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気がついたらラミアに(なろう改訂版)  作者: 並矢 美樹
波乱

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333. 僕たちの秘密行動のはずが

 夏が終わり、少しづつ秋が深まってきた。

 森の木々たちも早いものは、少しもう葉の色を変化させている。

 もうすぐに忙しい収穫と、冬の準備が始まる。 すでに馬のためのサイロは乾草で一杯になっている。 今年は馬の飼料でサイレージがないとギュートが頭を悩ますことはないだろう。


 さて、僕たち人間の男は、ラミアたちには内緒である計画を実行しようとしていた。

 言い出したのはケンだ。

 「おい、アレク、今年は何としても葡萄を採ろう」

 「葡萄? そういえば去年は葡萄を採ろうとしてゴブを見つけて、それから今に続く騒ぎになったんだった。

  結局葡萄採れなかったんだよな。

  そのせいで、まともなパンがずっと作れなかった」

 「そんな過去の話なんて、どうでも良いんだ。 俺は未来に向けての話をしている。

  俺は大量に葡萄を採りたいんだ」

 「もうパンは作れているじゃないか。

  大量に採りたいって、大量に採ってどうするんだ? 葡萄は種が小さいから、ラミアたちは喜んでは食わないぞ。

  あ、干し葡萄にして、人間のための貯蔵食にするというのは確かに有りだな」

 「違う、そんなことじゃない。 酒だよ、酒にするんだよ。

  ラミアの多くはこれから子供を作るから、さすがに酒作りを手伝わす訳にはいかない。 だから俺たち自身で作るんだよ」


 なるほど、葡萄酒作りか。

 どうやらラミアに捕まった時も、ケンの提案で酒を飲んでいたように、ケンは酒が僕らの中では一番好きなようだ。

 僕はというと、今まであまり酒に縁がなかったから、酒を作ろうという発想がなかった。


 「どっちにしろ、やっぱり僕たちだけで葡萄を大量に集めるというのは無理があると思うよ」

 僕たちはまたしても図書館の3階に集まって相談をしていた。

 今度はナーリアたちも居ないので、完全に人間の男だけだ。

 

 「まず第一に、僕らだけでは葡萄がどこにあるかを探すのだけでも大変だ。

  森の地理に詳しいアレア様やロア様、それでなければ木を見て回っているターリアたちに聞けば、葡萄のありかなんてすぐに分かると思うけど、僕たちの中に詳しいのが居ないだろ。

  それに森の葡萄は、木に絡まってほとんどが上の方にある。

  下の取りやすい位置にある葡萄なんて少ないだろ。 それだから去年アレクたちはゴブと鉢合わせしたんじゃないか。

  木の上の方にある葡萄を僕らが採るのは、大変な作業だよ。

  尻尾を巻きつけて簡単に木に登れるラミアのようにはいかないよ」

 エレクがケンの提案の困難さを指摘している。


 「ダメか、葡萄で酒を作るのは人間だけでは難しいか」

 ケンがすごくがっかりした声を出したが、がっかりした顔をしているのはケンだけではない。

 「なあ、子供たちに手伝ってもらうというのはどうかな」

 僕は一つの提案をした。

 「子供たちなら初めから酒は飲めないから、手伝ってもらっても別に構わないんじゃないか。

  何かお礼を考えれば大丈夫じゃないかな。

  子供たちも、鶏のための草を取りにそこら中に行ってるし、レンスが色々教えているから森の中のことに詳しいぞ」


 「なるほど、その手があったか」

 ケンが喜んで、大きな声を出した。


 「それなら、子供たちにあげる良いお礼があるよ。

  せっかく葡萄を採るのだから、葡萄ジュースをお礼にすればいいんだよ」

 エレクがそう言うと、ハキが言った。

 「そうか、その場で絞って、そのままじゃなくジュースという形にして、子供たちにあげるのか」


 「あ、ハキは知らないんだな。

  葡萄のジュースは、ただ絞っただけじゃ美味しくないんだよ、ただ甘いだけで。

  葡萄のジュースは、葡萄を潰して、4日くらい置いておいて、その後で絞ると葡萄らしい風味がある美味しいジュースになるんだよ。

  それ以上の日数をおくと、今度は発酵して、僕らの目的とする酒に変わっていくのさ」

 「エレク、詳しいな」

 デイヴが少し見直したぞと言う感じで言った。

 エレクが色々なことに詳しいのなんて今更のことだろうと思ったが、デイヴにとっては食べ物のことで詳しいのは、別扱いのようだ。


 「僕は小さい時から葡萄のジュースは大好きなんだ。

  葡萄酒も好きなんだけどね」


 「それじゃあ、次はどうやって子供たちの協力を求めるかだな」

 ボブがそこまでの話をまとめて次に進めようとした時に、予期せぬ声で待ったがかかった。

 「ちょっと待って、子供たちに葡萄のありかを聞くのは良いと思うわ。

  でも、子供たちに葡萄を採らせるのはダメよ」

 ラーリド様だった。 僕たちはみんなラーリド様が急に現れたことに驚いた。


 「ごめんなさい、驚かして。

  でもキース、そんなに飛び上がって驚かなくても良いじゃない。

  何だか化け物でも出たかのような驚き方じゃない、それじゃあ」

 ラーリド様が現れた場所に一番近かったキースは、本当に飛び上がって驚いていた。

 何だかプンプン怒っているラーリド様にキースが平謝りしていて、エレクがクスクス笑っている。


 「うん、えーと、驚かせちゃったのは悪かったけど、やっぱり今度はどんな企みをしているのかと思って、気になっちゃったのよ。

  完全に知られないように静かにしていようと思ったのだけど、やっぱりちょっと危険がありそうだと、そうも言ってられないからね」


 気配を消すのは何もレンスやセカン、それにアレア様たちだけの技能ということではないと知っていたけど、ラーリド様の技能もかなり凄くて、気配を消すのを見慣れている僕も全く気がついていなかった。

 僕よりラミアが気配を消すところを見る機会の少ないみんなは、とても驚いたようだ。

 エレクがあまり驚いていないのは、きっとラーリド様の技量を知っていたのだろう。


 「さっきも言ったけど、子供たちに葡萄を採らせてはダメよ。

  葡萄は日の光を欲して、木の高いところに多くあったりするから、子供たちに採らせるのは危険だわ。

  ということで、私たちが手伝うわ」

 「ラーリド様、それってラーリアが手伝うということですか?」

 エレクが確かめるように聞いた。


 「うーん、ラーリアだけじゃなくなるかもね。

  あなたたちはあまり接する機会がないから、頭から抜けちゃっているかもしれないけど、ラミアの大人は上位以外も結構いるから。

  ラーリアもだけど、酒を作ると聞いたら、出来た物のおこぼれに与ろうと思って、多くの大人のラミアが自分から手伝おうとすると思うわ」


 「えーと、俺たちそういうのがあまり無いようにと思って、俺たちだけでやろうかとしていたんですけど」

 ケンがちょっと困ったように言った。

 「ケン、諦めなさい。

  私にバレた時点で、ラーリアはきっと全員関わろうとするし、それを見逃す大人のラミアたちじゃないわ。

  それに、あなたたちの計画には大きな穴がある。

  葡萄を潰したら、それを入れておいたり、発酵させたりする大きな桶が必要になるし、出来た酒を貯蔵するための樽もいる。 それらをバレないようにバンジが他の仕事の合間に作れるの?

  絞るまでの桶をどこに隠して保管するの? 樽の貯蔵場所は?

  私、知っているわよ。 葡萄酒の樽の貯蔵場所は洞窟の中が良いのでしょ。

  どう考えても、あなたたちだけで秘密裏になんて出来ないわよ」


 結局葡萄酒作りは、ラミアの里全体の大掛かりな催しのようになってしまった。

 ラーリド様の指摘した大きな桶や樽などは、そういう物を作る係のラミアがとても気合が入ってすぐに用意してくれたし、森の中の葡萄のありかは、子供たちだけでなく、ラミア全員だけでなく、ハーピーまで場所の情報を提供してきた。

 葡萄の採取はラーリアだけでなく、上位以外の大人ラミアが予想通りたくさん手伝ってくれた。

 葡萄をつぶすために、オリーブオイルをたくさん得るために作った、水車の動力で動く石臼が大活躍した。


 葡萄を採っている最中に、今度の秋から冬にかけて伐る木に纏わりついている葡萄もかなりの数があることが判った。

 それでヤーレンの提案で、そういう葡萄は実を採った後で、可能な限り移植することになった。 他の作物を植えるのにはあまり適さない、水捌けの良い斜面が葡萄には適していることが判ったので、日当たりは良いけど今までは畑として使われていなかった土地に移植したのだ。 絡ませる支柱というか棚は低く抑えるから、次に採るのは楽だろう。


 もちろん当初の予定通り、子供たちには手伝ってもらったので、葡萄を採取していた時に僕らがちょっと葡萄をつまみ食いしたことを除けば、一番最初に今回の葡萄採取の恩恵を子供たちが受け取った。

 子供たちは初めて、採取した後きちんと時間を置いて絞った葡萄ジュースを、とても喜んで飲んだ。 一部大人のラミアや人間も飲みたがったが、そこはきっちりと我慢させた。


 そうそう、赤ん坊たちに、採ってきてすぐの、甘いだけのジュースを飲ませてみたが、赤ん坊たちもそれを喜んだのを忘れていた。

 赤ん坊たちには、時間を置いたのを飲ませるのは、ちょっとまだ心配で出来なくて、葡萄の風味はなくて甘いだけの汁だけど、そのまま飲ましてみたのだった。


 葡萄酒作りは本当のところはどの様に行えば良いのか分からなくて、本で調べた通りにやってみようとしたのだが、意外にも詳しい人がいた。

 何のことはない、葡萄酒作りに一番詳しいのは、ケンの妻のソフィアだった。

 ソフィアはもうお腹に子供がいるので、葡萄酒を作っている最中ほとんど味を自分でみたりはしなかったが、発酵している桶をかき混ぜたり、絞った後で、底に溜まるオリを分けたりとか、色々な細かいことを僕たちに指導してくれた。

 正直僕は、葡萄酒作りがこんなにも手間がかかり、神経を使う作業だとは思っていなかった。 ソフィアがいなければ、葡萄酒作りは出来なかったのではないだろうか。


 それから、ソフィアの指導で、ほんの一部だけだけど、最初に潰す時に、葡萄の皮や種を丁寧に除去した葡萄酒も作った。

 一緒くたに潰すのではなく、一粒一粒に手間がかかるので量産できないので、高級品なのだという。

 「何かの時の特別なお酒というのも、ある方が良いと思うのですよ。

  これはそのための物です」

 とのことだ。


 出来上がった酒は、ソフィアにはまだまだ改善点の多い物だった様だが、自分たちで手間暇をかけて作った物なので、僕にはとても美味しく感じられた。

 ソフィアもケンが喜んで、「美味しいなぁ」と言って飲んでいるのを見て、何だか満足したようだ。


 しかし、酒はラーリア様により、何らかの特別な時以外は禁止されてしまった。

 「酒は何らかの意味がある時に飲むことに、大きな意味がある。

  普段から酒を飲んで、醜態を晒している余裕は今のラミアの里にはない」

 という沙汰なのだが、どうやらミーリア様が町で飲み過ぎて醜態を晒している人間を見たことが背景にあるようだ。

 酒の習慣が父祖様の時代以来絶えてしまっていたラミアの里では、そういった状況を見る機会もなかったので、過剰に反応してしまったようだ。


 自分たちで酒を作れば、もっと飲む機会がたくさん作れると思っていた、酒作りを提案したケンが、とてもがっかりした姿を見せた。

 「ラーリアもミーリアに影響されて、そこまで堅苦しく考えることはないのよ。

  だらける時にはだらけた方がずっと健全だと、何で分からないのかしら」

 とラリファ様が怒っていたので、そのうち風向きが変わるかもしれない。


 それでも葡萄酒作りはこの後ラミアの里に根付いていった。

 葡萄畑は毎年どんどん拡張していって、たくさんの葡萄酒や葡萄ジュース、そして干し葡萄が、ラミアの里では後年作られるようになった。


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