331. ミーリア様の決心
ミーリア様は「気を遣いたくないない」と、自分の楽さを選んでの行いだと言って、僕らの部屋に付いてきた。
「ミーリア様は気を遣わないで済むのかもしれないけど、逆に私たちは気を遣う」
と小声でレンスが言うと、サーブが
「レンス、もっと小さな声で、ミーリア様に聞こえてしまうぞ」
と注意した。
ミーリア様は部屋に向かいながら、何か考えているようで、レンスの言葉には全く気が付かなかった。
僕たちはレンスが、ミーリア様が「気楽に」と言ったので、さっきまでの真剣な話で少し疲れた気分を、ミーリア様はくだらないお喋りで少し解そうとしているのかと考えて、そのきっかけ作りをしようとしたのだと思った。
レンスだって、本当にミーリア様に聞かせたくないなら、あんな風には言わない。
サーブ以外のナーリア・セカン・ディフィーたちは、レンスの誘いに乗って来ないで、自分の考えに集中しているミーリア様を、「どうしたのかしら」と考え始めたようだ。
「すみません。 遅くなりました」
ナーリアがそう言って先頭で部屋の中に入って行った。
「ああ、ナーリア、私たちも離れの部屋から戻ったばかりなんだ。 奥方様があちらにいらして、赤ん坊を抱いたりしていたのでな。 私たちも一緒に話をさせてもらったりしていた訳さ。
て、ミーリア、なんでお前もここに来たんだ。 お前は、離れに泊まるんじゃないのか」
ナーリアの言葉に答え始めたミーリオ様は、ナーリアに続いて部屋にミーリア様が入って来たので、少し驚いた声を出してミーリア様にそう言った。
「何のために、あなたたちとナーリアたちを一緒の部屋にしたと思っているのよ。 話をしたいからに決まっているでしょ」
「ああ、やっぱり」という顔をして、セカンが聞いた。
「部屋割りはミーリア様の考えですか?」
「まあ、私の希望が通ったというところかしら。
最初はミーリン以下も一緒にしようと思ったのだけど、それはラーリン様が、
『キースとクラッド殿の母君には、今まできちんと赤ん坊を見せていないし、私たちも挨拶をしていない。 だから私たちはそちらを優先してくれ』
と言うので、そっちに行ってもらったけど」
「えーと、アンたちの方は?」
ディフィーも続けて聞いた。
「今回の人間の妻は、ラミアの里に来る訳ではないから、ラミアがどういう種族で、ラミアと夫を共有するということがどういうことか、全く知らない訳でしょ。
エーレアたちが説明するよりも、先に同じ人間であるアンたちに説明させておいた方が、彼女たちも色々聞きやすいし、後からエーレアたちが困ることも、間に立って人間の男3人が困ることも減ると考えたのよ」
アンたちの方もミーリア様の配慮なのか、こんなに色々と考えているのだと僕はちょっとびっくりした。
「時間も遅いから、すぐに集まってもらった目的の話を始めわよ。
アレオはアーレアのリーダー、ローはアーロアの、そしてミーリオ、ミーレオも実質ミーリア・ミーレアのリーダーだわ。
アーリアは今はグループの体をなしてないから、実質ここにはラーリアとエーレアを除いた上位グループのリーダーが揃っている」
アレオ様、ロー様はうなづいただけだったが、ミーリオ様とミーレオ様はちょっと反論した。
「ミーリアのリーダーはお前だろ」
「ミーレアはグループのリーダーとしては、後から上がって来たのだが、アレアかロアの方が良いだろう。
あの2人の方が、私より指揮能力が高いよ。
ま、一番良いのは、ミーレナに復帰してもらってミーレアのリーダーをしてもらうことだと思うが。 ミーレナに片手のハンデなんて、全くないんだから」
うん、確かに2人の言うことは理解できる。
「まず、ミーリアのリーダーは私ということになっているけど、実際には今では私はグループとしての仕事を全くと言って良いほどしていない。
ラーリア様、イクス様といる時が多いし、ラミアの里から離れていることも一番多い。
実質的には私はグループから離れてしまっていて、グループのリーダーの役をしていないわ。
だから実際のミーリアのリーダーは今はミーリオよ」
確かに、最近のミーリア様はミーリアの仲間と一緒にいる時を見たことがないもんな。
「ミーレアに関しては、アレアとロアの指揮能力が高いことは、もちろん認めるけど、アレアとロアもグループと一緒じゃない時間が長すぎるわ。
その一端は、私が飛び回るのに2人のどちらかを連れ回したり、特別な仕事を2人に振っているからではあるのだけど、それをもう元に戻すことは実際問題として無理だわ。
だから、2人のどちらかをリーダーにする訳にはいかない。 2人には今のようにフリーに動き回ってもらわないと困るのよ。
それでミーレナだけど、確かにミーレナは片手のハンデなんて全くない。
でも、これはアリファにも言えるのだけど、もう他の人には替えられないポジションを確立しちゃっているのよ。 今更ミーレアには戻せないわ。
私はミーレナはラミアの最後の砦だと考えている。 砦は違うかな、最終万能兵器というか、隠し玉というか。
例えば私が倒れたら、私のところにミーレナを持ってくれば用が済む。 同じように重要なポジションの誰であっても、ミーレナならきっと即座に遜色なく代わりをしてくれると思う。
だから私の中に、ミーレナをどこかに縛り付けておく選択肢はない」
ミーリア様の中で、ミーレナさんてそういうポジションだったんだ。
確かに、今の僕らなら、ミーレナさんならきっと誰のポジションの事柄でも、ちゃんとこなしてしまうんではないかと思う。
「確かにミーレナはすごいと思うが、誰の役でも即座に遜色なくこなすというのは、いくら何でも無理だろう」
ミーリオ様がそうちょっと反論した。 ミーレオ様、アレア様、ロア様も、ミーリア様の言葉をちょっと言い過ぎだと感じているようだ。
「そんなことはないわ。 ねえ、ナーリアたち」
「はい、ミーレナさんなら」とナーリア。
「こんなことを言うと他の人に不敬な気もするのですけど、ミーレナさんなら」とサーブ。
「ミーレナさんなら可能だと思う」とセカン。
「ミーレナさんは底が知れないから」とディフィー。
「ミーレナさんなら余裕」とレンス。
ロー様が僕にも振って来た。
「アレクはどう思うの」
「僕もミーレナさんなら、完全にとはいかないけど、遜色ない感じではこなせると思います。
ただ、やっぱりイクス様やラーリア様のような威厳は出ないとは思いますし、同様にミーリア様の氷の指揮は無理だと思いますけど」
「ええと、ちょっと話がズレてしまったわ。 私はそんな人物評価をしたかった訳じゃないの。
私が言いたいのは、今まで公にしていなかったことを、あなたたちに伝えて、上位の共通認識にしたいってことなのよ」
ああ、そういうことか、と僕は思った。 セカンとディフィーも僕と同じように思ったみたいだ。
「ナーリアと人間たちは自分たちで気がついたみたいだけど、ラーリア様たち、イクス様、そして領主様たち、エルシム様たちは一つの未来予想に対して、その対策に苦慮しているわ」
ミーリオ様以下の顔が怖いほど真剣になった。
「私たちは4年か5年先に、またゴブがほぼ確実に襲って来ると考えている。
それも普通のゴブではなく、体格が人間と変わらない大型の雄のゴブが何割かを占めたゴブの集団よ」
ミーリオ様以下の顔色が青くなった。
「ナーリアたちは自分たちで、その予想に気がついたのか?」
ミーレオ様が尋ねてきた。
「私たちが、と言うより、セカンとディフィー、そしてエレクが気がついたのです」
「私たちは図書館での仕事が多いから、ゴブとの戦いが終わった後も戦闘訓練が続くのに疑問に思って、過去のことを調べて気がつきました」
ナーリアの答えに、ディフィーが付け加えた。
「そうだったのね。 まあ、私もイクス様から話を聞いて、そんなところなのだろうと思ってはいたのだけど。
それで、あなたたちの具体的な予想はどういったものなの。
本当はさっきの場でも聞きたかったのだけど、さっきは隣の領地の話がメインになっちゃったから」
ミーリア様の問いに、セカンとディフィーが自分たちの予想を述べていった。
その予想は、ミーリオ様たちにとっては本当に衝撃的な悪い話だっただろう。
「今もまだ、若い子たちも含めて戦闘訓練が欠かさずに行われているから、私たちも何かあるのは分かっていたわ。
それで予想についてもある程度理解できたのだけど、襲って来るゴブは予想だと200匹くらいなのよね。
前に戦った時よりも、下手をしたら少ないくらいじゃない。 それでも勝てないの?」
アレオ様がちょっと感情的な感じで聞いてきた。
「はい、今度は勝てません。
大型ゴブが予想した50匹程度いたら、現状のラミアの里の戦力では、全く歯が立ちません。 ほぼ確実に負けると思います」
セカンが冷酷と言えるような冷静な調子で言うと、アレオ様も黙り込んでしまった。
「まだ具体的な対処の方法は決まっていないのよ。
ラミアだけで戦っては勝ち目がないということは、今までと同じよ。 でも今度はこの前よりもずっと準備期間があるわ。 だから望みはあると私は考えているし、対策を考えるのよ。
まず、これが絶対の前提よ。 しっかり自覚して覚悟もして」
ミーリア様の言葉に全員が深く頷いた。
「それから、ここが今回あなたたちを集めた一番の理由なのだけど、次のゴブとの戦いの時は、ラーリアには後詰めとして、ラミアの里を守る最後の砦となっていただいて、基本的には戦闘に出てもらわない。
ミーリア以下の戦力でゴブとの戦闘をするから、それも覚悟しておいて」
今度は本当に僕を含めたナーリアたちも、ミーリア様の言葉に本当に驚いた。
「あの、ミーリア様、セカンの予想ですと、大型ゴブと互角に戦えるのは、ラーリア様たちと人間の男、あとはミーレナさんとアリファ様くらいなんですが。
それでラーリア様たちが出ないとなると、あまりに大きな戦力低下だと思うのですが」
ナーリアがミーリア様に反論するのはとても珍しいのだが、それは全員の思いだった。
「前にレンスが言ったじゃない。
『4年後となると、ラーリア様たちも現役だかどうだか怪しい』って」
レンスが困ったように言った。
「私の母親は無理だと思うけど、ラーリア様たちはまだ現役の可能性が高いと思う。 特にラーリアの下は年齢から考えると確実に現役」
「確かにね。 年齢から言えば、少なくともラーリアの下は確かに現役の年齢だわ。
だけどね、私はラーリア様たちには、その時には現役を外れてもらおうと考えている。
私たちはみんな、来年こそは子供を持とうと考えているし、きっとみんな子供を持つと思う」
ラミアたちはみんな当然だと頷いた。
「そして私は、その次の年には、本来とは外れているのだけど、ラーリア様たちにはそれぞれ2人目を持ってもらいたいと考えている。
現状のラミアの人数を考えると、そうする必要があると私は考えるからよ。
でもその次の年には、私たちは子供を作る訳にはいかない。 いつゴブが襲って来るか分からないから、もうそれに備えなければならないからよ。
それでも、次にゴブが襲って来る時には、今いる赤ん坊を含めて、70人近い小さな子供たちがいるはずだわ。
その子供たちの面倒を誰がみるの、誰が守るの。 人間の妻たちだけでは絶対に無理でしょ。
そしたら、子供を産んでからの時間が短く、年齢が上のラーリア様たちには残ってもらうべきだわ。
私たちは今まで、ラーリア様たちに主力で戦っていただいていたけど、その甘えをこれからは捨て去らなければならないのよ」
僕たちはほとんど睡眠を取ることなく、その日は話をした。
あと、ナーリアの姉妹たちにも、エーレアたちと同様にこの件を伝えることになった。




