308. ゴブと人間
「ゴブの巣を完全に潰せた可能性が低い。 それは分かった。
でもそれだけならエレクはここに俺たちだけを呼んで、わざわざラミアから離して話をしないだろ。 ゴブの巣を完全には潰せていないだろうという予想は、何も秘密にするべきことではないからな」
ボブがなんていうかリーダーらしい感じで、エレクに先を促した。
こういうところを見ると、ボブも大分復調してきたんだな、と思う。
「本題に入る前に、少しみんなの知識を確かめて、ゴブについての知識を共通させておこうと思う。
ボブ、必要な事なんだ、遠回りでまだるっこしく思うかもしれないけど、我慢してくれ」
「分かった。進めてくれ」
「人間は、ゴブだけでなく、ラミアやハーピーなんかもモンスターと言ってたけど、それとは別にラミアやハーピーについては亜人という言い方もしていた。 その亜人には他にエルフやドワーフ、ハーフリングといった小人種族も入るな。
でも、そこにはゴブは入らないんだ。 その理由は何かな?」
「そんなの当たり前のことだろ。 ゴブはこの世で最も有害なモンスターだ。
人の仲間に加えて良い訳が無いし、人の仲間として考えられたこともない」
ケンがそんな風に言った。
「そんなことはないよ。
例えば姿形だけで考えれば、ゴブはラミアや鳥型のハーピーより余程人間に近い、どちらかと言えば小人種族に近いんじゃないか。 普通のゴブは体の大きさが人間の半分くらいだからね」
「確かに、姿形は人間に似ているよね。
だからゴブを殺すのは、ちょっと子供相手にやっている様な感じで、嫌な気分になることがある」
ハキがそう言うと、ケンが
「何言ってるんだ。 相手はゴブだぞ。
ゴブは見即殺だろ。 1匹逃せば、それだけで被害がどんどん大きくなっていくんだぞ」
「うん、それを否定している訳じゃないんだ。
ただ、やっぱり姿形は人間に似ているという事を言いたかっただけだよ」
ハキがちょっと弁解した。
「姿形が人間や小人種族に似ているといっても、ゴブは亜人と呼ばれる種族とは違って、意思の疎通ができないからな。
やはり人の仲間にはならないよ」
ギュートがそんな事を言った。
「ギュートが言う『意思の疎通が出来ない』っていうのは、言葉が通じないという事だと思うけど、ゴブが全く言葉を持たないという訳でもないらしいんだ。
戦の中では確かに指揮をするゴブというのは居るし、そういったゴブは他のゴブに対して、何か声を発することがあるのは、よく見かけるらしいからね。 僕も見た事がある。
だから、ゴブは亜人を含めた人間と、少なくとも今のところは意思疎通は出来ないって感じかな」
「ハキは結局何が言いたいんだ。
ゴブを放置したら、すごい勢いで増えて、食料という食料、全てを食い尽くされて、人間だろうか、ラミアだろうが、ハーピーだろうが、他の亜人たちにしたって、完全に破滅だぜ。
何であれ、駆除しなければならないことには、変わりはないだろう」
ヤーレンがそう言った。
「そうなんだ。 ゴブの問題点はそこに尽きるんだ。
ゴブはその問題があるから、絶対的な駆除の対象で、人の仲間には絶対に入らず、最悪のモンスターとして駆除の対象になる」
エレクはなんでそんな分かりきった事をわざわざ再確認する様に話をしているのだろうかと、ちょっと疑問が広がった。
その雰囲気を感じてエレクは言った。
「じゃあ、改めて訊ねるけど、すごい勢いで増える、つまり繁殖力が高いという事だけど、それはどうして?
全てを食い尽くすというけど、それはどういう事?」
「繁殖力が高いというのは、二つ理由が考えられるかな。
一つは子供を持てる様になるまでの時間が少ない、つまり性的に成熟するまでの時間が短期間である可能性がある。
もう一つは、犬やウサギみたいに、一度の出産で多数の子が生まれる可能性もあるな」
デイヴがちょっと考え込んでから答えた、それからキースも答えた。
「なんでも食い尽くすというのは、ゴブが雑食で、何でも食うということかな」
「うん、2人の言う通りなのだけど、図書館の本の記述に依ると、ゴブの繁殖力の高さは、性的に成熟するまでの時間が短いことによるらしいんだ。
人間やラミアの場合だったら、少なくとも15年くらい、ま、少し無理すればもうちょっと短くても大丈夫だということだけど、そのくらいの時間がかかるのに、ゴブの場合は5年で楽に成熟してしまうらしい。 4年という説もある。 つまり人間やラミアの3倍以上の速度で数が増える訳で、その増え方の差が人間やラミアと比べると、そのままにしておくとどんどん差がついていく訳さ。
そしてゴブは、人間と同じで何でも食べる。 違うのは人間は自分たちで栽培もして、食料を増やすのだけど、ゴブの場合は一方的に採取するばかりということ。
それが他の生き物の食料も奪ってしまう結果となって、最悪のモンスターと言われることになっているのさ」
このエレクの説明にサーブが質問をした。 最近はサーブも色々と考えて、疑問を口にする様になってきた。 以前の筋肉バカというイメージが最近はどんどん薄くなっている。
「5年で成熟するといっても、その分寿命が短かければ、そんなに数が増えることはないんじゃないか?」
「うん、確かにそうなのだろうけど、ゴブの寿命は殺されるという事が無くて、食料があれば、人間の半分以下ということはないらしい。
それだけの時間があれば、増える方が余程多くなる」
うん、どう考えても最悪なモンスターだよね。
「もう一つ、ゴブが人間から忌み嫌われる理由がある。
ま、これはゴブの問題では無く、人間の問題であるのだけど、ゴブは人間を襲う。 もっと正確に言えば、人間の女性を襲う。
これが人間がゴブを忌み嫌う大きな理由の一つさ」
「人間の女性を襲うと言うけど、ゴブはラミアを襲わないの?」
アンが聞いた。
「ゴブは食料調達のためにラミアと争って、戦ったりするけれど、今問題にしている意味ではラミアを襲いはしない。
ラミアを襲っても子供はできないので、意味がない事をゴブも知っているらしい」
「それなら、人間の女を襲うと話しているけど、人間の男はどうなの?」
レンスも疑問を口にした。
「人間の男を襲うことはない」
「どうして? 人間の女との間に子供が出来るなら、人間の男との間に子供が出来てもおかしくないでしょ。
ハルオン様は、人間は他の種族とも子孫を残せる事が種族として特別なところだと言っていたわ。
現に、人間の男はラミアとの間に子供が出来るのだし、ハーピーとの間にも子供が出来ると聞くわ。 ゴブの雄と人間の女の間で子供が出来るなら、人間の男とゴブの雌との間にも子供が出来ても不思議ではないし、子供が出来るなら、同じ様に襲う方が普通に思えるのだけど」
ナーリアがもっと重ねて説明を求めた。
「うん、ここからが今日話そうとしていることの核心に繋がる話なんだ。
もう一度言うけど、ゴブに今話している意味で、人間の男がゴブの雌に襲われることはないんだ。
なんで襲われる事がないかというと、体格差が問題になるんだ。 もっと具体的に言うと、人間の男のモノは、ゴブの雌には大き過ぎて、普通は入らないらしいんだ。 だからゴブの雌に人間の男が襲われることはない。
それに、これは僕の想像だけど、もしなんとか妊娠出来たとしても、ゴブの雌が人間との子供を持つと、母体が耐えられないんじゃないかな。 きっと胎児の大きさも違うんじゃないかと思うからなんだけど。 耐えられなくて早産になってしまって、生き残れないという可能性もあるかな」
ナーリアはちょっと顔を赤らめたり、複雑な顔をしたりしたが、納得したようだ。 確かに人間とゴブの体格差があると、そういうことは考えられるな。 ゴブの雄のモノが小さくとも、挿し入れて放出すれば、妊娠させることには問題がないが、挿れられなければ、体内に放出させることは難しい、ほとんど無理だ。 そこをクリアしても母体が耐えられない。
「で、今の話のどこが今日の話の核心に繋がるんだよ」
と僕はエレクに言った。
「うん、これからそれを説明する。
他種族が人間を襲って子供を作るというのは、何らかの理由があるはずだと思う。
ラミアは女性型だけの種族だから、ちょっと極端だけど、ハーピーは襲うまではしていなかったけど、もうギリギリというところまで来ているだろ、種族維持という点で。
ゴブにも、人間を襲う理由はあるんだよ。 その理由はゴブと人間の混血のゴブは成長すると体格は人間並みになるということなんだ。
ゴブは体格差から、戦闘で負ける事が多いから、人間と同じ体格のゴブというのは、とても貴重で増やしたい存在なんだよ」
僕たちはちょっと想像してしまった。
僕たちと同じ体格のゴブが集団で襲い掛かってくる光景は、想像するだけでとても恐ろしい。 迫力からして全く違うし、物凄く過酷な戦闘となってしまうだろう。 体格が半分の普通のゴブでも恐ろしいのだ。
「それで今回の核心の話になるのだけど、潰しきれなかったゴブの巣の中には、人間との混血のゴブも居る可能性が高い。
そうすると、その混血のゴブが性的に成熟するであろう、これから4年後くらいにまた、今度は混血ゴブを先頭にして人間を襲ってくる可能性が高いという訳さ。
事実、過去の記録に依ると、ゴブの大量発生があり、人間が襲われて、人間の女性が連れ去られるような被害があると、その大量発生騒ぎが終わった後、4年後か5年後に、もう一度人間の町や村が襲われるという事例が多く記録されているんだ」
ちょっと沈黙があった。 ボブがまとめるような感じで言った。
「つまり、エレクが言いたいのは、今から4年後にはほぼ確実にまたゴブの騒ぎが起こり、その時には俺たちと体格が変わらない大型のゴブが先頭に立っているだろう、ということだな」
「うん、そういうこと。
そしてたぶん、ラーリア様たちもそれを考えて、戦闘訓練の強化をしようとしているんじゃないかと思うんだ。
今までと同じゴブだと思っていて、大型のゴブと戦うことになったら、絶対に大きな被害が出る。
そして考えたくないけど、大型になったゴブは、人との混血だから、普通のゴブより知恵が回る可能性があるよね。 だとしたら、もっと苦しい戦いになるんじゃないかな」
僕たちは考え込んでしまった。
「ちょっと待てよ、エレク。
なんで4年後か5年後って判るんだ。 ゴブがそのくらいで成熟するからということなのだろうけど、どうしてそれがそのまま人間を襲うことに直結するんだ?」
バンジが反論を始めた。
「それがだから、さっきの体格差だよ。
人間との混血の大型ゴブは普通の雌のゴブと子供を作ることが出来ないんだ。
それだから否応なしに、人間を襲いに来るのさ」
「だからそこが解らないんだよ。
人間と混血のゴブといったって、半分は雌のゴブだろ。 雌にも大型のゴブが居れば、体格差の問題なく、その雌のゴブと子供を作れるだろ。
ゴブの巣を完全には壊滅出来なかったとしても、大きな被害を出してゴブの総数が少なくなっていることは確かだろ。 そんな時に、もしかしたら知能も少し優秀になっている大型ゴブが、わざわざ身の危険の大きい事をするか?」
バンジの言っていることが理解できた。 確かにそんな危険を犯す必要がゴブにあるとは思えない。 数が減っているのだから、必要とする食料だって、ゴブの巣の周りだけで十分に確保できるだろうし。
「そこに関しては、私が説明する」
セカンがそう言った。
「とは言っても、私はこういう理由なんじゃないかと想像した、というだけの話で、本当かどうか判らないし、これは本に書いてあったことでもないから、私自身全然あっているか自信はない。
でも、きっとこういうことだと思う」
セカンはちょっと前置きを長く話、みんなの顔を見回してから続けた。
「大型の雌のゴブは、きっと性的に成熟する前に死んでしまうのだと思う。
というのは、大型の雌のゴブは、本当はまだ性的に成熟していないうちに、普通のゴブに成熟したのだと勘違いされて、交尾の対象になってしまうと思う。 体の大きさが普通の雌のゴブの大きさと変わらなくなれば、当然そうなる。
でも、性的に成熟していないのだから、子供ができる訳はなく、それだからまだ成熟していないのに、ずっと普通の雄の交尾を受け続けることになる。
私たちラミアでも、それはちょっと無理がある。 混血の大型になるはずのゴブの雌は、それで普通の雄に責め苛まれる形で消耗して、命を保つことが出来ないんじゃないかと思う。
それで混血の雄が性的に成熟した時には、それを受け入れられる雌はいなくなっているのではないかと思う。
私はラミアだけど、こう考えるのだけど、この考えを聞いて、アンは人間としてはどう思う?」
「うん、十分考えられると思う。
考えたくないけど、体の大きさが半分でそういう対象になるって、メリーくらいの感じで対象になっていることになる感じでしょ。 それで常にそういう意味で責められたら、絶対に死んじゃうよ」
アンが青い顔をして、セカンの言葉を肯定した。
「まあ、そこのところは本当のところは判らないのだけど、文献だと4・5年後にってことが過去に起こっていることが多くて、今回も起こる確率が高いということなのさ。
それで、今の問題は、ラーリア様たちも、一応戦闘訓練は大型のゴブに対処できるようにと思っているのだと思うけど、きっと、本格的にはどう対処することが出来るか、考えついてはいないだろうと思うんだ。
だから、戦いが終わっても何の説明もなく、これまでと同じ、いやそれ以上に戦闘訓練を課しているんじゃないかと思うんだよ」




