歳は変わりません。

  『ばあや』では、ものすごく年寄りみたいではないですか」

 「うん、悪かった。 ばあや、次からは気をつける」

 「ほら、言ったそばから」


 キースの母親と一緒にやって来た女性は、自分の名前をきちんと名乗って、ラミアの里で自己紹介をしたのだが、デイヴの「ばあや」呼びは直らなかったので、いつの間にかそれが通り名になってしまい、「ばあやさん」と呼ばれるようになってしまった。

 そしてキースの母親も自分の名前を名乗りはしたのだが、誰もそれを覚えていないで、「キースの母君」とか「キースのお母さん」と呼ばれるようになってしまった。

 これはラミアの里では、誰かの母親であることが知られているのは、今まではイクス様ただ1人だったので、なんとなく母親という者に憧れという感じの気持ちがあり、それがその呼び名になる後押しをしたのではないかと、エレクが分析していた。


 キースの母親とばあやさんは、共同住宅に暮らすようになったのだが、その最初の頃の慣れない暮らしはキースの妻たちがフォローした。

 この2人とは、今後のことを話したりすることで、イクス様がまず親しくなったのだが、キースの妻の1人であるウスベニメからの縁で、ハーピーのシロシュウメ様とも親しくなった。

 シロシュウメ様は、人間のお産にも立ち会ったことがあり、これからの人間の妻のお産をイクス様とともに心配していたので、2人とは話が盛り上がったのだ。


 それにしてもデイヴは、奥方様から逃げるのと同様に、ばあやさんからも逃げ回っている。

 どうもデイヴは、ばあやさんにも頭が上がらず、会えば色々と注意されるらしい。

 それでもデイヴは、ばあやさんのことは気にしているらしくて、キースの妻たちに、

 「それで、ばあやは今どうしている。

  何か困っていることなどがないだろうか?」

と折に触れては聞いたりしている。


 ラーリン様をはじめとしたキースのラミアの妻たちは、そのデイヴの態度を面白がってからかったりしているのだが、真面目というか、融通が利かない性格のウスベニメは、

 「気になっているなら、自分で普通に会って話せば良いのに」

と、ちょっと怒ったように言って、それをまた他の妻たちにからかわれている。

 人間の妻であるマリだけは、元々はデイヴの家に仕える騎士の家柄だからか、そんな他の妻たちのすることにちょっと困った顔をして笑っているみたいだ。


 そうこうしているうちに、ハーピーの2人が卵を産んで、卵を温める為にそれぞれの家に籠ることが多くなったのに加えて、ケン、ハキ、ギュートの3人のラミアの妻たちに続いて、次々と上位ラミアたちは順番に妊娠していった。


 季節はもう収穫の時期を過ぎたので、去年に続き今年も今までならラミアの里の洞窟で冬籠りしていた時間を利用しての、戦闘訓練を行うことになっていた。

 しかし、その訓練を行うのは、ラーリアを除けば主には僕たちナーリア以下の若手と人間の男だ。

 友たち人間の男とナーリアたちを除けば、この前の冬は一番最後に少しだけエーレアが参加したことがあるだけで、ナーリアの姉妹たちはもちろんのこと、若い子たち、子供たちはもちろん冬の生活自体が初めてである。


 エーレア・ターリア・ワーリア・ヤーレアのナーリアの姉妹たちは、その訓練から次々と上位が抜けていくと、自分たちが主力でこのラミアの里を守る必要があるとひしひしと感じたようで、熱心に訓練に取り組んでいる。

 それでもやっぱり、若い子たちや子供たちの戦闘訓練に大きな時間を割くからか、昨冬のようにすぐに予期される戦闘が迫っていないせいか、前回より真剣さというか、切実さに欠けた訓練になっている気が僕たちはしていた。

 そんな時、ちょっとした事件が起こった。


 事件自体は大した話ではない。

 無法な人間がラミアの森に入って、違法に木の伐採を始めたので、それに対処しなければならないという事案が起こったのだ。

 ラミアの森の巡回警備は既になくなっていたが、その代わりにハーピーによる上空からの監視は常に行われていたので、この事態はすぐに察知され、対処することになった。


 ラーリア様以下のラーリアが、すぐにそれに対処しようとしたのだが、それにアレア様とロア様が反対した。

 「こんなことはラーリアが出動するような事態ではありません。

  まだ私たちも妊娠していないので、私たちとナーリアで行けば何の問題もなく処理できるでしょう。

  任せてください」

 「えーと、ナーリアは別として、エーレア・ターリア・ワーリア・ヤーレアは実戦経験が少な過ぎて、今後を任せるのに不安があります。

  経験を積ませるためにも、その代を私たちが率いて、今回の事態に当たれば良いと思うのです」


 アレア様とロア様の意見が通って、2人と僕たちナーリアが監督する形で、他のナーリアの姉妹たちが主になって、今回の事態に当たることになった。

 そこで問題が起こった。


 今回は殲滅するなどと言った過激なことがなされる訳ではなく、ごく優しく、伐採に当たっている人間に、「このラミアの森はラミアの許可なく森の木の伐採などは禁止されているから立ち去るように」と伝える、伝えてもそれに従わなかった時には捕縛に当たるという作戦だった。


 確かに、単なる木樵と甘く見ていたこともあるし、殺すことを避けて捕縛するという作戦内容だったから、手荒なことを避けたという一面もあった。

 それでも不法に伐採していた人間たちが、こちらの指示に従わず抵抗して逃げようとした時に、エーレアはともかくとして、ターリア・ワーリア・ヤーレアは人間との戦いを簡単に制圧することが出来ず、逃げられそうになったりしていて、結局、僕たちナーリアとアレア様、ロア様も加勢しない訳にはいかなくなった。


 この騒ぎの後、人間たちは砦に護送され、そちらで取り調べることになり、後から単なる木樵ではなく、戦闘訓練を受けた人間であったことが知れたのだが、それにしても弓・槍は使用せず剣だけであったことを差し引いても、こちらは武装していて、相手の人間は木樵の格好で使った武器も斧とナイフ程度の物だったのに、簡単に制圧できなかったのは問題だった。


 制圧できなかったターリア・ワーリア・ヤーレアも意気消沈として考え込んでしまったのだが、監督だけに当たろうとしていたアレア様・ロア様、そして僕たちも考えなければいけないと痛感した。

 一番この事態にショックを受けていたのは、姉妹グループ以下の訓練教官をしていたサーブだった。


 今回の行動の後、里に戻る時、サーブは厳しい顔で一言も喋らなかった。

 落ち込んでほとんどしゃべらなかったことは、今までにもあるけれど、いつもは脳天気にあっけらかんとしたことを言って、周りを呆れさせたり、雰囲気を和らげるサーブが、厳しい顔をしたまま一言もしゃべらずに黙々と帰り道を歩いていると、僕たちも含めて誰も軽口も叩けず、押し黙ったままでラミアの里に戻った。

 その雰囲気は少し異様だったらしくて、ちょっとだけ心配したのか、僕たちの帰りを待っていたらしいミーリア様が

 「いったいどうしたの?

  誰も怪我したりはしてないみたいだけど、何かあった?」

と、アレア様に聞いてくる程だった。


 自分たち自身でも、今回の事態を問題だと考えているターリアたちに、それ以上何か言う必要はないと考えられたらしいアレア様とロア様は、ラミアの里に戻るとそのまま解散して、何か特別なことをしようとはしなかった。

 しかしそのまま報告を、僕らの家ですることになった。


 家にはラーリア様とミーリア様、そしてミーレナさんが来ることになっていた。

 そして最近は、共同住宅にキースの母親とばあやさんが住むことなったので、共同住宅でラーリアの話し合いを持つことが出来なくなったために、ラーリアは揃って僕たちの家にある温泉に入りに来て、温泉に入りがてらラーリアとしての話し合いを持つのが常になっていた。

 でもまあ、とりあえずはラーリア様とミーリア様への報告だ。

 もちろん、イクス様とミーレナさんも聞いている。


 「つまり一言で言えば、ターリア・ワーリア・ヤーレアは、斧とナイフくらいしか持たない人間の制圧に手間取ってしまったと言うことか?」


 アレア様の報告を聞いてのラーリア様の言葉に、ロア様がもっと辛辣に答えた。

 「手間取ったと言うよりは、失敗したと言って良いかと。

  エーレアは砦で、人間と一緒の訓練の経験が多いためか、流石にしっかりと制圧していましたが、他の3グループはきちんと制圧できず、取り逃す有様でした。

  それで仕方なく、私たちやナーリアも加勢する羽目になりました」


 「今回の木樵たちは、妙に戦闘に慣れていたような印象を受けました。

  もしかしたら単なる木樵ではなかったのかもしれません」

 ディフィーがそんな言葉を足した。


 「何であれ、大した武器も持たない人間の男に、ターリア以下は苦戦したということね。

  それは今後を考えると確かに問題ね。

  戻って来た時の様子がちょっとおかしかった理由が分かったわ」

 ミーリア様がそう言った。


 「問題は、ターリア・ワーリア・ヤーレアは圧倒的に実戦経験が不足していることだな。

  例え相手が人間の騎士であったとしても、防具も付けずまともな武器を持たない者に、今現在の実力で苦戦する筈がない。

  その程度の実力は持っていると思う。

  それがそうはいかないというのは、経験不足から全く実力が発揮出来ていないということだ」

 ラーリア様がそう結論づけられた。


 何だか暗い顔をして今までの話を静かに聞いていたサーブが、ちょっと意を決するような感じで発言した。

 「すみません。

  私が訓練教官として足りなかったせいで、実戦ではまだ役に立たないところまでしか鍛えられていませんでした。

  私の指導がなってなかったせいです」


 サーブの言い方がちょっと思い詰めた感じだったからなのだろう、ミーリア様、ラーリア様とが順番にそんなことはないと言った。

 「サーブ、あなたの指導は若い子たちへの指導もだけど、子供たちへの指導も、私はよ〜く見て来たわ。

  あなたの指導は、今までの誰の指導よりもしっかり考えられていて、短期間に成果を上げてきたことは私が保証するわ」

 「そもそもターリア・ワーリア・ヤーレアたちを、姉妹だからといってお前たちとつい同じに考えてしまう我々に問題があるのだ。

  良い悪いは別として、お前たちはゴブとの最初の戦いの時から常に前線に立って来た。

  そのお前たちを基準に考えてしまっては、他のお前たちの姉妹は、例えエーレアたちであってもたまったものではないだろう」


 「ミーリア様、私の指導を高く評価していただいて、本当にありがとうございます。

  ラーリア様も優しいお言葉ありがとうございます。

  でも違うのです。

  私は、自分たちが去年受けた訓練と比べて、あまりに甘い訓練しか姉妹たちに課してこなかったことを、今心から後悔しているのです。

  今日のターリア・ワーリア・ヤーレアの有り様では、今回は相手の武器などの装備がなっていなかったから、誰もこちら側は怪我をしたり死んだりの被害が出ませんでしたが、そうでなかったら確実に大きな被害が出ました。

  盗賊擬きと戦った時、アレクたちはその戦闘を『訓練から比べれば、ずっと簡単だった』と評しました。

  でも、それでも、不意打ちで危ない場面がありました。

  その時、私たちが受けていた訓練は、はっきり言って今、私が中心になってさせている訓練とは別物でした」


 サーブの言っていることは、ナーリアたちも僕も、そしてアレア様、ロア様たちも、一理あると認めざるえないモノだった。

 確かに去年の今頃僕たちが受けていた戦闘訓練は、今しているような生易しいモノではなかった。

 終わった時に倒れて動けなくて、這いずるようにして温泉まで来て、温泉で体を解した過去を僕はつい思い出して、ちょっと身震いしてしまった。


 「そこで私は、ラーリア様たちにお願いがあります。

  次の主に私たち姉妹を対象にした戦闘訓練の時には、ぜひ私を立ち上がれなくなるまで、叩きのめしてください。

  私たちが去年、本当にギリギリ目一杯まで訓練を受けることが出来たのは、アリファ様が訓練に参加されてからです。

  今、アリファ様に訓練に参加していただくことは出来ませんので、アリファ様の替わりを、全く至らないでしょうが、出来る限り私が務めたいと思うのです。

  私たちナーリアももうすぐに子供を作る時期が迫っているので、私がその役を務められるのもたった2ヶ月位です。

  せめて、その間でも、姉妹たちが本当にギリギリ目一杯の訓練をする助けになりたいのです」


 げっ、サーブ、マジかよ。


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