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気がついたらラミアに(なろう改訂版)  作者: 並矢 美樹
波乱

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329. 脱皮と待望の

 夏の真っ盛りは過ぎたかなと思い始めた頃、ティッタがまた脱皮した。

 今度の脱皮は今までの脱皮ほどは体の変化が大きくなくて、その意味では驚くことはないのだけど、生まれて半年の脱皮は人間に追いつく脱皮だ。 

 何が追いつくかというと、尻尾を除いた体の大きさが、人間の子供と同じになるということだ。 尻尾を含めれば、身長とは言わないか、全長だとラミアの方が大きい。 

 でも、なんていうか、本当に僕ら人間からすれば、自分の子供の大きさが、今まで人間の子供で見慣れていたというか、イメージする生まれて何ヶ月の大きさになった気がする。 これからは人間の赤ん坊と成長速度は変わらなくなるというのが、ちょっと不思議な感じだ、逆に。


 あと、なんとなく、動きが活発になった感じがする。

 まだ暑い時期だから、ほぼオムツだけを付けた姿で、手も使ってヨチヨチと動いているのだ。


 「ティッタちゃん、メリーお姉ちゃんのところまでおいで」

 ティッタが脱皮して、脱皮前より動くようになったことを喜んだメリーが、飽きもせず何度もティッタを構って、右往左往させて遊んでいた時は良かった。

 そのうち何人もが脱皮して前より動き回るようになると、我が家に集まって来た時には、とてもではないがメリーだけの手には負えず、どこに向かって動き出すか危なくて目が離せない。

 それがあまりに大変なので、急いでサーブとセカンに手伝ってもらって、竹で赤ん坊たちの行動する場所を制限する囲いを作った。 赤ん坊たちは上の部屋の、囲いの中で遊ばせることにしたのだ。


 脱皮をしたら、我が家に来る赤ん坊の数が増えた気がするのは気のせいだろうか。 きっとみんな動き回る赤ん坊に手を焼いているのだろうと思う。


 メリーも流石に動き回る赤ん坊たちを、一人で構うのは無理だと思ったみたいで、鶏の世話に来てくれる子供たちをそのまま誘って、多くの時は一緒に赤ん坊と遊ぶことにしたようだ。


 そんな訳で、最近の昼食時は何だかいつも人数が多い。

 いつも僕たちがその多人数の昼食の用意をしていると、他のことが滞ってしまうので、結局今までと同じようにミーレナさんが助っ人に来てくれることが多くなってしまった。 ちょっと申し訳ない気分だ。



 何年か後の大型ゴブを含めた侵攻の予想に対して、何らかの対策を立てようとしていたのは僕たちだけではない。

 アルフさんたちにも伝えたことは、もちろん領主様にも知らせてあり、三兄弟残りのダインさんにも、領主様がその予想を教えられた。

 そして領主様、カーライルさん、ストームさんの3人に兄弟二人も加わって、出来ることを探したようだ。 その結果として、またダインさんが今度は主として隣の領地の領主との交渉に当たっていた。


 何を画策していたかというと、ゴブに滅ぼされた町の早急な再建である。


 滅ぼされた町は、この地方に他の地方から陸路で入ってくる時の、唯一の街道のこの地方の入り口に面する位置にあった。 だから本当ならその位置に強固な砦があれば、そこでゴブのこの地方への侵攻をほぼ食い止めることができる。

 可能であれば、防衛機能を持った城郭町がその場に作られれば良いのだが、その土地は隣の領地であるので、こちらからは手を出す訳にはいかない。

 地形的な問題から、その近くのこちら側の領地には町や砦を作れないので、出来れば隣の領主に早急に町の復興と、その町の守備力の強化を行って欲しいのだ。


 その交渉に、ダインさんは行っていたのだが、なかなか交渉は進まないようだった。


 隣の領主の立場に立てば、その場所はこちらの領地との交易の重要な場所となり、商人の往来だけを考えても、町の復興を図るんではないかと思うのだが、今現在はどうやらそこまで手が回らないらしい。

 隣の領地の領主は、領内にあるゴブの巣の管理を王国から任される立場にあったらしく、それが王国によるゴブの巣の殲滅戦が割とスムーズに行われた理由でもあるらしいのだが、今回ゴブの大量発生を抑えられなかったことで、その立場が微妙になっていて、領内の内政に積極的に関わる余裕がないらしい。 王国中央との交渉の方が余程優先順位が高いのだろう。


 こんな話は、元々庶民の僕には全く今まで接することのなかった知識だし、ラミアたち、ハーピーたちにとっても関係のなかった話で、知る訳が無い。

 僕は、「何くだらないことをしているんだ。 それよりすぐにでもしなければならないことがあるだろう」と思ってしまった。


 ダインさんはそんな訳で、隣の領地と行ったり来たりしているのだが、護衛の騎士とラミアの里で一泊していくことが多くなった。

 ゴブに滅ぼされた町があった時には、そこで一泊すると丁度良い行程になったのだが、その町がない今は隣の領主の町に行くには、直接ではどこかで一泊野営をしなければならないからだ。 ラミアの里で一泊すれば、騎馬でならちょっと遠いが朝早く出発すれば、その日のうちに到着することができるのだ。


 以前に王国中枢との交渉に当たっていた時には、妻のバーバラさんを伴っていたので馬車で移動していたが、今は騎馬での移動の方が都合が良いので、バーバラさんは連れていない。

 きっとバーバラさんの気持ちも少しは落ち着き、領主館でダインさんを待つことが出来るようになったのでもあろう。


 「デイヴィッド、兄者も人間の嫁を娶ることになるかもしれないぞ」

 秋になろうかとするある日、領主館への帰りに泊まったダインさんは、そんなことを言った。

 元の集合住宅にいつも泊まるダインさんたち一行は、僕たちと当然だが情報交換をする。 その時に出た話題だ。

 デイヴがちょっと苦い顔で言った。

 「隣の領主の娘を娶るということになるのか。

  理屈としては理解できるけど、何だか兄貴だけ政略結婚をさせる訳で、あまり気持ちの良い話じゃないな」

 「お前の気持ちは分かる。 僕はバーバラとは幼馴染みだし。 お前もそんなに変わらないからな。

  でも、こちらにとっても、あちらにとっても、これは一番良い縁談なんだ。

  兄者ももちろん了承している」

 「それは俺もさっきも言ったとおり、もちろん理解している。

  あちらにとっては微妙な立場である現在、うちという後ろ盾が得られる。 こちらにとっては、こちらの要求に対する人質を取ったようなものだ」

 「お前、その言い方はちょっと酷すぎるだろう」


 そのすぐ後、砦から帰って来たエーレアたちはご機嫌だった。

 「アルフさんが人間の妻を持つことになった。 これできっと、ブマーとクラッドさんもすぐに人間の妻を持つんじゃないかしら」

 エーレアたちは喜んでいたが、僕たちはちょっと複雑な気分だった。


 アルフさんとデイヴがラミアの妻を持っているのだから、ダインさんもと思うかもしれないが、ダインさんはバーバラさんが、罪の意識からラミアに全く顔を合わそうともしないので、ダインさんはラミアの妻を持たないと決めているらしい。

 もう少し時が経って、バーバラさんの気持ちが解けないと無理だろう。



 「そういえばアン、間違っているかもしれないが、もしかしてお前も子供が出来たか?」

 もうすぐ色々な収穫の季節を迎えるので、僕たちはその日程などの調整を考えないといけないと思っていた。

 そんな中で温泉には僕たちの他には誰もいない時に、サーブはそんなことを言い出した。


 「あら、サーブちゃんも最近はやっぱり色々と物事を考えているのね。 他の人がいない今だから、アンに聞いているのね」

 一番にイクス様がサーブの言葉に反応した。

 「いえ、ふと、頭に浮かんだので聞いてみたんですけど」

 「そうなの、ほめて損しちゃったわ」


 「サーブは放っておいて、良い機会だから聞くけど、アン、どうなの?」

 ディフィーがサーブを無視するようにして話を進めた。 みんな真剣な顔をしている。


 「アン、もちろん私たちはみんな気づいている。

  先月、あの生理っていうの無かったよね。 ここ最近も来てないよね。

  それって、子供が出来たってことだと、私は思うのだけど」

 セカンがディフィーの言葉に続いた。


 ラミアは人間の妊娠については、よく解らないというか知らないはずなのだが、ナーリアたちは図書館の本で調べたり、もう妊娠している友たちの妻に話を聞いたりしていたらしい。


 アンがちょっとだけ恥ずかしそうに、だけど嬉しそうに答えた。 でもちょっとだけ複雑そうな顔も見せた。

 「うん、みんな、お待たせ。 まだ確実とは言えないけど、たぶん子供が出来たと思う」

 「うわぁ、やった。 これで私たちも来春にはみんなお母さんね」

 ナーリアが嬉しそうにそう言うと、

 「ごめん、私が妊娠するのが遅くなっちゃったから、来春と言うより、来年のもう初夏に近い頃かな、産まれるのは」

 とアンが言うと、レンスが

 「そんなの構わない。 時期が少し遅くなることなんて問題ない」

 と即座に言った。 ナーリアたちはみんな同じ気持ちのようだ。


 そんなナーリアたちラミアの喜びの輪に、モエギシュウメが1人少し困ったような、思案するような顔をしていた。


 「モエギシュウメ、どうしたの?

  あなたも私たちと一緒に子供産むのでしょ」

 モエギシュウメのちょっと違う様子に一番最初に気がついたディフィーが声を掛けた。


 「うん、でも一つ問題があって、ちょっと今、悩んでいた。

  ほら、ハーピーは時期を選べないから、私は春に産むことを選べば良いのか、それとも秋に産むことを選べば良いのかと考えちゃって。 秋だとすると『私は随分と先になるなぁ』と思っちゃって」

 「そうか、ハーピーだと卵を産む時期は決まっちゃっているものね」

 ナーリアがそう言った。


 ハーピーだと発情期が年に2回でそれに合わせると、春に産むことを考えるとアンが産む子供より早く生まれてしまい、秋を選ぶと随分と遅れてしまう。

 人間が子供が出来たら、それに合わせるという決まりを考えると、どちらにするかというと、秋を選ぶべきなのだろうとモエギシュウメは考えたみたいだ。


 「モエギシュウメ、迷うことはない、春に産めば良い。

  人間の妻の出産に合わせて子供を作るのはラミアの決まりであって、ハーピーの決まりではない。

  それに少しだけ先にモエギシュウメの子供が生まれても、私は全然構わない。 アンもそれで良いよね?」

 「えっ、セカン、私? 私はもちろんそんなこと気にしないわよ。 私が先じゃなきゃいけないなんてことないもの。 

  ハーピーは時期が決まっているんだから、それは仕方ないと思うし、本音を言えば、私が妊娠していなかったら、ちょっとだけ羨ましく思うだろうけど、私のお腹にもいるのだから、少し早く生まれても私も全然構わないよ」


 「ということで、モエギシュウメは来春に一番に産んで」

 ナーリアが少しふざけて、リーダーとしての命令調で言った。

 「みんな、ありがとう」

 モエギシュウメが嬉しそうにみんなに言った。


 「ところで、さっきイクス様は私が『私たち以外誰もいない時を選んだ』と褒めてくれたのだが、それはどういうことなんだ」

 サーブの問いにアンが答えた。

 「あのね、サーブ、ちょっと前にキースの妻になっているマリが妊娠したのが判ったじゃない。 それで、残りの人間の妻は私とデイヴの妻のエリだけになっちゃっていたのよ」

 「ああ、それは解っているが、それと私たちだけなのに何か関係があるのか」

 「サーブ、妊娠していない人間の妻が少なくなってからは、ラミアの妻も人間の妻にプレッシャーを与えないように気をつけている。

  1人だけになったと分かったら、エリはすごくプレッシャーを感じると思う。

  アンはそれを危惧して、私たちにもなかなか言い出せなかった」

 レンスがやれやれという感じで説明した。

 「なるほど、そういうことか」


 さて、僕とメリーは今までの会話に全く参加出来ていない。


 僕は珍しく温泉で、ティッタを抱いていた。

 今まではなんだか危ないと、任されることがなくて、ティッタは女性陣に抱かれて温泉に浸かっていた。 6ヶ月目の脱皮をして、体が大きくなってからは僕も温泉でティッタを任されるようになっていたのだ。

 メリーはティッタが僕に抱かれているから、僕の側にいる。


 「お姉ちゃん、お姉ちゃんもお腹に赤ちゃんが出来たの?」

 メリーも今までの会話の重要部分は理解していたようだ。

 「うん、まだ小さ過ぎて分からないけど、たぶんもうお姉ちゃんのお腹の中には、ティッタちゃんと同じお兄ちゃんの子供がもういるよ」

 「うわぁ、嬉しい。 いつ生まれるの?」

 メリーは大喜びで、アンに聞いた。

 「まだずっと先だよ。 私の前にきっとモエお姉ちゃんの子供が生まれるし、お姉ちゃんの子供が生まれる頃には、みんなの子供も生まれて、メリーはお姉ちゃんとして大忙しになるよ」

 「すごい!! そしたら、ティッタちゃんもその時はお姉ちゃんだね。

  お兄ちゃんも嬉しい?」


 やっと僕も口を出すことが出来た。

 「そりゃ、もちろん嬉しいよ!!

  なんだか、その時のことを想像すると、とても賑やかそうで、ちょっと大変そうだなって思っちゃったけど」

 みんなの笑いが弾けた。 きっとみんな同じような光景を想像したんだと思う。


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