297. 王国によるゴブ討伐4
「おい、みんな、残りの矢が少ないから、よく狙って射つようにしようぜ」
「ああ、アレク、僕も今それを提案しようと思った所だよ」
僕の言葉にすぐにエレクが賛成した。
ハキ、ヤーレン、バンジ、ギュートも同じように思っていたようだ、みな慎重に狙って矢を射てる。
それでも僕たちはすぐに矢の残数を使い果たしてしまった。
さて、仕方ない、獲物を槍に持ち替えて、こちら側から普通に押していくかと思ったら、アルフさんに声を掛けられた。
「みんな待て、歩兵の両翼も分断に参加し始めたから、他の奴らもすぐに一度ここに戻ってくるだろう」
言われて気がつき、僕も戦場全体を見渡してみたら、確かにどうやらもう僕らの攻撃目標である後続部分と、ゴブの主力の部分との分断に成功して、その間を懸命に走ってきた歩兵が完全に遮断にかかったようだ。
ブマーたちとボブたちはすぐに戻って来た。
「よし、次は反対周りに全員で目標の周りを回って、徐々に互いの間を開いて、最終的には等間隔になって目標を丸く囲い込むぞ。
今度は私も参加する、みんな続け!!」
アレフさんが先頭を走り出した。 きっとさっき後ろに下がっているように僕が言ったのが、気に入らなかったのだと思う。
ブマーがちょっと焦りながらも、やれやれという顔をして、即座にアレフさんに付き添って走り出した。
「全く、兄貴はしょうがねぇな」
デイヴは遠慮なく声に出してしまっている。
反対周りというのは、ここからはさっきは左回りで目標の周りを馬を走らせたのを、今回は右回りにしたのだ。
さっきは目標とゴブの主力の間に入り込むと、右手側にゴブの主力がいることになる。 槍は右手に持っているので、その方が戦うのに都合が良いのだ。 逆にボブたちは走りながら目標の中にいる武装しているゴブを矢で狙ったので、左側に対象がいないと都合が悪い。 そこで左回りだった訳だ。
今度は目標に対して、全員が槍で攻撃することになるので、今度は右回りでないと都合が悪いのだ。
僕らは走りながら少しづつ互いの間隔を広げていく。
武装したゴブがいるのを見かけると誰かがそのゴブに突進して、槍で突き伏せたり、切り伏せたりしてきて、列に戻るそうして僕らは完全に目標を円の中に包囲した。
馬を駆る速度をだんだんに落として、僕らは目標と完全に対峙した。
———————————————————————————————
私はセカンに腕を引っ張られながら、元居た窪地に向かって進んでいた。
セカンがずっと心ここに在らずという感じで、私を引っ張るので、私は仕方なくそのままセカンに引っ張られるままで進んできたのだが、もう少し行くと、流石にこのままでは護衛をしている人間に気付かれるだろうという所まで来てしまった。
「セカン、とりあえず離して。 このままだと周りにいる護衛の人間たちに気付かれる」
「あ、レンス、ごめん。 私、自分の頭の中の考え事に忙しくて、あなたの腕を掴んでいることを完全に忘れてた」
「うん、そうだと思った。 とにかく、このままだと護衛に気付かれる。 理由は後で聞く。 気配を消して、中に忍び込もう」
セカンと私は気配を消して、また何のことはなく護衛たちの間をすり抜けて、ナーリアたちの許に戻った。
「気づいたらお前たち2人が居なくなっていたから、どうしたかと思ったぞ」
流石に声を潜めてサーブが言ってきた。
「ご苦労さま、で、どうだった」
ディフィーが単刀直入に訊いてきた。
「それが私たちは見ることができなかった」
ナーリアは単純に「えっ、何で?」という疑問の顔をしたが、ディフィーは眉が険悪さを示すように寄った。
「私たちは見ようと思って丘の方に登って行ったのだが、林が切れたと思ったら、エレオンが急に空から降りて来て、それ以上の行動を止められてしまった」
ディフィーは眉だけでなく、顔全体で険悪な雰囲気を醸し出すようになって言った。
「まさかレンス、エレオンに止められたからって、おめおめと引き下がって来たんじゃないでしょうね」
私は答えられなくて沈黙した。
セカンが口を開いた。
「私たちラミアは最初から、今回の戦いから外されていた」
「えっ、セカン、何言ってるの? 私たち街道が狭くなっている所でしっかり戦ってきて、それで今ここに居るんじゃん」
ナーリアが驚いて、ちょっと大きな声で言った。
「ナーリア、声が大きい。 今話している内容は他の人に知られたくない」
セカンはナーリアから順番に、ディフィー、サーブと顔を見て、最後に私の顔を見た。 しっかり念を押された気がした。
「私たちが今回した戦いは、一応ラミアも戦いに参加したという花を持たせてもらっただけ。 正直に言えば、あってもなくても良い付け足しのようなもの。 その証拠に危険を感じる時、何らかの精神的苦痛を感じる時は全く無かった。
実際問題としては、私たちは一回矢を放ったら、ここに逃げ込んでくれれば、それでよかったのよ」
私は確かに今回の戦闘は、今までの戦いとは違い緊張感に欠ける気がしていた。 こうしている今も、周りの姉妹たちはおしゃべりに花が咲いている。
今までの戦いでは、ゴブとの戦いの時も、余裕な戦いだったフロードの時でさえ、戦いが終わったあとは誰かしらが意識を失ったり、崩れ落ちて寝てしまうような異常な状態となっていたのだ。 サーブが死にかけたり、私が重傷を負ったことを別にしてもだ。
みんな、なんとなくセカンの言っていることが間違っていない気がするのだろう、静かにセカンの次の言葉を待っている。
「アルフさんたちも、アレクたちも、領主様たちも、そしてエレオンたちも、このことについては一致団結して事を図っている。
私たちラミア、そしてたぶんだけどハーピーの女も、人間の女も、この戦いからは完全に外されている」
「一体全体、どういうこと。 セカンは何が言いたいの?」
ディフィーが焦れたように言った。
「ゴブは私たちのいる地方への入り口に当たる、隣の地方の町を完全に破壊した」
「うん、それは知っている」
ナーリアが、そう答えた。
「その町に暮らしていた人間の半分は女」
「あっ!!!」
ディフィーが自分の口を抑えたが、顔色が見る見る青くなった。
私にはまだ理由が分からない。
—————————————————————————————
僕たちは今、自分たちが完全に討伐して、殺し尽くさなければならない目標と正対している。
その目標とは、ゴブの身重だったり幼子を抱える女。 そして同様の人間の女だ。
幼いゴブや身重のゴブを、そのままにしておけば、また、あっという間にゴブはその数を増やしてしまう。 だから、決してそのままにしておくことは出来ない。
ゴブだって、戦闘員でない、まして女子供のゴブを殺すのはあまり良い気持ちでは無い。
だが、人間の女を殺すとなると、それは全く別次元の話だ。
だけど、ゴブに攫われてしまった人間の女も同様に扱わなくてはならないのは、ゴブの子を産んだり、孕んだりしている可能性があるからだ。
人間との間に生まれたゴブは、通常のゴブ以上の脅威となってしまう大型のゴブになってしまうからだ。
今現在、妊娠していない女や、妊娠していてもゴブが産まれたら、その時にそのゴブを殺すことにして、人間の女は助ければ良いと考えるかも知れない。
しかし、それは机上の理想論だ。
ゴブに攫われた女は、肉体的にも精神的にも壊れてしまっている。 過去にそれをどうにかしようとした記録はあるらしいが、上手くいったことはないらしい。 それで、ゴブに攫われてしまった女性は、ゴブの女と同じように扱うことが、絶対の決まりとなっている。
だから、人間の女は、ゴブに攫われるような事態になると、可能な限りは自決を図るのだ。 ゴブに攫われるということは、どう転んでも絶対に先は死を意味するのだから、それなら苦しみを長引かせるよりも先に自ら死を選んだ方がマシだ、ということだ。
それでも攫われて生き延びて、こういう形を迎えているのは、子供だったり、なんらかの不運で自決し損なったりした者だろう。
対象は全部で80くらいの数だろうか。 そのうちの半分近くが人間の女だ。
「全員下馬。 これより完全掃討戦を始める」
まだ周りは相当に喧騒が続いているだろうに、妙にアルフさんの震え声の命令が辺りに響いた。
馬から降りた僕らの顔は、みんな顔面蒼白だ。
「全員、掃討戦を始めよ!!」
アルフさんの命令に従い僕たちはみんな、自分の前にいるゴブに襲いかかる。
ゴブの女子供は周りを囲まれしまった時に、どうして良いか分からなかったのだろう、なんとなく動きが止まっていたのだが、一斉に逃げ惑った。
僕たちはその逃げ惑うゴブを、逃さないように動ける範囲を限定しながら、次々と掃討していく。
嫌でたまらないけど、それでもその後にしなければならないことから比べればずっとマシな、ゴブの女子供の掃討は思っていたよりもなんだかずっと呆気なく終わってしまった。
そうじゃない。 次にしなければならないことが嫌で、終わって欲しくない気持ちが強いから、そんな風に感じているのだと思う。
ゴブたちの阿鼻叫喚の声がなくなり、少なくとも僕たちの周りは、血の匂いが強く漂うだけで、静寂が覆っている。
驚いたことに人間の女たちは、周りの阿鼻叫喚の中、静かに立ち尽くしていた。
きっと、もっと酷い阿鼻叫喚の中に晒されて、もうそういった周りの狂騒に心が全く反応できなくなっているのだろう。
僕は見たくないと思っているのに、その女たちが目に入り、記憶に焼きついてしまう気がした。
「掃討戦第二段、全員かかれ!!!」
たぶんアルフさんはそう命令したのだろう、声が震え過ぎていて、もう何を言ったのか分からなかった。
でも僕たちはその声を聞いて、それぞれに動き出した。
全てが終わり、辺りは異様な静寂に包まれた。
僕は気が遠くなる気がした、なんで気を失うことが出来ないのかが不思議だった。




