320. 砦に姉妹たちと人間が行くことに
「サーブ、一度みんなで砦まできてくれないかなぁ」
エーレアがそんな風にサーブに声を掛けた。
「何だ、エーレア。 みんなでって、ナーリアみんなでということか?」
「えーと、もっと沢山。
出来たら、私たちの姉妹全員と、人間の男たちくらいの規模で」
何となく横で聞いていた僕らは、そのエーレアの言葉に驚いて、みんな注目した。
ナーリアが、代表して真剣な顔をしてエーレアに尋ねた。
「エーレア、砦で何か起こったの?
私たち姉妹全員と、男たちみんなって、つまりクロスボウ隊と騎馬兵を必要として、私に指揮を執って欲しいと、アルフさんから要請があったということ?」
セカンとディフィーも神経を研ぎ澄ました顔をしてエーレアの言葉を待っているし、メリーと一緒にいると思っていたレンスもいつのまにか僕の横に来ていた。 アンも少し離れた場所から耳を澄ましている。
「あ、いや、そんな緊迫した話じゃないんだ」
エーレアは僕たちの様子に、とても狼狽た。
「もうエーレアが変な風に勿体ぶっていうから、何か大変なことがあったのかと思われちゃたじゃない」
「エーレアは自分が嘘つき呼ばわりとまではいかないけど、自分の言葉を砦の騎士たちに信じてもらえなくて、それを証明したいだけなのよ」
エレオとエレドがそんなことを言ったが、まだ要領を得ない。
「でも、砦の騎士たちの訓練が甘いのは事実。 エーレアが騎士たちに喝を入れたいと思う気持ちは分かる」
エーレファがエーレアを弁護した。 エーレルが説明してくれた。
「この前、エレクが砦に来た時に、騎士の訓練に参加してもらったのだけど、砦の騎士たちは最後の実戦形式の訓練で、全くエレクに敵わなかったのよ。
エレクと戦う前にもうヨレヨレで。
その結果を指摘してエーレアは、『ラミアの里のサーブが行う訓練は、砦の訓練より厳しいからだ』と砦の訓練が甘いことを指摘したのね。
でもその時はエレクが謙遜して、『僕は防具などを持って来てなかったので、ほぼ空身で、それまでの訓練を受けていたからハンデがあったからだよ』と言ったのね。
その為に、ラミアの里のサーブが行う訓練はもっと厳しいという言葉を、本気にはしないで、単なる挑発の言葉として、砦の騎士たちは受け取っちゃったという訳」
「なるほどな、エレクは砦の騎士たちの体裁を慮って、そんな風に少し逃げ道を作ったというか、配慮したんだな。 そしたら砦の騎士たちはそれを本気にしてしまって、訓練が捗らないという訳か」
僕は何となく理解が出来た。
「ここでの訓練に参加したことのあるアルフさんとブマーは、エーレアの言うことを本当だろうと理解出来るのだけど、他は今ひとつ実感として分からないのよ。
それだから、同じ騎士であるここの男たちが自分たち以上の重量を身につけて、走ったりだとかの基礎訓練をした上でも、しっかりと最後の実戦形式の訓練までこなすことをまず見せたい。
ただ、ここの男たちやナーリアたちが強いのは、砦の騎士たちには知れ渡っているから、それだけだと他は訓練をこなせていないだろうと思われるかもしれない。
だから、姉妹たちも一緒にちゃんと訓練をこなしていることを見せて、彼らに喝を入れて欲しい」
エーレファがそんな風に、エーレアの依頼をしっかりと説明した。
「まあ、招待の訳と何でそんな人数なのかは解ったけど、私に言われても困るぞ。 私にはそんな計画に返事をする権限はないぞ」
「それは解っている。 きちんと私たちからラーリア様にお願いするつもりだ。
でもラーリア様にお願いする前に、近接戦闘訓練の私たちの教官であるサーブに先に知っておいてもらうことが筋だと思ってさ」
「うん、まあ、そういうことなら理解した」
途中から話を聞いていたイクス様が言った。
「その計画なかなか良いんじゃないかしら。
あなたたちの姉妹は、ナーリアたちは色々と動いていて、エーレアたちも砦には行っているけど、他は今までのラミアの行動圏以外をほとんど知らないわ。 今後のためにも砦の場所も知って、自分たちだけでも動けるようにしておくのは良い事だわ。
それだけじゃなく、砦の騎士たちと顔見知りになると、それにも意味があると思うし、砦の騎士たちがナーリアたちやここの男たちが行く事で、訓練に真剣に取り組むようになって実力が上がれば、それはとても良い事だわ。
私からも、ラーリアたちやミーリアに、行かせることに賛成だと伝えておくわ」
僕はイクス様も賛成したことから、次の日にはラーリア様から許可が下りて、具体的な日を決めたりの打ち合わせが行われるのかと思っていたのだが、実際に許可が下りるまでには3日も掛かった。
ラーリア様はその許可をエーレアたちに与えた後、何故か僕たちナーリアだけを集めて話をした。
「今回、砦に行く事を許可したのだが、お前たちにはもう一つ任務を与えることにした。
何かというと、お前たちが知っていることを、アルフレッド殿、クラッドリング殿、そしてブマーの3人にも伝えてくるという役だ。
その3人の秘書の様な役にエーレアたちはなっているので、エーレアたちにも他には話さないことを確約させて、教えても良いことにする。
お前たちが話すのが良いか、兄弟や幼なじみであるデイヴとキースが話す方が良いか迷って、先に二人に声を掛けたのだが、二人は自分たちだけならともかく、エーレアたちもいて話すのは話しにくいから、お前たちに任せるとのことだ。
その3人に話す事は領主殿とエルシム殿にも先に伝えてある。 お前たちが得ている知識は何でも話して構わない」
3日という時間が掛かったのは、その打ち合わせをしていたからなのだろう。
許可が下りるとすぐにエーレアたちは砦に向かった。
砦との間はエーレアが砦に滞在する機会が多くなってからは、モエギシュウメかウスベニメが連絡係として行き来することが多くなったのだが、エーレアたちが砦に行った次の日には、もうエーレアたちから「準備は出来ているから来てほしい」という連絡が届いた。 今回はモエギシュウメが砦との間を往復した。
「また、随分と素早いなぁ」
サーブがちょっと驚いたように言うと、ディフィーが
「許可が下りたことは、エーレアたちが行く前に連絡されているから、クラッドさんあたりが準備にすぐに取り掛かってくれてたんじゃないかしら」
と応えた。
「とにかく、それではすぐに動いた方が良いだろうから、砦に向かう日を決めよう。
私たちは今現在はすぐにでも動けるけど、すぐには動けない者もいるかも知れない。
私はちょっと回ってきて、みんなの予定を確かめてくるよ」
「うん、サーブ、そうした方が良いと思うよ。
ケンとハキは瓦を焼いていたりするとダメだし、ヤーレンとヤーレアたちも農作業の都合があるかも知れない。
ターリアたちも誰かに木の伐採を一緒にと頼まれているかも」
「アレク、分かっている。
他にもボブも弟子が居て、火事場の炉をどうするかの問題があるだろうし、同様にバンジも弟子たちのこともあるだろう。
もっと他にも、色々都合はあるかも知れない。 みんなそれぞれに責任を持って仕事を抱えていて、緊急事態でもなければ急には動けなくなっているのは私も理解している」
サーブは本当に最近は以前とは違い、色々と物事を考えているようになった。
僕は一つみんなに提案をした。
「ハーピーにも砦に来てもらわない?」
「私たちは訓練に参加するという訳にはいかないわ。
何で私たちまで一緒する必要があるの?」
モエギシュウメがそう言った。
「ハーピーにも戦闘訓練にも参加して欲しいという訳じゃないんだ。
目的は訓練に関係しているんじゃなくて、僕らに砦周辺を空から見せて欲しいんだ。
前にミーリア様が言っていただろ、『指揮官にとっては、地形などを空から確認出来るのは、とっても参考になる』って。
だから、ナーリアも空から見ておく必要があるだろ」
「確かに言われればその通りだと思うけど、私、実はまだまともに空を飛んだことないのよ」
「そういえばそうね。 レンスは時々飛んだけど、ナーリアとサーブはお試しに、ここの前の庭で飛んでみただけで、まともに飛んだことないわね。
確かに良い機会かも知れないわ。 今の季節は防寒着も必要ないから、準備も簡単だし」
モエギシュウメがちょっと乗り気になった。
「もっと真面目な話をすれば、僕は真剣に地形を確認しておく必要があると思っていたんだ。
図書館にあった地図によると、砦は昔は川に面して建てられていた。 と言うか、川が今とは違って、ずっと大きく蛇行して、砦の前を流れていたらしいんだ。
その流れが変わって、今では川だった場所は埋められてしまっている。 砦としての防衛の立場なら、川だったり、せめて川の跡がそのままの方が良かっただろうにと僕は思うのだけど、普段は埋めてしまって広場になっている方がずっと役に立つというか、生活がしやすいから、今の様になってしまったんだと思う。
図書館の地図がそのままだと、現状に合ってなくて、役に立たない。
だから今回、上から見て、地図の現在と違っている部分をできる限り直して、今現在のなるべく正確な物にしておきたい。
セカンとディフィーは、森にゴブを入れないことを考えているけど、だとしたら、ゴブが向かう方向は砦の方だからね」
僕がそう話していると、セカンとディフィーの顔がどんどん暗くなっていった。
「アレク、もしかして私たちも飛ばそうと考えている?」
「ナーリアは自分も飛んで上から見てみる必要があると考えているみたいだし、サーブも飛んでみるのを楽しみにしているようだから良いと思うわ。
でも私とセカンまで飛ぶ必要がある?」
セカンとディフィーが飛ぶことを嫌がって、そう言うと、僕が答える前にレンスが言った。
「必要あるに決まっている。
作戦を担当する二人が戦場になるかも知れない場所の地形をきちんと把握して、地図の正確性を高めておかないなんて選択肢があるはずない」
セカンとディフィーの二人はすごく嫌そうな顔をしたが、レンスの言葉に何も反論できないので、黙るしかなかった。
ちょっと可哀想に思ったのか、モエギシュウメが二人を慰めるように言った。
「今度はきっと大丈夫よ。
私たちもあなたたち以外のラミアと、もう何人も一緒に飛んだから、ラミアと一緒に飛ぶことに慣れたわ。
それに初めてと2度目は違うわ。 今度は大丈夫よ」
ディフィーが小さな声で答えた。
「うん、今度は何が何でも叫び声を上げないように我慢するわ」
セカンがもっと小さな声で言った。
「私も絶対に漏らさない」
今回の砦には、そんな訳でハーピーも行くことになったのだが、僕たちの中ではアンとメリーは一緒には行かない。 流石に行ってもすることがないからね。
僕と友たちはそれぞれ騎馬で行くことにしたし、ナーリアたちもそれぞれの自分の軽馬車だ。 それ以外は馬車で向かおうと思ったのだが、考えてみたら、僕たちが全員それぞれに馬を使っているので、御者がいなかった。
仕方がないので、誰かが御者をするのかと僕は思ったのだが、サーブは良い機会だからと、ターリア、ワーリア、ヤーレアは走って行くことになった。
こう一言で言うと、それぞれに馬を使う僕と友たちや、馬車を使うナーリアたちが楽なようだが、実際は違う。 完全武装して、槍、剣、弓、それに稽古用の木刀まで装備させられて馬に乗って行くのは、逆に結構大変だったりするのだ。
ナーリアの軽馬車にはそれに加えて、空を飛ぶ時に使う網が括り付けられている。 みんなそれぞれの荷物を背中に背負ったり、腰に付けたり目一杯していて、網を積む余裕は、唯一二輪の軽馬車であるナーリアにしかなかったからだ。
「ああもう、何としても早々に私も馬車の御者を覚える。
それが出来れば、荷物背負って走らずに済んだのに」
ワーリアが途中休憩した洞窟の前でそう宣言した。 エーレアたちも同じことをここで決意したと聞いていたので、ちょっと可笑しい。
「お願いよ。 早く覚えて。
残念だけど、私たちはどう考えても、馬車の御者を覚えている暇がない」
ヤーレアが残念そうにそう言うと、ターリアもそれに同調した。
「私たちも悔しいけど、習っている暇がない。 ワーリアたちに、馬車の御者は仕方ない任せる。
でも、サーブたちが乗っている一輪の軽馬車は、何としても時間を作って、私たちも乗れるようになる」
「うん、決意するのは良いと思う。
でも、こっちはエーレアたちも却下されてた。 まだ馬の数が足りない、無理だと」
レンスがターリアの希望を、容赦無く簡単に打ち砕いた。




