291. 嫁たちが来て、タインさん戻る
ウスベニメとモエギシュウメが帰ってから、僕たちはすぐにハーピーの卵を食べることにした。
僕だけは、ウスベニメとモエギシュウメの産んだ卵かと思うと、なんとなく複雑な気がしたのだが、アンも全く問題を感じていないみたいだ。
「そんなことないよ。 なんとなく無精卵だと分かっていても友達が産んだ卵を食べるというのは、ちょっと変な気がしていたのは確かよ。
でも、レンスの言う通り、アレクの精を飲んでいることを考えたら、今更だよなって、なんかとても納得しちゃったのよ」
ま、これは僕には分からない心境だ。
僕たちがハーピーの二人と話していた時、イクス様とメリーは加わらなかった。
まあ、僕らはテーブルのところで話していたのだが、イクス様とメリーはティッタを構っていて、一段上がった部屋から出てこなかった。
しかし、今、卵を食べる時となったら、しっかりと食べる気満々で一緒にいる。
「私もそっちに行こうかと思ったら、何だかだんだんまだメリーには聞かせられない方向に話が行くから、メリーが加わらないようにしていたのよ。
ま、あなたたちには、ラミアとハーピーと人間との違いを認識する良い機会だったと思ったしね。
でも違いもあったけど、同じところもあったでしょ。 そういったことを知ることは、とても重要なことだと思うのよ。
ここで、あなたたちが知ったことは、いづれそれぞれの種属の者に伝わっていって、相互理解の助けになるわ」
そこまで大きなことではないと思うのだけど、イクス様はそんな風に考えるのか。
卵は2個だけど、普段ラミアが食べる機会の多い、木の上の鳥の巣から採ってきた物とは大きさが全く違うから、ここにいる全員で分けても、前に食べた時よりも一人分が多い。
卵を分けることに関しては、ナーリアがとても厳重に公平を期すから、まず二つの卵を鍋に割り入れて、それを良く混ぜてから、それぞれに器に均等に配分した。
僕とアンとメリーはそれを油で焼いて食べることにしたのだが、そこにセカンも加わった。
「私、前に人間の食べる卵が食べてみたいと思ったのだけど、ナーリアに止められてしまって食べれなかったから、今度は最初からそっちにしてみる」
「セカン、良いの? それでは卵のエネルギーがほとんど得られなくなっちゃうわよ」と、ディフィー。
「ま、卵への道を開く訳にはいかないから、今は関係ないか」
「サーブ、それは否定されている」
「レンス、もちろんそれは分かっている。 ほんの冗談だ」
「私も人間の食べ方にしてもらおうかしら、最近は優遇されていたから、私も今はエネルギーに困っていない感じがするから 」
イクス様もそんなことを言い出した。
結局5人分は簡単なオムレツになったのだが、とても美味しいオムレツが出来た。
きっとハーピーの卵が美味しいからだと思う。
イクス様とセカンも食べて絶賛したので、最後まで生のままで食べるか、焼いて食べるかを迷っていたナーリアが、とても食べてみたそうな顔をしていたのだが、前に自分で禁止した手前、「私にも食べさせて」とは言わなかった。
「でもすごくエネルギーを感じるわ」とディフィー。
「うん、確かにこれなら、人間の男の精をほとんどもらえる機会のなかったラミアなら、特別な効果があると思うかもしれない」
「レンス」
レンスの言葉をイクス様がメリーを目で見て、メリーのいるところでする話ではないでしょと注意した。
でも、メリーは卵を食べるのに一生懸命で、周りの話は聞いていなかった。
「お姉ちゃん、すごく美味しいね」
その翌日にはアライムがまともに連絡のための使者としてやって来た。
人間の嫁たちは、とにかく準備が出来次第、というか本人の最低限の準備が出来次第、ラミアの里にやって来ることになっていたのだが、もう来るという連絡だ。 2回に分けて、4人づつ、とりあえず嫁本人だけが手荷物だけで来るとのことだ。
まあ、デイヴとキースの嫁となった、エリーゼとマリアンヌの時も手荷物だけで、着替えさえ後から輸送されたので、それよりはマシという感じだ。
こんなに急いでラミアの里に来るというのは、普段はなるべく考えたくないと、意識的に考えていないのだけど、もう何時ゴブとの戦闘が始まってもおかしくない時期になって来ているからだ。
なんとか戦いが始まる前にラミアの里に来させて、子供が出来る機会をなるべく多く得させたいという、とても現実的な理由からなのだ。
その知らせを聞いて、上位ラミアたちは単純に喜んでいた。
エリーゼとマリアンヌの時は、予期せぬ事態でもあったし、エリーゼとマリアンヌが緊張していたのと同様に、ラミアも緊張していたし、どうしたら良いか分からなくて慌ててしまった感じもかなりある。
しかし今回は、予め来ることが分かっているし、人間の嫁を仲間に加えるということがどんな感じになるのかが分かっているので、不安や慌てることがなかったからだろう。
先に来たのはエレク、ケン、ハキ、ギュートの嫁で、一日おいてボブ、ダイク、ヤーレン、バンジの嫁が来た。
彼女たちも、自分と同じ境遇になる者がある程度の人数になったからか、事前に情報が色々伝わっていたからか、とてもあっさりとラミアの中に馴染んで行ってしまった。
エリーゼとマリアンヌと同様に、まずはそれぞれの夫の子供のラミアの世話から始めて、ラミアの里での生活に慣れていくことになり、そんなにしないで二人と同様にラミアの里で生活できるようになるのを、まずは目標にするらしい。
少し慣れたら、前からいる3人と同じように、若い子たちの訓練に参加もするとのことで、サーブはそれに向けた訓練計画も練っているようだ。
もうサーブは完全に若い子たちと人間の女、そしてナーリアの姉妹たちの訓練教官になっている。
それがまた、好評だし、指導が的確だと評価され、これからの子供たち世代の最初の訓練も任される話になった。
流石に僕たちはそこまでは付き合えないので、その手伝いはエーレアたちがすることになった。
ターリア、ワーリア、ヤーレアは、若い子たちとのクロスボウの訓練があるからだ。
僕たちはそれに加えて、馬の訓練がある。
セカンとディフィーが騎兵という考えに本格的に取り組み、ギュートと共に人間とナーリアに実際に馬に乗っての戦闘の様々なシチュエーションでの動きを試しているのだ。
もちろん、ナーリアはそれぞれの場合の指揮を覚えさせられる羽目になっていて、最近は良くミーリア様が見学に来ている。
僕たちは、いや僕たちだけではない、この地方のラミア、ハーピー、そして当然人間は、みんな来るだろう時を見つめて、一生懸命できるかぎりの準備をしようと必死の努力をしていた。
そしてとうとう、一つの大きな節目がやって来た。
タインさんが戻って来たのだ。
タインさんが戻って来たことは、空から警戒していたハーピーが即座に気がつき、最初ハライトがその知らせを僕たちの所に持って来た。 ハライトによると明日にでもラミアの里に来るということだ。
「バンタイン殿も早く知らせを領主殿に持ち帰りたいだろう。
この家に来るのではバンタイン殿に一手間多くかけさせることになる。 明日は共同住宅の方でバンタイン殿を待つことにしよう。
エルシム殿もバンタイン殿の話をきっと聞きたいことだろう。 ハライト、エレオン殿に明日は共同住宅の方に来て欲しいと伝えてくれ。
アレク、明日はデイヴとキースと共に、騎馬でバンタイン殿たちを迎えに出てやってくれ」
ラーリア様はその知らせを聞くと次々と指示を出していった。
僕はその翌日、朝食後すぐにデイヴとキースと共に、ラミアの里を出て、昨年ゴブの襲撃によって滅んでしまった町に向かう街道を騎馬で進んで行った。
フロードの盗賊もどきと戦った場所を超えて、少し行ったところですぐにタインさんたちの一行と会うことが出来た。
デイヴが声を掛けた。
「兄貴たち、ご苦労さん。 首尾はどうだった」
「デイヴィッド、迎えに来てくれたのか。 アレクとキースもありがとう。
まあ、喜んで良い成果は上げられたぞ。 ただ事は迫っていて、急いでいる。 詳しい話は、まずはラミアの里に着いた時にしよう」
タインさんは、もしかしたら今まで僕が見た中で、1番明るい顔をしてデイヴに答えた。
僕は交渉が上手くいったのだと確信して、ちょっと希望が見えた気がした。
「バンタイン殿、お役目ご苦労であった。
無礼ではあると思うが、その成果をまず直ぐにでも聞かせて欲しい」
ラミアとハーピーの待つ共同住宅前にタインさんが到着すると、挨拶もそこそこにラーリア様がそうタインさんに問うた。
「ラーリア様、エルシム様、お喜びください。
王国としてゴブ討伐の兵がすぐに出されることになりました。
実は私が王国にそれを要請する前に、考えてみれば当然なのですが、滅ぼされた町とゴブの棲家と思われる場所を領地としている隣の領主が、王都でその要請をしておりました。
ただ、その領主は今回のゴブの推定規模なども全く把握しておらず、話が頓挫している状態でした。 ま、支配下の町一つが滅ぼされたのですから、慌てて規模の推測などが出来なかったとしても責める事はできないかもしれません。
そこに規模の推測を持って私が現れて、改めて兵を出していただけるように願ったので、話がとんとん拍子に進みました。
王国としても、考えられるゴブの規模から、即座に対応しないと大きな被害を生むと危機感を持ったようです」
集まったラミア、ハーピーはゆっくりと息を吐き出して、少し緊張が解けたようだ。
「それで、どのくらいの兵を出してもらえることになったのだ。
昨秋の時点で、我らの考えるゴブの数は、最低2千、多ければ4千という予想なのだが、それは伝えたのであろう」
「はい、その予想は伝えまして、町が一つ滅ぼされているので、妥当な推定だろうと評価されました。
それでその後もゴブが増えた可能性を考えて、5千のゴブに対処するということを基本線に兵が出されることになりました。
それで出される兵は最低1万です」
「1万!!!」
タインさんの言葉に、ラーリア様もエルシム様も絶句していた。
正直僕も驚いた。 僕らは何百という単位で四苦八苦しているのだ。
「ま、何というか、我々は1一地方の住人でしかない事は承知しているが、単位が違い過ぎてなんとも形容のしようがないな。
ゴブの得意な圧倒的数の力を逆にこちら側が使うということか」
「はい、まあ、そういったことではあるのですが、それだけではなく、ゴブの棲家となっている場所は、入り組んだ自然の洞窟ということで、今回は殲滅を目指すような討伐をするということになり、そのためにはそれだけの人数が必要だと考えられる、とのことでした。
それでまあ、王国全土より兵が集められるとのことです」
「そこまでの数になると、我らにはどの様な戦いになるのか想像が出来ないな。
それで我らはどのような役割が求められたのだろうか?」
「基本は、我々はこの地方にゴブが逃げ込むのを阻止することが役目となりました。
ただ、他にも協力要請が来ているので、それは後程詳しくお伝えしたいと思います。 今は、とりあえずこの情報を父と兄等に早く伝えねばと考えています」
「それはそうだな、バンタイン殿は今日のうちに町に戻るつもりなのであろうか?」
「はい、大急ぎで町まで行こうと考えています」
「それでは、詳細は後程として、早くお父上たちにこの知らせを届けに行くのが良いだろう。
こちらからも町に人を送ろう」
「はい、そうしていただければ嬉しいです。
あと一つだけ、お詫びしなければなりません。
王都で、この地方に昨秋侵入したゴブを殲滅したという話をすることになり、その時にラミアの方々のみの手柄なのに、この地方で殲滅したという話に何故か略されて伝わることになってしまいました。
私が戻ってくるまでに訂正が追いつかず、まだそのままになっていますが、必ずきちんと伝わるようにしますので、少し猶予をください」
「バンタイン殿、そんな事は構わない。
ラミアが殲滅したことであれ、この地方で進入して来たゴブを殲滅したことは間違いない。 何も気にする事はない」
「ありがとうございます。
それではとりあえず、今日はこのまま立ち去らせていただきます」
タインさんは、また大急ぎで町に向かって去って行った。
このすぐ後、ミーリア様、ナーリア、セカン、ディフィー、それに迎えに行った僕たち3人がそのままラーリア様の命令で町に向かった。
ハーピーはエルシム様にいつもの3人が加わって町に向かった。
砦にはウスベニメとモエギシュウメが連絡に行ったから、今頃はアルフさんたちも町に向かっている事だろう。




