29. ラーリア様の部屋で 続き
「さて、本題に戻ろう。
お前たちの所にいるそのアレクだが、お前たちと共に生活する様になって変わったことは何かないか?」
「はい、最初は私たちもですが、やはりとても警戒して、神経をすり減らしている様でした。 今は私たちもですが、彼も慣れたのか、そんなことなく普通にしています」
ナーリアは普通に答えた。
ラーリア様は少し困った様に
「いや、お前たちが人間と上手くやっていることは理解している。
今聞きたいのはそこではなく、そのアレクの体調とか元気さに変化はなかったかということだ。
些細なことでも構わない。
さっきも言ったが、そのアレク以外の私たちの所にいる人間は、違っているところがある。
アレク以外の人間は、皆徐々に元気を無くしているのだ。
その違いがどこからきているのかを、私らは知りたいのだ」
ミーリア様が言葉を継いだ
「我々は一つの推測として、そのアレクが外で自分で採って食べているモノの影響があるのではないかと思っている。
その辺を二人はどう思う。
また他に思い当たることは何かないか?」
ナーリアは少し考える仕草をして答えた。
「確かにアレクは私たちが食べようとしない、果肉ばかり多くて種の小さい果実や、ある種類の蔓の、太くなった根なんかを喜んで食べています。
最初から私たちが食べる種の部分を食べず、私たちがカスとして残す果肉の部分を食べていたので、そういうものかとあまり気にしないでいましたが」
セカンも続けた
「でもアレクは量的には、私たちが渡すラミアの食料の人間が食べれる部分で十分な量がある、とも言っていました。
ただそれだけだと、味に飽きるし、栄養が偏ると言っていました。
だから他のモノも食べたいと」
セカンは小首を傾げて、自信なさそうに付け加えた。
「あと、元気さということでは一つだけ私は気になることがあります。
食べ物に関係するかわからないので、口にするべきか迷うのですけど」
「構わずに言ってみろ。 何がヒントになるかわからんからな」
ラーリア様がそう言ってセカンを促した。
「ミーリア様に部屋に来ていただいた時に、普通人間には口移しの水を与えるという話をしていただきました。
私はそれを試してみたくて、一度アレクに試しました。
そうしたら、しばらくの間、アレクは元気を失い、自分でも体調が悪いと言っていました。
それで、以降私たちは口移しの水を与えることはしていません」
ラーリア様はミーリア様に話を振った
「ミーリア、この話は知っていたか?」
「いえ、全く初耳です。 確かに普通は口移しの水を与えると教えはしましたが。
そこに何か意味があるとは思っていませんでしたので」
「そうか、私は少しだけ思い当たることがある」
ラーリア様は少し考えていたが、話を切り替えた。
「まあ、ナーリアたちは口移しの水を与えた経験はその一度きりとのことだから、他に検証のしようがないな。
後はそのアレクに口移しの水を飲んだ時にどの様な感じになったかを、本人に聞いてみるしかないか。
とりあえず、この話は置いておこう。
もう一つだ。
火を使いたいということに、人間の元気が関わってくるのだな」
ナーリアとセカンが受けて答えた。
「はい、アレクが言うには、人間にとっては獣や魚を食べることが絶対に必要で、それ無しだと体が弱まるそうです。 で、アレクが言うには、食べないと精も出せなくなるはずだと」
「そして、獣の肉や魚を食べる為にはどうしても火を使って調理する必要がある、と。
それから火が使えれば穀物(?)も食べれると」
ラーリア様とミーリア様は確認が取れたと言う顔でうなづきあった。
「もう一度確認するが、アレクは獣の肉や魚を食べることが、人間にとっては必要で、それなしでは身体が弱くなり、精も出せなくなると言ったのだな?」
「はい、確かにそう言いました」
ラーリア様にそう確認を求められて、ナーリアはアレクが今のままだと自分の身体が弱くなると思って、火の使用を粘ったのだな、と改めて感じた。
「ミーリア、どう思う。」
「アレクが言う事が本当かどうかはわかりませんが、少なくとも自分が信じている事を言っている可能性はとても高いかと。
だとしたらとりあえず人間には、獣の肉や魚を食べさせて、試してみないといけないのかもしれない、と感じました」
「そうだな、その可能性はとても高そうだ。 その他にラミアが食べない果実や草、根、そして穀類か」
「そしてそれらを食べるには火を使わなければならないということですね」
「そういうことだな」
ナーリアとセカンは黙って聞いていた。
話が途切れた時に、セカンが尋ねた。
「ラーリア様、穀物とは何ですか?」
「ん、知らんのか。 命の実のことだ。 何種類かあるだろ」
「あのたくさん房になっているヤツですか。 実った時に食べなくはないですけど、ちまちま剥かねばならないですし、効率が悪いですね」
「まあ、ラミアにとってはそうで、小さなラミアがその時期に食べるだけだが、人間にとってはそうではないのだよ」
「そうなんですか」
セカンは急に興味を失ったみたいだった。
「さて、今はこの程度にしておこう。
昼を食べたら、また迎えをやるので、次はアレクも含めて全員で来てもらうことにする」
「アレクも一緒にですか?」
「ああ、そうだ」
ナーリアは困ったようにラーリア様に尋ねた。 また呼ばれるということに関しては、仕方がないと諦めたのか、単純に聞けなかったのか、そこには触れなかった。
「あの、こんなこと尋ねるのも、と思うのですが、アレクも裸で連れて来るのですか?」
ラーリア様は、「おっと配慮が足りなかったか」という顔をして、
「ああ、我らラミアは集落の中では身に何も付けない習慣だが、人間は身に何も付けないことを極端に嫌がるからな。
そうだな、布を巻いてくるくらいは許そう。
どうだ、ミーリア」
「よろしいのではないでしょうか。 人間にわざわざ不快な思いをさせることもないでしょうから」
「ご配慮、ありがとうございます」
ナーリアとセカンは内心「まだつづくのか。」とため息をついて、ラーリア様の部屋から退去しようとした。
「おっと、重要なことを一つ忘れていた。 二人ともちょっと待て。
後で五人、いやアレクも入れて6人か、とにかく全員に誓わせることになるが、この部屋の中で話された内容や、この後昼過ぎに話される内容も他言無用だ。
完全な守秘義務があると思ってくれ。
今現在は部屋に戻って仲間に話すこともダメだ。 誰かに聞かれる可能性があるからな。
気をつけるのだぞ」
ええっ、今話していた内容って、そんな重大なことだったの、とナーリアとセカンの二人は目を見開いた。




