334. 昨年とは別の忙しさの秋と・・・
葡萄からの酒作りが終わると、いよいよ初めての全員起きていての冬越しの準備に取り掛からねばならない。
昨年のこの時期は、ゴブとの大規模戦闘からハーピーとの交渉と続いた時期で、それ以外にももっと色々なことをしていたのだが、それらは断片的な記憶として残っているばかりで、思い出すのはゴブのこととハーピーとの交渉の時のことばかりだ。
今、やらねばならないことに追われる日々になって、物事を行うと、確かに昨年もやった記憶がところどころ頭の中に浮かんでくる。
なんかそんな感じなのだが、今年になってから初めてすることも多いし、僕たちが知らないうちにラミアたちが行っていたことも多かったのだとも知った。
僕が一番知らなかったのは、秋になってのラミアによる木ノ実の大々的な採集だ。
秋に実をつける、栗やドングリはみんなラミアの食料になり、保存性も良いので、ラミアは冬に起きている当番の者の食料として、ずっと採集されていたのだという。
「初めの頃は良いのよ、栗にしろドングリにしろ、外の殻を向けば美味しく食べれるから。
でも後の方になると、それらが乾いて水分がなくなってカチカチになってしまって、エネルギーも少なくなってしまうのよ。
だから、春に近い頃に起きている担当になるのが、一番の貧乏くじだったのよ。
その代わり、最後の担当は、春になって一番最初に収穫できた豆を食べることが出来る特典があったのよ。
今考えると、栗やドングリも食べる分だけ水につければ、もう少し柔らかく食べれたのよね」
ミーリア様が、僕たちがラミアの里に来る以前の、冬の食料事情の酷さを語ってくれた。
それはともかくとして、ラミアが栗とドングリを大量に採集したので、僕たち人間もその恩恵に預かった。
「ドングリは、このちょっと細身の椎の実以外は、人間が食べるには手間暇をかけないと駄目だけど、栗は本当に秋の恵みという感じがするなぁ」
ヤーレンが栗を竃の灰の中に埋めて焼いてくれて、男連中で食べた。
「そういえば今年はまだキノコ鍋をしてないな。
秋は栗だけじゃなくて、キノコも豊富だよね」
ハキが昨年のことを思い出して言った。
「キノコは昨年味を覚えたレンスが色々研究して、今年は子供たちにも食べれるキノコを覚えさしているみたいだぞ。
だからきっとすぐに食事に出てくるんじゃないか。
アンが栗を入れた米も炊くと言ってたし」
僕がそう教えると、聞いていたボブが、
「何だか、豪勢な食事が出てきそうだな」
と喜んでいた。
「ケン、何考え込んだような顔を1人でしているんだよ」
キースがケンに声を掛けた。
「いや、ラミアがドングリを大量に採集しているのを見てさ、ラミアの森にクヌギの木が多い事に納得してたのさ。
炭を作るのにクヌギの木がラミアの森にどれだけあるかを去年最初に調べたのだけど、ほら一番炭を作りやすいし、森を荒らさずに作れるだろ。
その時に、とてもたくさんクヌギの木があるのに、ちょっと驚いたんだ。
ラミアは炭を作らないのに、こんなにクヌギの木があるんだと。
俺は、大火の後、クヌギの木って生えやすかったのかなって思ったのだけど、今考えるとラミアがきっと食料確保のために増やしていたのだろうな、と」
昨年は若い子たちとだけ行った、川での魚取りは今年は2回に分けての、ラミアの里全員の行事となってしまった。
1度目は、若い子たちと子供たち、ナーリアの姉妹たちも参加はしているが、こちらは安全のための監視目的で、魚を獲ったり、捌いたりはしないで、全て若い子たちに任せている。
卵や白子を食べるのも、この回はナーリアたちは我慢だ。
ちょっと異色なのは人間の妻たちは全員この回に参加している。
この回だけで、昨年より多くの魚を獲り、塩を擦り込んだりの処理もこなした。 この時使った塩は、ラミアの里で取れる岩塩ではなく、ハキが仕入れた海の塩だ
岩塩は産出量が然程多くはないし、取るのが少し大変なため、ラミアの里での塩の使用量が増えた今は、ハキの実家の商店を通して仕入れて使い始めたのだ。
町から仕入れた塩を使い始めたことには、もう一つ理由がある。
ラミアが取る岩塩は珍しいため、売り物にすると高い値がついたので、そちらは売ることにして、その売った額で町で塩を買うと、3倍以上の量になることがわかったからだ。
ラミアの里で取れる岩塩には独特の風味があって、料理によってはその風味が美味しいので、もちろん岩塩も使うのだが、そんな訳で大量に使う塩は、町から仕入れた塩を使うようになってきている。
1日おいて、次に上位ラミアとナーリアたちの番だ。
上位ラミアたちは、魚を獲って捌いたりするのは初めてなので、ナーリアの姉妹たちがそれぞれに教えることになった。
去年は上手く魚を捌くことが出来ずに、子供たちにまで呆れられていた姉妹たちだが、今年はそんなことはなく、みんなちゃんと上位の方々に教えることが出来るようになっていた。
そんな中で、驚きのナイフ捌きを見せたのはエーレアたちだった。
エーレアたちは参加自体もどうするのかと思っていたのだが、獲った魚を幾らか砦に持って行って良いかを確認すると、しっかりと参加したのだった。
もちろん砦に持っていくことは了承した。
ナイフ捌きに驚かれたエーレアたちだが、その理由をエーレルが言った。
「私たち砦では自分たちの分だけでなく、男の分の料理も作っていますから。
そのために、アンやセカンに教わったりしてますし、今ではクラッドさんとブマーの人間の妻とも一緒に料理をしますから、なんて言うか、こういうことにも慣れてきているんです」
ターリア、ワーリア、ヤーレアたちは男を理由にされて、何だか悔しがっていたのだけど、上位の方々は何だか反省している感じになった。
「私も料理もしなくちゃ。
『元々はあまり料理とかしたことがない』と言っていたエリに、今ではほとんど任せっぱなしになっていて、デイヴも『最近はエリも料理が上達したな』なんて言うのを聞いているだけで良い話ではなかった」
ミーリオ様がそう言うと、ミーリナ様が
「私なんて、ソフィアだけでなく、ミーレナもいるから、全く料理なんてしたことがないわ。
エーレアたちに完全に差をつけられたわ」
と真剣な顔をして言うので、僕たち男たちとナーリアたちはちょっと笑ってしまったのだが、上位の人たちは真剣な顔をしていた。
でもまあ、すぐに場はとても楽しい場に変わった。
この日はちょっと特別に、出来たばかりの酒が解禁され、飲んでも良い日とされたからだ。
人間の妻たちが子供たちと一緒の回になったのは、一緒に戦闘訓練をしたからだけでなくて、お腹に子供がいるのに飲む訳にはいかないという大きな理由があったのだった。
魚取りの後も新たな作った穀物の収穫に始まり、農作業は色々と続く、やっと大体の収穫が終わったと思った時には、もう色づいていた木の葉が散って、ヤーレンはその落ち葉をまたしても大々的に集めさせる。
昨年作った腐葉土作りの場所は、いつの間には大幅に拡充されていて、すでに鶏小屋や馬小屋から出る敷き藁などを積んでの腐葉土が作られている。
先に作られていた腐葉土は、もう畑の方に移動してあり、畑の土に混ぜるばかりになっている。
僕は去年のことを思い出して、また畑で競争で耕したりをするのだろうか、なんて思っていた。
去年は若い子とナーリアの姉妹たちだけだったけど、今年はきっと子供たちも参加しての行事になるのかな。
赤ん坊たちも、もう大きくなっているから、その場に連れて行けば、きっと若い子や子供たちの歓声だけで喜ぶだろうな、なんて考えてしまった。
この秋、去年よりも必要となる保存用の肉のための狩りは、アーリア、アーレア、アーロアが主に行った。
僕たち男連中はそれぞれに任された仕事が忙しいし、それはナーリアたちも同じだ。 そしてエーレアたちは砦に行っていることが多い。
それならばターリア・ワーリア・ヤーレアたちになるかというと、彼女たちは弓はクロスボウで練習しているので、狩に使うには使いにくいからだ。
温泉作りが終わったワーリアと、農作業がちょっと一段落したヤーレアたちは、昨年とは違った何をするのかと、ちょっと期待した雰囲気があったのだが、任されたのはターリアの手伝いだった。
ターリアの指導の下に、何日も何日も炭にするための木の伐採作業が続いた。
「また新しいことを覚えたいとは思っていたけど、何で私らがターリアの仕事の手伝いをしなくちゃならないのよ」
ワーリアをはじめとして、ワーリア・ヤーレアたちはみんなボヤいていたが、ターリアたちは上機嫌だった。
「どうだ? 私たちの請け負っている作業の大変さが分かっただろう。
でも、流石に人数が3倍になれば、今年はケンの計画する今年の分の木が全部伐れそうだ」
ターリオが嬉しそうに言うと、ワーリルが聞いた
「今年の分て言うけど、どれ程たくさんの木を伐るのよ。
こんなに伐っちゃって、森が駄目にならない?」
「大丈夫なように伐っているんだ。
ケンと調べて、ラミアの森の中の主にクヌギの木の全体の1/20を秋に伐ることにしている。 その数だと木が減って森を荒らしたりせず、逆にそうすれば日の光が森の中にも射し込み、より豊かになるらしい。
そして来春には、去年伐った木から芽吹いた新たな枝を、剪定する作業が待っていることになるらしい」
ターリルも嬉しそうに説明したが、ワーリア・ヤーレアたちはゲンナリとした顔で聞いていた。
若い子たちの方は何をしているかというと、こっちはナーリアたちに率いられて、紙の原料となる木の枝の採取を重点的にしている。
去年はこの時期に採取することが出来なくて、あまり紙の原料の確保が出来なかったのだ。
紙作り自体は、ラミアには苦手な作業が多いことがわかって、ラミアの里で大きく行うというラーリド様の計画は撤回されたが、紙の原料となる枝はハキの店を通して、人間に売られることになったのだ。
採取してなるべく早く加工に回したいので、ハキの実家から荷馬車がやってくるのに合わせて、数を揃えねばならず、こちらもかなり忙しい。
子供たちはというと、収穫した米がほぼ干し上がり、その脱穀を人間の妻たちとしている。
今はまだ米だけだけど、これからまだ他の雑穀や、干した豆などをしっかりと保存用に加工しなければならず、これはまだまだずっと他のメンバーも加えて続く作業となるだろう。
さて、今まで話に出てきていないラーリア・ミーリア・ミーレア、それに各係のラミアたちだが、彼女たちも重要な仕事をしていた。
元々、それぞれに色々と仕事を抱えていたり、人間の仕事を手伝ったりもしていたのだが、最重要で任されていたのが、布団作りだった。
今まではほとんどがラミアの里の一番奥深くで、集団で半ば冬眠状態で冬を過ごしていたから問題なかったのだが、起きて過ごすにはラミアの里という洞窟の中ではあっても、夜を過ごすための布団が必要だったのだ。
外側となる布は、ハーピーから提供された麻も使って、前から織られていた。
中に入れる物に関しても、ハーピーが春に冬毛から夏毛に生え変わった時に出た
羽毛を大量に提供してくれて、それをストックしておいたのだが、やはりそれだけでは足りずに、大鳥をかなりの量狩ることになった。
まあそれは肉の確保としても意味があったのだけど。
そんなこんなで、布団作りは一大プロジェクトで、本格的な冬を迎える前にという期限もあり、最優先で取り組むべき問題であったのだった。
「まあ、何とかなったわ」
ミーリア様が期限までに間に合ったことをそう総括したのだが、ロア様に突っ込まれていた。
「確かに何とかなりましたけど、ミーリア様はこの件に関しては全く役に立たなかったですね」




