295. 王国によるゴブ討伐2
あまり眠れないで朝を迎えた。 幸いにも天気は良かったが、昨日の朝より寒い気がした。 寒さに弱いラミアはちょっと大変だったかな、なんて思った。
流石にここ二日はナーリアたちは夜も朝も何もしてこようとはしない。 僕が友たちと一緒の場にいるのも、何だかその方が都合が良いと考えてくれているみたいだ。
でもまあ、セカンとナーリアが中心になって食事は作ってくれている。 僕たち人間の分は穀物は煮なければいけないし、ラミア自身は水につけて戻す必要があるから、昨晩から準備はしているのだ。
僕も少しは働かなくてはと思って、簡単なスープを作ることにした。 燻製の肉を細かく切って、ハキとヤーレンが摘んできた食べられる野草が少し浮いているだけのスープだけどね。 それでも体を温める役には立つだろう。
朝食後少しした時にエレオンがやって来て、王国の兵によるゴブの穴への攻撃が今日も始まったことを告げた。
「かなり速く攻略が進んでいるから、もしかするとこっちに逃げてくる時間が割と早いかもしれない。 今日は早めに備えていてくれ」
その言葉を聞いて、僕たちは予定通りに布陣していく。
街道の狭まったところから広場のようになった部分の反対の端に、広く隠れるように人間の兵はアルフさんの指揮の下、陣を構えた。
ラミアはその街道の狭いところに少し入ったところに陣を敷く。 僕たちはそれを守るように周りに場所を取った。
ゆっくりと時間が流れていく。
今回の隊の中で、僕と友たち人間とナーリアたちは、戦いに何度も参加している。 でもナーリアの姉妹たちは、前のゴブ戦以来の2度目の戦いだ。 それに前の時には、エーレアたちは戦いに巻き込まれて自分たちも戦いに参加したが、それ以外の者は実際には参加していない。 エーレアたちも砦でのフロードとの戦いでは、戦いには参加していないし。
みんな緊張感に包まれているのが手に取るように分かる。
サーブが大きな声で言った。
「前のゴブとの戦いの時、こんな風に待っていた時間に、ラーリア様が言ったんだ、『お前たち、この緊張している時間を楽しめ』と、でも、私はそんなことは無理だと思った。 今も、やっぱり無理だ」
ナーリアたち以外はみんなそのサーブの言葉を、熱心に聞いていて、「無理だ」という言葉に激しく同意している。
「でも、私は知っている。 この後、戦いが始まってしまえば、緊張している暇も、怖がっている暇もないということを。 ま、ここまで来たら、なるようにしかならない。 私は自分ができることをするだけさ」
大きな声でみんなに話しかけたから、サーブは何を言うのかと思い、最初は期待させた感じなのに、最後は酷くあっさりしていて気が抜けた。
「何よ、サーブ。 もうちょっとみんなを鼓舞するようなことを言うかと思って期待したのに」
「ディフィー、私にそんなことができる訳ないだろ」
それでもなんか少しリラックスしたようだ。
もうすぐ昼かと思う頃、ちょうど日が1番高くなった頃、ハライトがすごい勢いで飛んで来た。
「ナーリア、来るぞ。 ゴブの集団、おおよそその数300!!」
空中からそう言うと、ハライトはアルフさんにも知らせるためにそのまま飛び去って行った。
「えー、聞いてた話と違うよ。 多くても200じゃなかったの?」
「ナーリア、そんなことより指揮して!」
セカンの言葉にナーリアは槍を持って自分の馬車に乗り込み、その槍を立てた。 ナーリアの顔つきも変わった。
「総員計画通りに戦闘準備、所定の位置に付き、矢を番えて待機せよ。
ゴブが来たら慌てずに号令を待て。
サーブとディフィーは命令しているゴブを狙って」
「流石に遠の距離だと、狙って当たるとは思えないけど、狙うだけは狙うわ」
「私もそんなものだな」
ディフィーとサーブが答えた。
ナーリアは自分でも弓を準備している。
この遠の距離だと、僕と友たち、それにレンスは役に立たない。 僕たちは馬上で使うための小さい弓を装備しているため、飛距離が足りないのだ。
ナーリアたちも馬を使うようになって、馬車では小さい弓を使うのだが、今回は元々小さい速射性に優れた弓を使うレンスを除いては、狩で使う普段の弓を使うことにしたのだ。
しばらく、思っていたよりは長く待って、ゴブの姿が見えてきた。
ターリア、ワーリア、ヤーレアたちが物凄く緊張しているのが分かる。 ナーリアが声を掛けた。
「落ち着いて、まだだよ。 私が号令を掛けるからそれまでは決して射たないで!」
ゴブからもこっちの姿が見えるはずだが、ゴブたちは一切方向を変えるそぶりを見せずに、そのままこっちに向かってくる。
「みんな、そろそろまともに構えて、遠の位置!!」
みんな一斉に構えた。
ディフィーが言った。「入った」
ナーリアが全体に号令した。
「射て!!! 直ぐに第2射用意。 構えて、射て!!!」
ナーリアは号令を掛けながらも、自分でも弓を射ていた。 そして急いでまた命令した。
「予定した位置まで退却。」
僕たち全員は予定された位置まで退却して行く。 ゴブたちとの距離を取り追いつかれないためだ。
ナーリアが号令を掛けて矢を射った時ゴブたちが居た場所には、街道に少し簡単な罠が仕掛けてあった。 最初のあの場所は単純にロープを何列かに渡って張ってあっただけだ、それでもほんの少しゴブたちはそこを越えるのに手間取り、集団が重なって混乱した。 その瞬間を弓で狙ったのだ。 24本の矢で2回射ってるから、48本の矢がゴブに刺さっている計算だが、15匹も殺せていれば良い方だろう。
この後も数カ所に、木で作ったバリケードやら、簡単な落とし穴やら、ちょっとした嫌がらせみたいな罠を仕掛けてあるのだ。 僕たちはそんな小細工をするために、一日早く戦場に来ていたのだ。
次の場所に向かいながら、ワーリアが言った。
「若い子たちが間に合っていたら、一度に今の倍以上の矢の雨を降らすことになって、もっとずっと効果があるはずだったのに。 ちょっと残念」
「あんた、よくそんなこと考えている余裕があるわね」
誰かがそう呆れてた。
その後、もう1度遠の位置1ヶ所で、その後少しゴブとの距離が近くなったので中の位置で2ヶ所で一斉射撃を繰り返した。 1ヶ所で2度の一斉射撃をしているから、合計で8度の一斉射撃をしたことになる。 中の位置の射撃では僕と友たち、そしてレンスも射っているから、ゴブに降らせた矢の雨は優に400本を超えている。
中の位置の2ヶ所目の射撃を終えるとナーリアは
「騎兵以外は全員、予定通りに人間の陣に逃げ込んで、騎兵はギリギリまで矢でゴブを牽制して時間を稼いで、それから逃げるよ」
中の位置で最後に一斉射撃をした位置は、もう街道の狭いところから広場のような場所に出る寸前のところだった。 僕たちはナーリアの姉妹たちを逃してから、広場の方で広場に出てくるゴブを狙い射てるように布陣する。
この後は速射の効かない、ナーリア、サーブ、セカン、ディフィーは1射しただけで、逃げて、速射の出来る短い弓を持った僕と友たちとレンスは、危険のない範囲で何射かしてから逃げる手筈になっている。
広場の方にゴブが出て来た、少しだけ出てくるのを待ってナーリアが号令した。
「射て!!!」
今回の射撃は一斉射撃というよりは狙い撃ちだから、さっきまでより効率よくゴブを倒している。 でも、そうはしていられない。
「後は任せるけど、無理はしないでね」
ナーリアが残る僕らに声を掛けて去って行く。
僕らはもうバラバラに出てくるゴブを狙いうつ状態にすぐなった。
僕は3射まですると声に出した。
「もうそろそろ頃合いかな」
「うん、もう良いと思う」 レンスがすぐ同意した。
「おう、それじゃあそろそろ撤退しよう。 レンス、先に行け。 おうい、全員撤退!!」 ボブが全員に声を掛けた。
僕たちもアルフさんが指揮をする人間の兵たちに向かって逃げた。 馬の足にゴブが追いつく訳もなく、僕らは悠々と人間の陣まで戻って行った。
ナーリアがアルフさんに話している。
「アルフさん、それでは後はよろしくお願いします。
たぶん70くらいは数を減らせたと思うのですけど、まだ残りが200以上のはずですよね、すみません」
「いや、ナーリアさん、十分です。 いつもながら鮮やかな指揮だなあ。
僕も負けないように頑張りますね。
早く後方に下がってください」
アルフさんは意外に肝が据わっているのか、和かな感じでナーリアと話していた。
僕はレンスに声を掛けた。
「レンスも早くみんなと一緒に下がって。 ここからは人間たちが主役の戦いさ。
僕たちも今度は少しだけ騎士としての役目を果たしてくるよ」
「アレク、無理はしないで」
レンスはそう言うと、他のラミアの許へと向かって行った。
ほんのちょっとレンスが去って行くのを僕は見つめてしまった。 その後で馬を友たちのいる方向に向けて近づいて行った。
さて、これからが本番だ。
友たちも今までよりずっと厳しい顔をしている。
「みんな聞け、これから私たちはゴブを殲滅する。 もう一度言う、殲滅だ。
1匹たりとも逃すな。 確実にとどめをさせ、分かったな!」
「「「おおっ!!」」」
アレフさんの兵たちを鼓舞する声に、兵たちが一斉に応えた。 その声は地響きのようだった。
「デイヴィッド、お前たちは計画通り右側から行け。 俺は左側を行く。
クラッドリング、お前には歩兵の指揮を任せる、確実に押し潰せ」
指示をするアルフさんの顔は、さっきまでナーリアに見せていた顔とは違う。 とても厳しく、少し青白く見える顔だ。 アルフさんだけではない。 ブマーを含めた騎兵全員、それに友たちも、そしてクラッドさんも同じような顔をしている。 きっと僕自身も同じような顔をしているのだろう。
今までの戦いの場の緊迫した空気に加え、重苦しい空気が辺りを支配している。
空を飛んでいたハライトが急に低空に降りて来た。
僕たちに緊張が走った。 みんながハライトを見上げている。
まだ春で、そんなに暑いはずはないのに、ハライトを見上げている目に汗が入って、僕は額を拭った。
ハライトの飛び方が急に変わり、空中に絵を描くような動きに変わった。
「よし、合図だ。 総攻撃!!」
アルフさんの声が大きく響いた。 総攻撃の合図のラッパの音が響いた。 ハライトの動きはゴブの集団全体が広場に入ったという合図だったのだ。
デイヴとキースが先頭を駆け出し、それを追う形で僕たちは広場の右側を大きく迂回する感じでゴブの集団の最後尾を目指して駆けて行く。 僕は最後尾を行くことに決まっているので、後ろから全員の姿を見ることが出来た。
僕の後ろは歩兵の人たちが懸命に追って来ているが、僕らの最初の目標は街道の狭い方にゴブに戻られないようにすることだから、一切構わずに全速力で馬を駆けさせる。
歩兵集団本陣からは大きな声が聞こえて来た。
「押し出せ!! エイッ!」「オウ!」「エイッ!」「オウ!」・・・・
声と共に足を踏み鳴らして前進する音が響いてくる。
ゴブたちはその音に本能的に向かって行くのか、それとももうそこを突破しないと駄目だと覚悟を決めたのか、その音の方向に向かって行っているようだ。
「前方、ゴブ発見!」 キースが叫んだ。
「全員、弓を構えろ。 なるべく速度を落とさずに矢で攻撃して、そのまま行く。
アレク、ギュート、最後に確認して来てくれ」 ボブが命令する。
3匹程のゴブが見えたが、僕とギュートは矢を放つ必要がなかった。
一応二人で確認したが、3匹とも死んでいた。
僕とギュートは少し置いて行かれたが、すぐに追いついた。
僕たちが右側から馬を駆けさせたのは、馬を駆けさせながら矢が射てるからだ。 これはギュートに特訓させられたのだ。 矢を射る時は手綱を離しているので、足や体の傾け方で、馬を操らねばならないので、とても難しい。 弓を持つのが左手になるので、左側に射ることになるので、右側から向かうことになったのだ。
館の騎士は馬上で馬を駆けさせたまま弓を射つ訓練はしていないので、僕らが右側からとなったのだ。
広場から街道の狭くなっている部分に戻る部分には、たぶんそうなるだろうと思っていたのだが、僕たちの方がアルフさんたちより早く着いた。
アルフさんたちは僕らが走りながら弓矢でゴブを仕留めたようにはいかず、一々槍で仕留めたりしてこなければならないので、少し時間がかかるのだ。 それにもしかしたら、アルフさんたちの方が多くのゴブがいたのかも知れない。
でも、そんなに待つこともなく、アルフさんたちもやって来た。
この「気がつけばラミアに」は、元版はR18指定になっています。
改訂版は、この物話全体としてはR18に引っかかる部分は少ないので、基本的にはその問題になる部分を書き直しただけです。
ま、それでもほぼ一話丸々削除してたりもしているのですが。
さて、次話から次章の初めの数話にかけて、最初この話を書き始めた時にR18を選ばなければならなかった理由の話が続きます。
この部分は物語として、どうしても無くせない部分で外せないのですが、R18指定を避ける為には、かなりの省略、婉曲表現というか、ボケボケの文章にする必要があります。
この物語を改訂版で初めて読まれている方は、R18に引っかからない年齢でしたら、この後数話だけは、R18版の方も読んでいただけたらと思います。
ただし、話としてかなりキツイので、覚悟して読んでください。
他の部分は、基本的には同じなのですが、改訂版の方が直されている部分もあって、読みやすいかも。




