304. 回復?
何だかふわふわと暖かい物に包まれているような、なんとなく普段とは別の気持ちの良さの中で半分目が覚めた。 うん、普段目覚めた時に気持ちが良いのは、出す時の気持ち良さだよな、今の気持ちの良さは全然別物だから、まだ自分は夢の中で目が覚めた訳ではないのだな、なんて思った。 開けたと思った目に映るのは、見慣れた部屋の天井だから、現実に近い夢の中なのだろう。
両腕にはいつものことだが誰かの重みを感じる。 起きてくれないと、痺れが取れなくて、僕は起きれないんだよな、と思って片側を見るとアンの頭が見えた。 今日は片方はアンか、もう一方は誰だと思って反対側を見て、一気に目が覚めた。
えっ、この色はモエギシュウメ? ふわふわと気持ちが良いのは、モエギシュウメが身体をくっつけているから、その身体の羽毛が触れているから?
やはり僕はまだ夢を見ているという結論に達した。 うーん、僕はモエギシュウメに抱きついて欲しいという潜在的な願望があったのか。 確かに気持ちが良いな。
「アレク、目が覚めたの?」
アンが僕がびっくりして身動ぎしたから目が覚めたのか、上半身を少し起こして僕を覗き込むようにして言った。
「アン、夢の中も目敏いなぁ」
「アレク、寝ぼけているの? それともまだ意識が正常に戻っていないのかしら。 アレク、まだ誰か抱く? 私、今はダメだから、交代するよ。
モエギシュウメも起きて、アレクの目が覚めたわ」
モエギシュウメもアンに揺り動かされて、目を覚ました。
「アン、おはよう。 アレクもおはよう」
えっ、えっ、これってもしかして夢じゃなくて、現実なの?
「みんなも起きて、アレクが目を覚ましたわよ」
いつものように両足や頭の上で誰かしらが動き出す気配がする。
「それじゃあ順番だから、私がとりあえず刺激する。 でも流石に今朝は無理かなぁ、反応してないし」
そんなレンスの声が聞こえて、いつもの感触が襲って来た。
「ええっ、これって夢じゃなくて現実?
あれっ、なんでモエギシュウメが一緒にいるの?」
「私もアレクの妻の1人になることになった」
本当に急激に目が覚めた。
「レンス、ちょっと待った。 今は出してる場合じゃない。 まともに話をさせてくれ。 何がどうなっているのか、全く訳がわからない」
僕はこの状況に驚いて、一気に上体を持ち上げた。
次の瞬間、目の前が真っ暗になり、意識を失ってしまった。
次に気がついたら、ナーリアに膝枕されていた。 どうやらあまり時間は経っていないらしい。 みんな周りに居る。
「アレク、弱っているんだから、急に動いちゃダメだよ。 また目をまわしちゃうよ」
僕はやっとなんとなく現実の理解が追いついてきた。
今度はゆっくりと慎重に上半身を起こした。
「すまないけど、戦場から記憶が飛んでて、何がどうなって今ここに自分がいるのか理解できてない。
今日は何日? あれからどれくらい経ったの?」
「えーとね、アレクがまともな意識を失ってから、今日は4日目の朝だよ。
戦場で、意識がまともでなくなったアレクたちを、クラッドさんたち歩兵が連れてきてくれて、ちょっと仕方なかったからみんなで毒を注入して完全に意識を失わせて、それから里まで馬車で運んできたの。
そしてなんて言うのかな、アレクはそれから今まで夢の世界を彷徨っていたのかな。
えーと、今はまともだよね?」
ナーリアがリーダーとして、そう説明してくれた。
「うん、たぶんまともだと思う。」
なんとなく、少し記憶が蘇ってきた。
戦場のことをやり終えたところで意識が途切れていて、その後泣いたり吐いたりした気がする。 そしてそれを思い出したくなくて、誰かに縋っていたくて、とにかく次々とナーリアたちを続けざまに、気がつけばずっと誰かを抱いていたような気がする。
僕はいったい何をしていたんだ。 ちょっと顔が青褪めた気がする。
「えーと、僕、おかしかった時、何か酷いことしちゃったかな?
ごめん、記憶が曖昧で良くわからないんだ」
「ん、気にすることないぞ。
アレクは私たちを抱き続けていただけだ。
ま、私たちラミアに取っては役得のようなものだ。 アンが、えーと生理というのか、それになっちゃって私たちのようにアレクに抱かれるのに加われなくて残念に思っていたくらいだ」
サーブがそう言うと、ディフィーが
「残念に思ったのはアンだけじゃないでしょ。 アレクもさっき気がついただろうけど、モエギシュウメも残念に思っていたのよ」
「ハーピーは交尾期以外できないらしい。 ちょっと可哀想な種族」
「レンス、可哀想な種族って、生物としてはそれが普通なの、人間やラミアのように一年中いつでもできる方が珍しいんだからね」
「アレクの妻がまた1人増えたけど、ここまででお終い。
もう増やす必要はない」
「でもセカン、もう1人人間の妻を増やすっていうのは有りじゃない。 そうすれば私たちが子供を増やす機会が増えるんじゃない」
「ディフィー、その考え方は理解できるけど、そうするとそれだけ普段の順番も多くなって、回って来る回数が減るんだよ。
それを勘案すると、私はモエギシュウメでお終いが良い。
みんなはどう?」
セカンの問い掛けに、みんなが答えた。
「私は、うーん、やっぱりこれ以上順番待ちが増えるのは、ちょっと嫌かな。 セカンと同じで増やさない方」 ナーリア
「私は子供をたくさん作りたいから、その機会が多くなるであろう、もう1人人間の妻を増やす方だな」 サーブ
「私はもちろん増やさない方。 順番が遠くなるのは嫌」 レンス
「えっ、私もなの。 私は迷うよ。 他の人間が増えるのは、なんとなく嫌なんだけど、増やさないと、みんなからの早く妊娠しろプレッシャーを凄く感じそうな未来が見えるんだよね」 アン
この話は自分には関係ないという顔をしていたモエギシュウメにも意見を求められた。
「ええっ、本当に私もなの。
だって私はハーピーだから、順番にはほとんど関係ないから、知っての通り交尾期しかできないから、私の意見は必要ないと思うの」
「モエギシュウメ、間違っている。
別にアレクに口や手でしてあげるなら、ハーピーだっていつでも出来るはず。
それに順番は単純に出してもらうだけでなく、寝るときにどのポジションで一緒に寝れるかにも関係する」
レンスがそう説明すると、モエギシュウメは勢い込んで言った。
「そういうことなら、お終いの方で。
正直ラミアと違って、アレクに精を出してもらうのが楽しいかどうか、まだ私には分からないのだけど、くっ付いて寝るのはとても楽しいから、その機会を少なくしたくない」
いつものことだけど、こういう話の一方の当事者である僕の意見は全く聞いてもらえないんだよな、と思いながらこの話し合いを聞いていたのだけど、またいつの間にか僕は意識を失ってしまったようだ。
次に目が覚めたのは、どうやらさっきとは違って、少し時間が経ったようだった。 今度はセカンの膝枕だった。
「あ、アレク、目覚めた。
みんな、アレクが起きたよ。」
セカンは僕が目覚めたのに気が付くと、ちょっと大声でみんなに知らせると、
「アレク、さっきはごめんなさい。 アレクの体調が悪いのを忘れて、私がつい話し合いを始めてしまった」
「いや、別にあれは普段のことだろ、謝ることでもないよ。
何だか体力がとことん落ちちゃっているのかな、話を聞いていたら、すーって意識が遠くなっちゃった」
そう話しているうちに、レンスがコップに水を持ってきてくれて、セカンに支えられて水を飲んだ。
「ああ、何だか水が身体に染み渡るみたいな感じだ」
僕がそう言って、急いでもっと水を飲もうとするとレンスが、
「アレク、ゆっくり時間をかけて飲んで、そうでないと吐いちゃうよ」
と言って、一度僕からコップを取り上げた。
確かにさっきは、ただ上半身を起こして座っている姿勢で、話を聞いていただけなのに意識を失ったのだから、レンスの注意に従った方が良いのかもしれないと思って、僕は言われた通りにゆっくりとコップ一杯の水を飲んだ。 確かに言われた通り、少しお腹がびっくりしているような感じがあったが、少し経つと落ち着いた。 どうやら水を飲んで、吐かずに済んだようだ。
自分でも水を飲んで吐かずに済んだと安心したら、猛烈にトイレに行きたくなってきた。 でも自分だけでは、どうも立ち上がって行ける気がしない。
「セカン、レンス、すまないが肩を貸して、トイレまで連れて行ってくれないか。 サーブが怪我をした時と同じで、どうやらトイレまで自分一人で行けそうにないんだ」
「分かった、恥ずかしがることはない。 アレクは覚えていないみたいだけど、もう何度も私たちはアレクをトイレに連れて行っている」
「えっ、そうなの」と一瞬思ったけど、今はそれどころではない。 二人の肩を借りて僕はトイレに急いで向かった。
トイレから部屋に戻ると、何だか疲れてまた意識が少し遠退く感じがしたけど、なんとか耐えた。 すぐにアンが腕に入れて食べ物を持って来てくれた。
「アレク、これをゆっくり食べてから、また寝てね」
僕はまた集まったみんなの前で、アンから腕をもらって口を付けた。 とても柔らかく、水分の多い、ちょっとだけ塩気がついただけの暖かい粥だった。 確かにさっき水を飲んだ感じだと、このくらいの物しか今は受けつけないのだろう。
粥を口に含むと、何だかとてつもなく美味しかった。 あまりに美味しくて、何だか涙が出た。
僕がほんのちょっとだけ涙を流したら、みんなにとても緊張が走ったのを感じた。 僕は慌てて言った。
「何でか分からないけど、このお粥が凄く美味しく感じられて、感動して涙が出ちゃったよ」
僕の言葉で緊張が緩むのも感じた。
「もう、お粥くらいで、涙を流さないでよ。 何事かと思って、びっくりするじゃない」
「お粥くらいって、ナーリア、私が心を込めて作ったのよ。 何だか失礼よ」
お粥を食べ終わると、モエギシュウメが何だかとても真剣な感じで声をかけてきた。
「アレク、さっきはアレクの気持ちをまだ何も聞かないうちに、自分もアレクの妻の一人になったかのような口をきいてしまった。
あらためて問うのだけど、私もアレクの妻の一人になってもいいのかしら?」
モエギシュウメはいつも話す時に、こんな風に真剣な話し方はしないで、ちょっと茶化すような軽い話し方をするので、僕は一瞬何だか緊張したのだが、逆に軽い感じで答えた。 だってみんなの中ではもう決まっていることみたいだし。
「今日、一番最初に起きた時、目が覚めてもまだ夢の中だと思ったんだ。
モエギシュウメの身体の羽毛が気持ち良くて、夢だと思っちゃったんだ。
その時に僕は、自分はモエギシュウメに抱きついて欲しい、抱き締めたいと思っていたんだって、自覚したよ」
「それってOKってこと」
僕はその言葉に答えたかどうかの記憶がない。 それからその僕の言葉で、みんなが何か言い始めたのが分かったけど、それも良く分からなかった。 僕はそこまで話したところで、また意識が遠のいてしまったからだ。
次に目が覚めた時には、今度はかなり時間が経っているみたいだった。 僕は一人で部屋に寝かされていた。 家の中や、近くの外で色々動いている音が聞こえる。 僕は少しの間ぼんやりと、寝転んだまま、目を開けてその物音を聞いていた。 その日常の音に、何だか僕はとても安心した。
ディフィーが僕の様子を見に来た。
「あ、アレク、目が覚めたの?」
「うん、さっき目が覚めた」
「調子はどう?」
「何となく、さっきより良くなった気がする。
僕、何だか気を失ってばかりいる気がするのだけど、どうなっているの?」
「うん、あのね、アレクは正気を失っていた間、この3日間、眠っている時以外はずっと、ほとんど飲み食いもしないで、私たちを抱き続けていたのよ。 私はよく体力が持つなあと思っていたけど、正気でなかったせいなのね。
だから正気に戻った途端、今現在は完全に体力が尽きた状況なのよ。 それで、あまりに完全に体力が尽きて、その上食べない日が続いたからもあって、まだたぶんまともに食事をお腹が受け付けないだろうって、アンがお粥を作っているという訳。
私もアンの言うことが正しいと思うから、アレクは焦らずにゆっくりと、まずは元のように物が食べれることを目指して、体力の回復を図って」
ディフィーと話していると、それに気がついたみんなが集まってきた。 僕は自分で上体を起こした。 さっきお粥を食べたからだろうか、さっきよりはフラフラした感じが少なくなった気がする。
またアンがお粥を持ってきてくれた。 僕はそれを食べながら、みんなの顔を見ていて聞いた。
「メリーとイクス様とティッタが居ないけど、どこに行っているの?」
「流石に、アレクが私たちを抱き続けている状況の時に、メリーをここに置いてはおけないから、3人は今は里のラーリア様の部屋よ。
里にあったイクス様の部屋は物品係として都合が良い場所だったから、もうアリファ様に受け渡してしまっていたから、里にはイクス様の部屋がないからだけど。 それにラーリア様の子供の世話係は数が少ないから、その方がラーリア様たちも都合が良いから」
なるほど、そういうことか、と僕は思った。
「でもまあ、アレクが正気に戻ったんだ。 私がこれからイクス様たちに教えてこよう。 メリーもきっとこっちに戻りたくてウズウズしているだろうから」
サーブがそう言って、出て行った。
しばらくすると、3人がやって来た。
メリーが僕に飛びつきそうになって、アンに抱えられて言った。
「お兄ちゃん、もう大丈夫?」
「うん、メリーにも迷惑をかけたけど、もう大丈夫だぞ」
メリーはアンに
「アレクはああ言っているけど、メリー、まだアレクは大丈夫じゃないから、静かにしているのよ。 飛びついたりしちゃダメだからね」
と注意を受けている。
「アレクくん、正気に戻った?」
「はい、イクス様。 みんなに随分と迷惑をかけたみたいです」
「そんなことないわ。 仕方ないわよ」
イクス様の言葉の言い方で、僕は僕が何で正気を失ったか、その理由をみんなが理解していることを確信した。 でも、そのことをみんなも口にしないし、僕ももちろん口にしない。
イクス様はがらっと話題を変えた。
「それじゃあ、今晩は私に頂戴ね。 3日間、みんなにあげまくりでしょ、ずるいわ。 ティッタのためにも、今晩は私がエネルギーの補給をしなくっちゃ」
「お母さん、その言い方はずるい。
私は今朝、途中まででお預けになっちゃったから、今晩は私の順番が優先されるんだから」
「あなたはこの3日の間に何度もしたでしょ。 私が優先よ」
何となく日常が戻ってきた気がした。 また涙が出そうだった。




