314. 鶏での失敗
「えっ、兄貴がエーレルにメロメロだって、嘘だろう?」
「キース、嘘じゃないよ。 僕だって自分の目を疑って、2人に気付かれない様に目を擦って、見直してみたくらいだよ」
「本当か、あの厳格なクラッドリングが、エーレルにか」
キースだけでなく、デイヴも信じられない様だ。
エレクの持って来た情報は、僕らとナーリアの姉妹たちの中で大きな驚きを持って、あっという間に広がった。
中でもキースの兄のクラッドさんがエーレルに夢中になっているという話は、ちょっと最初は信じられない話だったのだが、本当だとエレオンも保証して、大きな話題となった。
「エーレルには本当に驚いたけど、それはもうクラッドさんにくっついた時の驚きがあるから、もう良いわ。
エレオとエレドがブマーを尻に敷いているというのは、いかにもありそうだから、それは何とも思わないわ。
私が驚いたのは、エーレアとエーレファがアルフさんの補佐役をしているということよ」
ディフィーがそう言ったのに対して、サーブが全くその通りだと頷いて言った。
「その通りだ。 エーレファはまだ分からなくはない。 でもまさかエーレアまでがそんな役をしているとは。
私の姉妹がそんなことが出来るとは、考えたこともなかったよ」
ナーリアたちもその通りだと同意しているけど、僕とアンの2人は同意してしまって良いのかどうか分からずに、ちょっと困った。
エーレアたちは、エレクが戻った次の日の夕方に戻って来たが、その日は遅かったので何もなかったが、その翌日にはエレクを追い回していた。
「エレク、あなた私たちの砦でのことを、みんなに言いふらしたわね。 ブマーが『絶対に秘密だぞ』って念を押してたじゃない」
「エレド、あれはね、照れくさいだけで、本音はお前らのことを惚気ていて、みんなに言いふらして欲しいっていう意味だったんだよ」
エレク、いくら何でもそれはちょっと強引で都合の良過ぎる言い訳じゃないか、と僕らはみんな思ったのだが
「そうなの、そうだったの。 エレオ、あのブマーの言葉は本音では、私たちのことを惚気ていたんだって」
「そうなの。 ブマーがすごく必死にエレクに言っていたから、ちょっと気になっていたんだ。 そうか、本音では私たちのことを惚気ていたのか。 ウフッ、あんなに一生懸命惚気ていたのね」
エレクは難を逃れたし、エレオとエレドは何だか幸せそうだから、そういう事にしておこうと、僕たちの間では目配せが行き交った。
一緒に追いかけていたエーレア、エーレファ、エーレルも何だかなんとなく曖昧なまま、エレクを追うのをやめてしまった。
この砦でのエーレアたちの様子を聞いたラーリア様たちは、最初は面白がっていたのだが、少し真剣な顔をして言った。
「ま、なんと言うか、悪いことではないな。
エーレアたちも里にいたのでは決して得られない立場というか役割を得て、違った成長を見せるかもしれないな。
砦に行っても、訓練は自ら率先して、きちんとこなしてもいる様だから、もう少し砦に行くことを大目に見てやることにしよう」
エーレアたちは、その言葉に喜んだだけではなく、今までとは違う姿を見せ始めた。
エーレアは訓練に関して、その内容についてサーブに色々と尋ねる様になり、サーブが参考にした図書館の本も聞き出して読んだりしている。 エーレファも図書館で本を読み漁っているが、アルフさんの副官・補佐官の役を果たすための知識をとにかく必要としている様だ。
エレオは騎士の必要とする教養を調べ、エレドは前にセカンとディフィーが調べていた騎兵についてと、小部隊の指揮・運営なんてことを調べている。
エーレルは、歩兵の運営と兵站に関してを調べている。
そして、それぞれが得た知識を夜に部屋で互いに披露しあって、全員の知識にしているそうだ。
それから料理に関して、とても熱心に覚えようとしている。 食事の準備の時間になると、アンに付き纏う様な感じで、料理を覚えようとしている。
砦にも料理人はいるだろうにと思うのだが、エーレアたちはどうも砦の料理人をあまり信用してなくて、自分たちで作って、アルフさんたちに食事をさせたいらしい。
もう一つエーレアは望んだことがあったが、それは却下となった。
エーレアたちは、セカンたちが使っている一輪の馬車を自分たちも使いたいと願ったのだ。 しかし、これはそもそもにおいて馬の数が足りていないので、エーレアたちに馬を充てがうことが出来ないのだ。 砦に行くのに馬車を使わせていることだけでも、かなり優遇されているのである。
さて、鶏の飼育なのだが、子供たちは最初の6羽の世話で慣れていたのか、すぐに自分たちの仕事として慣れていった。
今では、子供たちの中で順番の1グループ5人は今まで通り僕らの家の方に来て、メリーと一緒に働き、他の30人は集落近くに作られた鶏小舎で働く。
ラーリア、ミーリア、そしてミーレアには、子供たちが鶏の世話の仕方を教えることになり、僕は間違いがないか監督するだけにした。
上位の面々は、そのひっくり返った状況をとても楽しんでいて、それはそれで良かったのだが、それだからだったのか、子供たちのことを過信してしまったようだった。
ある時、子供たちが大いにやらかしてくれた。
子供たちは毎日、鶏の小舎の中や、その周りの囲いの中に撒く草を、近くの草原から刈ってくるのだが、集落近くの火種草の群生地を丸々刈り払ってしまったのだ。
鶏小舎に撒かれている草を見て、上位の火を使うラミアがそれに気づいた時には完全に後の祭りだった。
子供たちが草刈りを僕らの家の近くでしていた時には、メリーが一緒で、メリーはみんなと一緒に火種草や食べられる草、何らかの有用な草などを採っていたので、そういった草が生えている場所は避けていた。 他の子供たちはそんな経験がないから、草ならなんでも良いだろうと、近くの草を構わずに採っていたのだった。
火種草で問題が発覚した後で調べたら、それ以外にも何種類かの有用植物の群落を、子供たちは刈り払ってしまっていたことが分かった。
幸い火種草は、干してある予備がまだあったし、他にも採れるところがある。
それよりも本当は傷薬や、血止め草の群落を刈り払ってしまったことの方が問題なのだが、幸いにもまだ時期が早くて、大きく育つ前だったので、今からでも新しく出る葉が間に合うだろう。
「とりあえず大事にならなくて良かった。 傷薬や血止め薬を作れなくては、今はもう在庫が少ないから大問題になるところだった」
「はい、ラーリア様。 私もこんな問題が起こるとは、全く予想外でした。 ナーリアたちの家の方での世話では何も問題が起きませんでしたから、考えてもいませんでした」
「メリーはナーリアたちと一緒に、火種草をはじめとした様々な草を採りに行くからな。 メリーは何も考えずに、そういった場所は避けて、草を採りに連れて行っていたのだろう」
「メリーは知らないうちに優秀になっていたということですね。 それはともかく、今後の措置をどうしましょうか?」
「そうだな、また子供たちに有用な植物を刈り払われたのではかなわないからな。 メリーを含めた子供たちに、そういった有用な植物に関しての知識を、レンスに教えさせることにしよう」
「レンスですか?」
「そうだ、レンスだ。 なんだミーリア、知らなかったのか、レンスは鉄鉱石がある場所を知っているだけではないぞ、たぶんラミアの里で今はレンスが一番植物の分類には詳しいぞ。 薬用の植物だけでなく、アンに教わって食べられる草にも詳しいし、花にも詳しいぞ。 それにレンスが教えるなら、子供たちはみんな、楽しく覚えられるだろう。 何しろメリーがレンスにはとても懐いているからな」
そんなことで、レンスは子供たちに色々な草について教えることになった。 子供たちはラーリア様が予想したとおり、レンスが教えるととても素直に色々な草を覚えていった。
子供たちにすれば、レンスは今までに戦闘訓練の時もサーブを手伝って教えてくれていたから、レンスに物を習うのはいつものことなのだ。 レンスはこれによって子供たちに直接接する機会が増えて、レンお姉ちゃんはサーお姉ちゃんの次に子供に人気があるお姉ちゃんになってしまった。
レンスは一番最初に、火種草、傷薬になる草、血止め薬になる草の三種類を教え、「この三つの草は、必要とされる時以外絶対に取っちゃダメ」と徹底した。
それだけでなく、レンスは地図を用意して、子供たちがそれら三種の草を見つけたら、それがあった場所を記入するようにした。 この子供たちによる記録は、後で活用され、それらの草を必要とする時は、子供たちがすぐに採取して来てくれるようになるという、とても有益な副産物を生んだ。
その三種の植物を子供たちがしっかりと覚えると、レンスはその後は時々という感じで子供たちに植物について教えたのだが、食べられる植物とその名前、花の咲く植物とその名前という風に教えていって、子供たちが見分けられる植物を増やしていった。
それらはそれまでのラミアの里ではほとんどか、全く知られていなかった知識が多く、子供たちは周りの様々なことに目を向けるようになるという結果も生んだ。
子供たちの問いにレンスは答えなければならなくなり、結果としてレンスは図書館通いをして、子供たちの問いの答えを探すこととなり、とても多くの博物学的知識、自然科学的知識を得ることとなった。
それから少しして、また集落近くの鶏には問題が起こった。
今度は何が起こったかというと、雄の一羽が肉食の小動物に喰われたのだ。
夜に鶏の小舎に忍び込んで、騒ぎを起こし、騒ぎに気がついたラミアが駆けつけた時にはもう、一羽が連れ去られた後だったのだ。散乱した羽と足跡でその状況は明白だけど、夜のことだったので、鶏はあまり抵抗も出来なかったようだ。
僕らの家のモノよりも、竹で作った網目が小舎も、囲いも目が粗かったことが問題視された。 また、家の小舎は厩の近くに作られていたが、集落に近い方に馬はいないのも影響があったかと思われた。
僕は家の方には肉食の小動物が現れなかったのは、冬の間も温泉もあったりして家の方には常にラミアがたくさん出入りしていたので、家近くでは肉食の小動物が逃げてしまっていたのではないかと推測した。
逆に集落近くは朝夕に多少出入りがあるだけで、冬はラミアをあまり見かけないので、小動物の行動範囲が集落から近いのではないかと思う。
今までラミアは狐その他の肉食の小動物も狩りで獲っていた。
今までのラミアの狩りは毛皮を得る為であったし、それらは質の良い毛皮ではある。
だが、僕たち人間がラミアの里に来てからは、狩りが毛皮を得るためではなくて、食べるための肉を得る為という理由も出来た。 肉を食べるなら、肉食の小動物は臭みが強くて旨くない。
その上、肉食の小動物は、武器や防具を作る素材とはほとんどならないので、ゴブとの戦いがここであった為、それらの素材となる鹿や熊、大鳥を狩ることに重点が置かれ、肉食の小動物は対象外だった。
そんな訳で、肉食の小動物がラミアの集落近くで数を増していたのではないかと思う。
小舎や柵の網目はすぐに作り直され、家のと同じように細かくされた。
それだけでなく、アーレア、アーロア、そしてアーリアによる、里を中心としてある程度の距離の、徹底した肉食の小動物の駆逐が行われた。
この駆逐に対する熱の入り方と徹底は、僕からしてみるとちょっと熱が入り過ぎているんじゃないかという感じだったのだがアレオ様に言わせると、
「そんなの当然のことじゃない。
せっかくラミアの里でみんなが数日おきにだけど、卵が食べれるようになったのよ。 その邪魔を狐風情にされてたまるものですか」
とのことだ。
どうやら卵が大好物のラミアはナーリアに限らないらしい。
採れた卵は、アレオ様が言っていたとおり、ラミアの里の全員に公平に順番に与えられることとなった。
今までは、なかなか手に入らなかった鳥の卵が、鶏を飼うことによって、頻繁に手に入ることとなったのだ。
このことはラミアたちには、当たり前だがとても歓迎された。
そして、卵が食べられることの陰になってしまってあまり目立っていないのだけど、鶏の糞と撒かれた草、それから馬の糞と交換した敷き藁は集められ、発酵堆肥が計画的に作られた。
その肥料を利用することにより、ラミアの作っている作物は、ヤーレンの指導で作り方も洗練されたこともあり、収穫量もずっと上がっていたのだった。 耕作地も作っている作物の種類も徐々に増えてもいた。




