299. 王国によるゴブ討伐6
「エーレア、さっきまで私たちが居た場所の護衛の兵をこの場に呼んで来て。
ついでに私たちの馬と馬車を持って来て。
ターリア、アレクたち人間が寒くない様に、火を焚いたりの世話を頼むわ。
ワーリアは、アレクたち人間の槍や剣を受け取って来て、色々一緒になって持ち帰っているそうだけど、ちゃんと選別出来るよね。
ヤーレアは昨日までの宿営地の撤退準備を。 馬車を呼ぶから、すぐにでも詰め込める様に準備して」
ナーリアは姉妹たちに命令すると、次にセカンとディフィーに向き直った。
「今後、どうしたら良いと思う?」
「とにかく、意識を失わせた騎兵たちは、早急に送り返す必要があるわね」
まずはディフィーがそう答えた。
「うん、それは私もそう考えていた。
アルフさんたちは、砦に送らなければいけないし、アレクたちも大急ぎで里に連れ帰らないと。
その為には、砦の方には私たちの護衛に当たっていた人に連絡に向かってもらおうと思う。 里の方には私たちの中から誰かが行かないと、馬で走った方が早いから」
「私とレンスはここに残る。 ナーリアの護衛をするには、長尺の武器を使う者は、使いにくいから。 だからサーブとディフィーで里に向かって」
セカンが人選をした。
「それじゃあそれで。 あと、今後全体としてはどうすれば良いと思う?
もう撤退しちゃって良いのかな?」
「流石にそれはまだ早いと思う。 まだ今回の戦いが終了したという知らせは受けてない。 それなのに撤退してしまう訳にはいかないんじゃないかと思う」
「それはそうね、アライムが『もうこっちには来ないと思う』と言っていても、勝手に撤退はできないわね」
ナーリアの問いに、セカン、ディフィーが自分の考えを言う形で話が進んでいく。
「でも、問題がある。 ラミアは、エーレアはともかく、ターリア、ワーリア、ヤーレアはもう矢がないから戦う術がない」
「ターリア、ワーリア、ヤーレアは撤退して、少なくともどこか1グループ、そうね申し訳ないけどミーレアにこっちに回ってもらうしかないかしら」
そんな話をしているところに、少し心理的に持ち直したのだろう、クラッドさんが加わって言った。
「いえ、もうラミアの方々は撤退していただいて構わないと思います。
またゴブの集団が来たとしたら、もう騎兵が使えませんから、この場でさっきまでの様な包囲戦をするのは難しいでしょう。
だとしたら、道の広くなるところに陣を敷き、狭いところから出てくるゴブを順次討伐していくことになると思います。 その場合我々の兵だけで十分です。
正直に言えば、もう一度もしゴブたちが来たとしたら、その場ではラミアの方々は、私たち人間の兵にとっては邪魔なだけです」
クラッドさんの厳しいちょっと一方的な言葉は、その本音はアルフさんやアレクたちと同じラミアを気遣うモノだから、ナーリアたちはその言葉になんの反発も示さなかった。
ナーリアは決断した。
「わかりました。 クラッドさんの言葉に従います。
私たちラミアは、今回の戦いはこれで撤退することにします。
でも、それまでの間は、まだ私が指揮官として命令して、今後の方針も指示します。
まずは中隊長を集めてください」
クラッドさんが中隊長を集めに行ったと思ったら、エーレアと護衛に当たってくれていた兵たちが戻って来た。
「ナーリア指揮官、お呼びと聞きました」 隊長がすぐにやって来た。
「はい、待ってました。
あなたの隊が、今ここにいる兵たちの中で一番消耗していないと思います。 そこで命じます。
あなたの隊から砦に伝令をだして、馬車を最低2台、出来れば3台大急ぎでここに寄越す様にと。
意識を失っている兵を馬車で運びます。 それから運ばれてくる兵を受け入れる準備を砦にさせなさい。
急いで動いて」
「了解しました」
即座に護衛をしていた隊長はナーリアの命令の実行に取り掛かった。
「ディフィー、サーブ、それじゃあ頼んだわ。 大急ぎで行って」
「任せて」「すぐに馬車を寄越す」
ディフィーとサーブがエーレアたちが連れ戻った馬を受け取り、全速力で駆け出した。
—————————————————————————
「サーブ、里に着いたら上位は全員一度集合住宅前に集めることにしましょう」
私は少し馬の速度を落として、サーブに並走しながら、里についてからの打ち合わせをする。
一輪の馬車を駆ると、サーブの方が不器用なせいか、いや違うな私の方が体格が少し小さいからだな、私の馬車の方が少しスピードが優り、今の様に全速で街道を走っていると、私がスピードを落とさないとサーブと並走は出来ない。
街道じゃなくて、不整地だとサーブの方が速いのよね。 何故かしら、やっぱり不整地だと馬車の不規則な動きを私が抑え切れていないということかしらと思う。 どっちにしろ、セカンとレンスは街道でも私と同じくらいの速さだし、不整地は私よりもサーブよりも速いのよねぇ。
焦って色々考えているのに、そんな今現在はどうでも良いことまで頭の中に浮かんでしまった。
「上位全員を一度集める必要があるのか? そんなことをすると若い子たち以下に動揺を与えないか」
サーブが、らしくない感じだけど、私自身も危惧している点を指摘した。
「確かに、そこが問題なのだけど、今のアレクたちの様子を見たら、上位全員に報告をしておかない訳にはいかないじゃない。
それに、あの状態の彼らを里の方に収容する訳にはいかないわ。 共同住宅にとりあえずは寝かせるしかないと思うの」
私はサーブが、「そうか、任せた」と簡単に私に言ってくるのかと予想していたのだが、珍しいと言ってはサーブに失礼なのかもしれないが、サーブは黙り込んで考えてから答えた。
「ディフィーの言う通りだな。 あの様子の人間たちを里の方に寝かして、若い子や子供たちに不安感を与えるべきではないし、そうなると彼らを寝かすことができるのは、私たちの家か、それでなければ共同住宅しかないが、私たちの家に連れて来たのでは、世話をするのに無理がある。 共同住宅しかない。
上位全員の協力がないと、どうにもならなくなるな、確かに。
でも、共同住宅の各部屋に彼らを寝かすとすると、ラーリア様たちと生まれた子供たちはどうする?」
「もうあの子たちも少し大きくなって、しっかりして来たから、里の方の部屋でも問題はないだろうし、何も共同住宅の各部屋でなければダメとことではないと思うの。 共同住宅の一階の大部屋に毛皮を敷いて、炉で火を焚いていれば、それでも大丈夫だろうと思うし」
「そうだな。 うん、大丈夫だろう」
「それで、上位への説明と、馬車を送ることは私がするから、サーブには若い子たちと子供たち、それから各係の人たちの方をお願いするわ。
戦いは勝ったので心配する必要のないことと、それでも今日は早めに里の中に戻っていて欲しいと伝えれば良いと思うわ。
係りの人にちょっと頼んで、里から若い子と子供たちを出さない様にしたいと言えば、きっと何かを察して手伝ってくれると思うわ」
「分かった。 了解したぞ」
「それでも色々説明しないとダメという感じになりそうだったら、指揮官であるナーリアの命令ということで押し通しましょう」
「えっ、それで良いのか。 それに、それで大丈夫なのか」
「良いのよ。 ナーリアがミーリア様の次の指揮官になるのは、少なくとも上位のみんなは全員暗黙の了解で解っているのだから、きっと係の人たちにも知れているわ。
だからナーリアの命令ということにしとけば、全員従うと思うから」
私たち2人は怒鳴り合う様に大声でそれだけの打ち合わせをした。 並走しているとはいえ、それなりに離れているし、馬に曳かれている一輪馬車は全速に近い走りをしていればそれなりに騒音も大きいからだ。
ラミアの里に入った。
「それじゃあサーブ、こっちはお願い。 私はこのまま奥に向かう」
「了解」
サーブと別れて奥に急いだ。 まずは馬車を向かわせなければならない。 問題は御者だ。 3台の馬車を向かわせなければならないが、確実にいるだろうと判っているのはアンしかいない。 他に御者ができる者がいなければ、最悪は私とサーブが御者をしなければならないのだが、できればそれは避けたい。
私が奥に馬で駆け込むと、奥の共同住宅前にラーリア様たちと人間の女のほとんどがいた。 いないのはイクス様、ラーリナ様、そして肝心のアンだ。
でもラッキーなことに、アレア様とロア様がいた。
私は馬のまま近づき、馬車を停めただけで、馬車から降りることもせずに言った。
「指揮官のナーリアからの命令です。 アレア様、ロア様、馬車を用意してください、2台です。 用意したらそのまま待機していてください。 私は一度家に行って、すぐに戻って来ます」
呆気にとられている人たちをそのままに、私は馬を家に走らせた。
普段では考えられない速さで近づく蹄の音に気がついたのか、家からアンとメリーが飛び出して来た。
「ディフィー、どうしたの?」
アンが馬の手綱を受け取ってくれたので、私は急ぎながらも楽に馬車から降りる。
「動きながら説明するけど、とにかく大急ぎでアンは馬車の用意をして」
私はそれだけ言うと、家の中に入って行った。 イクス様とラーリナ様と話をする為だ。 ラーリナ様は急いで自分の家に戻さねばならないからだ。
私が今度はアンの御者する横に座り、後ろにはラーリナ様と、まだ名前を覚えていない人間の女と、それに子供2人を乗せて戻ると、どういう訳かアーレアとアーロアが戻って来ていた。
気にはなったが、まずはアレア様とロア様だ。 2人ともしっかり馬車の準備を終えていた。
「アレア様、ロア様、すみませんが馬車でアンに付いて行ってください。 向こうに行けばナーリアがいますので」
それだけ言って、アンとアレア様、ロア様を送り出した。
「ディフィー、一体どうした? 何があった?」
「ラーリア様、詳しくは後で説明します。 今は急いでいるので」
私はそう言ってラーリア様の言葉を遮るとその場にいる全員に向かって大声で言った。
「今から、指揮官であるナーリアの命令を伝えますので、各自その命令に従って、最適であると思われる行動に速やかに取り掛かってください」
——————————————————————————-
集まった中隊長たちと共に、私とセカンは今後の兵の動きを急いで決めていく。
「ハーピーからの情報によると、この後ゴブの大きな集団が来る可能性は無いと思う。 だけど逆に逃げようとして、ごく小規模のゴブがこっそりやってくる可能性はあると思う。 それに普段ゴブは夜は動かないが、追い詰められているだろうから、夜でも動く可能性が無いとは言えない」
クラッドさんをはじめ、中隊長たちは真剣な顔をしてセカンの話を聞いている。
「ですから、昨晩までは行いませんでしたが、今晩はゴブの夜の行動に備えなければなりません。
そこで疲れていると思いますが、6中隊は狭いところから広くなるところに警戒のための陣を敷き、三交代で2中隊は起きていて警戒をする様にしてください。」
「了解した。 夜はその様に警戒しよう」
クラッドさんがそう答えて、中隊長を見渡すと、6人の中隊長が肯いた。
その6人の中隊が警戒に向かうのだろう。
「夜はそれで良いとして、明日はどうなると思う?」
私はセカンに合いの手を入れる様に聞く。
「明日、ゴブの集団が来て戦いになる確率は限りなく小さいと私は思っている。 きっと昼頃には今回の戦いの終了が宣言されるのではと、私個人は思っている。
それに、もしゴブが来るとしても夜でなければ、ハーピーの監視を逃れることは不可能だと思うから、奇襲を受けることは無い。
だから明日、日が登ってからは、大丈夫だと思う」
「だとすると、明日からは戦った後始末をしなければならないということね」
「うん、そうなる」
クラッドさんが慌てた感じで言った。
「ナーリア指揮官、あの、後始末は我々人間に任せていただけないだろうか。
もちろん、回収した金属などは、半分は後でラミアの里にお届けする」
クラッドさんは、悲惨な状況、アレクたちが正気ではいられなかった状況をとにかく私たちに見せたく無いのだろう。 クラッドさんが、こんなことでもここまで慌てるほどの酷い状況がきっとあるのだと、私は暗い気持ちになった。
今晩と、明日の行動の話がなんとか終わったと思った時には、もう砦から、そしてラミアの里からも大急ぎという感じの馬車がやって来た。 今の最優先は意識を失わせた騎馬兵たちの送還だ。




