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気がついたらラミアに(なろう改訂版)  作者: 並矢 美樹
波乱

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324/346

324. 手のクリームと養蜂

 上位全体の激しい近接戦闘訓練の後、レンスの一言をきっかけとして、ラミアの里は落ち着いた。


 「大量のゴブの脅威がとりあえず終わったと思った途端に、この後、大型ゴブの脅威に晒される可能性が高いと聞いて、つい頭の中がそれだけに占められてしまって、焦って間違った判断を推し進めるところだった」

 「ラーリア様だけではありません。

  私も大型ゴブが襲って来るのだとしたら、どうしたらこの里を、いえ最近はもう少し大きく、この地方を守ることが出来るだろうかと、そればかりが頭を占めてしまっていました」

 「ラーリア、ミーリアだけじゃないわ。 私も同じよ。

  そして私たちだけでなく、セカン、ディフィー、ナーリア、それにサーブだってあれほど鬼教官になっていたのだから同じ気持ちだったんじゃないかしら。 それに人間たちも同じね」


 「そんな中で、レンスはよく冷静さを保って、しっかり現状認識を出来たものだ。

  昔、生まれた時に世話した子に、教え諭されているのだから、私も歳を取ったという訳だ」

 歳がどうこうという部分を、さすがに賢明に無視してミーリアは話を続けた。

 「それにしても他に流されずに、きちんと現状を把握するレンスの能力は、とても得難い物ですね。

  レンスにはそんな優れたところがあったのですね。 私は全く気付いていませんでした。

  私はレンスが植物や色々なことにとても詳しいことにも気付いていませんでしたし、本当に人を見れていないのだと痛感します」

 「いや、ミーリア、レンスはあまり自分のことを他人に見せないから、それは仕方ない。

  私は、赤ん坊の時から身近に見ているし、レンスもそれだから私には内心を時折見せるのだ。 それだからのことだろう。

  それでも今回の指摘は驚いたのだ。 お前がそういうレンスの能力に驚くのは、少しもおかしいことではない。

  イクス様、あのレンスの能力は、あれはダルフ様の遺伝ですかね。 イクス様は私と同じに、大型ゴブの脅威ばかりに占められていたようですから」

 「ラーリア、何よ。 あなた、私もあなたたちと同じ状態だったのを揶揄うのはおかしいでしょ。

  でも確かに、レンスだけが冷静に、現状を分析把握していたのは、父親の血の影響かもしれないわ。

  『感情を排して、物事をありのままに見ることが、学者としての最初の一歩なんだ』なんて、よく言っていたから」

 「レンスも同じような道を歩むのですかね」

 「そうなら、何だか私は嬉しいわ。

  そしてアレクくんの血を引くこの子はどんな風になるのかしら」

 「それも楽しみですね。 何しろアレクの血を引くのですから。

  私もボブの血を引くこの子がどうなっていくのか、楽しみで仕方ありません」

 「ね、ラーリア。 自分の子供がどう成長するのだろうと、それを見守るのって、すごく幸せでしょ」

 「本当に。 今までのラミアはこの幸せを知らなかったのですね」

 「そう大火の後にはほとんどね。 文献によると父祖様が生きていた時は、母となったラミアも生きていたみたいだけど、それ以降は、みんなこの幸せを知らずに死んでいったのよ」

 「私たちは運が良かったのですね。

  またこうして、その幸せが味わえる時に生きていられて」

 「まだそういう時が確定していないから頑張らなくっちゃだけどね」


 ちょっと言葉が止まって、沈黙した後に

 「私も早くその会話に加わりたいです」

 ミーリアが心の底からという感じで言った。


———————————————————————————-


 「アレク、はい。 また蜂の巣を採ってきたから、お願いするわ」

 「ターリル、蜂の巣、採ってきたの?」

 「ディフィー、あなたに蜂蜜食べさせる為に採ってきたんじゃないからね」

 「うん、分かっている。 私のため」

 「レンスの為でもない!!」


 ターリアたちは、仕事の合間に蜂の巣を見つけると、必ずそれを採って、僕のところに持って来る。

 「作り方、教えたんだから、ここに持って来ないで、自分たちで作れば良いじゃんか。 何で毎回持ってくるんだよ。

  毎回、この騒ぎを起こして、蜂蜜を守るのに僕がどれ程大変だか分かっているだろ」

 「そうは言っても、まだ私たちはその時間もないくらい、みんなから木の調達を頼まれているのよ。

  なるべく素手で作業をしないようにして、手を保護しているんだけど、それでもつい素手でしてしまう作業もあって、手を荒らしちゃうんだよね。

  私たちにとってはクリームは必需品だよ」

 「クリームなら、脂を使ったのだってあるから、蜜蝋は薬にする方に回したいのだけど」

 「ダメよ。 私は蜜蝋とオリーブ油で作った物の方が好きなんだもの。

  今年はオリーブ油も、水車で石を回して、自動でたくさん作れているじゃない」

 「ま、そうだけど、僕はラーリア様から『傷薬や血止め薬の在庫を増やしておくように』と言われているんだよ」

 「それは分かるけど、私たちターリアの特権よ。 私たちが蜂の巣を採ってくるのだから、少しはそれを使った特権があっても良いと思うの」

 「ま、確かにそうだし、それだからお目こぼしになっているんだと思うけどな」


 「今日は、クリーム作りを頼むだけでなくて、ちょっと相談があって来たんだ」

 主にターリルとディフィーの攻防を見ていたターリアが僕にそう言ってきた。

 「ターリア、改まってなんだよ?」

 「ここに持って来ている蜂の巣は、木を伐る時に近くに見つけたのを採って来ているのだが」

 「うん、助かっている」

 「伐ろうとしている木のウロ自体にある巣は、どうしたら良いかと思っているんだ。

  ほら、蜂の巣は女王蜂がいる部分辺りだけを残しておけば、また復活して採取することが出来るだろ。 だけど伐り倒す木自体にあるのは、そういう訳に行かないから、ちょっともったいないと思ってさ」

 「今まではどうしていたの?」

 「なるべくそういう木は避けてた。

  どうしても伐らなくてはならない時は、仕方がないから、近くに捨てといたんだけど、後からその近くに蜂の巣を見かけないんだよね」

 うん、ウロが出来ているような木は、本当は先に伐りたいのだろうし、蜂の巣がもったいないのも確かだな。 どうしよう。


 「私に案がある」

 蜂蜜に惹かれてやって来てそのまま近くにいたレンスが、話を聞いていてそう言った。

 「私は図書館で、蜂を人間が飼っていることを書いた本を見たことがある」

 「あ、そうか、養蜂か。 確かにたぶん木のウロに巣を作る蜂なら、飼うことが出来るかもしれない」

 「そんな方法があるのか。

  飼うことが出来るなら、森の中を探すことなく利用することも出来て良いことだらけだな」

 「でも僕は蜂を飼う人がいることを知っているけど、蜂の飼い方なんて知らないよ」

 「そんなの図書館で調べれば、きっと本がある」

 うん、レンスの言うとおりだ。


 それから僕たちは図書館で本を探し出し、蜂の飼い方を知った。

 とはいっても、そんなに難しいことではなくて、箱を用意してその中に採ってきた巣を入れるというだけのことだった。 蜂がそれでその場が気に入れば、その箱の中で巣を大きくするし、嫌なら逃げてしまうとのことだ。

 一番重要なのは、蜂が出入りする穴の大きさで、その大きさがかなり重要なことだというので、穴の大きさは注意して箱を作った。


 とりあえず実験してみようと、3個ほど箱を作って、蜂の巣を入れておいたら、しばらくしたら、2個は箱の中で巣が大きくなり始めたみたいだったが、同じに作ったつもりだが、1個は蜂が逃げてしまった。

 うーん、箱の出来が少し違っていたのか、それとも蜂の種類が少し違ったのか、単に蜂の気まぐれなのか、理由は全く判らない。


 「3つのうち、2つが成功すれば十分なんじゃないか。

  その割合で、蜂の箱が増やせるなら、かなりたくさん飼えることになるんじゃないか」

 箱を作って運んだりを手伝ってくれて、興味を持ったサーブが、その結果について楽天的に判断したようだ。

 そうだな、2/3の割合で箱に居ついてくれれば確かに十分だ。 本によれば、そのうちもっと大きくなれば、2つに蜂の群れが分かれたりもするらしい。 それを上手くやって蜂を増やしていくことと、蜂を全滅させないようにすることが養蜂の難しいところらしい。


 そう言っている側から、僕たちは箱の蜂を全滅させてしまった。

 何が問題だったかというと箱の設置場所だ。

 僕は花が次々と咲く草原に近い位置の方が、蜂の箱を置くのに都合が良いだろうと思ったのだが、それが失敗だった。

 気付いた時には、箱がメチャメチャに壊されてしまっていた。 熊の仕業だった。


 「うー、腹立つ。 蜂の箱を壊した熊は絶対に狩るわよ」

 犯人の熊はディフィーの執念の追跡により、すぐに居場所を突き止められ、エーレアたちの経験に利用されることになった。

 エーレアたちは、もう鹿は自分たちだけで普通に狩っていたが、熊は以前のことがトラウマになっていたのか、自分たちでは手を出さなかった。 もうエーレアたちの弓の腕前なら大丈夫だろうと、熊を弓で狩ることも経験させたのだ。


 最初に箱に巣を作ってくれた蜂の仇はとれたが、養蜂の試みはまた最初からになってしまった。

 今度はどこに箱を置こうかと考えていた時、ヤーレンに声をかけられた。

 「蜂を飼うのだったら、俺にも声を掛けてくれよ。 俺、少しは詳しいぜ。

  蜂を畑の近くで飼うと、実の着きがよくなるんだよ。 だから、蜂の箱を置くなら畑に近い場所が良いかな。

  それにそんなに里から離さなくても大丈夫だ」

 「いや、蜂がたくさん飛んでいたら怖くないか」

 「箱に巣を作る種類の蜂は、変に気にして蜂を攻撃しない限りは、刺してきたりはしないから大丈夫なんだよ。

  きっとラミアたちも、『蜂蜜を採る為なんだ』と思えば、すぐに慣れてしまうと思うぜ」


 ヤーレンの提案に乗って、新たな蜂の箱は畑の里に近い方に置かれることになった。

 ヤーレアたちや、主に畑を手伝う若い子たちは、最初のうちはちょっと怖がっていたが、ヤーレンの言っていたとおりすぐに慣れて、蜂を気にしないようになった。

 さすがにこんなにラミアの里に近い位置まで熊は入って来ない。 やれやれである。


 ある日、ヤーレンとヤーレアたちが、僕たちが人間用の作物の畑で作業していると、大騒ぎをしているのに気がついた。 場所は蜂の箱がある所だ。

 僕たちも何事かと思って見に行った。

 「ヤーレン、何の騒ぎだ?」

 「おう、アレク。 蜂の箱に、蜂を襲う大型の蜂が来て、騒ぎになっているのに気がついたんだ。

  そこで今、ヤーレドに毒霧を吹いてもらって、その蜂を眠らせた所だ」


 話を聞いているうちに、どこからかヤーレオが走ってやって来た。

 「ヤーレン、言われたとおりに持って来たけど、どこに火を着けるんだ。 きっと言い忘れたのだと思って、ちゃんと火打ち石なんかも持って来た」

 「ヤーレオ、ご苦労様。 だけど火打ち石は必要なかったんだ」


 ヤーレンはヤーレオから乾いた火種草を受け取ると、それを揉んでフワフワの繊維にすると、それを二つに分けてそれぞれを少し撚って糸のようにした。 反対側はフワフワのままだ。

 「ヤーレファ、ヤーレル、これをその襲って来た少し大きい蜂に結びつけてくれないか」

 ヤーレファとヤーレルは、ヤーレンに言われたとおり、襲ってきた2匹の蜂に結び付けた。

 「よし、毒霧の毒は薄くギリギリにしてもらったから、そんなにしないでその蜂が目を覚ますぞ。

  みんな少し隠れていて、目が覚めた蜂が巣に逃げるのを追って、この大きい蜂の巣を探すぞ」


 すぐに目を覚まして逃げた蜂を追って、僕らは少し大型の蜂の巣をすぐに見つけることが出来た。 ヤーレンは今度はヤーレアに言って、その巣とその周りにいる蜂に毒霧を吐いてもらって眠らせると、それらの蜂は全て踏み潰して殺した。

 「良し、これで箱の蜂が襲われることは防いだぞ」

 そういうとヤーレンは、この蜂の巣の一部を少し大事そうに選り分けると、

 「この蜂は肉食で、巣に蜂蜜はないんだ」

 「それじゃあ、ヤーレンは何を大事そうに持っているんだ?」

 「ああ、これはこの蜂の幼虫が入っている部分なんだ。

  この蜂の幼虫は、炒めて食べると、とても美味しいんだ」


 僕はちょっと気味が悪かったのだけど、食べてみたら、確かにヤーレンの言うとおりとても美味しかった。

 どこで聞きつけたか、食べていると友たちが集まって来て、みんな最初は恐る恐るだが、一度食べた後は争って食べた。

 ラミアたちは、あまりエネルギーにはならないからもあるのだろうが、気味悪がって手を付けない。

 イクス様だけが、好奇心から食べてみて、すぐに僕らに混ざった。

 それを見て、レンスも一大決心をするような顔をして食べてみようとしたのだが、その時にはもう残っていなかった。


 この少し大型の蜂の巣を見つけるのは、ちょっと遊びの要素もあって、流行りそうな気がする。


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