322. 訓練後の考察と飛行
もう一晩、僕たちは砦に泊まることになっている。
2日目となれば少しは慣れただろうと、ターリア・ワーリア・ヤーレアたちのことは砦の騎士たちなどに任せることにして、僕たちナーリアと、僕の友たちはアルフさん、クラッドさん、ブマーと近い席で食事をとりながら話をしている。
「キース、合同訓練をしてみて、砦の騎士たちを正直どう感じた?」
「うーん、どうかな。 まだ体力、持久力という方が正確かな、それが足りていないのは当然分かっているだろうから、それは横に置いておいて。
求めてしまうことに無理があるのではとは思うけど、なんていうか危機意識が全くないな。
だから、訓練に必死さが出てこない」
ブマーの言葉にキースが考えながら答えた。
「でも、それは仕方がないよ。 僕らと同じ気持ちで訓練に向き合えというのは無理がある。
それでも僕はエーレアたちは良くやっていると思うよ。 僕が来た時からあまり時間は経ってないけど、それでも砦の騎士たちの持久力は上がってきていると思う。 頑張っているよ」
エレクがそう庇う感じで言ったのだが、今のエレクの言葉は、エーレアたちを庇ったのだろうか、それとも砦の騎士たちだろうか。
「確かに、砦の騎士たちの訓練は、ラミアの里の者の訓練に比べると、真剣さに欠ける雰囲気がある。 だが、それは昨日までのここにいる3人も、失礼だがアルフレッド様を含めて、同じだったと思う」
クラッドさんがそういうと、アルフさんも
「逆に聞きたい、エーレアによると昨晩聞くまで、エーレアたちもあの予想を知らなかったというのだが、それなのに何故ラミアの方たちは、あれほど真剣に訓練に取り組めているのだろうか?」
エーレファがそれに答えた。
「私たちは慣れているの。
ラミアの里で上位の一部しかまだ知らないような秘密情報を、ナーリアたちがあの家のせいもあると思うけど知っていることが多々あって、そういう時はナーリアたちはしっかり秘密を守っているのだけど、私たちは姉妹だから、なんとなく態度で隠していることがわかっちゃうの。
それでも聞いてももちろんナーリアたちは話す訳はないから、私たちは黙って観察しているしかないのだけど、後になって何を隠していたかが分かったりした訳。
そういうことが、何度かあると、私たちもナーリアたちの態度で、これは何かあるぞとか、その隠していることの重要性が推測できるようになってきたのよ。 具体的なことは分からないけど、確実にこれはとても重要な問題があるって感じに。
だから今回も、具体的な話を聞いたのは昨晩が私たちも初めてだけど、私たち姉妹の中では、隠されているけど重大な問題があることはずっと前から気がついていたわ。 そこにサーブが躍起になって厳しい訓練をさせようとしてくるのだもの、これはやばいぞって真剣にもなるのよ」
「なるほど、そういうことか。 そうだったな、普段忘れているが、お前たちはナーリア殿たちとは姉妹であったな。 私ももっとデイヴィッドと接する機会が多ければ、そんな風に気づけたのかもしれないな」
デイヴがちょっと照れ臭そうに、でもちょっと嬉しそうに、手で顎を掻いて表情を誤魔化したのだが、逆にみんなその動きを注目して見てしまった。
そんな話をしながら食事をしていたのだが、セカンとディフィーが周りの雰囲気から離れて、二人でいくらか小声で話をしながら、黙々と食事をしているのに僕は気がついた。 僕だけでなく、ナーリアもちょっとそんな二人が気になっているようだ。
「セカン、ディフィー、なんだか二人とも今日は静かだな」
僕は二人に声を掛けてみた。
「うん、少し考え事を二人でしていた」
「今日の訓練で、これからのことを考える前提がちょっと狂っちゃったのよ。
私たちの見込みが楽観的過ぎるということが判ったのよ」
セカンは言葉を濁して終わりにしようとしたみたいだが、ディフィーは少し踏み込んで言葉を発した。
「もう少し説明して、今日の訓練を見て、どういうところが楽観的過ぎたと思ったの?」
ナーリアがディフィーの言葉に食いついてしまった。
ディフィーは、「あ、ちょっと失敗だったかも」という顔して、説明を始めた。
「私たちって、去年初めてゴブを見つけた時って、近接戦闘ではゴブに敵わないだろうからって、近接戦闘は避けたじゃない。
ゴブとの戦闘の時だって、近接戦闘をしたのはほとんどラーリア、ミーリア、ミーレアまでで私たちはしていない。
その後、私たちは戦闘訓練の特訓をさせられて、かなり強くなったと思うけど、それでも前回も私たちは近接戦闘はしていない」
セカンも仕方ないかという感じで話に加わった。
「それだから私たちは自分たちの力が、ゴブと比べてどのくらいなのかがよく判っていない。
ラーリア様たちや、ミーリア様たち、そしてミーレア様たちとの訓練の時の感じで、間接的に今なら普通のゴブとの戦いなら、一対一なら勝てると踏んでいるだけ」
「それにアレクたちラミアの里の男たちだけでなく、砦なんかの騎士たちもこの前の戦闘でゴブに勝っていたから、それも判断の材料にしたのよ。
ラミアの里の男は無理だけど、砦の騎士とだったら私たちも負けないから、ゴブと戦えると」
アルフさんたちはちょっと苦笑いしているが、まあ事実だから仕方ない。 エーレアたちがとても真剣に聞いている。
「それで私たちは大型のゴブの強さを、体格が人間と変わらないのだから、人間並と考えることにしたの。
でも体格が半分のゴブでも、普通の人間となら互角だから、大きいのは騎士並の戦闘力と仮定した訳。
それで、私たちは姉妹グループの戦闘力も同じ程度だろうと仮定して、物事を考えていたの。
ところが訓練でそれぞれに試合ってみたら、騎士たちにほとんど敵わないじゃない。 互角だったのは、ここにいるエーレアたちだけ。 それ以外はみんな力負けしちゃって、互角に持ち込めなかった」
「ミーリア様たちが前に、『私たちは人間との戦闘を考えていたから、力を上手く逸らすことを一番に考えた戦いをしている』と言われていたけど、その意味がとても良く、今回は解った」
もう一人、意外に静かだったサーブがここで言った。
「つまり、こういう事か。 大きいゴブもいる集団だとしたら、近接戦闘をしたら、ターリア・ワーリア・ヤーレアでは確実に負ける。 エーレアでも危ない。 私たちでやっと互角ということか」
「うん、大体そんな感じ。 付け加えれば、ここの騎士たちでもきっと互角。 ラミアの里の男たちなら、たぶん勝つと思うけど、ってところ」
セカンがそう答えると、サーブが続けて言った。
「やはりそうか。 実は私も今日の訓練を見ていて、ちょっとそんな風に感じていて、どうしようかと考えていたんだ。
もっと、訓練を厳しくして、個々の戦闘力を上げないと、今までより強いゴブだと対抗できないんじゃないかって。 そのためにはどんな訓練をした良いのだろうかと、悩んでいたんだ。 やはり私たちがアリファ様のような訓練を見せなければ、そこまでの訓練はできないんじゃないかと」
サーブが「アリファ様のような」と言ったとたん、友たちとナーリア全員の動きがピタッと止まってしまった。
「サーブ、アリファ様はすごく優しい人だけど、こと訓練となったら解っているだろ」
ケンが恐れるように言った。
「分かっている。 不死身のアリファ様だ」
「「「「また、あの地獄をやるのか!!!!」」」」
アルフさんがデイヴに聞いた
「アリファ様って、あの片手の不自由なラミアだったか?」
「ああ、兄貴はアリファ様が本気で訓練をする時の怖さを知らないんだ。 アリファ様は決して倒れないんだ。 そしてアリファ様が本気で訓練に出ている時は、アリファ様が訓練が終わって倒れるまで、訓練は決して終わらず、俺たちは立ち上がり続けなければならないんだ」
アルフさんは良く分からないようだ。
次の日、ターリア・ワーリア・ヤーレア、それに友たちは、すぐにラミアの里に戻り、僕たちナーリアだけが残った。 そう空を飛んで、地形の確認をし、図書館の地図を更新するためだ。
まずは飛び慣れている僕とレンスが飛んでみる。
頭の中の地図と下に見える風景を重ねてみる。
「川の位置が変わっているのは分かっていたけど、こうして上から見てみると、結構昔川だった場所って分かるもんだな」
「うん、アレク、私もちょっと驚いた。 地面ではもう川がどこを通っていたかなんて、注意して考えながら見ないと、その痕跡さえ見落としてしまいそうだけど、上から見ると一目瞭然」
レンスがそう言うと、モエギシュウメが、
「そんなの驚くことなの?」と不思議がっている。
いつも上から地形を見ているハーピーにとっては、当たり前過ぎてなんでもないことなのだろう。
「地図の訂正は、いつも上から見ているハーピーにしてもらった方が正確になると思うのだけど、やっぱり自分でも上から見て確かめておくのは重要な気がするな。 ミーリア様が言われる通りだ」
「うん、私もそんな気がする」
さて、次はナーリアとサーブの番だ。
二人ともお遊びで低い位置で少し飛んだことがあるが、まともに空を飛ぶのは初めてだ。 サーブはウキウキしているが、ナーリアはちょっと緊張しているみたいだ。
「ミーリア様から、戦場となる場所を空から見て、地形をしっかりと把握しておくことは、指揮官としてとても重要なことだと言われたのだけど、アレク、飛んでいる時にどういう所を見れば良いの?」
「ナーリア、そんな緊張しないで、気軽に飛んで、上から周りを見ればそれで良いと思うよ。
地図は頭の中に入っている? 川の位置は変わっちゃっているけど、それも含めて地図と現在の違いを確かめると良いかもしれない。
後で地図はハーピーを中心にして直そうと思うけど、出来た地図を見て、頭の中で、その地図の場所がどんな場所だったかを思い出せるようになれば、地図を見て頭の中にその地形が想像できるようになると良いと思うのだけど、まずは空から見える風景を楽しむのが第一歩だよ」
「なるほど、辺りの地形を空から見て、しっかりと把握しておくと言うことが、重要だというのだな。
それじゃあ、エレオン、僕もお願いして良いかな。 僕も空からこの辺りの地形をしっかり把握しておくことにしよう」
僕たちのすることに興味を持ったアルフさんも、僕たちと一緒に砦から出てきて、僕たちのすることを見ていた。 必然的に、ブマーが護衛として一応ついてきて、クラッドさんに付いているエーレルを除いたエーレアたちもやって来ていた。
ナーリアとサーブは、空を飛んでも別段騒いだりはしなかった。 サーブはなんだか空を飛ぶのを堪能したようだ。
「空を飛ぶと、随分と辺りを見渡せるようになるのだな。
前に父祖様のお墓に初めて行った時、周りを見渡せるのに感動したのだが、空を飛ぶとそれよりも広く見渡すことが出来て、とても素晴らしかった。
それにみんなの姿が下に小さく見えるというのも、なんだか不思議な気分だった」
ナーリアは生真面目に地図と実際の違いを細かく見比べて来たようだ。 降りてくると、即座に地図のところに行き、僕とレンスも呼んで、
「川の位置だけじゃなくて、ここが違っていたよね。 ここも地図とは違うよね」
と確認している。
うん、普段ぼーっとした感じでいることも多いナーリアなんだけど、こういうところは本当に真面目なんだよね。
さて、問題のセカンとディフィーになった。
二人は初めてではないので、空を飛ぶための準備などは簡単に自分で行ったのだが、顔はやはり緊張している。
もう一人、もっと緊張しているのがいる。 ブマーがアルフさんに勧められて、空を飛んでみることにしたのだ。 ブマーは完全に初めての経験でガチガチだ。
3人が地上を離れた途端、ブマーの絶叫が響いた。
「うわぁ〜っ、落ちる。 落ちる」
「ブマー、落ち着け。 暴れるな。 落とさないから大丈夫だ」
アライムがブマーの担当になったのだが、焦って声を掛ける。
「そんなこと言ったって、うわぁ〜」
「だから暴れるな。 本当に危ないぞ。 落としはしないが、爪で怪我をするぞ」
なんだかブマーの騒ぎで、この3人は終わってしまった。
降りて来たディフィーとセカンに、今回の感想を聞いた。
「なんだかブマーの騒ぎに呆気にとられて、自分の怖さは忘れてたわ」
ディフィーがそう言うと、セカンも
「2度目で慣れたからか、森の木の上じゃないから、高さがあまり気にならなかったからか、今回は大丈夫だった。
でも、アレクたちも最初はブマーみたいだったの?」
僕が答えようとしたら、アライムが答えた。
「一番最初のアレクたち3人の時には、デイヴが一番声を出して、キースが一番怖がったのだけど、ブマーほど酷くはなかったぞ。
ブマーとお前ら2人が酷いんじゃ、群を抜いているな」
それを聞いて、ブマーを介抱していたエレオとエレドが2人してクスッと小さく笑ったのだが、気にしていたディフィーは目敏くそれを見咎めて言った。
「笑ったあなたたちも飛んでみなさいよ」
結局エレオとエレドだけでなく、エーレアとエーレファも飛んでみることになり、エレオとエレドとエーレアの絶叫が響いた。
エーレファは、前のセカンと同じように降りて来ても固まったままだった。
覚えのあるセカンが網から手を外してやったりして言った。
「大丈夫だった?」
「うん、ちょっとシミを作ったかもしれないけど、なんとか我慢できた」
どうやらセカンの姉妹は、緩い傾向があるようだ。




