335. 槍と剣を作って
秋が大分深まってきた今、段々と農作業は落ち着いてきたのだけど、それを狙ったかのように、木を伐る仕事がとても忙しくなった。
木を伐る仕事はナーリアとエーレアを除いた、姉妹たちのグループの仕事となっていて、他は手を出していない。
布団を作り終えたラーリア・ミーリア・ミーレアに、農作業がやっと暇になった若い子世代は時間的には十分姉妹たちの仕事を手伝えるのだが、木を伐る仕事にはノータッチだった。
そこには大きな理由があった。
何故かといえば、木を伐る道具がないのだ。
若い子たちは農作業が暇になったとはいえ、実際のところは暇にはなっていない。
今現在は若い子たちと、アーリア・アーレア・アーロアは紙の原料になる枝の採集にかかりきりになっているからだ。
紙の原料になる枝ならば、少し手間はかかるが普段身につけているナイフで採取することが出来るからだ。
つまり、今現在はまだまだラミアの里の鉄不足は解消されていないということだ。
ラミアの里での金属製品を一手に担っているのがボブということになるのだが、ボブと弟子たち、そして手が足りずに駆り出されたデイヴとキースは、鍛冶に掛り切りになっている。
何故かというと、やっと鍛冶の材料となる鉄が、ボブの実家というか出身の鍛治の村から届いたからだ。
ラミアの里では、近くに鉄鉱石を産出する場所があったので、鉄鉱石を手に入れることは出来たのだが、そこから鉄に加工する、つまり製錬することが出来なかった。
ボブがその知識は持っているから、やろうと思えば出来ないことはないのだろうが、その施設もないし、資材を揃えることも難しいし、何よりも施設を作る立地条件が難しい。
ボブの出身地である村は、その為に風の通り道となっている地をわざわざ選んでいるのだという。
それでも鉄鉱石から鉄を製錬することが出来るのは、季節の変わり目の数日強い風が吹く時だけ、つまり年に4回しかないとのことだ。
吹子で数日に渡って、かなり大きな炉に風を送るのは、人力では労力的に無理があるので、自然の強風を利用して炉に風を送るのだと、ボブが説明してくれた。
ボブの出身地にハキの家を介して鉄鉱石を融通し、その見返りとして製錬された鉄の一部をラミアの里に戻してもらう計画は、出来る限り急いで実行されたのだが、流石に色々と時間がかかり、やっと少し前に見返りの製錬された鉄が届いたばかりなのだ。
そして今大急ぎで作っているのが、ナーリアの姉妹たちの主武器となる槍だ。 そしてその次が若い子たちのための剣だ。
アーリア・アーレア・アーロアの主武器は後回しなのである。
アーリア・アーレア・アーロアの主武器がナーリアの姉妹グループや若い子たちよりも後回しになるのには二つの理由がある。
一つ目は察していると思うが、この後すぐにこのグループは子供を作ることが予定されているため、今急いで作っても、どうせ使う機会は先になってしまうからだ。
もう一つの理由は、この三つのグループでは、ミーリア・ミーレアが主武器を選んだ時のように槍にしなければならない理由はないので、ナーリアたちが自分が一番得意とするか必要とする武器を選んだように、個々に好きな物、合う物を選んだ方が良いという判断があったからだ。 一人一人に合わせた武器を作るのは、時間がかかる。
それでナーリアの姉妹グループは、エーレアたちは可動する輪のついた槍、ターリア・ワーリア・ヤーレアたちは柄の撓る長槍だ。
槍の柄までボブたちが作るということは、とても手が回らずに出来ず、それは僕たちナーリアに任されることになってしまった。
エーレアたちの槍は、ナーリアの槍より短いがまあ普通の槍で、柄も普通に芯に木の棒が入っている今までと同じ作りだ。
ターリア・ワーリア・ヤーレアたちの槍は、僕たち男が使っている槍よりも長く、その全長は僕たちの槍の1.5倍ほどだ。 ただし穂先は僕たちの槍のように大きい訳ではなく普通の大きさだ。
こっちの槍の柄は、芯の木はなくて中空になっている。 撓り易くするためと、重量を軽減するためだ。
長い木の芯を作る手間はないけど、作るにはこっちの方がずっと手が掛かった。
若い子たちの分の剣は、ある程度体格を考慮して、3種類の長さで作ることにしたが、基本的には今現在ではまだ若い子たちにとって、作られた剣はどれも少し大きすぎる。
でもそれがラミアの伝統らしくて、ナーリアたちだってほんの少し前までは少し大きすぎる剣を使っていたのだという。
ラミアは若い子たちくらいの年齢で、初めて剣を与えられるのだが、問題が出ない限りはそのままずっとその剣を使い続けるのだという。
大体のラミアは、その後脱皮して体が成長すると、もらった剣がちょうど良い大きさの剣になるらしいが、中にはディフィーのように、その後の成長が予想と違って、剣の大きさが合わない場合があるらしい。
そんな場合は剣を自分に合った物に取り替えるのはありだというのだが、最初に許された剣というのは愛着が湧くようで、ディフィーも今の体格では短すぎる剣なのだが、そのままに使っている。 そういうラミアが多いらしい。
それは僕にも良く理解できる感情で、今では普通の剣を使うことが多いのに、剣鉈は常に持ち歩いている。
面白いことに、デイヴやキースは何も剣鉈が最初に得た武器ではないだろうに、2人も剣鉈は大事に持っている。
きっと2人にとっては剣鉈が僕たちの仲間の象徴なんだろうと、僕は勝手に思っている。
剣に関してはそんな風に思い入れもあるラミアだが、主武器となる物に関しては実用が何よりも勝り、武器のサイズが自分に合わなかったり、状況によってはすぐに変えることに躊躇うことはない。
ディフィーも長刀の長さを、脱皮して体が大きくなった時、そして個人用の馬車を使うようになった時と、躊躇いもなく都合に合わせて長刀の柄の長さやバランスを変更している。
それ以外のこだわりから全く変更していないのは、ナーリアの槍だけだ。
主武器として、特別な槍を使うことになっているのは、ナーリアの姉妹たちには事前に伝えてはあったのだが、エーレアたちはともかくとして、ターリア・ワーリア・ヤーレアたちの長槍は不評だった。
「こんなに長くて撓う槍で、どうやって闘うのよ。
こんなに穂先が揺れたら、狙った場所を突くことなんて出来ないんじゃない」
「いくら大型ゴブだと、私たちでは敵わないから、遠目から攻撃しようというのだろうけど、これじゃあ一歩穂先から中に入られたら、後は私たちは何も出来ないんじゃない?」
力があるから、ある程度戦闘に自信があるサーブの姉妹のヤーレオとターリドが、長槍を持ってみて、そう言ってきた。
「確かにそうだよな。 一見したら、そう思うよな。
作った俺がいうのもなんだけど、俺も最初はそう思ったぞ。 だけど違うんだな。
ターリア・ワーリア・ヤーレア、俺が使って見せるから、 とりあえず一度見てくれ」
ボブはそう言うと、長槍を一本持って、防具を木に固定した的に向かった。
「この槍も、普通の槍と同じように突いたり斬ったりも出来ない訳じゃないけど、主な使い方はこうなんだ」
ボブは長槍の撓りを使って、的の防具を叩いた。
長槍で叩かれた防具は大きく凹んで壊れて、もしこの防具を誰かゴブでも人間でも着けていたのだとしたら、最低でも大怪我は免れないだろうと思われた。
ターリア・ワーリア・ヤーレアたちは、目を大きく見開いて、一瞬みんな動きが驚きのあまり止まってしまい、歓声が上がることもなかった。
「何これ。 すごい威力。
ボブの力が強いからという訳じゃないよね」
ワーリドの言葉にボブが答えた。
「ああ、別にすごく力を込めたという訳じゃない。
撓りを利用して叩くと、これだけの威力になるんだ」
この後、補足でセカンからも説明があった。
「ゴブとの戦いでは、この長槍を柵越しに使うことを想定している。 だから長さも長くなった。
でもやはりそれだけではなく、他の戦い方も考えているのだけど、とりあえずターリア・ワーリア・ヤーレアは、この槍を使えるように練習してほしい。
まずはボブがやったみたいに、撓らせて叩くことがしっかり出来るように練習して、それから普通に突いたり、斬ったりも出来るようにして欲しい。
エーレアの使う槍と違って、この長槍は図書館の本にはないから、練習方法やどうすれば上手く使えるかとかは手探りで、自分たちで考えていかなければならない。
頑張って物にして欲しい。
それで出来るようになったことを、私とディフィーに見せて欲しい。
それによって戦術も考えたいと思う」
ターリア・ワーリア・ヤーレアは難しい顔をしたが、何だかやる気にもなったようだ。
エーレアたちは、
「私たちの槍は、前例があって、図書館の本にも載っているのか。
それをしっかり確認しておけば、砦での訓練でも練習ができるかな」
と、こちらも自分たちの新たな武器を手に持って、集まって考えていた。
こうしてサーブによる若い子たちとナーリアの姉妹たちの戦闘訓練は、新たな段階を迎えた訳だが、最初の走る訓練からやり直しの感じとなった。
若い子たちは剣という重さが増えただけでなく、片側に重さが増えるという状態に慣れて、まともに走れるようになる必要があったし、長槍を持って走るのは、僕らが槍を持って走る以上に問題が出た。
横にして持ってというのは、当然のことながら長さが邪魔だし、槍が撓うので持っている手に負担が大きい。
なるべく立てている形で持って走らねばならないのだが、木の枝に気をつけなければならず、結局移動する経路に当たるところは、邪魔になる木の枝は全て切り落とさざる得なかった。
今後ゴブの防護柵を設置する時には、長槍の移動ルートをきちんと考えて、道の手入れを怠れないことになることが、改めてわかったりもした。
それから実際の戦闘時の装備をしっかりとして、動いた場合、若い子たちの体力があまり保たないということが判明した。
なんとなく僕たちは、一番最初に出会った頃のナーリアたち姉妹くらいの体力を基準に考えていたような気がするが、若い子たちはその時のナーリアたちよりも色々な経験を積んでいるとは思うけど、それでも年齢からくる体力差は歴然としてあり、どうやらセカンとディフィーが想定していたよりも、今のところは体力的に劣っていたようだった。
「今のところは仕方ない。
ゴブの侵攻の時期になれば、このまま訓練を積めば、私たちが同じ年齢だった時よりもずっと動けるようになる。
当たり前だけど、焦っても無理」
レンスの言葉にディフィーが
「うん、それは分かっている。
焦っている訳じゃないけど、もうすぐ一時的にだけど、戦力がラーリアとターリア・ワーリア・ヤーレアたちだけになっちゃうから、若い子たちにもその隙を埋めてもらえないかなと、ちょっと無理な願いをつい考えちゃっただけ」
と、ちょっと渋い顔をして応えた。




