338. キースの母親が
モエギシュウメが僕と子作りしたのと同時期に、ウスベニメがキースと子作りしたのは当然だけど、ほぼ同時に僕の友たちの妻のラミアも何組か子供を作った。
具体的にはケン・ハキ・ヤーレンの妻となっているラーリア以外のラミアの妻たちが順番にどんどん子供を作ったのだ。
「私も子供を作ってしまって良かったのでしょうか?」
もう作ってしまった後で、そんなことを言っても始まらないのだが、アリファ様がラーリア様が僕らの家に来ている時に、ちょっと人目を避けるような感じでやってきたから何事かと思ったら、深刻そうな顔をしてイクス様とラーリア様に尋ねたのだ。
ラリファ様が、
「さあ、ソフィアと一緒に子供を産むなら、ちょうど今頃がその時期よ。
今度はみんなの番だからね、しっかりみんな子供を作りなさい」
って、私たちを煽るように言われたら、ミーリファ様以下の私たちは、つい
「やっとこれで私たちも子供が持てる」と一気に盛り上がってしまって。
私もその熱気に呑まれてしまって、みんなと一緒に子供を作ってしまったのですけど、少し冷静になったら、私も子供を作ってしまっても良かったのだろうかと、心配になってきました。
あの、イクス様はアレクと子供を作ったから、物品係の役を辞められたのに、と思い当たって」
何となく一緒に聞いていた僕たちは、「あ、そういうことか」と思った。
「ラリファ、心配することはない。
子供が生まれても、お前には引き続き物品係はしてもらうつもりでいる。
だから何も気にしなくて良いぞ」
ラーリア様が、アリファ様に安心するように言った。
イクス様は自分のことが、アリファ様が心配する原因だったためか、ちょっと気まずそうにしていたら、レンスがアリファ様に言った。
「私の母親は自分の立場とか、私のこととか、色々隠していたのに、あのゴブとの戦いの時、それらのことを全て忘れて、周りに命令しまくって、自分の立場を露わにしてしまったから物品係を続けられなくなっただけ。
アレクと子供を作ったことが原因ではない。
だからアリファ様は何も気にすることも、申し訳なく思う必要もない」
「うーん、分かっていたことではあるけど、やっぱり実際にアリファがもう卵をお腹に抱えているかと思うと、とても羨ましい。
もう私たちもボブの子供、作っちゃっても良いわよね」
「まだダメに決まっているだろ。
今、私たちが作ったら、ハンナよりも先に生まれてしまうじゃないか」
「アレアはお堅いわね。
そんなのもう誤差の範囲よ。 ハーピーのモエギシュウメとウスベニメは先に生まれるんだし」
「それはハーピーには交尾期が決まっているという事情があるからだろ。
それに、ロア、ミーリア様より先に子供を作っちゃったら、きっと怒るぞ。
それが順番上の偶々ならまだしも、決まりを破ってのことだったら。
内緒で先にと考えるなら、1人でやってくれ。 私はミーリア様の極寒の冷気なんて絶対浴びたくないからな。
あとほんのちょっとの我慢で、ミーリア様とも一緒に子供を作って喜ぶということが出来るのだ。
それをわざわざ怒られるようなことをする気にはなれない」
ラリファ様の懐妊を羨ましがっての悪巧みは、アレア様のとても真っ当な意見で、というかミーリア様の怒りを恐れて、ロア様も実行を諦めたようだった。
それでもまだボブの人間の妻であるハンナが妊娠したのは、人間の妻たちの中では順番的にはちょうど真ん中くらいで、そんなにもう待って我慢する必要はない。
一番遅かったのは、残念なことに何かと問題を引き起こしたデイヴの妻のエリで、その次がアンなのだ。
どういう訳かキースの妻のマリも含めて、一番最初の方にラミアの里で暮らし始めた3人が、みんな最後の方になってしまった。
まあ、最初と最後といっても、みんな妊娠しようとし始めた時期は一緒だったし、幸運なことに妊娠しにくい体質とか、組み合わせとかもなかったようで、そんなに時期に差がなくみんな妊娠したのだけど。
「そんなことはない。
人間からしたら、そんなに時期に差がないと思うのかもしれないけど、ラミアにとっては、随分と時期に差がある。
一番最初のケンの妻のソフィアとアンだと3ヶ月近くも差がある。
つまり私たちは、ソフィアやアリファ様が子供を産んでから、モエギシュウメの卵が孵ってから、子供を作ることになる。
とても大きい」
レンスがそう言って僕の感覚に異を唱えた。
ラミアの妊娠期間は人間とは違ってとても短くて、たったの2ヶ月半だから、確かに3ヶ月の差はとても大きいのだろう。
今まではみんな同時期の妊娠出産がラミアの里での普通の姿だったので、それが違って、同時期に子供を持つことが許された者が3ヶ月違うのは、ラミアにとってはとても大きく感じるらしい。
「でも、復興させている町が滅ぶ前は、ラミアも完全に人間に合わせてだったから、一年中バラバラだったというぞ。
それから比べれば、3ヶ月なんて本当にたったじゃないか」
「それが理想だと思うけど、今はまだ過渡期。
もっとラミアの数も増えて、一緒に暮らす人間も増えた時には、きっとそうなって、私たちも焦ったりしなくなると思う」
僕のレンスへの反論に、セカンが返答した。
ま、確かにそんなものなのだろうと僕も思った。 今はまだ、次のゴブとの戦いでラミアが滅んでしまわないように、子供を少しでも残しておきたいという切羽づまった気持ちが濃厚なのだから。
ラミアだけじゃない。 もちろんハーピーもだ。
領主様と奥方様は、新しい馬車の試し乗りも兼ねて、随分と早くにラミアの里にやって来た。
それはモエギシュウメとウスベニメ、それからアリファ様たちケンの妻たちが子供を作ったすぐ後で、まだラミアの里がそのことでちょっと興奮状態だった時だった。
領主様たちが来るとの連絡を受け、共同住宅近くでラーリア様とミーリア様、そして僕とイクス様、それにナーリア・アン・メリーに加えて、デイヴとラリオ様、キースが出迎えた。
馬車から降りて来た人を見て、一番端に控えていたキースが、変な声をあげた。
「げっ、お袋、何でお袋が領主様と奥方様と同じ馬車から降りてくるんだ?」
まだ挨拶もしていないのに、キースが驚いた拍子にそんな声を上げてしまい、それをちょっと面白いといった顔で、奥方様がその声に答えた。
「キースリング、今回の訪問はあなたの母親が主役なのよ。
来る途中の馬車の中で、私と打ち合わせをしていたのよ」
奥方様は、そのキースのちょっと礼儀から外れた行為を笑っていたのだが、キースの母親は怒り顔だった。
キースの奴、可哀想に。 お袋さんから、後で絞られそうな感じだ。
奥方様は、そうキースをちょっと揶揄うと、顔をイクス様に向けて言った。
「イクス殿、この間の問題の解決を、この者を中心に当たってもらうことになりました。
今の様子を見てすぐにお分かりかと思いますが、キースリングの母ですので、この地の人間の妻たちにとっても、全く何の関わりもない者よりは良いだろうと」
「奥方様、素早い対応ありがとうございます」
イクス様が奥方様にそう返答した。
「えーと、母上、今の話からすると、キースの母に人間の妻のお産の時の手伝いを頼む、ということか」
デイヴが奥方様に聞いた。
「中心になって問題に当たってもらうということよ。
1人では無理でしょうから、今回打ち合わせをしっかりとして、早急にお産の介助に慣れている人も、こちらに来させることにするわ」
「奥方様、それではウチの母はこれからしばらくは、このラミアの里で生活するということですか?」
「当然そうなるわね。
10人もの妊婦のお産があるのですもの、そしてそれが終わった後も、赤ん坊が少し大きくなるまでは、経験者の助言は必要でしょ。
ここにはラミアとハーピーの子育て経験者はいるけど、本当の意味で生まれたばかりの人間の赤ん坊を育てた経験がある者はいないでしょ。
そんなに変わらないかと思うけど、心配の種は少ない方が良いでしょ」
奥方様は、キースの質問に、キースだけでなく、デイヴと僕にも「もう少ししっかりしなさい」という感じの視線を送ってきた気がする。
同時にアンのことも見たけど、そっちはとても優しい視線だった気がする。
「順番がちょっと違ってしまったが、領主殿、奥方殿、そしてキースの母上よ、ようこそおいでくださった。
領主殿、奥方殿には今回も滞在を楽しんでいただけたらと思う。
キースの母上は初めての訪問なので、ラミアの里を色々見て回ったり、キースのこと、その妻たちのここでの日常なども見てもらいたい。
もちろん今回も色々と話し合わねばならないこともあるのだが、私としては寛いで過ごしていただきたいと一番に思っている」
奥方様の話がひと段落ついたところで、ラーリア様は歓迎の言葉を述べることとなった。
「今回は本来は新しい馬車の試乗が第一目的だったはずなのだが、実際は今回は妻たちが主役の訪問となりました。
新たに子が生まれること以上に重要なことは、この世にはないから、それも当然のことではある。
しかし、そういうことは男の私等にはあまり手出しができないことであるから、私は今回はこの地の新米父親に、私の経験でも伝えながら、のんびりさせてもらおうと思っている」
領主様は、さっき奥方様にちょっと睨まれた僕たちを救済する感じで、ラーリア様に応えたので、ラーリア様たちは微笑んだのだが、奥方様には僕たちと同じように睨まれてしまっていた。
大丈夫かな。
領主様がラミアの里に前に来た時には、僕たちの家を空けて、泊まるのに僕たちの家を利用してもらった。
しかし、今回は僕たちはただでさえ人数が増えているのに加えて、今はモエギシュウメがいるので、家を一時的に明け渡すのは避けたい。
同様に、デイヴの家も領主様と奥方様2人を泊めるだけの余裕はないし、キースのところもウスベニメが居るので無理がある。
そういったことから、領主様と奥方様、そしてキースの母上には、今はそれぞれに家を持ったのでラーリア様たちも離れて、まだ今後の利用方法が決まっていない共同住宅に泊まってもらうことになった。
領主の館に行った時は、ほぼいつでも離れの部屋を使わせてもらっている、ま、そのことに関しては僕たちナーリアもほぼ一緒だったのだが、ミーリア様は共同住宅の部屋の個々の狭さに、恐縮していた。
奥方様はそんなことにはまるで頓着しないで、キースの母親に
「この家に住まわせて貰えば丁度良いんじゃない。
下には人が集まれるし、二階は個室になっているから、都合が良いし。
中央に上まで煙突が通っている炉があるから、中を温められるし、屋根が藁葺きで暖かそうだわ。
風呂や、煮炊き用の部屋も別にあるし、水も引かれている。
申し分ないんじゃない」
キースの母親は共同住宅の中をあれこれ見て回って確認してから答えていた。
「ええ、ここなら理想的です。
産気づいたら、この家に連れて来てもらって、ここでお産して、落ち着くまで二階の部屋で生活してもらうことにすれば、最も安心して産めることでしょう。
体調が優れなくなった時も、上の部屋に泊めていればすぐに対処もできますね」
どうやら共同住宅は、人間の妻が子供を産む場所として使われることになり、キースの母親はしばらくの間共同住宅で暮らすことになりそうだ。




