312. メリーが責任者
風呂を出て、すぐに僕は叔母さんとエーデルを連れて、一度共同住宅に行った。
もう夕暮れが近い時間になっているので、今日中に叔母さんたちが町には戻れないから、ラミアの里に泊まらねばならない。 僕らの家にも泊まれないことはないけど、今では共同住宅の部屋が何部屋も空いているから、無理をしなくてもそっちに泊まれば良いからだ。
でも、共同住宅にはまだラーリア様を筆頭に残っているから、出来れば暗くなる前に挨拶をさせておきたいと考えたのだ。
共同住宅に向かうのに、メリーがついてきた。 どうやらエーデルと仲良くなって、離れたくなかったようだ。
共同住宅の中に、メリーが先に走って入って行った。
少し遅れて僕たちが中に入ると、メリーはミーリア様に抱かれる格好で、ラーリア様に抱かれたシャイナを構っていた。 そのメリーの頭をラーリア様が撫でていた。
「ああ、アレク。 そちらがお前の叔母君たちだな。」
「はい、ラーリア様、叔母と妹、本当は従姉妹ですがエーデルです。 今晩はここに泊まってもらうことにしたいんで、とりあえず先に挨拶にだけ連れてきました。 それで今日は他の方は?」
「みんな、と言っても残っているのは私を含めて5人だが、それぞれの仕事に出てしまっているんだ。 まあ、それは良い。
アレクの叔母上殿、ようこそラミアの里に参られた。 私が一応、今このラミアの里の代表をしているラーリアといいます」
「私はミーリアといいます」
ミーリア様はメリーを下ろして叔母さんに挨拶すると、さりげなく今度はシャイナをラーリア様から抱きとり、メリーに目で促して少し離れた。
メリーはエーデルの手を引いてミーリア様に近づいていって、エーデルにシャイナを紹介して2人でミーリア様に抱かれたシャイナをかまっている。
「アレクが大変お世話になっています」
「いえ、どちらかというとアレクをはじめとした人間の男たちに、我々ラミアがお世話になっている、というの真実なのです。
我々ラミアは男たちにどれだけ感謝しても仕切れないと私は思っています。 そしてアレクを含めた彼らのこの里への貢献は現在もどんどんと積み重なっているのです」
「いえ、先ほどお子さんを抱かれていましたが、そのお子さんも」
僕が答えた
「うん、ボブっていただろ、僕の仲間の。 あいつとラーリア様の間の子供だよ」
「同じように、アレクの子供、私にとっては孫に当たる子供も見せていただきました。 それだけでも私は感謝にたえないのです。
女として、皆様がどれだけアレクたちのことを大事に思って、子供を作ってくれたのかは理解できます。 有難いという思いで一杯です」
「それは、私たちラミアの都合も関係するので、そんな感謝していただくことではないのです。
知っての通り、ラミアは今では下手をすると滅んでしまうかもしれないくらいの少ない種族となってしまっています。 その今、こんなに優秀で素敵な男たちがいれば、その子がほしいと思うのはラミアの、いえたぶん女の本能ですから」
ラーリア様がちょっと赤くなってそう言うと、おばさんは
「他のアレクの友たちはともかく、アレクがそんな風に思ってもらえる対象なのが不思議なような、嬉しいような、誇らしいような、色々な気持ちが混ざるのですが、アレクの妻たちが『私も来春には子供を産みます』とすごく意気込んでいるのには驚きました」
おばさんがちょっと可笑しそうに言うと、ラーリア様は苦笑ぎみに
「それはアレクの妻だけでなく、他の者の妻となっている者も、みんなそうなのです。 来春はこの里は赤ん坊で大騒ぎとなることでしょう」
そう言ったのだが、その時ラーリア様は最初その光景を想像しているのか、とても楽しそうな嬉しそうな顔をされた、そしてその顔が、なんとしてもそういう未来を作るぞ、という決意に満ちた厳しい顔に変わっていった。
僕はそのラーリア様の心の中の思いの変化がありありと分かったのだが、叔母さんもその変化を興味深く注意して見ていたみたいだ。
「おっと、失礼しました」
「いいえ、本当にそういう光景が私も見たいです」
「その時には、ぜひまた見にきてください。 いえ、その時に限りません。 もうこのラミアの里は、人間に閉ざされた所ではありませんから、気軽にちょくちょく子供の成長を見にでも来てください」
僕はその後、メリーに2人にイクス様の部屋の場所を教えてきて欲しいと頼んだ。
「アレク、馬車で何を運んできたの。 かなり荷物を持って来たみたいだったのだけど」
解放されたミーリア様が僕にそう言ってきた。 ミーリア様は叔母さんの馬車を見かけたんだな。
「ああ、あれは、叔母に鶏を運んできてもらったんです。 叔母の家は鶏を飼うことを仕事にしているので」
「鶏って?」
「あ、ミーリア様も知りませんか。 卵を産ませるのに特化した飛べない鳥なんです。 ラミアの里でも飼えないかなと思って。 飼えれば、卵は採れるし、矢羽の不足を少しでも解消できるかな、と」
「それはナーリアが大喜びをしたことだろう」
聞いていたラーリア様がそう言って、僕たちは爆笑した。
「話は違うけど、アレク、ちょっと聞いて。
次は私たちの家の番なのだけど、バンジが私たちの家は『最後にしましょう』と、後回しになっちゃったのよ」
ミーリア様がちょっと膨れっ面でそう言うと、ラーリア様が事情を説明してくれた。
「私たちの家はボブの仕事の都合で、鍛冶場の近くにしようと思っているのだが、常に火を使っているだろう。 それだから、バンジは竹の仮屋根では危ないということなのだ。 だから、今、ハキ、ケン、ダイクたちが中心になって作っている、瓦を焼く窯が出来て、瓦で屋根が葺けるようになるまで待とうということなのだ。
ボブのところにも早く弟子を受け入れろと、ボブの家の方から催促が来ているのだが、そういう訳で弟子の住む家も作れないので、待ってもらってもいるのだ。
鍛冶はラミアにはちょっと難しいから、弟子がくれば生産性はずっと上がって、ラミアの里としても嬉しいのだがな」
ミーリア様が今度は困っているというか、辟易とした顔で言った。
「もうアレアはともかく、ロアがうるさくて仕方ないのよ。 『なんで私たちだけ後回しなんですか』って。
私だって、理由は納得できるけど、感情的には同じだっていうのに」
僕はラーリア様とミーリア様に、後でまた叔母がここで泊まるのに送ってくるけど、他のまだ共同住宅にいるラーリア様たちなどに、よろしく伝えてくださいとお願いして、家に戻った。
家に戻ると、すでに夕食の準備が出来ていて、楽しく食事をした。
叔母さんたちが寝るために共同住宅に行こうとすると、メリーが、
「私も今日は向こうで泊まる」とついて行くと主張した。
どうやらエーデルと仲良くなって、一緒に居たいらしい。
イクス様が、今日はラーリア様とミーリア様が共同住宅に居ると聞いて、
「ラーリアとミーリアが居るなら、メリーが向こうに行って泊まっても心配いらないから構わないんじゃない」
と助け舟を出して、アンが許可した。
メリーだけでなくエーデルも一緒に喜んでいたから、本当に仲良くなったのだろう。 エーデルもひとりっ子だからな。
次の日、帰るまでの間に僕は大急ぎでバンジのところに馬車を持って行って、少し無理を言って、馬車の車輪を新型の車輪に取り替えてもらった。
新型の車輪は、売り物にしようとバンジがもう幾つか時間を見つけては作って溜めていたのだ。 取り替えは僕ももちろん手伝ったのだけど、バンジの人間の奥さんであるチョナが手伝ってくれなければ、とても間に合わなかった。 彼女はバンジの師匠の娘だというだけあり、僕などよりもずっとバンジの仕事の手伝いを上手にして、仕事を素早く正確に進められるようにしていた。
「叔母さん、もし上手くここでも鶏を飼えるようになったら、今度はちゃんとお金を払って、もっとたくさん鶏を貰うからね」
「何を言っているんだい。
今回だって、車輪を貴族様が使うようなのに替えてもらったし、塩漬けの肉やら、毛皮やら、それからその車輪に使う油も貰って、鳥の代金よりずっとたくさん貰っているじゃないか。 それに家族のところに分けるのに、なんで代金がいるんだい。 そんなこと気にせずに、何羽でも持っていけるように、今年は繁殖を多くするようにしておくから、いつでも言いなさい。
あんたたちが取りに来てくれてもいいからね」
叔母さんはそう言って、笑ってラミアの里を去って戻って行った。
帰って行く時、メリーが大泣きをして、エーデルが「また来るからね」と慰めていた。
鶏の飼育は初日に、ナーリアたちが朝、鶏の鳴き声に驚いたくらいで、あとはどうということもなかった。
馬たちも2-3日はちょっと落ち着かなかったが、それを過ぎると近くに鶏がいることに慣れてしまった。
鶏の餌をどうしたら良いだろうかという問題があったのだが、少なくとも今のところは、ナーリアたちの食べ残しの果実の皮などと、後は毎日入れ替えている草の中の食べられる草と、一緒についてくる虫を食べることで用が済んでいるみたいだ。
鶏は狭い小屋の中で飼うよりも昼間は広い場所に出しておく方が、病気になったりしないので、小屋の周りにサーブ、ナーリア、レンスに手伝ってもらって、少し広めに柵を作り、昼間はそこに放すことにした。 そこにも少しは草も撒くのだが、鶏は土を少し突いて、土の中のミミズを食べたりもしているようだ。
1週間もすると、鶏も環境に慣れたのか、最初の卵を産んだ。
ナーリアがとても喜んだのは当然なのだが、最初の卵を誰が食べるかが問題になり、やはり記念すべき初めてだから、みんなで食べることになったのだが、流石にラミアにとって栄養になる生では上手く分けられないので、茹で卵にして、等分に切って食べた。 ほんの一口だったが、何だかみんな感激の面持ちで食べていた。
それからはたった5羽の雌鳥なのだが、平均すれば2日に1回は1個または2個の卵を産むようになった。
「鶏って、こんなに卵を産むの?」
とナーリアは驚いたり喜んだり、なかなか忙しい。
鶏の世話は、最初は叔母の家での経験がある僕が主に行ったが、鶏の世話なんて、朝、水を新しい物に取り替えてやって、餌をやり、小屋の外に出してやって、
それから草を刈ってきて新しいのと取り替える。 そして夕方には小屋の中に入れる。 それらの作業中に、卵がないかを確認して、あれば確保する。
何も難しいことはないので、すぐに誰でもできるようになったし、本当にメリーが率先して、鶏の世話をするようになった。
とはいっても、メリー1人ではまだちょっと毎日取り替える草を刈ってくるのは無理なので、誰かしらがメリーに付き添って鶏の世話をしていた。
そこにメリーに強力な助っ人が現れた。
隔日で訓練に来ている子供たちが、すぐに鶏に気がつき、メリーが鶏の世話をしていることを自慢すると、「自分たちも鶏の世話をしたい」とせがんできたのだ。
メリーが鶏の世話をするのを見ていたラーリア様が
「まあ良いんじゃないか、させてみても」
と、子供たちが鶏の世話をすることに乗り気になり、流石に35人も一度に人手はいらないので、5人の1グループづつ、毎日順番で世話をしに来る事になった。 子供たちは全部で35人だから、7日で全員が一回りという事になる。 子供たちは夕方に鶏を小屋に戻した後に、温泉に入って良いという特典を付けたからもあってか、鶏の世話は大好評だった。
全員の2回目、つまり14日は、草刈りには誰かしらが付いて行って、注意したのだが、問題なく出来るようだし、メリーが慣れて、子供たちに的確な指示を出して作業するようになったので、3回目からは全てメリーと子供たちに任せることとなった。
そんな訳で、僕たちの家は、最近は朝僕たちが、朝の散歩というか、毎日の軽い狩りを終えて戻ると、もう子供たちが来ているようになった。 最初メリーは僕らが戻ってきてからの朝食を、一緒に大急ぎで食べると鶏の世話に行っていたのだが、大急ぎ過ぎて身体に良くないとイクス様が注意し、朝食はメリーは先に食べるようになった。
何しろやって来る子供たちは、朝起きるて身支度をすると、食料係に貰った朝ご飯を持ったまま、家までやって来るのだ。 ま、ラミアは今は果実が主な食事の時期になったから、それでも困りはしないのだが。
そういった訳で、鶏の世話は子供たちがしてくれるようになったのだが、流石に雨の日は子供たちにさせるのは危ないので、僕たちが行うことにした。 雨の日は、メリーを含めて子供たちはお休みだ。
この結果を受けて、ラーリア様は子供たちが行う仕事として、鶏をもっと大々的に飼うことを決定した。 ラミアの里の洞窟近くに雌鳥を100羽に、雄鶏を10羽飼う鶏小舎が作られた。
叔母さんは予想していたのか、帰る時に話していたように、鶏を用意してくれていた。 最初に60羽、その20日後に50羽の鶏がラミアの里に届けられた。
最初の60羽の時にはおじさんがエーデルを乗せて、日帰りで届けに来た。
おじさんは本当にとんぼ返りだったのだが、エーデルは残って、5日後に僕が送って行く事になった。 ひょんな事で、一年以上ぶりに叔母さんの家に帰ることになった。 この旅は往復で4日掛かったのだが、今回はアンとメリーも同行させた。 一番はメリーがエーデルと仲が良くなったからだが、アンにも人間社会が懐かしいだろうから、という気持ちがあったのだが、アンは旅の最中、
「ナーリアたちが一緒だったら、もっと楽しかっただろうなぁ」
と、ばかり言っていた。
鶏の数は僕たちの食べ残しで6羽の鶏が飼えているのだから、ラミア全体ならこの数は余裕で大丈夫だろうと、ラーリア様が決めたのだが、ラーリア様は冬の餌に関しては全く忘れていたようで、後から青くなったみたいだ。
大急ぎでヤーレンに相談したら、麦も米も去年とは比べ物にならない量が取れるから、その悪い部分というか、人間やラミアが食べれない部分も出るし、それ以外の雑穀も今年は植えているし、これからも計画があるから大丈夫でしょうと言ってもらえて、胸を撫で下ろしていた。
僕は雨の日の世話は誰がするのかと思っていたのだが、雨の日の世話はラーリア、ミーリア、ミーレアの手が空く者でするのだと決まっているそうだ。
僕は知らなかったのだけど、エーデルが滞在していた時に、エーデルとメリーにその最上位3グループは鶏の世話の仕方を習ったのだという。
ちなみにヤーレンは鶏を飼う事になって、鶏糞が混ざった堆肥が出来ると、とても喜んだ。




