310. 子供たちの訓練と急な訪問
エーレアたちの砦との行き来は、任された仕事に支障のない範囲で、ということであったのだが、実際にはすぐに支障が出た。
サーブは若い子たちとの訓練と、子供たちの訓練を交互に請け負っているのだが、若い子たちとの訓練は自分たちナーリア以下、姉妹たちのグループが全て参加していて、それに加えて人間の女も参加している。
つまり実質的には若い子たちの訓練ということになっているが、サーブは教官として若い子たち、ナーリアの姉妹たち、そして人間の女たちという3つの集団の近接戦闘訓練を指導している。
こちらは人数は多いとはいえ、まあ問題なく行われている。 サーブが訓練となると鬼なのは、姉妹たちと人間の女たちには知れ渡ったが。
問題は子供たちの訓練の方で、こちらはサーブが教官で、それをエーレアたちが手伝うことになっていたのだが、そのエーレアたちが砦に行くと不在になってしまうのだ。
流石に一応は、エーレアたちは砦との連絡を密に取るためということになっているのだが、不在で子供たちの訓練にいないことには変わりがない。 逆に子供たちの訓練に必ず参加することにすると、隔日で7日中3日なので、それでは砦に行く時間は作れないから、仕方がないと言えるかもしれないけど。
かと言って、サーブ1人で子供たちに戦闘訓練が出来るかというと、それは絶対に無理な訳で、結局ナーリアとして手伝うこととなり、エーレアのその役はやはりナーリアの下での補助的なモノに変えられてしまった。
つまり僕たちもサーブと一緒に子供たちの訓練を監督することになってしまったのだ。 色々と忙しいのに、と思うのは僕だけではなくて、みんなからもとても不評だった。
「私が悪いのか。 私は悪くないぞ。
文句はエーレアたちに言ってくれ」
サーブはみんなに少し非難の目を向けられて、そう弁明した。 うん、別にサーブが悪い訳ではないよな。
「私たちも子供たちとの時間を持つのが嫌な訳ではないのよ。
ただ、他の仕事が溜まっているから、出来ればそっちを優先させたいだけ」
ディフィーがそう言ったが、うん、その通り。
でもまあ、僕たちが教えることになって、とても喜んでいる者もいる。
メリーは子供たちの訓練に加わることになったので、その時間がみんな一緒でとても喜んでいる。
メリーは人間が1人だけなのだが、そんなことは全く気にしていないみたいで、同じ年頃のラミアと一緒に訓練している。 ただそこは足と尻尾の違いから、勝手が少し違うことも時々あり、アンと僕が教えることも多い。
それから子供たちに教える場所なのだが、僕たちがなるべく時間を取られない場所ということで、家の庭先ですることになった。 大人のラミアの訓練をしようとするには狭過ぎてとても出来ないが、子供たちの基礎訓練くらいならどうにかなる。 それから訓練時間も子供たちの体力が続かないので、短いので、家の庭で行うのは僕らにとっては時間のロスが少なくなるからだ。
そうして子供たちの訓練をしていたら、子供たちが僕たちを呼ぶのに、子供たちみんながメリーに倣ってしまい、「サーお姉ちゃん」、「ナーお姉ちゃん」、「センお姉ちゃん」「ディーお姉ちゃん」「レンお姉ちゃん」となってしまった。 僕のことも「お兄ちゃん」なのだが、アンのことは何故か「メリーのお姉ちゃん」となった。
ここまではまあそんな物か、と思っていたのだが、子供たちはミーレナさんをも「レナお姉ちゃん」、そしてイクス様をも同様に「イクス母様」と呼ぶようになった。
「私、なんだかとてもたくさんの子供を持った気分だわ」とイクス様は面白がっていたのだが、1人大喜びをしている人が居た。
「リアおばちゃんもみんなの訓練に参加してもいいかな?」
「いいよ、リアおばちゃんも一緒にやろうよ」
ミーリア様は子供たちに手を引かれて歓迎されて、とても嬉しそうな顔をしている。
「あの、ミーリア様も参加されるのですか?」
「サーブ、何か問題ある? サーブの訓練は随分と成果を上げているみたいだから、私も参加して色々と参考にさせてもらうわ」
「あの、とってもやりにくいのですけど」
「そんなこと言ってないで、さっさと訓練を始めなさい」
ミーリア様は、子供たちの体力増強のための遊びの鬼ごっこやらかけっこやらを、本当に楽しそうに子供たちと一緒になってやっている。 そしてミーリア様は子供たちの訓練に毎回参加するようになった。
ラーリア様とイクス様は面白そうにそれを眺めて、ミーリア様が子供たちの訓練に参加することを許している。
他のラミアたちも皆それぞれの仕事に励んでいるのだが、一部常にそれぞれの仕事を免除されている者がいる。
何をしているのかというと、そう家作りだ。
順番の家作りに当たった者だけは、それぞれのグループに課せられた仕事よりも、家作りを優先して良いことになったのだ。
そんな訳で、次々と新しい家が建てられている。
最初は10日以上かかって一軒の家が建てられていたのだが、最近では一週間くらいで一軒が建っている。 何故スピードが増したかというと、バンジのところに人間の弟子が3人加わったからである。
3人は最初はバンジの作業小屋の近くに、本当に寝るためだけの掘立小屋のような物を作り、そこに寝起きするようになったのだが、バンジの妻たちが、それではあまりに可哀想だと、みんなが手伝ってある程度きちんとした小屋を作った。 そして食事はもちろんミーレナさんとチョナが中心になって作った物を、バンジたちと一緒に食べるようになった。
彼らはバンジを若頭領と呼び、バンジの妻たちを「姉さん」と呼んだのだが、ここでもラーリナ様だけは例外で「ラーリナの姉様」と呼ぶので、ラーリナ様はちょっと残念がっていた。
でも弟子が3人加わったおかげで、建築するスピードはとても上がったのだが、問題は建材の調達だ。 他のグループも手伝いはしたのだが、ターリアたちが忙殺されてしまったのは仕方がない。 下手をすると休みの日まで、「お願いだから、木を伐ってくれないかな。 もちろん手伝うから」と催促を受けていた。 流石に断ったそうではあるが。
もう一つ、建てられた建物だが、残念ながら屋根はまだ仮の竹屋根でしかない。 今現在、瓦を焼くための窯を作るための煉瓦を、炭窯を利用して作っている真っ最中で、まだ本格的に屋根を葺けないのだ。
麦をもう刈ったので、麦藁を使って屋根にすることはできるのだが、藁は床に使用したいという希望が多くて、屋根に利用することは避けられたのだ。
もう少しでラーリア様たちの番が来るので、ラーリア様はちょっとウキウキしている感じだ。 それを一番喜んでいるのはアレア様かもしれない。
「だって、ロアがすぐに私が6番なんてクジを引くから、と責めるのよ。 それなら自分で引けばよかったじゃないと反論するんだけど。 それも番が回ってくれば終わるわ」
ボブのところは妻の数が少ないし、ラーリア様、ミーリア様が僕らの家に来ていることが多いので、アレア様、ロア様、そして人間の妻のハンナもここのところ良く来るようになった。 そのハンナも嬉しそうだ。
「私たちの家はボブの仕事の都合があるから、鍛冶場の近くにするつもりだが、ボブにも弟子がすぐにでも来たいということだから、その者も暮らせるような作りの家を建てて欲しいとバンジに注文しているんだ。
私たちはバンジのところのミーレナみたいに、人間の食事の世話までできるラミアがいないし、そもそもみな忙しくしているので人手が足りないので、食事などの生活一般がハンナにほとんど全て負担がかかってしまう。 そこだけが心配なんだ」
ラーリア様がそう言うと、ハンナが
「ラーリア様、大丈夫です。 任せてください。
私、元居た所では、10人くらいの職人たちに食べさせたりしていましたから」
と頼しげに請け負っていた。
ある日、昼過ぎに予定になくアライムがやって来た。
「アレク、さっき町に通じる道で、少し迷っている馬車を見つけて、こっちに来ようとしているのだから大丈夫だろうと思って声を掛けてみたら、お前の叔母さんだったぞ。
あまりにきちんと整った広い道に途中から変わったから、ちょっとびっくりして何か間違ったのかと思ったらしかったぞ。
迎えに行った方が良くないか」
僕はアライムに礼を言って、早速迎えに馬を走らせた。 その日は道の工事が予定されていなかったから、町までの道の途中で誰かに会うということもないだろうから、きっと心配になってしまったのだろうと思った。
馬を駆って町の方向に行くと、半分も行かずにおばさんの馬車に遭遇した。
すぐにおばさんも僕の姿に気がついたようだ。
「ああアレク、迎えに来てくれたのかい。
親切なハーピーさんが、この道で正しいと教えてくれたから、心配はしていなかったのだけど、お前が来てくれると、やっぱり安心するね」
「うん、あのハーピーはアライムっていって、友達なんだ。
僕のところにやって来て、おばさんが来ていることを教えてくれたから、こうして迎えに来たんだよ」
そんな話をしていたら、荷台の方から人が出て来た。
「お兄ちゃん、久しぶり。 良かった、本当にちゃんと生きていたのね」
「おっ、なんだ。 エーデルも付いてきたのか?」
「うん、お兄ちゃんのたくさんのお嫁さんたちって、やっぱり見てみたいじゃん」
程なくしてラミアの村に着いたので、何はともあれとりあえず家の方に来てもらう。
「こちらは僕の叔母さんと、僕の妹のようなその娘。 えーと、だから本当は従姉妹だな」
「アレクがお世話になっています。
何だか話に聞いていたけど、本当の話だったんだねぇ」
「嘘だと思っていたけど、本当だったんだ。
お兄ちゃんのお嫁さんたちって、本当に美人さんばっかり」
それからみんなも叔母さんとエーデルに自己紹介した。
ナーリアたちが自己紹介して、次にアンとメリーも自己紹介した。 そこまでは良かったのだが、モエギシュウメが自己紹介すると、おばさんに小声で
「アレク、ハーピーのお嫁さんがいることは聞いてなかったわよ。 どういうこと?」 と詰問された。
「うん、後で説明するよ。
今回のゴブとの戦いの後で色々あったんだ」
僕も小声で叔母さんに答えた。
そうこうしていたら、一段上がった部屋からイクス様がティッタを抱いて出てきて挨拶をした。
「私も妻の1人のイクスといいます。 そしてこの子がアレクとの間の子のティッティアです」
おばさんはすぐに駆け寄り、ティッタを覗きこんで言った。
「この子がアレクの子供なんですね。 まあ、とっても可愛いわ。
おばあちゃんですよ。
私はアレクの叔母ですが、姉がなくなってからはずっとアレクを育てていたので、息子だと思っているのです。 ですから、この子は私の初孫です」
エーデルは、ティッタよりもイクス様に気圧されたようだ。
「お兄ちゃん、こんなに年上の綺麗な素敵な人もお兄ちゃんのお嫁さんなの?」
叔母さんがエーデルを怒った。
「こらっ、何てこと言っているの。
全く礼儀知らずな娘ですみません。 恥ずかしい限りです」
「いえいえ、私がアレクよりずっと年上なのは事実ですから、礼儀知らずだなんて思う必要はありません。
聞いていらっしゃるかと思いますが、妻の1人となっているそこのレンスは私の娘ですから、お嬢さんが疑問に思うのは当然のことです」
「とんでもありません。 その辺の事情もアレクからしっかりと聞いています。
私としては、そこまでアレクの事を考えてくれたのだと、この子を見ても本当に感謝の念ばかりです」
母親とイクス様のやりとりを聞いて、エーデルがその言葉の本当の意味が解っているのかは判らないが、シュンとしてしまった。
アンがエーデルをちょっと離れた場所に引っ張って行って、「気にしなくて大丈夫」と慰めてくれた。
モエギシュウメもそこに加わって、
「ラミアもハーピーもだけど、人間も色々と今は問題があって、今までの人間の常識からみたら考えられないようなことになっているのよ。
でも決して悪いことじゃないから、ゆっくりで良いからアレクのためにも理解してあげてね」
と言っていたが、エーデルには全く訳が分からないと思う。
ナーリアたちはレンスも関わる話だから、どう言葉を発して良いか困っているみたいだった。




