288. 肉親に会いに王都に
セカンと一緒に作った一輪の軽馬車は、結局合わせて4台作ることになった。
出来上がりと性能をディフィーも確認して、現実的に騎兵というか、馬の機動力を生かす部隊を作ろうと、セカンとディフィーが考えたのだ。
まだどうなるか分からないので、軽馬車は自分たちの数だけだ。
何故4台かというと、ナーリアは部隊の指揮をとる立場だから、軽馬車で縦横に走り回るということは想定していないので、ナーリアは二輪の軽馬車を使うことにしたからだ。
一輪の軽馬車は、乗りこなすのにそれまでの馬車とは全く違った技術となってしまったのだが、セカンがそのコツを指導するとレンスはすぐに、ディフィーと意外なことに不器用なサーブもそんなに時間をかけずに乗りこなせるようになった。
僕たちの家の厩舎では、5頭の馬を飼育していたのだが、それでは1頭足りずギュートに言って、もう1頭回して貰った。
アンの家で元々飼っていた馬も、この騎兵もどきの隊の馬としても使うことにしたのだが、一番大人しい馬をナーリアの二輪の軽馬車用にして、もう1頭をディフィーが使うことにしたのだが、荒々しい動きに対応できるかちょっと心配した。ところが実際はその1頭はとてもいきいきと走り回って、安心したというかホッとした。
その馬は本当は静かにしているよりも、走り回りたいタイプだったようだ。
結局僕らの家には今までのアンの二頭引きの馬車に加え、二輪の軽馬車1台に一輪の軽馬車4台、それに僕の為の鞍などと、馬関係の道具が増えて、今までの倉庫では全く収まらなくなってしまった。
僕たちの家の周りはもうすでに諸々の施設があって、場所の余裕がなく。
仕方なく、最近建てたばかりの紙作りのための施設を別の場所に移設して、場所を広げ、その分厩舎近くの場所を削って倉庫を増設した。
それなら最初から、馬を優先させておけば良かったのにというギュートの視線が痛かった。
騎兵もどきとしての戦い方を試行し始めてすぐに、僕たちは今までの弓だと大きすぎて扱いにくいことに気がついた。
僕らは馬で駆けて、敵に近づきながら矢を射たり、敵前を横切りながら矢を射る事を想定した。 その時、背には槍などを背負い、敵に接近した時はそちらで戦う。
そう考えた時、今までの弓は大きすぎて、槍の代わりに背負ったり、鞍や馬車に括り付けておくにも邪魔なのだ。
僕らはレンスを除き、今現在使っている弓は騎馬の戦いでは使えないと判断し、レンスと同じ大きさの速射用の弓を作った。 もうディフィーも特別なものにしなくても、同じ大きさの物で使える。
それから、サーブとディフィーはハルバートの柄と薙刀の柄を、今までより長く改造した。
元々、武器としての攻撃範囲の短いセカンとレンスはどうするのかと思ったら、二人は矢を射るところまでで、それ以降はナーリアの護衛の位置に戻るという事だった。
確かに指揮官が孤立して良い訳がない。
そんな試行錯誤をしていたり、ハキに車輪と車軸の部分、油に浸した革やその油が売れないかなどと相談していると、ハーピーが領主様から、僕たち人間に町に来るようにという連絡が来た。
とは言っても、デイヴとキースは除外されていて、どういうことかというと、僕たちとの肉親との面会の機会を領主様が作ってくれたということだ。
「あれ、だったらハキも除外されていても良かったと思うのだけど。
一番肉親と会っているのはハキじゃないか」
ケンがそんな事を言ったので、僕はハキが何か言う前に答えた。
「いや、ハキは今回も町に行ってもらわないと困る。
商談はハキがいないとどうしようもないからな」
「ああ、そういうことか」
ケンはあっさり引っ込んだのだけど、ハキ自身が言葉を続けた。
「いや、今回僕も除外されなかったのは、別の理由だと思う」
「そうだな、今回町に行く中ではアレクが例外かもな」
デイヴの言葉にキースもニヤニヤした。
「あ、そういうことか」
エレクが簡単に理解したようだ。
「うん、きっとデイヴとキースの嫁がこっちに来るのには間に合わなかったけど、僕のところに来る嫁も準備ができたのだと思う。
ま、僕は相手が誰かも分かっているから、大した問題ではないけど、みんなは誰が来るか楽しみじゃないのか」
ああ、そういう事かとみんな納得したみたいだ。
僕は察していたし、アンがすでにいるから、この話は関係ない。
それでも、もしかしたら叔母さんが会いに来てくれるのかなと思うと、ちょっとだけドキドキした。
「それじゃあ、俺も行かなくて良いのかな。
俺はみんなと違って、天涯孤独で肉親がいないんだ。
だから会いに来てくれる人もいないと思うし、嫁に来てくれる人が出てくる訳もないんだよ」
僕たちはそれぞれの個人的な事情はほとんど知らない、バンジが天涯孤独という話も初めて聞いた。
ミーレナさんに前に言ってたことは、こういう事情があったからなんだと僕は納得してバンジに言った。
「それじゃあ、俺とあまり変わらないんだな。
俺も叔母さんとその家族がいるだけで、他に肉親はないんだ。
親とかみんな死んでしまって、狩人学校に入るまでは叔母さんの家に厄介になっていたんだ。
バンジはどうしてたの?」
「俺は本当に身寄りがなかったんだけど、運よく大工の親方の家に住み込みで働かせてもらえていたんだ。
ま、その親方と喧嘩して、なんとか狩人学校にいたという訳さ」
「なるほど。 でもバンジは名簿から除外されて無かったから、町に行かない訳には行かないよね。
それならもし誰も会う人がいなかったら、俺と一緒に町で時間を潰そう。
俺も誰か居るとしても叔母さんだけだろうから、友人として叔母さんに紹介するよ。
俺、叔母さんのところに居る時には、周りの目、叔母さんの家族が冷たかった訳じゃないぞ、でも周りの目が冷たくて、この厄介者という感じに見られていたから、友達とかいなかったんだ。
だから、俺がお前を叔母さんに紹介したら、叔母さんはとても安心してくれると思う。
ま、俺も誰もいない可能性があるのだけど、その時は二人で時間を潰せば良いし、それでどうかな」
「ああ、アレク、ありがとう。
俺も流石にちょっと町で一人で時間を潰すのは寂しい気がしちゃって、ちょっと憂鬱だなと思ったんだ。
アレクがそう言って、もし俺を紹介してくれるなら、とても嬉しいよ」
「それなら良かった。
とりあえず、俺たちも一緒に町に行こうぜ。
それに車輪については、バンジからも話してもらうと助かるしな」
「そっちは自信を持って言うぞ、任せてくれ」
友たちは僕とバンジの話を黙って聞いていた。
バンジが天涯孤独だから、会いに来る者がいないと言った時点で、みんなどうしようかとすごく心配していたのだ。
僕とバンジの話が決まり、みんなも安心したようだ。
「ま、親父もバンジを除外してないということは、もしかすると何かあるのかもしれないしな」
「デイヴ、お前何も根拠のない適当な事を言うべき時じゃないだろ」
キースが窘めたがデイヴは
「いや、何事も希望を抱くのは良い事だ」
うん、以前の楽天家のデイヴだな、これは。
「ま、それに周りの連中を見てみろよ。
みんな、頭の中では色々な可能性を考えているらしくて、なかなか面白い顔をしているぞ」
そう言われたみんなは顔を見合わせて、苦笑というよりは照れ臭そうに笑った。
僕たちは基本的には騎馬で町に向かったが、馬車も一台使った。
色々な係のラミアももう起きているので、その中には桶などを作るラミアもいて、それによってアスファルトを前回よりも大量に馬車で持ってくることができた。
今回はハキがワーリアとアスファルトの採掘に行ったらしい。
そしてまた、今回の馬車の車輪は、新しいタイプに替えてあるので、それを見せるためでもある。
初日にハキの家に、僕とバンジも一緒に言って、車輪の事を説明すると、案の定ハキの兄さんは食いついてきた。
車輪とそれに使っている、革やどろっとした油も、次回には持っていくことになった。
また一つラミアの里の収入になる物が増えた。
僕たちは以前と同じに、領主館に滞在させてもらえることになっていた。
今回はデイヴもキースも来ていないし、館にはアルフさんもダインさんも、そしてブマーも居ない。
ちょっとどうしようかな、という感じだったのだけど、館に行くと他の騎士たちが歓迎してくれた。
泊まるのは今回は僕も騎士宿舎の一棟だ。
騎士たちは今回はラミアが誰も一緒していないと聞くと、少し残念がった。
どうやらナーリアたち、特にサーブが一緒に来ることを期待していたみたいだ。なんかサーブってどこでも人気があるんだよな。
翌日朝一で起こされると、ストームさんがニッコリと笑って、館の騎士たちと一緒に訓練を受けさせられた。
最近は館の騎士の訓練も体力をつけることがかなり重視されていて、町の外側を走ることから訓練は始まったのだが、僕らは余裕だった。
僕は若い子たちとの訓練でサーブにさんざ走らされているし、みんなもここのところずっと騎兵運用の試行錯誤を一緒にして、毎日のように馬を縦横に走らせての戦いの訓練をしているのだ、体力がつかない訳はない。
ストームさんは、
「これだけ訓練しているのに、まだラミアの里の者には体力さえ劣っているのか」
とがっかりした館の騎士たちを見て、目的は達したとばかりニンマリしていた。
少し遅い朝食は、領主様、奥方様、カーライルさん、ストームさんと一緒に取ることになっていた。
領主様は前の晩に食事を一緒出来なかったことを残念がっていたが、僕たちにしてみれば、前の晩のように騎士たちと一緒の食事の方がまだ気楽なんだよな。
とにかく朝の食事の場は、奥方様がアンとメリーだけでなく、エリーゼとマリアンヌ、そして子供たちの様子を知りたがって、次々と質問してくるので、僕たちはその返答に追われるという感じだった。
「では4人ともラミアの皆さんと上手く、楽しく暮らしているのですね」
「はい、ラミアだけでなく、ハーピーたちとも仲良くしています」
と僕が答え、アンとエリーゼとマリアンヌが若い子たちの訓練に加わって、その後はハーピーに空を運ばれて、いつも温泉に一緒に入っておしゃべりを楽しんでいる、と話すとちょっと驚いていた。
そんなちょっとだけ緊張した朝食を終えて、僕らが中庭に出ると、そこにはもう僕たちの肉親が集められていた。
たくさんの人が中庭にはいたのだが、僕はすぐに1人の女性に気がついて、その人以外は目に入らなくなってしまった。
自然と足がそちらに向かってしまったのだろう、気がつけば目の前にその人はいた。
「叔母さん」
「アレク! 無事なら無事と、なんで連絡くらい寄越さないの。
どれほど心配したと思っているの」
叔母さんは、僕にそう言ってすごい勢いで怒ったと思ったら、
「でも、無事で良かった。 生きてて本当に良かった」
と言うと、涙をポロポロこぼして、僕が子供だった時と同じように抱きしめてきた。
叔母さんの頭は、今ではもう僕の胸の位置にある。
「叔母さん、ごめん。 ごめんなさい」
僕も胸が詰まって、それしか言葉に出来なかった。




