28. ラーリア様の部屋で
朝を迎えても、誰も僕に触れようともしてこなかった。
確かにサーブのどんよりとした様子を見ては、誰もその横でというか、同じ部屋の中で楽しむことはできない雰囲気がある。
その部屋から逃げる様にディフィーとレンスが食事を取りに出たりしたが、もう朝となってからは話も出てこない。
それぞれに食事をし、身支度を整えた。
とはいっても基本裸だから、髪の乱れを整えたり、布を浸して体を拭いたりしただけなのだが。
コンコンと扉を叩かれた。
ナーリアが即座に対応した。
「もうすぐラーリア様たちの準備も整う。 そうしたらもう一度私が迎えに来るから」
「はい、分かりました。 お待ちしています。」
それだけ伝えると立ち去ろうとする所にナーリアが声を掛けた。
「あの、すみません。 二人の内、私以外のもう一人も昨晩と同じでなくてはいけないでしょうか?」
連絡に来たラミアは部屋の中をちょっと覗き込み、
「なるほどな。 私が事情説明して、尋ねてみてあげよう」
「よろしくお願いします」
ナーリアは深々と頭を下げ、それに合わせて他の三人も頭を下げた。
サーブは最初っから下がりっぱなし。
僕はどうするべきかと迷ったが、同じ様に頭を下げた。
ほんのちょっとの時間で連絡係りのラミアは戻ってきた。
「昨日と同じでなくても良いとのことだ。 その様子では何も話せないだろうしな」
「ありがとうございます」
「すぐに向かうぞ」
「はい」
ナーリアはセカンに視線を走らせた。
セカンは覚悟していたのか、何の反応もせず、付いて行った。
「ナーリア二人を連れてきました」
ラーリア様の部屋の扉を叩くと、連絡係は中にそう声を掛けた。
「入っていいぞ」
連絡係が扉を開け、中に入ることを促す。
ナーリアとセカンは緊張し硬い表情で中に入った。
「失礼します」
部屋の中に入り扉に近い所に立つ。
「ご苦労だった。 お前ももういいから外に出る様に」
ラーリア様は連絡係と飲み物を用意していたらしいラミアに声を掛け、すぐに部屋の外に出した。
部屋の中はラーリア様とミーリア様、そして連れて来られた二人しかいない。
部屋の真ん中にテーブルがあり、飲み物が置かれている。
「そこで固くなっている必要はない。 構わずにこっちに来て二人とも座れ」
二人は自分たちの為に用意してあるのであろう、テーブル近くのクッションの所に行き座った。
「ほら、そんなに緊張しなくても良い。 その飲み物でも飲んで、少し落ち着け。
ミーリア、お前昨晩どれだけ脅したんだ。 昨晩の子はここに来れない程だということではないか」
「いえ、ラーリア様、私はそんな、脅す様なことは」
「まあ、良い。 先にこの2人が怯えている元を解消しておいてやろう。
ナーリアよ、お前たちが人間に『ラミアが火に弱い』ということを教えてしまったことに関して、何ら罰を与える様なことはないから安心する様に」
二人の顔は急に明るくなった。
「あの、本当によろしいのでしょうか?」
「ああ、本当だ。 その情報は正しくもあり、間違ってもいるしな。」
二人は何を言っているのか分からず首を傾げた。
「正確には『ラミアは人間と同じ様に火に弱い』だ。
ラミアと人間とでは火に対する強さなんて50歩100歩だ。 ほとんど変わらん。
ほんの僅かにラミアの方が皮膚が弱い程度だが、それに対抗する手段もラミアは持っているから、相対的に見れば同じ様なものだ」
二人にとっては考えてもみなかった言葉で、意外以外の何物でもない。
「それから、火はラミアにとって禁忌なんてこともない。それは嘘だ」
ラーリア様の言葉を聞いて、何だかミーリア様も驚いている様だ。
「そんな訳で、別に罰しなければならない様なことではないのだ。 理解できたか」
「はい、ありがとうございます。」
ナーリアたちは自分たちの常識を覆されて、何だか訳がわからない様な混乱した面持ちだったが、その点は問題にされないことはわかったので、礼を言った。
ラーリア様は自分も飲み物を手に取ると、一口飲んで話を続けられた。
「さて、ナーリア、お前たちの所にいる人間、えーと何て言ったかな」
「アレクです。 ラーリア様」
「そうそう、そのアレクだが、他の人間とは少し違っていることは知っているか?」
ナーリアとセカンは、ミーリア様がアレクの名前を知っていたことに、ちょっと驚いた。
「いえ、私たちは他の人間を知りませんから、アレクが他の人間と違うと言われても比較のしようがないので、わかりません。」
ナーリアはそう答えた。
「なるほど、そうかもしれんな。
そういえば、人間に名前があることは知ったんだったな。
そして、それで人間の習慣に合わせて、お前たちもそれぞれにそのアレクから呼ばれる為に名前を持った様だな。
それぞれ何ていうんだ? で、その感想は?」
ナーリアとセカンはラーリア様がそんなことまで知っていることに、今度は本気で驚いた。
「はい、私は対外的な混迷を避ける為にそのまま『ナーリア』と」
「私は『セカン』です」
「昨晩一緒に来たのが『サーブ』で、あと『ディフィー』と『レンス』です。
最初はその様なことに意味などあるのだろうかと思っていたのですが、アレクの為に互いでも使っていたら、最近はそれに慣れてきて、結構便利な気がします」
「そうかなるほどな。
私たちのところの人間もやはり名前がないのは落ち着かないらしくてな。
私やミーリアはそれ自体が通り名になっているから、あまり感じないのだが、他のラーリアたちやミーリアたちのところの人間では問題があってな。
それでお前たちのそういうところを注目していたんだ。」
なるほどそういうことか、とナーリアとセカンは思った。
「他にも聞いているぞ。
イクス様に唆されて、次の日には凄い匂いを周囲に撒き散らしていたそうではないか」
「あれはこのセカンが急に脱皮するから、それにびっくりして」
またナーリアは真っ赤になり、しどろもどろに弁解を始めた。
またこの子らは何の話を始めるのだ、とミーリア様の眉が険しくなってきた。
「あの、イクス様というのは?」
セカンがおそるおそるという感じで聞いた。
「ああ、お前たちは聞いているだろ。 カウンターの彼女だ。
元ラーリアで、私の大先輩に当たる。 『ラーリア ・イクス』それが彼女の通り名だ。
秘密だがな」
元ラーリアだと聞いた時から、ラーリア様と関係があることを考えて当然だったのだ、とナーリアとセカンは思った。
自分たちはアレクの事だけに夢中で、周りの物事が見えていなかったことを自覚した。
「まあ、その辺は構わない。
えーとアレクだったか、あの人間はお前たちに呉れてやったモノだ。
イクス様の言うように、そのアレクを使ってお前たちが楽しむのは、お前たちが得た特権だ。誰に憚ることもなく楽しんで構わないぞ。
まあ、身体くらいは朝、拭いて出てこい」
二人とも、また真っ赤になった。
それを見て少し面白がっているラーリア様は、ちょっとした冗談を言った。
「ミーリア、私たちも気をつけないとな」
「私はそのような醜態は晒しません。 上に立つ者として、常に身だしなみも気をつけています」
ミーリア様は生真面目にラーリア様に答えた。




