321. 合同訓練
「ターリア・ワーリア・ヤーレア、次の本格的な戦闘では、あなたたちはそれぞれに10人づつの若い子たちを率いていることになると思う。
それを常に念頭に置いて、今の訓練に望んで欲しい」
「つまりそれぞれ自分の側に二人づつの若い子がいて、その二人の面倒をみながら戦闘することになるのよ。
あなたたちも、そうだったと思うけど、特に初めての戦闘では、頭が真っ白になって何も考えられず、闇雲な行動に走りがちだわ。 それも考えて自分の行動を見直して」
砦には、途中で休憩をしながら来たのだが、思いの他に午後の早い時間に着いてしまった。
とはいっても、もう着いた時間から合同訓練をするという余裕はないので、どうしようかという話となったのだが、セカンとディフィーが時間があるなら、最近は若い子や子供たちの近接戦闘訓練に追われていて滞っている、クロスボウ部隊を使った戦闘訓練をしたいと言い出したのだ。
二人はクロスボウ部隊を使った戦闘方法というか作戦を何パターンか考えてあるようだが、急にその動きを実際にできる訳ではない。 作戦の動きをみんなに伝え、それぞれの動き出しの合図を決めておく、ナーリアの指揮に従って、決められた行動を一斉に速やかにすることが、戦果を上げるにも、自分たちの危険を減らすためにも重要なのだ。
今回行う訓練の作戦は、騎兵によって敵を釣り出し、予定の場所に敵が来たところで、クロスボウによる遠距離からの集中射撃。 その混乱を衝いて、騎兵の突撃と即時撤退。 その間によるクロスボウ部隊の場所の移動。 騎兵撤退後のクロスボウによる近距離からの集中射撃。 その後の騎兵に守られながらの全面撤退。
ここまでを実際にやってみることになった。
僕たちは全員ナーリアを中心にして整列する。 ターリア・ワーリア・ヤーレアの列が一人一人の間が開いているのは、若い子がそこに加わっていると仮定しているからだ。
ナーリアが自分の二輪の馬車の上から、飾りのついた槍を振り、声を出す。
「作戦開始、騎兵隊行け!」
先頭をサーブ、少し間を開けてレンス、その後を僕たち人間も少し間を開けて馬で駆けて行く、決められた位置まで行くとサーブはUターンしながら矢を放ち戻って来る。 レンスも同じ行動を取るが、その位置は少しだけこちら側に近くなる。 僕たち人間も次々に同じ行動をとり、徐々に位置が近くなっていく。
その騎兵隊の行動の間に、クロスボウ隊はそれぞれ所定の位置への移動し、クロスボウを射る準備を終えていた。
騎兵最後尾の僕が矢を放ち、戻って来ると、ナーリアがまた槍を振った。
「ターリア、放て!」 「ワーリア、放て!」 「ヤーレア、放て!」
ほぼ同時に、3箇所から号令の声が響き、矢が同じ場所に飛んで行った。 それを見た瞬間にボブの大声が発せられた。
「騎兵隊、突撃!」
僕らは矢の刺さった辺りに、今度は槍を構えて突進して行く。
この突進には今度はレンスは参加しないで、ディフィーと交代している。 レンスの双剣はこんな場合には向かない武器だから、薙刀のディフィーと替わったのだ。
さっきまでは、指揮官のナーリアをセカンとディフィーが護衛し、その後ろにモエギシュウメとウスベニメが伝令役として控えていたのだが、今度はセカンとレンスが護衛役だ。 ハーピーの男たちは空から戦場の監視をしている。
僕らが突進して少しすると、またナーリアの槍が振られ、僕らは撤退する。
その間に場所を変えて近づいていたクロスボウ隊の間を駆け抜けて、その後ろに待機すると、またクロスボウ隊の「放て!」の声が響き、続いて、「急いで撤退」の命令が出る。
クロスボウ隊の撤退を見届けて、少し後に、ボブが命令した。
「騎兵隊も撤退」
訓練が終わった後、全員で検証をする。
「一番の問題は、やはり槍を振るだけじゃ、指示がきちんと伝わらないことよ。やっぱり太鼓や鉦といった音の合図がないとむりだわ」
ナーリアが一番にそう言った。
「確かにそうだな、上から見ていてもそう思ったぞ。 みんなナーリアの合図を見るためにナーリアの方ばかり見ている。 あれは不味い。
それに、訓練では敵がいないから良いけど、敵がいて戦っている状況だと、特に騎兵が突進した時なんかは、ナーリアの方を見ていないので、指示が届かないだろうと思う」
アライムもそう感想を言った。
「それに、クロスボウ隊の移動だけど、今日のは速過ぎるんじゃないか。
若い子たちを引き連れての移動だとしたら、今回の速度は出ないんじゃないか」
ハライトの言葉にセカンとディフィーも肯いていた。
やはり平地での戦いに若い子を含めたクロスボウ隊というのは、なかなか難しいようだ。
僕たちの訓練は、砦の前の平地を舞台に行なっていたから、砦の騎士たちに取っては絶好の見ものだった。
アルフさん、クラッドさん、そしてブマー、そしてどういう訳かエーレアたちはナーリアたちの後ろで揃って観戦していたし、砦の騎士たちも砦から出てきたり、砦の上部から見ていたりしていた。
「こんな実戦を想定した訓練もしているのですね。
特に僕は撤退しながら戦うという作戦が、とても斬新でした」
アルフさんが見た感想をそう言った。 ナーリアがそれに答えた。
「私たちラミアは数が少ないので、単純に戦いに勝つだけではなくて、出来る限り損害が少ない形で勝ちたいんです。 そのために色々考えているのですけど、なかなか上手く行かなくて」
「あんたたちはなんで後ろでのうのうと見ていたのよ。 参加しなさいよ」
ディフィーがエーレアたちに文句をつけていた。
「ええっ、私たち今の訓練だと、全く出番がないというか、何処に参加したら良かったのよ。 私たちが出る場面なかったじゃない」
「いや、あったわよ。 実戦だったら、ナーリアの前に展開して、騎馬隊が敵に向かったら押し出すのよ、それでゴブの気を引いて注意を集めるのよ。
最後の撤退の場面も、クロスボウ隊を守る位置に着いて、もしもの時の近接戦闘に備えるべきだわ」
「それって、一番危ない損な役回りじゃない?」
「何言ってるのよ、あなたたちは私たちと同様に上位なんだから当然じゃない。
それにターリア・ワーリア・ヤーレアは若い子を率いていて、その安全を確保しなくちゃいけない。 男たちと私たちは騎兵として直接にゴブに対峙している。
当然、あなたたちがするべき役割じゃない。 何か文句ある?」
エレドはつまらない一言をディフィーに言ったことを、失敗したと思ったようだ。 他のエーレアたちに、「何をしているのよ」という顔で見られている。
それはそうだろう。 作戦参謀に睨まれたら、どんな役を振られるか分かったものじゃないのだから。 ディフィーがそんなことで、作戦の中の役割を振り分けたりはしないだろうけど、それでも考えてしまうのは仕方ない。
その晩は、砦にみんなで泊まったのだが、十分に用意しておいてくれたのだろう。 食事は豪華だったし、泊まる部屋などもきちんと準備されていた。
ただまあ僕らは、汗を水で流さねばいけないのが、ちょっとだけ辛かった。 温泉を引くまではそれが当然だったのに、辛いと感じた自分たちにちょっと驚いた。
僕たちナーリアは、アルフさんたちの暮らす区画に部屋が用意されていた。 少し話が伝わっていたようで、デイヴやキースも普通に普通の騎士の区画に部屋が用意されていたというか、特別扱いされていなかったので、僕らの部屋が特別に意図されていたのだろう。
夜、僕たちはアルフさんの執務室に集まって、話をした。
翌日は朝から、今回の目的である合同訓練だ。 教官はもちろんサーブだ。 エーレアたちだけでなく、アルフさんたちまで、訓練に参加するようだ。
僕たちは剣・槍・弓の武器、全身の防具、それに加えて模擬戦用の木剣など、全て装備して整列する。 変わったところでは腰に竹製の水筒まで付けている。
集まった砦の騎士たちは防具は装着していたが、武器は木剣しか持たずに出てきたのがほとんどで、水筒を付けている者は一人もいない。
「完全武装で参加するようにと言っておいただろう。 なんだその格好は。
少し時間をやる。 全員きちんと完全に武装して来るように。 ラミアの里の騎士を見れば、どんな格好で来れば良いのか理解しただろう。
それからなんで水筒を装備していないんだ。 水を持たずに戦場に出るなんてあり得ないだろう」
訓練が始まる前に、もう砦の騎士たちはサーブの厳しさを実感したようだった。
サーブに一番怒られたのは、エーレアたちだった。
ここでは訓練をさせる側に立っていたはずのエーレアたちも、砦の騎士たちの緩さに知らずに侵されていたのか、水筒を装着していなかったからだ。
サーブの訓練は、今回は若い子たちが参加していないので、手加減抜きの厳しいモノだった。
砦の騎士たちは完全武装で走らされただけで、不平の声を上げたそうだったのだが、その訓練を課しているサーブ自身も同様に自分でも訓練しているのだから、文句のつけようがなかった。
そして実戦形式の訓練にたどり着く前の基礎訓練が終わった時点で、ほとんどの者は体力が尽きて、動けなくなっていた。 まだそのまま続けられたのは、僕たちラミアの里の人間と、ナーリアたちだけだった。
「まだ、こんなに差があるの」
エーレファがまたショックを受けた顔をしていた。 エーレアたちの中では、体の大きさも追いついたので、ある程度追いついたと錯覚していた部分があったらしい。
「仕方がないな。 動けない者は少し休憩して私たちの訓練を見ていろ。 休んで回復したら訓練を続けるぞ」
サーブはそう言って、とりあえず疲れて動けない砦の騎士たちとエーレア以下を休ませることにして、僕らは軽い訓練を続けることになった。
僕はセカンと訓練をする。 僕は図書館で調べた足の運びを覚えて実際に使う訓練をする。 それに合わせるセカンは、その僕の足の運びによる間合いの幻惑を破ったり、惑わされない練習をしている。
側で見ていると、単にいくらか場所を動いているだけに見えるのだけど、僕とセカンは真剣そのものの訓練なのだ。 気を抜いて、セカンの間合いに迂闊に入ると、即座に木刀が急所に一瞬のうちに迫るのだ。 逆にセカンが僕の間合いを読みきれない時には、僕もセカンに、寸止めだけど一撃を放っている。
「なんだか面白いことやっているなあ」
キースが僕とセカンに声を掛けてきた。 デイヴも一緒にやって来た。
二人は剣の腕が僕らの中では一枚上だから、きっと二人で組んで訓練をしていたのだろう。
「ああ、俺はセカンに間合いを悟られないようにする足の動きの訓練」
「私は、間合いを惑わそうとする敵の間合いを見切る訓練」
「なんだか難しい顔して、互いに真剣に向き合っていたな。
その訓練て、強くなるのか?」
「デイヴ、アレクと立ち合ってみれば良い。 そうすれば分かる」
僕はデイヴと立ち会ってみた。 僕にとっても丁度良い。 ここのところずっとセカンに付き合って、セカンとばかり立ち合っていたので、自分が幾らかでも強くなっているのか、それとも進歩がないのか、全然わからなかったのだ。 弱くなってはいないと思ってはいるのだけど。
デイヴと立ち合ってみたら、何故か剣の実力が一段上のはずのデイヴに簡単に勝ててしまった。
セカンとの立ち合いに比べれば、デイヴの間合いを外して、自分の間合いに持ち込み、打ち込むことは簡単だったのだ。
「何故だ? そんなにアレクは急激に強くなったのか? それとも俺が弱くなったのか?」
「デイヴ、落ち着け。 お前は弱くなってはいないから。 それにアレクが急激に剣が上手くなった訳でもない。 デイヴ、お前の方が今でもずっと剣の振りの速度も力も上だぞ」
「それなら、なんで俺はこうも簡単にアレクに負けたんだ?」
「お前、アレクを舐めてかかったな。 単純にかかっていったけど、あれだけお前の間合いを外されて、アレクの間合いで打たれたら勝負にならないよ。
そうか、足の運びで間合いを幻惑していたんだな。 なるほど、そういう強くなり方もあるんだな」
「ああ、俺はセカンの居合の練習に付き合っていただけだけどな。
セカンが付き合ってくれれば、俺も強くなると言うから、それじゃあって付き合っていたのだけど、いくらか強くなったかな」
「幾らかじゃなくて、随分強くなったと思うぞ。 なあ、デイヴ」
「ぼろ負けした俺に聞くな!」
僕はセカンのいう通り、セカンの練習に付き合ったことによって、自分が強くなったことを知り、なかなか良い気分になったのだが、この後、疲れが少し回復して動けるようになったエーレア以下と砦の騎士たちで、立ち合いをさせたのだが、そこで大きな問題があることに、僕たちは気が付いてしまった。
僕たち人間がエーレア以下と立ち合うと、当然のことながら僕たちは彼女たちに負けることはない。
正直に言えば、ラミアの里で僕たちが勝てないと思うのは、ラーリア様たち、ミーレナさん、アリファ様、そしてイクス様くらいのモノだろう。 ミーリアの上5人とサーブとセカンが互角という感じで、その下にミーリアの下5人とナーリア、レンス、アレア様、ロア様、ほんの少し劣ってディフィーという感じで、それ以外では勝負にならない。
そこはやはり、晩秋からの特訓があったし、実戦もあったし、ストームさんの特訓もあった。 自分でもこれだけ訓練させられればと思いはしたが、他の上位メンバーや、ナーリアたちの姉妹たちも、人間の男とだいたい互角に戦える程度の近接戦闘力はあると考えていたのだ。
しかし実際に立ち合わせてみると、ここでなんとか互角に持ち込めているのはエーレアたちだけで、他は技術的には負けていないと思うのだが、人間の男との立ち合いだと力負けしてしまい、勝てないことが分かった。
エーレアたちも、アルフさん、クラッドさん、ブマーのように元から実力が知られている人間には今では負けている。
どうやら、セカンとディフィーの考えていた作戦の、根本的な前提が狂ったようだった。




